ミモザフェア2019

第41回 FESTA DELLA DONNA

ラ・ビスボッチャの入口で撮影したミモザの黄色い花

春気分を味わう

3月8日は国際女性デー。イタリアでは女性にミモザの花を贈る習慣があります。そんな春の気分をお料理で味わうフェアを3月4日(月)〜14日(木) に開催。期間限定メニュー6品が登場します。期間中来店された女性に食前酒ミモザをサービス。ノンアルコール版もあります。

ムール貝の殻をむく料理長・井上裕基(左)と副料理長・露詰まみ

解説/料理長 井上裕基・副料理長 露詰まみ

写真・文・エッセイ/ライター 織田城司
Commentary by Yuuki Inoue & Mami Tsuyuzume
Photo・Text・Essay  by George Oda

1. ミモザ風サラダ

ミモザ風サラダ

◆春サラダの定番

細かく砕いたゆで卵をミモザの花に見立てた、春サラダの定番です。

旬の食材をあわせ、春らしいフレッシュな味を楽しみます。

◆サラダの食材

国産の菜の花

国産のルッコラ

国産のグリーンアスパラガス

イタリア産のグリーンピース、国産のソラマメ

鹿児島県産の才巻海老

野菜を下茹でする。岩塩で下味をつける

野菜の味が混ざらないように鍋を分けて茹でる

野菜の茹で具合を確認する

エビを茹でる

エビの茹で具合を確認する

茹で上がったエビ

キッチンペーパーで茹で上がった野菜の水分を吸収する

野菜を食べやすい大きさにカットする

ソラマメの皮とエビの殻をむく

皿にルッコラを敷く

茹でた野菜を自家製レモンドレッシングで和える

エビに塩とエキストラヴァージン・オリーブオイルで味と香りをつける

皿にエビと野菜を盛り付ける

ゆで卵の殻をむき、ポテトマッシャーに入れる

ゆで卵をポテトマッシャーで細かくする

卵に軽く塩をふり、サラダにふりかけて出来上がり

ミモザ風サラダ

◆ほろ甘い口どけ

茹で分けられた食材はどれもプリッとした歯ごたえ。フレッシュな弾力に生命の芽生えを感じ、春らしさを満喫します。

味はレモンドレッシングの酸味、グリーンピースとソラマメの甘み、菜の花とルッコラの青々しさ、エビの旨みと塩味が多彩に現れては消え、小さな卵のトロリとした口どけ感が全体をほろ甘くまとめます。

ミモザ風サラダ

フィレンツェの市場

2. カキとカリフラワー、アーティチョークのフリット

カキとカリフラワー、アーティチョークのフリット

◆春の旬菜を軽やかに

食材を主役に、あっさり揚げるのがイタリア流のフライです。

旬の食材を集め、それぞれに似合う衣をつけて揚げます。

◆アーティチョークの下処理

イタリア産アーティチョーク

レモン水を作る。アーティチョークはカットすると酸化ですぐ変色するため、レモン水に浸けながら作業する

外側の硬いガクをむき、先端のトゲの部分をカットして除く

茎の表皮をむく

作業の途中でレモン水に浸ける

半分にカットする

中心にある花のつぼみと繊毛をくり抜いて除く

残ったやわらかい可食部

食べやすい大きさにカットする

◆カリフラワーの下処理

国産のカリフラワー

カリフラワーを下茹でする

トウガラシ、ニンニクのみじん切り、アンチョビペーストでオリーブオイルに味と香りをつける

カリフラワーとオリーブオイルを和える

◆カキの下処理

播磨灘産のカキ

カキを蒸して殻をむく

殻から取り出したカキ

◆アーティチョークを揚げる

アーティチョークに薄力粉をまぶす

薄力粉がついたアーティチョークを氷水に浸す

サラダオイルで揚げる。あえて水分を含ませた衣は、油との反発から発泡性のある仕上がりになる

◆カリフラワーを揚げる

カリフラワーに衣をつける

カリフラワーの衣は卵にパルメザンチーズを混ぜたもの

◆カキを揚げる

カキの衣は薄力粉にガス入り水と白ワイン酢を混ぜたもの

ガス入り水は北イタリアで1899年に創業した「サンペレグリノ」社製。アルプス山脈の源泉を使用

白ワイン酢はイタリア「グロソリ」社製

カキをフライヤーに投入

揚がった食材をザルで引き上げる

軽く塩をふって出来上がり

カキとカリフラワー、アーティチョークのフリット

◆食材と絶妙になじむ衣

フライの衣はサクッとしていません。「サ」まで感じながら、ふわふわに揚がった食材に「ク」の音が吸収され、フェイドアウトするからです。それほど衣が薄く、食材と絶妙になじんでいます。

どの食材も素材の甘みや風味が際立ち、軽やかな後味です。特にカキのフライは、パン粉のフライ以外で食べる希少な機会です。中まで火が通り、ふわふわになった身の旨みをぜひお試しください。

カキとカリフラワー、アーティチョークのフリット

ラ・ビスボッチャ店内

3. ズッキーニの花とカラスミのスパゲッティー

ズッキーニの花とカラスミのスパゲッティー

◆春らしいパスタ

カラスミはイタリアではボッタルガとよばれ、パスタの食材としてポピュラーな存在です。

カラスミが持つ春らしい色と軽いイメージを、スパゲッティーとズッキーニの花で広げました。

◆調理

国産のズッキーニの雄花

ズッキーニの花弁を取り除き、細くちぎる

茹で麺機に岩塩を入れる

茹で麺機にスパゲッティーを入れる

スパゲッティーはイタリアのパスタの名産地のひとつアブルッツォ州にある「トラフィーラ・ルヴィダ」社のスパゲッティーニを使用。昔ながらの長時間乾燥で小麦の風味が強く、ざらざらした表面はソースとよくなじみます

スパゲッティーの茹で時間は6分50秒

スパゲッティーが茹で上がるのを待つ

トウガラシとニンニクのみじん切りでオリーブオイルに味と香りをつける

スパゲッティーの茹で汁を加える

ソースのフライパンに茹で上がったスパゲッティーを投入

スパゲッティーとソースを和える

ズッキーニの花とイタリアンパセリのみじん切りを加える

カラスミをふりかける

カラスミはイタリアの特産地サルディーニャ島のもの

混ぜ合わせる

盛り付け、再度カラスミをふりかけて出来上がり

ズッキーニの花とカラスミのスパゲッティー

◆あっさりした塩味とコク

カラスミの卵は小さく、サラッとしています。スパゲッティーやズッキーニの花としっかりなじみ、あっさりした塩味とコクで全体を引きしめます。

ズッキーニの花はシャキシャキした歯ごたえで、爽やかな風味があり、スパゲッティーの小麦の風味とともに春の草原を思わせます。

ズッキーニの花とカラスミのスパゲッティー

ラ・ビスボッチャ店内

4. ムール貝とサフランのリゾット

ムール貝とサフランのリゾット

◆幸せの黄色いリゾット

イタリアでは、サフランとムール貝の組み合わせがよく合うレシピとして知られています。

そんな名コンビをリゾットに取り入れ、春らしく仕上げました。

◆調理

愛知県産のムール貝

ムール貝の表面を洗う

ムール貝を白ワインで蒸し焼きにする

蒸し焼きで開いたムール貝の殻

蒸し焼きで残った汁をダシ汁として保存

鍋に米を入れる

米はイタリア米を使用。イタリア最大の米どころ、北イタリア・ピエモンテ州のヴェルチェッリ産。煮崩れしにくくリゾットに最適なカルナローリ種を使用

自家製野菜のダシ汁を加える

自家製魚のダシ汁を加える

サフランを加える。入れたらすぐに黄色く染まりはじめる

塩で味をつける

ムール貝から抽出したダシ汁を加える

ムール貝を投入

無塩バターを加える

パルメザンチーズを加える

混ぜ合わせて、トロみが出てきたら出来上がり

ムール貝とサフランのリゾット

◆まろやかな甘みと旨み

鮮やかな黄色に染まった大皿が、食卓に春らしい華やぎをもたらします。

ムール貝がリゾットの甘みや旨み、塩味を際立たせ、春の印象とともに記憶に刻まれます。

ムール貝とサフランのリゾット

ラ・ビスボッチャ店内

5. 仔羊のピカタ

仔羊のピカタ

卵の黄色い衣と軽い後味に春さしさを感じるピカタ。そのルーツはイタリアでした。ミートフォークで突き、ひっくり返して焼いたことから、イタリア語のピッカータ(piccata:槍で突く)が語源になりました。

料理長井上は幼い頃、お母さんが作るピカタを好んで食べたそうです。当時、母子ともにピカタがイタリア料理とは知りませんでした。ピカタはイタリアからヨーロッパに広まり、洋食という分類で日本に伝わるうちにルーツが薄れたものと思われます。それほどポピュラーなメニューです。

◆調理

オーストラリア産仔羊の骨付ロース

保存用袋でカバーした仔羊の骨付ロースを叩いて伸ばす

塩コショウで味をつける

パン粉をつける

パン粉は自家製パンの水分を飛ばし、ミンサーで挽いたオリジナル

反対側にパン粉をつける

フライパンにバターを敷く

卵とパルメザンチーズをフォークで混ぜ、ピカタの衣にする

仔羊に衣をつける

衣をつけた仔羊をフライパンに投入して焼く

火が通りにくい骨の付け根の部分にスプーンで熱いバターをかける

反転させる

火が通りにくい骨の付け根の部分にスプーンで熱いバターをかける

キッチンペーパーで余分なバターを吸収して出来上がり

仔羊のピカタ

◆ふわふわの旨み

黄金色のピカタからバターと卵が焼けた香ばしい香りが漂います。

仔羊の肉は卵の衣と同じくらい柔らかく、甘みと旨みが充実しています。ふわふわの軽さとともに春を感じる味わいです。

仔羊のピカタ

ラ・ビスボッチャ店内

6. ミモザケーキ

ミモザケーキ

◆ミモザに見たてたケーキ

ミモザの季節を満喫するため、スポンジを散りばめてミモザに見たてたケーキです。

中にイチゴのスライスとクリームが入っています。

◆調理

自家製カスタードクリームと生クリームを混ぜる

自家製スポンジケーキをカットする

スポンジに染み込ませるシロップにマラスキーノ酒を混ぜて香りをつける

マラスキーノ酒はチェリーからつくるリキュール。香りが高く、酸味があることから製菓やカクテルの香料として使われる。オランダのアムステルダムで1575年に創業したボルス社のものを使用

スポンジにシロップを染み込ませる

クリームを乗せて広げる

スライスしたイチゴを乗せる

二段目も同じ要領で重ねる

中心がドーム形に盛り上がるようにクリームを重ね、スポンジでフタをする。

クリームで外壁を塗る

表面に飾るスポンジをカットする

表面にスポンジを盛り付け、イチゴを飾って出来上がり

ミモザケーキ

◆たっぷりしたクリームの甘み

イチゴとクリーム、スポンジ。ショートケーキでおなじみの基本素材を春の装いでいただきます。

ドーム形の土台になるクリームはたっぷり積み重なっています。細かいスポンジと混ぜると、ボリューミーな食べごたえの中に甘さが広がり、春気分を盛り上げます。

ミモザケーキ

エッセイ:食のこぼれ話

ラ・ビスボッチャ店内

『ミモザ館』

食事の楽しみのひとつに、香りがあります。

イタリア料理であれば、パルメザンチーズの香りは記憶の奥から味覚を引き出し、味わいをより楽しくしてくれます。

映画のタイトルも、中味を予感させる大切な要素です。

映画『ボヘミアン・ラプソディ』(2018年)は、クイーンのファンならタイトルを見ただけで「クイーンの映画だな、あの曲よかったな、どんな内容なのかな」と興味をそそられます。

もし、映画会社がクイーンのファンの他にも、映画の内容を分かりやすくしようとして、『クイーン物語』というタイトルをつけたとしたら、味が半減してしまうでしょう。

SNSの発達で直接的な表現が多い現代でも、奥ゆかしい表現は健在です。

映画『ミモザ館』(1934年)は南仏のペンション「ミモザ館」の女将を描いたドラマです。いかにも「女性が主人公の映画だな」という予感がするタイトルです。ミモザの季節になると思い出す、奥ゆかしい表現の好例です。

お飲み物

カクテル「ミモザ」

◆すべての女性にミモザを!

ミモザフェアの期間中来店された女性に食前酒ミモザをサービスします。

カクテルのミモザはシャンパンをオレンジジュースで割った飲み物です。フレッシュオレンジジュースの見た目が黄色で、ミモザの花の色に似ていることから名称の由来となりました。

ノンアルコール版もあります。ご希望の方はスタッフにご用命ください。

ラ・ビスボッチャのバーカウンターでミモザをすすめるスタッフ。左からヴェリア、露詰、田畑

いつもご利用いただき、誠にありがとうございます。

ラ・ビスボッチャのミモザフェアで、春気分の味わいをお楽しみください。