COLUMN

鹿フェア2019

第40回 SAGRA DEL CERVO

鹿のラグーのタリオリーニ

鹿のロースとモモのロースト

滋味に富んだ鹿肉で冬を乗り切る

立春を過ぎましたが、まだまだ寒い日が続きます。

そんな季節に、滋味に富んだ鹿肉料理のフェアを開催します。2月15日(金)〜26日(火)  期間限定メニューを2品ご用意します。

繊細な旨味と精力がつく後味が冬のラストスパートに効きます。この機会に、ぜひお楽しみください。

鹿のモモを焼く副料理長・露詰まみ

解説/副料理長 露詰まみ

写真・文・エッセイ/ライター織田城司
Commentary by Mami Tsuyuzume
Photo・Text・Essay by George Oda

メニューについて

紀勢本線の車窓に広がる和歌山県南部の海岸

イタリアと和歌山の味を東京で結ぶ

イタリアでは古くから鹿肉を食べる文化がありました。日本も縄文時代は鹿肉を食べる習慣がありました。

今回の鹿フェアでは、そんな鹿肉料理の魅力を味わっていただくために、和歌山県の鹿肉を使用します。

和歌山県南部の古座川町は豊かな森林と清流に恵まれ、野生の動物がのびのびと育つ地域です。

この地で2015年に開業した食肉加工施設「山の光工房」は、捕獲されてから2時間以内のジビエを丁寧に処理して熟成することで、臭みやクセが少ないジビエを実現しています。

こちらのやわらかい鹿肉の繊細な旨味がイタリアンのレシピとよく合うので、チルドの枝肉を仕入れて精肉します。

1.鹿のラグーのタリオリーニ

鹿のラグーのタリオリーニ

◆人気のパスタで鹿を料理

やわらかい生パスタとラグーの組み合わせは、イタリア料理の中でも人気メニューです。

数多い生パスタの中から、鹿のラグーのやわらかい食感をイメージして、タリオリーニを合わせました。

◆鹿のラグーを作る

鹿肉を電動ミンサーで挽き肉にする

挽き肉はイタリア中部に多くみられる大きめの粗挽き

フライパンにオリーブオイルを敷く

鹿の挽き肉を炒める。火を均一に通すため、木ベラでほぐしていく

赤ワインを入れ、風味やコクをつける

挽き肉にワインを混ぜながらアルコール分をとばす

挽き肉を鍋に移す

木ベラで挽き肉を残ざず鍋に入れる

挽き肉を入れた鍋に自家製鶏のダシ汁と鹿のダシ汁を加える

自家製鶏のダシ汁は鶏がら、ひね鶏、トマト、タマネギ、ニンジン、セロリ、ローリエを約6時間かけて煮込んだもの

自家製鹿のダシ汁は鹿の骨とニンジン、セロリ、タマネギを煮込んだもの

ダシに使う鹿の骨は、肉をさばいて残った骨をオーブンで焼き、香ばしさとコクを増している

自家製トマトソースを加える

自家製トマトソースはイタリア製「ラ・ドリア」ブランドのホールトマトと炒めたタマネギのみじん切りを煮込んだもの

ニンジン、セロリ、タマネギのみじん切りを炒めて加える

脂分を補うためにラードを加える

岩塩で下味をつける

ときどき混ぜながら煮込む

味見しながら煮込みに微調整を加える

◆タリオリーニを作る

タリオリーニ用の自家製生パスタの生地をパスタマシーンで1㎜の厚さまで伸ばす

生パスタの生地は小麦粉に卵とオリーブオイル、塩を加え、業務用ミキサーで混ぜて作る

卵は神奈川県産の「長寿卵」。卵黄がオレンジ色で味に深みとコクがあり、イタリアの卵の質に似ていることから使用。タリオリーニの生地の黄色が強いのはこのため

生地をタリオリーニの長さに切り分ける。当店の長さの設定は11㎝

生地をパスタマシーンでタリオリーニの幅に裁断。当店の幅の設定は4㎜

タリオリーニにセモリナ粉をふりかけ、くっつき防止の打ち粉にする

出来上がったタリオリーニ1人前90g

◆鹿のラグーとタリオリーニを和える

フライパンに鹿のラグーを入れる

タリオリーニを茹でる。茹で時間は約2分

茹で上りを待つ

茹で具合を確認

タリオリーニを鹿のラグーが入ったフライパンに投入

タリオリーニと鹿のラグーを和える

すりおろしたパルメザンチーズを加える

パルメザンチーズは希少な赤牛のミルクを長期熟成させたもの。香りが高く、濃厚な味わいの最高級パルメザンチーズ

溶かしバターを加える

溶かしバターは湯煎とともにローズマリーとセージの香りをつけたもの

調味料とパスタを混ぜ合わせ、盛り付けてから再度パルメザンチーズをふりかけて出来上がり

鹿のラグーのタリオリーニ

◆タリオリーニがラグーと絶妙に絡む

タリオリーニはやわらかく、モッチリした歯ごたえがあります。コシはやわらか目で、フォークですくい上げるとゆっくり垂れてきます。

このタリオリーニが鹿のやわらかいラグーと絶妙に絡み、幅や厚さの妙を感じます。タリオリーニ数本でラグーを丸め込むと、程よい量のラグーが口に運べます。

口の中で食べ合わせると、タリオリーニの卵と小麦の風味、じっくり煮込んだラグーのマイルドな甘みと旨味が一体となり、あっという間にモグモグ食べ進んでしまいます。

鹿のラグーのタリオリーニ

ラ・ビスボッチャ店内

2.鹿のロースとモモのロースト

鹿のロースとモモのロースト

◆じっくり焼いて繊細な旨味を引き出す

鹿肉は牛やイノシシの肉と比べると、やさしく繊細な味わいです。

このため、炭火で焼くと炭の香りが前面に出てしまうため、フライパンとオーブンを使ってじっくり加熱します。

◆ロースを焼く

鹿肉の骨付ロース。日本で肉食が禁止されていた時代に「もみじ」と呼んで隠れて食べていたことを感じる鮮やかな赤色。やわらかい赤身で脂肪分は少ない

カットした骨付ロースは約3日間かけてマリネする

マリネはオリーブオイルとローズマリー、ニンニク、ブラックペッパーなどで肉に香りをつけながら柔らかくする

フライパンにオリーブオイルを敷く

鹿のロースの骨の部分を加熱する。骨から髄液がしみ出し、肉のコクを増す

背中の面を焼く

熱々のオリーブオイルをスプーンで肉にふりかけ、焼いてない面も加熱する

ローズマリーで香りを付けながら側面を焼く

反対の側面も焼く

再度骨の面を焼く

オーブンに入れ、じっくり中まで加熱する

◆モモを焼く

鹿のモモ肉を丸め、ヒモで縛る

モモをフライパンで焼く

モモの面を変えながら全体に焼き色をつける

肉の厚い部分や骨の周りなど、火の通りにくい部分に熱々のオリーブオイルをかけて加熱する

モモ全体に焼き色がついた状態

焼きあがったモモをオーブンに入れるため、バットに移す

モモをオーブンに入れ、中までじっくり加熱する

ときどきオーブンから取り出し、中心の温度を計り、焼き具合を確認する

オーブンで焼き上げた鹿肉はしばらく休ませ、肉汁を落ち着かせてからカットして盛り付ける

鹿のロースとモモのロースト。ロースの部位

◆さっぱりした赤身肉の旨味

香りはジビエ料理の中でも控えめです。ロースの繊維質は驚くほどやわらかく、シャキッとすぐに嚙み切れます。噛みしめるとマイルドで繊細な旨味を感じ、骨に近くなるにつれて旨味とコクが増します。

サラッとした肉汁は程よいウエット感で、さっぱりした印象です。モタレが少なく、体の中から活力が湧き出る後味を感じます。

鹿のロースとモモのロースト。モモの部位

モモは繊維質をほとんど感じないキメ細かい肉質で、赤身肉のやわらかさが際立ちます。

味わいはふっくらした食感の中に旨味とコクが充実。後味にほろ苦さを感じます。ロースと味のちがいを比べながらお楽しみください。

お飲物

ビスボッチャの店内でイタリアのケットマイヤー社のワインを見る副料理長・露詰まみ

◆鹿肉に合うワインを探しにイタリアへ

ヨーロッパを横断するアルプス山脈。その中でも、イタリア最北端のドロミテ山脈は独特の荒々しい岩山が特徴で、ユネスコ世界遺産の自然遺産に登録されています。

絶景を見ながら夏はトレッキング、冬はスキーが楽しめるリゾートとして、世界中の観光客の憧れになっています。

ケットマイヤー社周辺の街並み。岩山が広い地域に広がる。写真提供/露詰まみ

このドロミテ山脈があるトレンティーノ・アルト・アディジェ州は、ブドウの栽培に適した石灰岩の土壌で、良質のワインとジビエ料理が特産物になっています。

この地で1919年に創業した老舗ワイナリー、ケットマイヤー社を2018年8月に訪ね、鹿フェアの料理に合うワインを選び、輸入しました。

ケットマイヤー社のブドウ畑。写真提供/露詰まみ

ケットマイヤー社のワイン樽。写真提供/露詰まみ

ケットマイヤー社白ワイン「シャルドネ・マゾ・ライナー」と鹿のラグーのタリオリーニ

◆強いフルーツ味の白ワイン「シャルドネ・マゾ・ライナー」

色は澄んだ麦わらイエロー。香りはバナナやパイナップルなどの強いフルーツ味にハチミツやバニラのニュアンスが加わります。

味わいは豊かでフレッシュ。後味に軽いスパイスの余韻を感じ、鹿のラグーの旨味を引き立てます。

ブドウ畑「マゾ・ライナー」のピノ・ネロ種。写真提供/露詰まみ

ケットマイヤー社赤ワイン「ピノ・ネロ・マゾ・ライナー」と鹿のロースとモモのロースト

◆まろやかな辛口赤ワイン「ピノ・ネロ・マゾ・ライナー」

色はルビーレッド。香りは野生のベリー、チェリー、バニラ、タバコなどのニュアンスがあります。

味わいは辛口だけど、まろやかな口当たりです。スパイシーな余韻が長く、鹿肉の肉汁とよく合います。

鹿フェアの機会に、アルプスのマッチングの再現をご賞味ください。

エッセイ:食のこぼれ話

天現寺交差点から広尾駅方面を望む

鹿の狩人

鹿を狩るシーンが見られる映画に『ディア・ハンター』(1978年)があります。

舞台は1960年代のアメリカの田舎町。製鉄所で働く青年たちの唯一の楽しみは山に登り、鹿を狩ることでした。やがて、青年たちはベトナム戦争に徴兵されます。

数年後、ベトナムから帰還した青年たちは、以前のように鹿狩りが楽しめなくなりました。人と人とが殺しあう戦場で、心が傷ついてしまったからです。戦争は平和な田舎町にも暗い影を落としました。

高倉健さんがこの映画に感動して絶賛。ちょうど健さんがヤクザ映画から男のドラマに路線変更する頃で、後の作風に影響を与えました。その感動に、鹿が見事な効果になった作品です。

鹿のラグーのタリオリーニ

いつもご利用いただき、誠にありがとうございます。

今宵も、ラ・ビスボッチャのディナーで、素敵なひとときをお過ごしください。