第2回 RISOTTO AL PARMIGIANO
解説/料理長 井上裕基
写真・文/ライター織田城司
Commentary by Yuuki Inoue
Photo & Text by George Oda
メニューについて
今回はプリミ・ピアッティから「パルメザンチーズのリゾット」の味と技をご紹介します。
イタリアの米は、10世紀にアラブ人によってシチリアに伝来したのがルーツ。15世紀頃までにイタリア半島で広く栽培されるようになり、米料理も大衆に広まりました。リゾットもそのうちのひとつです。
なかでも、パルメザンチーズのリゾットは、もっとも基本的なメニューです。日本の素うどんのように、素材と出汁が決め手になるシンプルな料理で、料理人の腕の見せどころです。
巨大なチーズの上でリゾットを混ぜるパフォーマンスは、食を楽しむイタリアの伝統芸を忠実に再現しています。リストランテならではの醍醐味をお楽しみください。
食材
イタリア米
リゾットは、本場の味を忠実に再現するため、イタリア米を使用しています。日本の米だと柔らかすぎて、リゾットにすると形が崩れてしまうからです。
リゾット用のイタリア米は、しっかり火を通してもアルデンテの食感が残ることを意図して、スーペルフィーノと呼ばれる最大級の形状に分類されるものの中から、カルナローリと呼ばれる品種を選んでいます。
パルメザンチーズ
パルメザンチーズはイタリアの大手メーカー、ガルバーニ社のものを使用しています。巨大なチーズを半分にカットした半月型の状態で空輸しています。
平均的に18ヶ月で熟成するチーズですが、旨味とコクを追求して、あえて22ヶ月熟成したタイプを仕入れています。
カット面に見られる白い斑はアミノ酸が結晶化したもので、旨味の元となります。この斑が多く見られるパルメザンチーズは上質な本物のあかしです。
調理
米を炒める
米は煮崩れないように水で洗わず、油で炒めます。この時の油は、玉ねぎを炒めたオリーブオイルのエキストラヴァージンを使い、米の風味を豊かにします。
米を炊く
炒めた米は水分を加えて炊きます。リゾット場合は炊くといっても、日本の米炊きのように容器にフタをするのではなく、水分を徐々に加えながら炊いていきます。
この時の水分はブロード・ディ・ポッロ(鶏のダシ汁)を使い、米にダシをしっかりと染み込ませます。ブロードは鶏肉をベースに野菜を加えたもので、約6時間煮込んだものです。
ブロードは鍋底で米が常に浮くヒタヒタの状態を保つことが理想です。このため、付ききりで炊き加減を見ながら注ぎ足します。
味付け
米が程よく芯を残して炊き上がったら、おろしたてで香りが高いパルメザンチーズとバターで味と粘りをつけます。
イタリア人がリゾットの味のこだわるポイントのひとつに「なめらかなとろみ」があります。粘りとサラサラの中間ぐらいで加減です。
とはいえ、どのくらいが本場の加減なのか、わかりにくいものがあります。特に日本人は米文化を持ち、お粥や雑炊、お茶漬けなど、汁気の多い米料理には先入観があります。
そこで、かつてイタリア人シェフにとろみの加減を聞いたところ、「La onda ラ・オンダ(イタリア語で波の意。英語ならwave)」と教えてくれました。それから、私がリゾットを調理していると、イタリア人シェフが寄って来て、マラソンのコーチのように「いいか井上、ラ・オンダだぞ。ラ・オンダを忘れるな」と何度も言われました。
このため、リゾットの味付けは、単にヘラをまわすだけではなく、全体に空気を入れるように混ぜ、鍋をゆすった時に寄せては返す「ラ・オンダ」を見せる加減で仕上げています。この一瞬の火加減とヘラまわしは熟練を要する技です。
パルメザンチーズの塊とともに客席へ
お召し上がり
パルメザンチーズのリゾットは見た目ほど濃厚ではなく、サラッとした口あたりがあります。米は中心だけに芯が残った状態とちがい、全体に弾力がある硬さで、煮豆のような粒立ちと食感があります。
口に入れた時はあっさりとした味に感じるかもしれませんが、米を噛みしめるほどに出汁の旨味が感じられ、飽きのこない味わいです。
リゾットはスプーンではなくフォークでいただくのがイタリア流です。米の粒が大きく、汁にとろみがあるのでフォークでも十分いただけます。
皿の底に残った汁はパンですくって食べると、別の味わいが楽しめます。本場イタリアのレストランでは、リゾットを食べ終わった皿をパンでピカピカになるまで磨き上げるお客様をよく見かけます。
お飲物
おすすめのワイン
銘柄/バルベーラ・ダスティ・スーペリオーレ・ニッツア
ワイナリー/オリム・バウダ
生産地/イタリア北部ピエモンテ州
ぶどう種/バルベーラ
生産年/2013年
ピエモンテ州産ワインの約半分を占めるぶどう種バルベーラ。様々な果実が何種も混ざったような香りが魅力で、若飲みを中心に古くから親しまれてきた品種です。その中でも、アスティ地区のニッツアという畑で栽培されたバルベーラを厳選して作られた逸品です。
肉料理に合うのはもちろん、渋味が少なく軽めの飲み口から、シンプルなパルメザンチーズのリゾットと合わせて、このワイン独特の繊細な味わいを存分に楽しむ組み合わせもおすすめしています。
いつもご利用いただき、誠にありがとうございます。
今宵も、ラ・ビスボッチャのディナーで、楽しいひと時をお過ごしください。