私とビスボッチャ:双津正博さん

『厚切り肉を探して』

ME AND MY BISBOCCIA

Episode 5:Masahiro Soutsu

ラ・ビスボッチャの店内で語る双津正博さん

◆プロフィール

1952年、東京都生まれ。慈恵医大卒。慈恵医大病院で脳外科医として20年間従事。その後、父親の病院を継いで診療を20年間行う。2014年に引退。現在は夫人と食べ歩きや旅行を楽しむ。

ラ・ビスボッチャの店内で語る双津正博さん

1.イタリアへの思い

パルメザンチーズの原風景

はじめてイタリアを意識したのは、パルメザンチーズの香りでした。

高校生の頃、両親に連れて行ってもらった新宿三丁目のイタリアンレストラン『カラカラ』の思い出です。お店の内装はその名の通り、古代のローマ浴場をイメージしたもので、店に入った途端、チーズの焼ける匂いに包まれたものです。

テーブルの上に置かれた紙のランチョンマットは、イタリアの地図と食材の名産地、それを食べている人々などが中世の版画風イラストで描かれていました。お店に頼んで持ち帰り、家で絵本がわりに眺めながら「楽しそうな国だな、いつか行ってみたい」と思っていました。1960年代から70年代にかけてのことです。

しかし、社会に出ると多忙を極め、念願のイタリアに行ったのは、50歳になろうとする頃でした。それから今まで、名所といわれる都市をあちこちめぐりました。その中で私のお気に入りはフィレンツェです。小さな街すべてが美術館であり、歩いてまわれる範囲に見どころや飲食店が凝縮しているところに魅力を感じました。

匂いは記憶。今でもパルメザンチーズの匂いを嗅ぐと、大昔にラザニアを食べた記憶がよみがえります。

ラ・ビスボッチャの店内で語る双津正博さん

2.イタリア料理の魅力

食に対する情熱

はじめてフィレンツェに行った1999年、レストランで食べた、薪の火で焼いた厚切り肉、ビステッカ・アラ・フィオレンティーナは衝撃でした。

それまで知っていたステーキとちがう迫力は、私の牛肉の基準を変えるものでした。その味が忘れられず、日本で再現する方法を模索し、旨い肉を焼いて食べる事を追求するようになりました。

それが興じて、家を改築する時、暖炉を兼ねた肉焼き用のグリルを作り、他の料理は家内に任せても、肉だけは自分で焼いています。友人と肉食の会を年に数回開いていますし、肉が美味いといわれるお店があれば、食べに行くこともあります。

牛肉は脂分が少ないと美味しくないし、ありすぎても美味しくない。個体差があるから当たり外れもあります。そんな背景を理解しながら、焼き過ぎないで、味に甘みが出始めた頃合いのレアが私の好みです。

フィレンツェと同じく、京都と香港も数多く訪れていますが、その理由は食に対する情熱を感じるからです。パリやニューヨークへも行きましたが、フランス料理よりイタリア料理が自分の好みにあっている様に思います。

ラ・ビスボッチャのグリルで料理長・井上裕基(右)と肉の焼き方について語る双津正博さん

キアニーナ牛の炭火焼き

3.私とビスボッチャ

厚切り肉を探して

ビスボッチャに通いはじめたのはごく最近、2018年8月からです。

フィレンツェのビステッカといえばキアニーナ牛ですが、日本でそのキアニーナ牛が食べられるお店がないかと検索したところ、ビスボッチャのホームページに紹介記事があるのを発見し、訪ねたのがはじまりでした。

お店に行くと、私の好きなフィレンツェ料理の再現度が高く、店員さんの対応が好印象だったことから、それ以来、足繁く通っています。

料理長の井上さんには、肉の焼き方を根掘り葉掘り聞いています。先日教わった「肉は焼いた時間と同じ時間寝かせてから食べると美味しい」というコツは参考になりました。

それまで、焼いてから休ませることは知っていましたが、どうしても食い気が先に立ち、待ちきれなかったというのが実情でした。我慢してゆっくり待つのが大切なのです。フィレンツェの肉は、テーブルに出てきた時には、ほんのり温かい程度です。他にも、料理や食材の知識を色々と教えてもらっています。

お店のフェアやイベントも新しいメニューやワインとの出会いがあり、楽しみにしています。注文をカスタマイズできる点も気に入っています。塩からいのが苦手なので、塩加減は少なめにお願いしていますし、色々なメニューを食べたい時は、個々の料理の量を少なくしてもらうように相談すると、そういった我儘にも気持ちよく対応してくださるので、嬉しい限りです。

ビスボッチャには、皆さんお洒落して来店しています。服装も味のうち。私も身なりを整えて来る様に心がけています。古い時代のスタイルが好きなので、アメリカのファッション雑誌『エスカイア』で1930年代に掲載された、ローレンス・フェローズというイラストレイターが描いたスタイル画に見る、クラシックなエレガントスタイルを参考にしています。

双津正博さんが着こなしの参考にするアメリカのイラストレイター、ローレンス・フェローズが1930年代に描いたスタイル画

料理長・井上裕基のコメント

いつもご利用いただき誠にありがとうございます。

双津さんは「この肉は焼き過ぎ」とか、料理の出来がご要望と違う時は、はっきりと指摘されます。

そのようなことが最小限になるように、コミュニケーションをしっかり取りながら努力いたします。

今後ともよろしくお願いします。

 

取材日:2019年3月27日

監修/料理長・井上裕基 写真・文/ライター織田城司