TASTE

自家製オレキエッテのサルシッチャロッソ

第8回 ORECCHIETTE SALSICCIA ROSSO

自家製オレキエッテのサルシッチャロッソ

解説/料理長 井上裕基

写真・文/ライター織田城司
Commentary by Yuuki Inoue
Photo & Text by George Oda

メニューについて

自家製オレキエッテのサルシッチャロッソ(部分)

今回はプリミ・ピアッティから「自家製オレキエッテのサルシッチャロッソ」の味と技を紹介します。

「オレキエッテ」はイタリア語で「小さな耳」の意味で、文字どおりの円盤状パスタです。このパスタを、サルシッチャ(生ソーセージ)の挽肉をトマトであえたソース「サルシッチャロッソ」でいただくメニューです。

自家製オレキエッテを作る

もともと小さな独立国家が集まってできたイタリアは、地域ごとに独自の文化が発達しました。パスタの作り方も地域ごとに特色があり、家庭でも細分化されています。

このため、お嫁さんはお姑さんから、その家に代々続くパスタの料理法を習得することが花嫁修行の第一歩になります。こうした「おふくろの味」をめぐる台所事情は、日本のお雑煮づくりに似ています。

当店のオレキエッテは、1993年の開業時に料理長を務めていたイタリア人のフランコ・カンツォニエーレさんから伝授されたものです。市販のオレキエッテよりも大きなパスタを手づくりします。フランコさんは大都市ローマで修行を積んだ料理人で、出身は南部のプーリア州です。

ローマの街角

プーリア州は長靴の形をしたイタリア半島のかかとの部分で、オレキエッテ発祥の地とされています。オレキエッテが毎日のように各家庭で作られ、家庭によって大きさや厚み、くぼみの形にちがいがあります。

当店のオレキエッテの形に理屈はありません。フランコさんの家の「おふくろの味」だったのです。私たちも、その味が美味しいと感じて継承しています。

自家製オレキエッテを作る

食材

自家製オレキエッテを作る料理長・井上裕基

自家製ソーセージ

自家製ソーセージ

パスタのソースに使う挽肉は自家製ソーセージの中身をバラしたものです。イタリアでサルシッチャと呼ばれる生ソーセージで、豚肉を100%使った大きめの粗挽きタイプです。詳細は同コラムの第7回「自家製ソーセージの炭火焼き」で紹介しています。

イタリアではサルシッチャを焼いたり茹でたりして食べるほかに、腸詰の皮から中身の挽肉を取り出してソースや炒め物の具材として使うこともあります。サルシッチャロッソのソースは、そんな食べ方を再現したものです。ロッソはイタリア語で赤の意味。挽肉にトマトや赤ワインを加えて作ります。

デュラムセモリナ粉

デュラムセモリナ粉

デュラムセモリナ粉はデュラム小麦をセモリナといわれる粗挽きで精製したもので、硬質小麦とも呼ばれています。主にパスタに使われる小麦です。その中でも細挽きのタイプを使用しています。

コトブキ園の「長寿卵」

パスタの生地に使う卵は日本の「長寿卵」を使います。「長寿卵」は神奈川県相模原市で古くから養鶏が盛んな地域、通称「たまご街道」にあるコトブキ園が手がける卵です。黄味がオレンジ色で、味にコクと深みがあり、イタリアに多く見られる卵の性質に似ていることから使用しています。

調理

1.オレキエッテの生地を作る

生地の材料を計量する。左は小麦粉とセモリナ粉−①。右は卵白とぬるま湯、オリーブオイル、塩を混ぜたもの−②。

生パスタは乾麺とちがい、生地の質感がストレートに食感や味に出ます。このため、当店ではオレキエッテを口に含んだ時のしっかりした噛み応えや、ソースとの馴染みを意識して、普通の小麦粉にデュラムセモリナ粉を配合したり、卵は卵白しか使わないなど、独自の調合で作っています。

生地は一度にたくさん作るため、素手の練りだけで作ると、密度に不揃いが発生します。このため、最初はミキサーの機械を使って生地の素材を均一に混ぜ、最後に素手の練りを加えて仕上げています。

ミキサーに②を入れる。

ミキサーに①を入れる。粉を液より先に入れると、ミキサーの底に粉が残ったままになることがあるので、必ず液→粉の順で入れる。

ミキサーで生地の材料を混ぜる。いきなり高速で混ぜると粉が飛び散ってしまうので、最初は低速で粉と液を混ぜ、頃合いを見て高速に変える。

途中でミキサーを止め、素手で生地の質感を確かめる。

ミキサーで生地が混ぜ上がった状態。

出来上がった生地は、素材をなじませ、乾燥を防ぐためビニール袋に入れる。

ビニール袋の空気を抜く。

小一時間休ませる。

生地を素手で練るため、小分けにする。

ミキサーで混ぜた生地の断面。所々に白いムラが残る。このため、素手の練りを加えて仕上げる。

生地を素手で練る。

素手で練った生地は素材をなじませ、乾燥を防ぐためにビニール袋に入れ、空気を抜き、約30分間休ませる。最初にビニール袋に入れた時よりキメが細かくなったことがわかる。

2.オレキエッテの形を作る

左が市販のオレキエッテの大きさに近いもので、ギンナンほど。右が当店自家製のオレキエッテで直径は30〜35㎜。

オレキエッテの本場、イタリア南部のプーリア州では、豪快な食感を楽しむために、オレキエッテは大きめに形づくることが主流です。当店でもそんなプーリア州出身の料理長直伝の味を再現しています。

1)生地を包丁で小分けにする。

2)生地を棒状にカットする。

3)生地を丸めて伸ばす。

4)生地の先端をオレキエッテ1個分カットする。

5)カットした生地を立てる。

6)ナイフで生地を潰す。

7)潰した生地をナイフで押し広げながら手前に引く。

8)生地を手前に引きながら一回転させる。

9)生地がついたナイフを持ち上げる。

10)生地の端に中指を引っ掛ける。

11)生地に親指を入れ、ナイフで反転させる。

12)オレキエッテ1個の出来上がり。

出来上がったオレキエッテの表面。ざらついた表面はソースと馴染みやすく、理想的な仕上がり。

出来上がったオレキエッテの反対側。耳たぶと言われる所以はこんな外観から。

オレキエッテ作りに使うテーブルナイフ。量産品だが、しなり方は様々なので、自分の手に馴染む物を探す。

同じ手作業を繰り返し、オレキエッテを量産する。

オレキエッテの出来栄えや大きさに不揃いがないか検品する。

オレキエッテは談話しながら作るのがイタリア流。

3.オレキエッテを茹でる

ゆで麺機に岩塩を入れる。

ゆで麺機のザルにオレキエッテを入れる。

オレキエッテを約6分間茹でる。途中から浮いてくる。

4.基本のトマトソースを作る

イタリア「ラ・ドリア」ブランドの業務用ホールトマト缶。

トマトは南米で生まれ、16世紀の大航海時代にスペインの艦隊がヨーロッパに持ち帰り、南イタリアで真っ赤な美味しいものが育つようになりました。19世紀になるとトマトを使ったソースは、イタリア料理を象徴する人気となり、20世紀に瓶詰めや缶詰が登場して現在に至ります。

トマトソースは、基本のトマトソースに具材や味のアレンジを加えて、パスタやピザ、肉、魚などの料理に使います。基本のトマトソースの作り方に定説はなく、地域やレストラン、家庭によって様々。味を比べるのも楽しいものです。

当店の基本のトマトソースは、イタリア「ラ・ドリア」ブランドのホールトマトと玉ネギを煮込んで作ります。いろんなメーカーのホールトマト缶を試しましたが、「ラ・ドリア」は缶ごとの味のバラツキが少ないことから使用しています。

玉ネギをみじん切りにする。日本製の玉ネギを使用。

鍋底で玉ネギのみじん切りをエキストラバージン・オリーブオイルで炒める。

ホールトマトを鍋に入れる。

煮込んで、基本のトマトソースの完成。

5.サルシッチャロッソ・ソースを作る

1)サルシッチャを冷蔵庫から出す。

パスタ料理は、パスタとソースの馴染みが肝心。サルシッチャの大きめの粗挽き挽肉やオレキエッテの重量感とくぼみを意識しながらソースの粘性や照りを調整していきます。味は挽肉やパスタにある程度ついているので、旨味とコクを中心に加えていきます。

2)サルシッチャを真ん中から半分に折り、表面の豚腸をカットする。

3)サルシッチャから中身の挽肉を取り出し、油をひかないフライパンに移す。

4)香ばしさを出すため、ゴムベラでサルシッチャをフライパンの底に押し付け、焦げ目を付ける。

サルシッチャの端が茶色くなってきたら焼き上がりの目安。

味付けに使う赤ワイン。イタリア中部アブルッツォ州のコッレフリージオ社の「ヴィニ・デル・モーロ」。モンテプルチャーノ種のぶどうを使った辛口赤ワイン。

5)焼いたサルシッチャに赤ワインを加える。

6)強火で赤ワインのアルコールをしっかり飛ばす。

7)6)に基本のトマトソースを加える。

8)7)にブロード・ディ・ポッロ(鶏のダシ汁)を加える。

ブロード・ディ・ポッロ(鶏のダシ汁)。鶏がら、ひね鶏、トマト、タマネギ、ニンジン、セロリ、ローリエを約6時間かけて煮込んだもの。

9)8)にブロード・ディ・ベルドゥーラ(野菜のダシ汁)を加える。

ブロード・ディ・ベルドゥーラ(野菜のダシ汁)。タマネギ、ニンジン、セロリ、イタリアンパセリの茎などを約3時間かけて煮込んだもの。

10)9)を混ぜる。

11)水分を飛ばし、粘性をもたせて、サルシッチャロッソ・ソースの出来上がり。

6.オレキエッテとソースをからめる

茹で上がったオレキエッテをフライパンのサルシッチャロッソ・ソースの中に投入。

オレキエッテとソースをゴムベラで混ぜる。

さらにフライパンをあおりながら、オレキエッテとソースを混ぜる。

オレキエッテとソースを混ぜる時、オレキエッテの耳の穴の中までソースが染み渡ることを意識する。

強火で全体的に煮詰める。

仕上げに、パルメザンチーズをひとふりして、味と香りをつける。

さらに、オリーブオイルを回しがけして、香りとなめらかな表情をつける。

パルメザンチーズとオリーブオイルをソースに混ぜ、程よく照りがついたら完成。

 

お召し上がり

自家製オレキエッテのサルシッチャロッソ(一人前)

出来上がったオレキエッテは焼いた挽肉の香ばしさやトマト、パルメザンチーズ、オリーブオイルなど、豊かな香りが漂います。オレキエッテを口に含むと、サルシッチャに仕込まれていたスパイス、フェンネルシードの爽やかな風味とパスタの小麦の風味が広がります。

オレキエッテはしっかりした弾力のある食感で、大きな粗挽き挽肉の噛み応えとよく合います。味はトマトの酸味、フェンネルシードのほろ苦さ、パルメザンチーズの塩味を前面に感じながら、噛みしめるほどに旨味とコクがずっしりと効いてきます。

自家製オレキエッテのサルシッチャロッソ(部分)

イタリアの南部は温暖な気候から、いかにもラテン系といった情熱的で野性味溢れる気質の人が多く見られます。そんな人々に育まれたオレキエッテは小さな耳ならぬ大きな耳。粗挽きの挽肉ソースがよく似合い、豪快に食べたい一品です。以上、耳よりな情報でした。

お飲物

赤ワイン「イル・ファルコーネ・カステル・デル・モンテ・リゼルヴァ・D.O.C.G」

銘柄/イル・ファルコーネ・カステル・デル・モンテ・リゼルヴァ・D.O.C.G
ワイナリー/リヴェラ社
生産地/イタリア南部プーリア州
ぶどう種/ネーロ・ディ・トロイア・モンテプルチャーノ
生産年/2011年

辛口でコクのある赤ワインです。香りはブルーベリーやコショウ、タバコ、レザーなどの要素が複雑にからみ、芳醇な印象です。口あたりは滑らかで、力強く優雅な味わいがあります。

ブランドのファルコーネは鷹の意味。世界遺産に登録されているプーリア州の古城「カステル・デル・モンテ」を13世紀に建てた王家の紋章に由来します。当店のオレキエッテのルーツもプーリア州。南部土着の濃い味同士の組み合わせです。

ラ・ビスボッチャ店内

いつもご利用頂き、誠にありがとうございます。

今宵も、ラ・ビスボッチャのディナーで、楽しいひとときをお過ごしください。

ラ・ビスボッチャ外観