骨付国産牛ロースの炭火焼き

第3回 COSTATA DI MANZO ALLA GRIGLIA

解説/料理長 井上裕基

写真・文/ライター織田城司
Commentary by Yuuki Inoue
Photo & Text by George Oda

メニューについて

骨付国産牛ロースの炭火焼き

今回はセコンディ・ピアッティから「骨付国産牛ロースの炭火焼き」の味と技をご紹介します。

当店が味の基本にしているイタリア中部トスカーナ地方は、温暖な丘陵地帯を背景に草木が豊かに生育することから、古くから牧畜が盛んで、牛や豚の肉を使った郷土料理が名物です。

その調理法は、原始時代から変わらない素朴な炭火焼きで、人間の根源や、本能を感じる味として人気があります。トスカーナ地方の代表都市フィレンツェには炭火焼き料理の老舗が多く、観光客のお目当てのひとつになっています。

当店は本場の調理法を忠実に再現しながら、独自の食材選びによる炭火焼き料理を提供しています。牛肉の炭火焼きは肉の種類もさることながら、厚さが重要なポイントになります。このため、こちらのメニューは肉の厚さを維持するため、400gからご注文をいただいています。

食材

牛肉の種類

お客様の注文用に置かれた牛の塊肉

イタリア中部で有名な牛肉料理「ビステッカ・アッラ・フィオレンティーナ」は、Tボーンと呼ばれるサーロインの部分の炭火焼きです。

当店が炭火焼きでおすすめしている牛肉は、サーロインよりも肩寄りに位置するリブロースです。こちらの方がサーロインよりも味が濃く、旨味が強いからです。

あえて国産牛を選ぶのは厚切りを優先するからです。紅白の霜降りがきれいな和牛は、すき焼きやしゃぶしゃぶなど、薄切りでとろけるような旨さを発揮します。ところが、この肉で厚切りのステーキを作ると脂の総量が多すぎて、お腹にモタれる後味になります。このため、あえて脂身が少ない国産牛から選んでいます。

骨付と熟成

骨付国産牛ロースの塊肉

骨には血液を作るもとになる髄液が含まれています。骨付肉を加熱すると骨から髄液が染み出して、肉の美味しさが増します。骨付肉は繊維が伸びた状態で柔らかく、加熱時の収縮をおさえてやわらかさを維持します。このため、当店では牛肉を骨付のまま焼き、切り分ける時に骨を外し、盛り付けに添えています。

牛肉は熟成させると、より柔らかくなり、旨味が凝縮します。当店では常に4〜5週間冷蔵庫で熟成させた牛肉が提供きるように、仕入れをコントロールしています。骨付のリブロースは市場の流通量が少なく、産地や銘柄を特定すると仕入れが途切れることもあるので、常に全国各地から条件に合った肉を集めています。

調理

牛肉のカット

牛肉のカット

牛肉のカットはお客様のご注文を頂いてから冷蔵庫の塊肉を取り出し、すぐにカットします。

肉が常温で柔らかくなってからカットすると、包丁の蛇行で断面に凹凸ができて、焼きムラのもとになるので、冷えて硬いうちにカットします。包丁は国産の「牛刀(ぎゅうとう)」と呼ばれる剛性が強いタイプを使って鋭利にカットします。

肉の大きさはお客様が指定するグラム数を目分量でカットして、計量器で測りながら微調整します。

カットした肉は、内部の温度を均一にして、焼きムラを最小限にするため、20〜30分かけて常温にもどします。

客席と厨房の間にある肉のカット台に置かれたイタリアSpes社製の計量器。1935年にミラノ近郊で創業した老舗計量器メーカーの伝統モデル。

カットした肉(1100グラム)を常温にもどす

炭火焼き

コンロで加熱した五香備長炭を炭火焼きグリルに持ち込む

炭火焼きグリルに五香備長炭を設置

五香備長炭の遠火で牛肉をじっくり焼き上げる

炭火焼きは火持ちがよく、灰が少ない国産の五香備長炭を使用。赤外線効果を活かしながら中までふっくらと焼き上げます。

遠火を使ってじっくり焼き上げます。炭火が近いと、肉の中に火が通る前に表面が焦げすぎてしまうからです。このため、肉の量や厚みによって、焼き網の高さを調節しています。

当店はメインダイニングの客席から見える位置に炭火焼専用のグリルがあり、炭火焼き料理を食べる前に、焼いている時の臨場感を目と耳と鼻で体感することができます。

塩コショウ

イタリア・シチリア州ソ・サルト社製の天日乾燥による自然海塩ブランド「エガディ」の細粒

ベトナム産のブラックペッパーが入ったミル

牛肉を焼く前に塩コショウを擦り込むと、塩の離水効果で肉の水分とともに旨味も流出してしまうので、当店では焼き上がる直前に塩とコショウで味付けします。

塩は深みのある旨味が特徴のシチリア産天日海塩です。コショウは主産地の東南アジアから香味と辛味の強いベトナム産のブラックペッパーを選び、常に挽き立ての状態で使用します。

焼きあがる直前に塩コショウで味付け

脂落としによる燻製効果

脂落とし

頃合いを見て、指先で肉の上面をトンと突き、反発力で中の焼き加減を判断します。ほぼ焼きあがったと思ったら、トングで余分な脂身を炭火に落とします。

落下した脂身が炭火で焼ける豪快な煙りの燻製効果で、肉に香りを付けて仕上げます。このため、当店では牛肉を焼く前に余分な脂身をカットせず、焼きながらスモークするために温存しています。

脂落としによる燻製効果

斜め切り

焼きあがった肉を斜めに切る

焼き上がった牛肉は食べやすいように斜めに切り分けて盛り付けます。縦にカットすると、口に入れた時に肉の繊維がストレートに歯に当たって硬く感じるので、これを軽減しています。赤身の面積を広く取ることで、柔らかい部分の食感をたっぷりお楽しみいただけます。

お召し上がり

盛り付けられた骨付国産牛ロースの炭火焼(1100グラム)。炭火をイメージする炎の飾りを添えています。

野趣溢れる強烈な炭の香りとともに焼きあがった牛肉の表面は、肉の脂にじっくり火が通り、揚げ物のようなサクサクとした食感があります。柔らかくて弾力のある赤身は口に入れて噛むと肉汁の旨味がジュワッと広がります。

硬軟の味わいを交互に楽しんでいるうちに、アッという間に食べ進んでしまいます。脂が程よく落ちているので、たくさん食べてもモタれが少なく、力がみなぎる後味です。牛肉そのものの味が美味いと感じる、本格グリルならではの醍醐味をご堪能ください。

お飲物

おすすめのワイン

赤ワイン「ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ」

銘柄/ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ
ワイナリー/イル・ポッジオーネ
生産地/イタリア・トスカーナ州
ぶどう種/サンジョベーゼ・グロッソ
生産年/2011年

このワインは自然を尊重する伝統的な製法で作られ、イタリアの聖堂のように荘厳で堅牢な味わいがあります。炭火焼き肉が名物のトスカーナ地方らしいワインで、王道の組み合わせです。

ぶどう種のサンジョベーゼ・グロッソは、同じトスカーナ地方のワイン、キャンティに使われているぶどう種のサンジョベーゼよりも重くて芳醇な味わいがあり、当店の肉の迫力ある味わいと対等に渡り合う存在感があります。

強いタンニンの渋みは、肉で脂っぽくなった口の中をさっぱりさせ、食欲を増進してくれます。特にイル・ポッジオーネ社が手がけたものは抜栓してすぐでも美味しく飲めて、高い完成度があります。

赤ワイン「ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ」

ラ・ビスボッチャ店内

いつもご利用いただき、誠にありがとうございます。

今宵もラ・ビスボッチャのディナーで、楽しいひと時をお過ごしください。

ラ・ビスボッチャ店内