TASTE

タコとじゃがいもの温製サラダ

第19回 INSALATA DI POLIPO E PATATE

タコとじゃがいもの温製サラダ(一人前)

前菜でお酒がすすむと、ディナーが心地よくスタートします。

今回はそんな前菜の年間定番から、「タコとじゃがいもの温製サラダ」を紹介します。

タコとじゃがいもの温製サラダ

じゃがいもの皮をむく料理長・井上裕基

解説/料理長 井上裕基

写真・文・エッセイ/ライター織田城司
Commentary by Yuuki Inoue
Photo・Text・Essay by George Oda

メニューについて

フィレンツェの街並み

◆イタリアらしい濃厚な味わい

古代からタコを食べていたイタリア。

大航海時代、南米からじゃがいもが伝来すると、いつしか、庶民の間で「タコとじゃがいもの組み合わせは美味しい」という評判が広まり、国民に親しまれるサラダになりました。

和食のタコやじゃがいもとはちがう、濃厚な味わい。おかげさまで、イタリア料理ファンに好評で、1993年の開業当時から続けている人気メニューです。

フィレンツェの市場

◆世界最大級のタコを豪快に焼く

当店では、イタリアのタコの調理法の中でも、味と香りが強い、素朴で豪快な調理法を取り入れています。

まず、タコは塩もみせず、あえてヌメリを残します。次に、タコは茹でず、蒸し焼きにします。

鍋の中で、ミズダコという世界最大級のタコの足を、水を使わずに焼き、タコから抽出した旨味の水分をたっぷり使って、味を凝縮させます。

じゃがいもは甘味が強いものを選び、タコの濃厚な味とバランスを取ります。

調理

タコを蒸し焼きにする

ミズダコの足一本。長さ1メートルほど。築地から生で仕入れる

タコに布をかぶせる

タコを柔らかくするため棒で叩き、繊維質を切る。イタリアでは、タコを岸壁に叩きつける漁師もいる

叩いて柔らかくなり、やや伸びたタコの足

ニンニク一個を輪切りで半分にする

輪切りにしたニンニクの断面

鍋の底でニンニクの断面を加熱。香ばしさを引き出す

鍋にエキストラバージン・オリーブオイルを入れ、ニンニクの香りを付ける

タコを鍋に入れる

タコの表面を焼く

タコをひっくり返し、反対側を焼く

白ワインを加える

鍋にフタをして、タコを蒸し焼きにする

フタの上に重石役の鍋を置き、密閉度を増して、蒸し焼き効果を高める

約20分蒸し焼きにしたところで、タコをひっくり返す

さらに20分蒸し焼きにする

蒸し焼きが完了したタコ。投入時に比べると小さくなっている。その分、タコから抽出した旨味の水分が味を凝縮している

じゃがいもを茹でる

じゃがいもは、柔らかくて甘味が強い北海道産「北あかり」を使用

流水でじゃがいもの表面についた泥を洗い落とす

じゃがいもを鍋に入れる。皮をむいてから茹でると、水分を吸いすぎてしまうため、皮付きで茹でる

岩塩を鍋に入れ、じゃがいもに塩味をつける

茹で上がり、自然に冷ましたじゃがいもの皮をむく

じゃがいもを食べやすい大きさにカット。北海道産「北あかり」は栗のような黄色さで、甘味を引き立てる

仕上げ

◆レモンドレッシングを作る

仕上げの風味付けに使うレモンドレッシング。イタリア語ではオーリオ・リモーネと呼ばれる

レモンを輪切りで半分にする

レモンを絞る

ボウルの中で、レモンの絞り汁、塩、エキストラバージン・オリーブオイルを混ぜて完成

塩は、旨味が豊富なシチリア産自然海塩のブランド「エガディ」の細粒を使用

エキストラバージン・オリーブオイルは、爽やかな香りと軽い辛味が特徴のイタリア南部プーリア州「ディサンティ」社製を使用

◆材料を和える

タコを食べやすい大きさにカット。太細とりまぜる

フライパンにタコとじゃがいもを入れる

タコの蒸し焼きで抽出した汁を加える

自家製野菜のダシ汁を加える。玉ネギ、ニンジン、セロリ、イタリアンパセリの茎を煮込んだもの

フライパンを軽く加熱

フタをして、タコとじゃがいもに香りを付ける

温めたタコとじゃがいもをボウルに入れる

レモンドレッシングをかける

イタリアンパセリのみじん切りをふりかけて和える

皿に盛り付ける

再度レモンドレッシングをかける

ブラックペッパーをふりかける

エキストラバージン・オリーブオイルをふりかけて出来上がり

お召しあがり

タコとじゃがいもの温製サラダ(一人前)

◆プリッ、トロッ、旨!

出来上がったサラダは、海辺の屋台を思い出す、タコの香ばしい風味が強く漂います。レモンやイタリアンパセリなど、香味の集団が後から香ってバランスを取ります。

タコは口に含むと、プリッとしながらサクッとほぐれ、柔らかさに驚き、噛めば噛むほど、旨味が増します。

タコとじゃがいもの温製サラダ

じゃがいもは「これが、じゃがいも?」と思う、強い粘りと甘味があります。口に含むと、キメ細かい塊がトロリと溶けていく口あたりです。

濃厚な味わいの中に感じる、甘辛、剛柔の対比を「美味しいな…」と堪能するうちに、つい食べ進んで、お酒も進みます。

タコとじゃがいもの温製サラダ

お飲み物

イタリアンビール「モレッティ」

◆レトロでまろやかな味わい

イタリアのバールで、「モレッティ」のおじさんが美味そうにビールを飲む看板を見ると、ついビールを注文してしまいます。

昔は商業デザインに美人や紳士のイラストを使うことが多かったけれど、すぐに古さを感じることから、近年は銘柄のロゴを大きくレイアウトすることが主流になっています。

「モレッティ」は1942年から使い始めたおじさんのイラストを、あえて使い続けることで、変わらぬ味をアピールしています。今では古さを超越して、伝統美を感じる存在感です。

ワイン大国イタリアでは、ビールの歴史は浅く、「モレッティ」社の1859年創業が最古になります。創業地フリウリ・ヴェネツィア・ジューリア州に隣接するオーストリアの影響でビールの生産を始めました。

その味は、麦の香りをたっぷり含んだ、まろやかな味わいです。今の日本のビールの主流、辛口でのどごしの強いタイプに比べると、「モレッティ」のレトロな味わいは貴重な存在です。タコとじゃがいもの温製サラダなど、前菜とともにお楽しみ下さい。

イタリアンビール「モレッティ」

エッセイ:食のこぼれ話『ゴッホとじゃがいも』

パリ・モンマルトル地区 キャバレー「ムーラン・ルージュ」

◆手仕事への開眼

パリの下町、モンマルトル。19世紀末、若き芸術家が集まり、ゴッホもそのひとりでした。

ゴッホの絵は今でこそ、美術館の人気イベントですが、当時はほとんど売れませんでした。

ゴッホはパリを去ると、田舎にこもり、失意のうちに自殺します。自画像だと老けて見えますが、37歳の若さでした。

パリ・モンマルトル地区 キャバレー「ムーラン・ルージュ」

ゴッホといえば、ひまわりの絵が有名ですが、実は、じゃがいもの縁も深いのです。

ゴッホは画家になる前、伝道師を目指していました。ところが、労働者から「説教ではなく、実際に人の役に立つ活動をしてみろ」と言われると悩み、挫折します。

やがて、自分の手仕事で人の役に立つことを考え、画家を目指します。そのきっかけは、じゃがいもでした。

ゴッホは32歳の時、農民がじゃがいもを作り、料理して食べる姿に、人間の生きる根源を見出したのです。

そして、記念すべき初の油彩画『じゃがいもを食べる人々』(1885年作)を描きました。ゴッホはこの作品を完成させるために、働く人の手のスケッチをたくさん描きました。

ゴッホの伝記映画『炎の人ゴッホ』(1956年作)の中で、ゴッホを演じたカーク・ダグラスは、『じゃがいもを食べる人々』の制作を再現する場面で、次のように語っています。

「この数ヶ月、僕は働く者共通のパターンを追求している。手や顔の細かい表情は問題ではない。労働の意味を知っている男と女を描きたいのだ。夕げの食卓を囲んで、じゃがいもを食べる人々を絵にしたい。土を耕したその手が皿を持っている。まさに自らの手で、その日の糧を得ている」

人工知能の計算や分析が始まった現代、人間に何ができるのかと考えた時、ゴッホが描いた手仕事が注目されています。

ラ・ビスボッチャ店内

いつもご利用いただき、誠にありがとうございます。

今宵も、ラ・ビスボッチャのディナーで、楽しいひとときをお過ごしください。

ラ・ビスボッチャ店内