カントゥッチ

第15回 CANTUCCI

カントゥッチを添えた紅茶

カントゥッチ

カントゥッチ

華やかなディナーの終わりは、なごり惜しさを感じます。 今回は、そんなアフターディナーの余韻を楽しむ小菓子、カントゥッチの魅力を紹介します。

焼きあがったカントゥッチを切る副料理長・露詰まみ

解説/副料理長 露詰まみ

写真・文・エッセイ/ライター織田城司 Commentary by Mami Tsuyuzume Photo・Text・Essay by George Oda

メニューについて

イタリア フィレンツェの街並み

イタリア フィレンツェの店頭

◆もとは保存食

イタリアの小菓子ビスコットは、イギリスではビスケット、フランスではビスキュイと呼ばれ、語源はどれも同じで、二度焼くという意味です。 二度焼きは中世の頃より、軍隊や航海の保存食用レシピとしてヨーロッパ各地で発達。二度焼くことで生地の水分をほとんど蒸発させ、日持ちを長くしたものです。 19世紀後半、イタリアのトスカーナ地方の菓子職人がアーモンドを使ってビスコットにアレンジを加え、現在のカントゥッチの原型を作りました。 カントゥッチ(Cantucci)は、イタリア語で「小さな歌」を意味するカントッチ(Cantocci)が変化してできた単語です。このお菓子を食べた時の音を歌に見立てて愛称にしたもので、主にトスカーナ地方で使われ、他の地域ではビスコットで呼ばれています。

イタリア フィレンツェの店頭

◆伝統の二度焼きでおいしく

現在、イタリアのカントゥッチの作り方は、一度焼いただけの柔らかいものや、中に入れる具材に新しいアイデアを取り入れたものなど、バリエーションに広がりが見られます。 当店のカントゥッチは、あくまでも伝統の二度焼きを踏襲しながら、程よい歯ごたえと、豊かな風味にこだわった自家製。アフターディナーを楽しく演出します。

ラ・ビスボッチャ店内のカントゥッチ

調理法

1. 生地をつくる

ボールに卵黄を入れる

卵は神奈川県産「長寿卵」

「長寿卵」は卵黄がオレンジ色で味に深みとコクがあり、イタリアの卵の質に似ていることから使用

卵黄にグラニュー糖を加える

卵黄とグラニュー糖を混ぜる

薄力粉とベーキングパウダーを、ふるいにかけながら加える

スキムミルクを加える

アーモンドを加える。アーモンドはイタリアのシチリア産

シチリア産のアーモンドは平たくて大きめ。歯ごたえは柔らかく、味はマイルド。主張し過ぎず、生地を引き立てることから使用

溶かしバターを加える

生地の材料を混ぜる

混ぜた生地はバットに移し、冷蔵庫で一晩寝かせる

エッセイ:食のこぼれ話『ビスコットと女教師』

映画『フェリーニのアマルコルド』(1973年)に登場する女教師は、少年に美術史を教えるかたわら、教壇でビスコットを食べていました。 これは、イタリアの映画監督フェデリコ・フェリーニが、少年時代の回想を綴った映画。ビスコット先生が本当にいたのか、わかりませんが、自分の学校にも個性的な先生がいたな、と誰もが思い当たる場面です。フェリーニらしいユーモアの表現に、ビスコットが効果的に使われていました。

イタリア フィレンツェの店頭

2. 形をつくる

冷蔵庫から生地を取り出す

生地を小分けにする

生地を棒状に伸ばす

天板にクッキングシートを敷く

棒状に伸ばした生地を天板に並べる

棒状に伸ばした生地をしばらく休ませ、リラックスさせる

3.焼く

棒状に伸ばした生地をオーブンに入れる

165度で約30分焼く

焼き上がった生地はしばらく置いて、粗熱をとる

4.切る

焼き上がった生地は手作業でカントゥッチの形に切り分けていく

切り込みは斜めに入れる

途中の段階の味を確認する料理長・井上裕基(右)

切り分けたカントゥッチを天板に並べる

天板に並べたカントゥッチ

5. 再度焼く

切り分けたカントゥッチをオーブンに入れる

二度目の焼き加減は100度で約90分

焼き上がったカントゥッチは冷まして保存用の容器に入れる

お召し上がり

カントゥッチ

カントゥッチを口に含むと、最初に生地の甘さを感じます。キメは粗目で、程よく噛みごたえのある粒感です。 噛みしめると、卵黄とバターの風味が次々と現れます。余韻にアーモンドの皮の香ばしさと苦味を感じます。この味わいの順番を、もう一度楽しもうと、つい、二個目に手が伸びます。

カントゥッチ(部分)

お飲物

カントゥッチを紅茶に浸す

イタリア人はデザートを満喫すると、気分が落ち着いたのか、長々とおしゃべりを始めます。 当店も、そんな語らいの時間を楽しくするため、食後酒やコーヒー、紅茶を用意しています。でも、飲み物だけではちょっと口が寂しい。 ということで、小菓子の出番になります。その中でも、カントゥッチはアーモンドが使われているので、アルコール類とソフトドリンク、どちらとも相性が良く、硬めの食感は飲み物に浸すと、別の味わいが楽しめます。

カントゥッチをコーヒーに浸す

イタリア フィレンツェの店頭に見る食後酒

ヴィン・サント「カステロ・ディ・ブロリオ」

ヴィン・サントはイタリア語で聖なるワインの意味。長い間樽で熟成され、豊かな香りと甘さが特徴のデザートワインで、トスカーナ地方の特産物です。 カントゥッチにヴィン・サントを浸して食べるのはトスカーナ地方土着の組み合わせで、伝統的な習慣になっています。

カントゥッチをヴィンサントに浸す

ハーブ系リキュール「ラッテ・ディ・スゥォチェラ」

「ラッテ・ディ・スゥォチェラ」はアルコール度70という強いお酒。ブランド名はイタリア語で義母に飲ませるミルクの意味。転じて姑に盛る毒の意味があり、ラベル共々強烈な印象です。 味は薬草系の爽やかな香りと甘さが特徴。ストレートで飲むと強すぎるので、カントゥッチに浸して少しずつ味わうことをおすすめします。

グラッパ「ロマーノ・レヴィ」

カントゥッチとグラッパ「ロマーノ・レヴィ」

イタリアを代表する食後酒グラッパ。その中でも「ロマーノ・レヴィ」は、伝説のグラッパ職人、故ロマーノ・レヴィのもとで、長年グラッパをつくってきた弟子が、伝統の製法を継いで2011年から2016年までの5年間樽で寝かせて熟成させたものです。 かわいいラベルは、故ロマーノが描いたイラストをもとにデザインされています。食後酒のラベルは、会話がはずむデザインが多く、いかにもイタリアらしさを感じます。思わず、カントゥッチも進みますね。

カントゥッチとグラッパ「ロマーノ・レヴィ」

いつもご利用いただき、誠にありがとうございます。 今宵も、ラ・ビスボッチャのディナーで、楽しいひとときをお過ごしください。

ラ・ビスボッチャ外観