WORLD BEEF FAIR
コラム『味と技』第80回
牛に願いを
2021年の干支は牛です。
牛は古くから食肉や牛乳の供給、農耕や運搬の動力などで、人類を支えてきた大切な動物です。
そんな縁起物の牛に感謝し、ご利益にあずかるため、1月14日(木)〜31日(日)の期間「世界の牛肉フェア」を開催します。
国内外から厳選した牛由来のメニューが、期間限定で7品登場。
牛のように地道に突き進むことで、新たな発展につながる一年に、願いを込めます。
メニュー編集・調理/料理長・井上裕基
写真・文/ライター 織田城司
Menu editing ・Cooking by Yuuki Inoue
Photo・Text by George Oda
◆牛肉を美味しくいただく郷土料理を集めて
ビスボッチャが1993年に開店した当時、イメージしたのはイタリア中部の郷土料理店でした。
イタリア中部といえば、フィレンツェに代表されるトスカーナ州が、よく知られています。
山間部ゆえに、牛肉をはじめとする山の幸が豊富で、その味を生かす郷土料理が発達しました。
今回の「世界の牛肉フェア」では、創業当時から培ったイタリア中部の郷土料理、炭火焼きや幅広パスタ、モツ煮込みなどを集め、牛肉の美味しさを極めます。
メイン:牛肉の炭火焼きステーキ
1.アイルランド産アバディーン・アンガス牛Lボーンの炭火焼き
メニューについて
◆牧草牛の豊かな香りと、強い旨み
今回、牛肉の炭火焼きステーキ用におすすめする輸入牛肉は、アイルランド産です。
アイルランド産の牛の特徴は、牧草牛です。
自然の中で自由に放牧され、牧草だけを食べて育ちます。
このため、肉の香りが香ばしく、柔らいことが美味しさのポイントです。
その第一弾は、アイルランドで育ったアンガス牛のLボーンの炭火焼きです。
アバディーン・アンガス牛は、スコットランドのアバディーン地区が発祥とされる肉用種の一種で、世界に広く分布しています。
赤身の間に程よく脂肪分が入り、柔らかい肉質が特徴の牛です。
日本には大正時代に伝来し、和牛の造成に貢献しました。
Lボーンは腰のあたりにある骨付きサーロインのことです。柔らかく、ジューシーで、ステーキにおすすめの部位です。
骨付きで焼くのは、骨の中の髄液が、加熱することで肉に染み出し、コクを深めるからです。
調理
◆下ごしらえ
塩コショウで下味をつける
◆炭火で焼く
お召し上がり
◆赤身肉の美味しさをバランスよく堪能
焼き上がったLボーンの外側の焼き目はカリッとして、炭火香が高く香ります。
内側の赤身は柔らかく、噛みしめると繊維質がサクサクと裂けていく歯ごたえが心地よい。
赤身そのものの風味もすごく香ばしく、豊かに広がります。
味わいは、脂肪分の甘みから赤身の強い旨み、コクをしっかり感じ、外側の焼き目の香ばしさや塩味、苦味がアクセントになり、赤身肉の美味しさをバランスよく堪能します。
2.アイルランド産ヘレフォード牛Tボーンの炭火焼き
メニューについて
アイルランド産牛肉の第二弾は、ヘレフォード牛のTボーンの炭火焼きです。
ヘレフォード牛は肉用種の一種で、脂肪分が少なく、赤身が中心で、旨みが強いのが特徴です。
Tボーンは、牛の背中の中心部に位置し、アルファベットのTの字に見える骨の左右にサーロインとフィレが分布する部位です。
一塊のステーキで、2種の味が楽しめる部位として人気です。
調理
◆下ごしらえ
◆炭火で焼く
お召し上がり
◆2種の部位を食べくらべる
焼き上がったTボーンのサーロインの部分は、ヘレフォード牛らしく、脂分はほとんどありません。
それでも、柔らかく、肉汁はしっとりして、牛肉らしい風味と強い旨みを堪能します。
フィレの部分は、繊維質のキメが細かく、味わいは濃いコクが印象に残ります。
2種の部位の食べくらべを、ヘレフォード牛の赤身の豪快な迫力で味わいます。
3.A5等級黒毛和牛「薩摩牛4%の奇跡」フィレの炭火焼き
メニューについて
◆極上の霜降り和牛
牛肉の炭火焼きステーキ用に、和牛の代表として今回選んだブランド牛は「薩摩牛4%の奇跡」です。
「薩摩牛」は、鹿児島県産の黒毛和牛で、国内の和牛等級5段階の4級以上の肉質で構成する高級ブランド牛です。
そのなかからA5ランクの肉のみを厳選し、なおかつ、そのなかから霜降り交雑基準12段階の10以上の肉のみを厳選し、「薩摩牛」からわずか4%しか取れない、希少な部位のシリーズが「薩摩牛4%の奇跡」です。
その第一弾として紹介するのはフィレです。
牛の中心部にあり、運動量が少ないため、赤身なのに柔らかく、ステーキにすると美味しいにもかかわらず、牛一頭から3〜5%しか取れない希少な部位です。
調理
◆下ごしらえ
◆炭火で焼く
お召し上がり
◆崩れそうな柔らかさ
焼き上がったフィレ肉は、まるで煮込んだ肉のように、もろく崩れそうな柔らかさがあり、驚きます。
繊維質のキメは非常に細かく、とろける舌ざわりがあります。
味わいは、甘みから旨み、コクのレンジが幅広く、繊細な印象です。
赤身のなかに霜降りの脂の存在は感じるけれど、香りと味わいは上品でエレガントです。
4.A5等級黒毛和牛「薩摩牛4%の奇跡」サーロインの炭火焼き
メニューについて
「薩摩牛4%の奇跡」を使った炭火焼きステーキの第二弾は、サーロインの部位です。
サーロインは牛の背中から腰にかけて位置し、赤身の間に適度な脂肪分が入り、ステーキをはじめ、すき焼きやシャブシャブなどに多く使われます。
「薩摩牛4%の奇跡」のサーロインは、霜降りが芸術的に極まります。
調理
◆下ごしらえ
◆炭火で焼く
お召し上がり
◆とろける甘みと旨み
焼き上がったサーロインは、霜降りがしっかりしているにもかかわらず、肉汁はほとんど流れず、しっとりとまとまっています。
霜降り特有の脂の香りも控えめで、上品な印象です。
肉の赤身の繊維質は、ほとんど感じないほど柔らかく、白い脂肪分と渾然一体となり、ぷるぷるしています。
口に入れるとサッととろけ、甘みや旨みをまろやかに感じ、とろっとした喉ごしが心地よく、極上の味わいを堪能します。
サーロインの炭火焼きに、おすすめのワイン
スパイシーな辛口赤ワイン
銘柄/サッシ・ネーリ・リゼルヴァ
ワイナリー/ファットリア・レ・テッラッツェ
生産地/イタリア中部マルケ州
ぶどう種/モンテプルチャーノ
生産年/2015年
香りは、チェリーなどの果実香に、オークやスパイスなどのニュアンスが複雑に混ざります。
味わいは、凝縮した果実味と強い酸味があり、スパイシーで渋い余韻を感じる、しっかりした辛口です。
力強い印象は、霜降りサーロインのとろける甘みや旨みを引き立て、口の中をさっぱりさせる効果もあります。
パスタ
5.「薩摩牛」ヒモ肉ラグーのパッパルデッレ
メニューについて
◆和牛の強い旨みを幅広パスタで受ける
幅広のロングパスタ、パッパルデッレは、トスカーナ州の郷土パスタです。
幅広ゆえに、濃厚なソースをたっぷり絡ませることで、豪快な味が生きるパスタです。
今回は、旨みが強い「薩摩牛」のヒモ肉とトマトペーストで濃厚なソースをつくります。
調理
◆ソースをつくる
◆パッパルデッレを製麺する
◆仕上げる
お召し上がり
◆牛肉がごろっと入った濃いソース
ソースにごろごろ入ったヒモ肉は、煮込んで柔らかくなり、甘みや旨みを豊かに感じます。
とろみがしっかりしたソースは、旨みとコクが濃厚です。
幅広のパッパルデッレは、歯ごたえがしっかりして、濃厚なソースがたっぷり絡んでいます。
パッパルデッレを噛みしめると感じる、卵の豊かな風味が、全体の味をまろやかな印象にまとめています。
前菜
6.国産牛モツとシチリア産ソラ豆の煮込み ジェノヴェーゼソース入り
メニューについて
◆爽やかに味わうモツ煮込み
牛肉の特産地、イタリア中部では、牛モツ煮込みも郷土料理として有名です。
もとは、貴族に上質な牛肉を献上した残りの牛モツを美味しく食べようとした、庶民の知恵がルーツです。
今回は、バジルを使ったジェノヴェーゼソースを入れ、爽やかな風味でいただきます。
調理
◆牛モツ2種を下茹でする
牛モツは、すぐに野菜と煮込まず、あらかじめ下茹でします。
下茹ですることで、牛モツを野菜と煮込んでも丁度いい柔らかさにしながら、アクを取り除く効果があります。
今回使用する牛モツ2種は、それぞれ肉質がちがうため、2つの鍋に分けて下茹でします。
こうした手間をかけることで、臭みがほとんどなくなり、すっきりと美味しいモツ煮込みができます。
牛モツの仕込み方法は2009年、本場フィレンツェの内臓系料理の専門店「イル・マガッツィーノ」のシェフ、ルカ・カイさんを招聘して直接教えていただきました。
ルカさんは牛モツ煮込みの屋台出身で、地元で人気があり、2004年にヴェッキョ橋の近くに同店を開店しました。
◆ソラ豆の下ごしらえ
◆ジェノヴェーゼソースをつくる
◆煮込み
◆仕上げる
お召し上がり
◆多彩な食感にあたたまる
煮込んだハチノスは、柔らかさのなかにシャキシャキとした食感があります。
ギアラは、とろとろに柔らかくなり、ほのかな旨みやコクを感じます。
ソラ豆は、ホクホクとした食感があり、香ばしい香りが高く、甘みを強く感じます。
煮汁に入れたジェノヴェーゼソースは、青々しい香りとほのかな苦味があり、全体を爽やかにまとめています。
デザート
7.イタリア産チーズとドライフルーツの盛り合わせ
◆デザートの前に、もう一品
牛の恵みといえば、肉や内臓とともに乳製品があります。
イタリアやフランスでは、メインの料理を食べた後、デザートを食べる前に、チーズを食べる習慣があります。
いかにもヨーロッパの貴族文化が発祥らしい、会食を楽しむ習慣のひとつです。
もとはフランスが発祥とされ、隣接する北イタリアの地域でも伝承されています。
食後にチーズを食べる習慣は、残ったワインの肴にする目的と、発酵食品ゆえに、整腸作用が背景とされています。
特にイタリアでは、ドライフルーツや甘いデザートワインと合わせる食べ方が発達しました。
そんな習慣をお楽しみいただくために、イタリア産のチーズを5種ご用意します。
お好みのチーズをお選びいただくと、小さくカットして、ドライフルーツとともに盛り付けてお出しします。
イタリア産のデザートワインと合わせ、優雅なひとときをお過ごしください。
①ウブリアーコ・アマローネ
製法:赤ワイン「アマローネ」に漬け込んでつくる。
香り:チーズの熟成香に、赤ワインの風味がほんのり加わる。
味わい:まろやかな旨みや塩味に、赤ワインの甘みや酸味が加わる。
②ウブリアーコ・ビアンコ
製法:スパークリング・ワインに漬け込んでつくる。
香り:花やリンゴ、洋ナシを思わせる甘い香り。
味わい:上品な旨みと塩味に、スパークリング・ワインの甘みが加わる。
③フィオール・ダ・ランチョ
製法:青カビチーズを甘口白ワイン「フィオール・ダ・ランチョ」に漬け込み、オレンジピールの砂糖漬けをトッピングして仕上げる。
香り:ブルーチーズの風味が濃厚。白ワインやオレンジの香りが爽やかに加わる。
味わい:しっかりした旨みに、白ワインやオレンジの甘酸っぱさが加わる。
④ネーロ・フュメ
製法:青カビチーズに、杉や松で燻した茶葉をトッピングして香りをつける。
香り:ブルーチーズの風味に、木材やレザー、シガーなど、渋いニュアンスが複雑に加わる。
味わい:酸味や塩味、コクが繊細に溶け合う。
⑤ムッファート
製法:青カビチーズに、ミントをたっぷり塗って香りをつける。
香り:爽やかなミントの香りが、チーズの熟成とともに深みを増している。
味わい:程よい旨みと酸味、塩味をベースに、青カビのコクがきわだつ。
食後のチーズに、おすすめのデザートワイン3種
①モスカート・デッロ・ズッコ
シチリア州産。香りは、ハチミツやジャム、アカシア、バニラを想わせる。
味わいは、ボリューム感のある甘みに、ほのかな酸味もあり、親しみやすい印象。
②カステッロ・ディ・ブローリオ・ヴィンサント
トスカーナ州産。香りは、レーズンやアーモンドを想わせる。
味わいは、丸みのある甘み。
③ベン・リエ
シチリア州産。香りは、アプリコットや桃、イチジクを想わせる。
味わいは、きれいな酸とミネラル感で引き締まった、心地よい甘さ。
おすすめのデザート
◆ティラミス
「世界の牛肉フェア」を締めくくるデザートとして、年間定番のドルチェからティラミスをおすすめします。
生クリームとマスカルポーネチーズを混ぜてつくる白いクリームに、牛の恵みをたっぷり感じるからです。
マスカルポーネチーズは生クリームからつくる、クリーム状のフレッシュチーズです。
濃厚なミルクの風味とコク、粘りのある質感にこだわり、イタリア製を使用しています。
そんなチーズを混ぜた白いクリームの、リッチなくちどけを、ぜひご堪能ください。
新年を迎えた1月は、ラ・ビスボッチャの「世界の牛肉フェア」で、
牛の恵みを満喫して、お楽しみください。