Tボーンステーキ

第26回 BISTECCA ALLA FIORENTINA

Tボーンステーキ

Tボーンステーキ

Tボーンステーキ

フィレンツェ名物、Tボーンステーキの炭火焼き。 その迫力は印象深く、日本にいても食べたくなる味です。 今回は、その魅力を解説します。

Tボーンをカットする料理長・井上裕基

解説/料理長 井上裕基

写真・文/ライター織田城司 Commentary by Yuuki Inoue Photo & Text by George Oda

メニューについて

フィレンツェの街並み

◆ビステッカに込めた想い

フィレンツェは豊かな山岳地帯を背景に、古くから山の幸を使った料理が盛んで、Tボーンステーキも名物として知られるようになりました。 19世紀になると、フィレンツェの美しさに憧れて、多くの外国人がやってきました。その中で最も多かったのは英国人です。貴族は丘の上の別荘で暮らし、英国の日用品を扱う専門店もありました。 このため、英国人は地元のレストランにとって上顧客でした。イタリア人は持ち前のサービス精神から、名物のステーキを英語でおすすめしようと考えました。 ところが、単語がわかりません。そこで、英国人が牛肉のステーキを何と言うのか、耳をすまして聞きました。 すると、英国人が「ビーフステーキ」と発音した単語は、イタリア人には「ビステッカ(Bistecca)」と聞こえたのです。 こうしてできたイタリア製英語、ビステッカはフィレンツェ中に広まりました。 やがて、ビステッカはフィレンツェ人の前向きな心意気を表す単語として親しまれ、観光客の人気となりました。

フィレンツェのレストラン店頭。牛肉の冷蔵庫をショーウインドウに使う

当店のメニューでは、英語のTボーンステーキをメイン使い、そのイタリア語訳でビステッカを使っています。 ビステッカと書かれたメニューでイタリア人がこだわるのは、あくまでもフィレンツェの調理法です。そのいくつかを、当店流に再現しています。詳しくは次の「調理」のコーナーで解説します。

フィレンツェのレストラン店頭。牛肉の冷蔵庫をショーウインドウに使う

調理

肉の下ごしらえ

牛の塊肉の搬入

入荷した牛の塊肉をワゴンで運ぶ。今回の撮影で使用した牛肉は国産。北海道の宗谷黒牛。寒冷地で育った牛らしく、赤身の中に程よく脂肪が入り、やわらかくてジューシーな食べごたえと甘味、旨味が充実しています

塊肉の中からヒレ肉の部位を示す

◆ビステッカのこだわり1

サーロインとヒレが一緒になったTボーンの部分を使う

Tボーンの図解。サーロインとヒレが一緒になった部分のこと。ふたつの味が楽しめる希少部位

塊肉からTボーンを切り取る

切り取られたTボーン

Tボーン断面の図解

◆ビステッカのこだわり2

厚さは指2本分以上

Tボーンから、3人前ほど小分けにする

手前が小分けにしたTボーン

余分な脂肪を取り除く

成形されたTボーン。炭火焼きの醍醐味を堪能するには、指2本分以上の厚切りが望ましい

小分けにしたTボーンを計量する。撮影に使用したものは1.7Kg

肉を焼く

炭に薪を加える

薪はイタリア製で、バージン木材の廃材を再生したもの

炭の遠赤外線効果に、薪の香ばしさを加える

◆ビステッカのこだわり3

炭と薪でじっくり焼く

最初は遠火で焼く

時々向きを変える。火種に滴り落ちた肉汁の煙は燻製効果となり、肉に香りをつける

◆ビステッカのこだわり4

骨の面が自立する

骨の面を焼く。骨を加熱することで、まわりの肉に火を通す。骨の面が自立することで、手間をかけずにじっくり焼ける

骨の面を焼くと、骨にあいている小さな穴から髄液の旨味やコラーゲンがしみ出し、肉のコクが増す

反対側を焼く

◆ビステッカのこだわり5

調味料は塩コショウのみ

塩をふる

ブラックペッパーを挽いてふりかける

◆ビステッカのこだわり6

塩コショウは焼いてからふりかける

肉を焼いてから塩コショウを浸透させる。肉を焼く前に塩コショウを加えると水分が吸収され、肉がかたくなるため

中心の焼きが不足して、再び骨の面を加熱する

ロースの脂身を加熱する。ここは曲面で自立しないため、トングで固定する

反対側に塩をふる

反対側にブラックペッパーを挽いてふりかける

全体で約40分かけて焼き上がり

◆ビステッカのこだわり7

盛り付けは骨とともに

骨と肉を切り分ける

骨を中心に、左がロース、右がフィレ

食べやすい大きさに切り分け、皿に盛り付けて出来あがり

お召し上がり

Tボーンステーキ

◆甘みのロース、コクのフィレ

焼きあがったTボーンステーキは香ばしさが強く漂います。焚き火のような、木が焼けた匂いが鼻をつき、野生の本能をよび覚まします。 豪快な焦げめは見た目よりも薄く、炭化した部分はほとんどなく、肉のコクの一部として味わえます。 肉の中は肉汁が充実して柔らかく、外からふった塩がよく浸透しています。

Tボーンステーキのロースの部分

ロースの部分はキメ細かい肉質と、ほどよい脂肪分で柔らかく、まろやかな甘味と旨味を感じます。

Tボーンステーキのフィレの部分

フィレの部分は、やや粗い繊維質の噛みごたえの中に、こってりした肉のコクと、ほのかな苦味を感じ、ロースとのちがいがはっきりわかり、2種の味を楽しむTボーンの醍醐味を堪能します。 Tボーンはお腹にズンとくる食べごたえがありながら、炭火で赤身の中の脂がそこそこ落ち、モタれの少ない後味です。思わず、ワインがすすみます。

Tボーンステーキ

お飲物

赤ワイン「テヌータ・ベルグァルド」

銘柄/テヌータ・ベルグァルド ワイナリー/テヌータ・ベルグァルド 生産地/イタリア中部トスカーナ州 ぶどう種/カベルネ・ソーヴィニヨン、カベルネ・フラン 生産年/2004年

◆ビステッカと渡り合う、しっかりした辛口

こちらの赤ワインの色は黒に近い赤。香りはベリー系やスパイスのニュアンスが複雑に混じります。味は見た目と同じく、濃厚な舌ざわりの辛口で、ズッシリ重たい飲みごたえです。 ラベルのトレードマークは、レオナルド・ダヴィンチが描いた多面体がモチーフだとか。でも、このワインに合う料理は多面体ではなく、ビステッカの迫力にピッタリ合います。トスカーナ料理を熟知している土着のワイナリーらしい力強い味です。

赤ワイン「テヌータ・ベルグァルド」とTボーンステーキ

いつもご利用いただき、誠にありがとうございます。 今宵も、ラ・ビスボッチャのディナーで、楽しいひと時をお楽しみください。