
赤牛パルメザンチーズのリゾット
最高級パルメザンチーズを使用
より深い味を極めるために、 定番のパルメザンチーズのリゾットを、2018年4月からリニューアルしました。 希少な赤牛のミルクを熟成させた、最高級パルメザンチーズを使用しています。 今回は、その魅力を解説します。
赤牛パルメザンチーズのリゾット

赤牛パルメザンチーズのリゾット

赤牛パルメザンチーズの塊

赤牛パルメザンチーズの塊にナイフを入れる料理長・井上裕基
解説/料理長 井上裕基
写真・文・エッセイ/ライター織田城司 Commentary by Yuuki Inoue Photo・Text・Essay by George Oda
メニューについて

フィレンツェの街並み
◆イタリアの産地ブランド
イタリア人の食生活に欠かせないパルメザンチーズ。その味は海を越え、世界の美食家に愛されています。 パルメザンチーズは北イタリアのポー川流域の特産物です。その歴史は8世紀におよぶといわれ、今も昔ながらの手作業で生産されています。
フィレンツェ中央市場のパルメザンチーズ売り場

赤牛パルメザンチーズの塊と粉、ブロック
◆日本における粉チーズ
日本でパルメザンチーズの英語は、粉チーズが普及する過程で、材料のチーズの原産国や種類は何であれ、粉チーズ総体を指す単語のように広まりました。 このため、日本の飲食店や食品売り場で、パルメザンチーズと表記する粉チーズの材料の中には、アメリカ製や日本製のものが混在しています。 でも、本物のイタリア製のパルメザンチーズの豊かな味と香りは、他の国ものと違います。こうした背景を理解して、暮らしの中で上手に使い分けたいものです。
赤牛パルメザンチーズの塊
◆幻の赤牛、再び
さて、そのパルメザンチーズの中でも、最高峰とされるのが、赤牛のミルクを使ったパルメザンチーズです。 赤牛はイタリア語でヴァッケ・ロッセ(vacche rosse)といいます。品種はレッジャーナ種。ポー川流域で古来から生息していた牛で、パルメザンチーズの歴史とともに歩みました。 ところが戦後、大量生産の時代が訪れ、乳量が多いホルスタインなどの外来種が導入されると、赤牛は忘れ去られ、一時は絶滅が危ぶまれるまで減少しました。 1980年代になると、原点回帰の風潮とともに赤牛が見直され、保存運動が進みました。やがて、赤牛のミルクを使ったパルメザンチーズの生産も再開されました。 管理協会は赤牛のミルクを100%使ったパルメザンチーズは、側面のパルミジャーノ・レッジャーノと書かれた斑点文字の認定証に加え、上部にヴァッケ・ロッセの焼印を押し、最高級品として差別化しながら今日に至っています。 当店では、その中でもパルマのチーズ工房「ジェンナーリ(GENNARI)」が手がける赤牛パルメザンチーズを輸入しています。
赤牛パルメザンチーズの上部に焼印されたヴァッケ・ロッセの認定証
◆赤牛のチーズは何がちがうのか
赤牛のミルクの産出量はホルスタインの約3分の1です。でも、その分タンパク質が豊富で、濃厚な質感になります。 タンパク質を構成するカゼインの種類も豊富で、豊かな味のもとになります。 独特のカゼインの成分は熟成に時間がかかりますが、結果的に長期熟成が可能です。熟成期間の規定は最低24ヶ月から。中には40ヶ月というものもあります。 大きな塊を使い、じっくり熟成させることで、香りが高く、深い味わいのチーズが出来上がります。 ということで、この赤牛パルメザンチーズを使ったリゾットの味と香りは、より豊かに、より深くなるのです。
当店で扱うパルメザンチーズを小片で比較。赤牛パルメザンチーズは色と濃度が濃く、不透明度が高く、キメが細かい。味と香りは豊かで、深みがある

長期熟成の醍醐味を象徴する赤牛パルメザンチーズの大きな塊。撮影に使用した塊は重さ41.9kg、29ヶ月熟成
調理
チーズを成形する

冷蔵庫から出したチーズ表面の結露をふき取る

チーズを半分に割るため、ナイフで中心線を入れる

中心線に沿って切り込みを徐々に深くする

ナイフはイタリア製。パルメザンチーズ用のもの。くさびを入れるように使う

チーズを反転させる

反対側も中心線に沿って切り込みを入れる

ナイフを左右に振りながら切り込みを入れると、ある瞬間パックリ割れ、チーズは半分になる

半分に割ったチーズの断面。ナイフを入れた跡が見える。中は柔らかく、粘性があり、しっとりしている

味と香りの出来ばえを確認する

ナイフやスプーンを使い、リゾットを入れる穴をくり抜く

くり抜かれた穴。リゾットを入れ、味を付けながら掘り尽くすと、反対側にもうひとつ穴を掘る

くり抜いたチーズ片は電動おろし機で粉チーズにする

出来上がった粉チーズはリゾットの他に、いろいろな料理の味付けに使う
リゾットを作る

リゾットを炒めるオリーブオイルに香りをつけるタマネギをカット

タマネギを鍋に入れる

ピュア・オリーブオイルを加える

鍋を加熱してピュア・オリーブオイルにタマネギの香りを付ける

ピュア・オリーブオイルからタマネギを除き、リゾットを作る鍋に注ぐ

リゾット一人前に使う米1カップを計量。ピュア・オリーブオイルを入れた鍋に加える

リゾットに使う米はイタリア米を使用。粒は日本の米の倍ぐらいの大きさがある

イタリア米はイタリア最大の米どころ、北イタリア・ピエモンテ州のヴェルチェッリ産。煮崩れしにくくリゾットに最適なカルナローリ種を使用

米を炒める。煮崩れしないように水で洗わない

自家製鶏のダシ汁を加え、米を炊く

自家製鶏のダシ汁は鶏がら、ひね鶏、トマト、ニンジン、セロリ、タマネギ、ローリエ、イタリアンパセリの茎などを約6時間かけて煮込んだもの

ダシ汁は米がヒタヒタに浸かるぐらい入れる

ダシ汁が少なくなったら注ぎ足す

日本の米の炊き方とちがい、ダシ汁を注ぎ足しながら、茹でる感覚で歯ごたえの残る食感と味をつけていく

約15分かけて米を炊く。焦げつかないように時々ヘラで混ぜる

塩を加える

塩は旨味が豊富でまろやかな辛さのシチリア産自然海塩「エガディ」ブランドの細粒を使用

米の炊き加減と味を確認

バターを入れ、香りとトロみを付ける

バターは国産の無塩バターを使用

バターを溶かしながら米と混ぜる

リゾットの汁気を確認。波打つようなトロみが理想

赤牛パルメザンチーズの粉を入れ、味と香り、トロみを加える

リゾットをパルメザンチーズの穴に移す

パルメザンチーズを客席に運び、塊の中でリゾットを混ぜ、さらに味と香りを付ける

リゾットを皿に盛り付ける

チーズの穴に残ったリゾットをスプーンで集める

リゾットの残りを皿にふりかけて出来上がり
お召し上がり

赤牛パルメザンチーズのリゾット
◆まろやかで深い味わい
赤牛パルメザンチーズの色は黄色が濃く、リゾットもシャンパンゴールドに輝きます。 ミルクの甘い香りやチーズの芳香が豊かに漂います。 リゾットを口に含むと、濃厚なソースのクリーミーな口どけを感じます。 米の表面はもっちりした歯ごたえがあり、中心はアルデンテのしっかり感があり、噛みごたえを楽しみます。 米の甘さは控えめで、ほのかな旨味と香ばしさがあります。ザラザラした表面はソースとよく絡みます。
赤牛パルメザンチーズのリゾット

赤牛パルメザンチーズのリゾット
お飲物

白ワイン「ビアンコ・セッコ」
赤牛を想い、ワイナリーを旅する

ワイナリー「ジュゼッペ・クインタレッリ」からぶどう畑とネグラール村を望む(写真・井上裕基)

ワイナリーのエントランス。クラシックとモダンが融合(写真・井上裕基)

ぶどうの収穫は昔ながらの手作業でおこなわれる。収穫したぶどうは竹製の棚で半乾燥させる(写真・井上裕基)

ぶどうは楕円形の大樽で熟成される(写真・井上裕基)

白ワイン「ビアンコ・セッコ」
◆フルーティーな香り
こうしてできた「ビアンコ・セッコ」は、洋ナシやパイナップルなど、南国の果実を想わせるフルーティーな香りがあります。赤牛パルメザンチーズの香りとは相反する要素で、引き立て合います。 味は中辛口。重すぎず、酸も穏やかで、豊かなぶどうの味わいを感じます。 柔らかく、ふくよかな印象は、赤牛パルメザンチーズの深い味わいを脇から支えます。◆原点回帰という進化
昔ながらの手作業で作られたチーズとワイン。イタリアの歴史と大地の恵みを堪能する、至福の味わいです。 より美味しくなった定番を、よろしくお願いします。
白ワイン「ビアンコ・セッコ」と赤牛パルメザンチーズのリゾット
エッセイ:食のこぼれ話『リゾットの晴れ舞台』

フィレンツェの街並み

ラ ・ビスボッチャ店内

赤牛パルメザンチーズのリゾット
