夏の地中海フェア2019

第46回 MARE MEDITERRANEO FAIR 2019

ラ・ビスボッチャ店内

夏の気分を先取り

夏が待ちきれない人へ、地中海をテーマにした料理を集めて「夏の地中海フェア」を6月18日(火)〜29日(土)まで開催します。季節限定メニューが6品登場します。

料理の下ごしらをする料理長・井上裕基(左)と副料理長・露詰まみ(右)

解説/料理長 井上裕基・副料理長 露詰まみ

写真・文/ライター 織田城司
Commentary by Yuuki Inoue & Mami Tsuyuzume
Photo・Text  by George Oda

1.ナポリ風前菜の盛り合わせ

ナポリ風前菜の盛り合わせ

◆海辺の味わいを集めて

夏が近づくと、海辺の料理が食べたくなります。ナポリ料理の涼しげな味つけに、夏の気分を感じて楽しみます。

①タコとセロリのサラダ

タコとセロリのサラダ

◆涼感あふれるサラダ

ヨーロッパのなかでもイタリアは、日本と同様にタコを好んで食べる習慣があり、ナポリでも多くのレシピが見られます。

香味野菜や香草と合わせるレシピは夏にふさわしい、さっぱりした味わいで、冷えた白ワインとよく合います。

タコの茹で汁に岩塩を入れ、下味をつける

タコを鍋に入れる。足の先から入れるときれいに丸くなる

タコは国産のマダコを使用

茹で上がったタコをザルに移して冷ます

タコの足を1本切り取る

タコの足を食べやすい大きさにカットする

タコに合わせるケッパーをみじん切りにする

タコに合わせるグリーンオリーブの皮をむく

グリーンオリーブをみじん切りにする

タコの大きさに合わせてセロリを小さくカットする

サラダの具材をボウルに入れ、自家製レモンドレッシングとアンチョビペーストで味つけ。皿に盛りつけてからイタリアンパセリのみじん切りを振りかけて出来あがり

タコとセロリのサラダ

②ペペロナータ

ペペロナータ

◆甘酸っぱさに古代の風味

ナポリでは、野菜を加熱して甘味を引き立たせる料理法が多く見られ、パプリカも代表的な食材です。

地中海文明の時代からある調味料、魚醤を加え、夏らしく仕上げます。

パプリカを直火で焼く

パプリカの向きを変えて全面焼く

パプリカの向きを変えて全面焼く

焼き上がったパプリカを冷ます

焼けたパプリカの表皮をはがす。水にさらしてはがすと香ばしさが流失するため、手で丁寧にはがす

パプリカを切り開き、種をナイフとキッチンペーパーで取り除く

パプリカをカットし、ボウルに入れ、塩を加える

赤ワイン酢で酸味を加える

コラトゥーラとよばれる魚醤を加える

魚醤は南イタリアのチェターラ産のもの。魚醤の起源は古代ギリシャからローマに伝来したとされている。いまはカンパーニャ州アマルフィ海岸にあるチェターラという町が特産地として伝統を継承。「チェターラ産の魚醤」という名で親しまれている

バジルをちぎって加える

オリーブオイルで和えて出来あがり

ペペロナータ

③カプレーゼ

カプレーゼ

◆みずみずしい組み合わせ

冷やして美味しい食材のベストマッチとして日本でも人気のカプレーゼ。

ナポリ湾にあるカプリ島の名物料理が名称の由来です。

モッツァレラチーズはイタリアの「ポンティコルボ」社のものを使用。モッツァレラチーズの発祥の地、カンパーニャ州のカゼルタで昔ながらの製法を続ける工場。水牛乳を100%使ったタイプは濃厚なミルクの味わいがある

フルーツトマトとモッツァレラチーズをカットし、皿に盛り付ける。トマトに塩をふりかけ、全体にオレガノ、バジル、エキストラヴァージン・オリーブオイルをふりかけて仕上げる

カプレーゼ

④ゼッポレ

ゼッポレ

◆磯の香りを楽しむ

海に広く囲まれたイタリアには、海苔を使った料理もあります。ナポリの名物ゼッポレは、揚げパンに海苔を混ぜたもので、いかにもイタリアらしいレシピです。

シンプルに磯の香りを楽しむスナックのような前菜です。その香りは和食と通じるものがあり、異文化ながら同じ発想が生まれる面白さを感じます。

イーストと水を混ぜる

イーストと水を混ぜたものを小麦粉に加える

パン生地を練り、粘性を確認

パン生地に静岡県産あおさ海苔を加える

パン生地を発酵させる

パン生地をスプーンでフライヤーに入れて揚げる

網でパン生地を回転させながら、揚がり具合を均一にする

揚がったパン生地の余分な油をキッチンペーパーで吸い取って出来上がり

ゼッポレ

ラ・ビスボッチャ店内

2.豚モツの煮込み

豚モツの煮込み

◆イタリア式大衆酒場の味

豚のモツ煮込みはナポリの伝統的な郷土料理です。

庶民料理として発達したもので、ピリ辛のトマト味で煮込むのが特徴です。

豚のモツ(心臓、タン、大腸、小腸)を下茹でする

茹で上がった豚のモツをザルにあけ、流水で洗う

豚のホホ肉の塩漬けをカットする

豚の小腸をカットする

豚の大腸をカットする

豚のタンをカットする

豚の心臓をカットする

豚のホホ肉(生)をカットする

煮込みをつくる鍋底で豚のホホ肉の塩漬けと豚のホホ肉(生)を炒め、焦げつきをコクのもとにする

赤唐辛子を手で細くして加える

赤唐辛子はイタリア南部カラブリア州産の小さくて辛味が強いタイプを使用

カットした豚のモツを加える

白ワインを加える

炒めた香味野菜(ニンジン、タマネギ、セロリ)を加える

トマトペーストを加える

トマトペーストはイタリア産完熟トマトを濃縮したもの

塩を加える

自家製鶏のダシ汁を加える

自家製鶏のダシ汁は鶏がら、ひね鶏、トマト、ニンジン、タマネギ、セロリ、ローリエを約6時間煮込んだもの

一度沸騰させる

火を弱めて煮込む

豚モツの煮込み

◆ピリ辛の爽快感

トマト味のスープがパンやワインとよく合います。豚のモツは淡白な風味と味わいで、程よい歯ごたえを楽しみます。

ピリ辛の余韻が発汗作用を促進して、爽快な後味があります。

豚のモツ煮込み

ラ・ビスボッチャ店内

3.ナスとチーズの重ね焼き

ナスとチーズの重ね焼き

◆ナス好きの食卓から

ナスが好きで、様々な料理に使うナポリの人々。ナスとチーズの重ね焼きも名物料理になっています。重ね方や味つけはレストランや家庭によって「わが家風」のレシピがあります。

以前一緒に働いていたナポリ人スタッフにレシピを尋ね、アレンジを重ねたビスボッチャ風の味で旬のナスをお届けします。

重ね焼きに使う高知県産の米ナス

ナスのヘタを切り落とし、皮をむく

ナスのアクぬきをするためバットに並べ、塩をふる

バットの上に重たいものをのせて塩の浸透を促進する

ナスについた塩を流水で洗い、絞って余分な水分を落とす

ナスに小麦粉をつける

ボウルを揺すってナス全体に溶き卵をつける

フライヤーでナスを揚げる

揚がったナスをザルに移し、余分な油を落とす

揚げナスを紙の上に広げて余分な油を吸収する

揚げナスに軽く塩を振って下味をつける

バットの底にバターを塗り、焦げつきを軽減する

バットの底に揚げナスを敷く

自家製トマトソースを重ねる

モッツァレラチーズを重ねる

パルメザンチーズを重ねる

バジルをちぎって重ねる

再び揚げナスを重ね、同じ要領で2層目をつくる。全部で3層構造にする

3層目は屋根なしで、パルメザンチーズを多めにする

オーブンで焼く。180度約20分

焼き上がったナスとチーズの重ね焼き

注文が入ると1人前切り分ける

パルメザンチーズを追加する

オーブンで温めて出来上がり

ナスとチーズの重ね焼き

◆旬の美味しさがコッテリ詰まった

揚げ、焼き、しっかり火が通ったナスはトロトロにやわらかくなり、甘味が際立ちます。

トマトソースやチーズの量を控えめにして、旬のナスの美味しさを引き立てるのがビスボッチャ風です。

ナスとチーズの重ね焼き

ラ・ビスボッチャ店内

4.パッケリの魚介ソース

パッケリの魚介ソース

◆乾燥パスタの醍醐味を堪能

古代からイタリア人の暮らしに根ざしたパスタは中世の頃、強烈な太陽と地中海の海風を背景にした南イタリアで乾燥パスタの量産がはじまり、いまに至る特産地として有名になりました。

特にナポリではデュラム(硬質)小麦のセモリナ(粗挽き)を使った、しっかりと歯ごたえのある乾燥パスタが特産で、筒形のパスタ「パッケリ」を魚介ソースと合わせる料理が名物です。夏におすすめしたいパスタです。

ナポリ産のパッケリ。表面はソースが絡みやすいようにザラザラした仕上げになっている

パッケリはパスタの特産地、イタリア南部カンパーニャ州で1812年に創業した「ヴィチドーミニ」社製。有機栽培したイタリア産デュラムセモリナ粉を100%を使用。昔ながらの低温長時間乾燥で豊かな小麦の風味がある

魚介ソースの具材に使うホウボウ、カサゴ、ツブ貝、ムール貝、アサリ、シジミ

魚介ソースの具材に使う下茹でしたマダコ

魚介スープの具材に使うプチトマト

ホウボウとカサゴをさばく

ホウボウとカサゴのダシ汁をつくるために、鍋底でアラを炒める

ダシをじっくり抽出するために、氷を入れて加熱する

茹で麺機の近くに岩塩とパッケリを用意する

茹で麺機に岩塩を入れ、茹で汁に下味をつける

茹で麺機にパッケリを入れる。茹で時間約23分

ホウボウ、カサゴ、マダコ、ツブ貝を食べやすい大きさにカットする

ムール貝、アサリ、シジミを流水で洗い、殻についた汚れを落とす

フライパンにニンニク、赤唐辛子、オリーブオイルを入れ、加熱する

自家製野菜のダシ汁を加える

自家製野菜のダシ汁はニンジン、タマネギ、セロリ、ズッキーニ、エリンギ、イタリアンパセリを煮込んだもの

ムール貝、アサリ、シジミを入れる

フタをして貝類を蒸す

別のフライパンでホウボウとカサゴを軽く炒める

ホウボウとカサゴから抽出したダシ汁を加える

半分にカットしたプチトマトを加える

タコとツブ貝を加える

蒸した貝類から出た汁を加える

煮詰める

貝類を混ぜ合わせて魚介ソースの出来上がり

魚介ソースからパッケリを傷つけやすいムール貝とアサリを除く

パッケリの茹で上がりを待つ

茹で上がったパッケリを魚介ソースのフライパンに投入

パッケリと魚介ソースを和える

イタリアンパセリのみじん切りとオリーブオイルを振りかけて和える

ムール貝とアサリを一緒に盛り付け、再度イタリアンパセリのみじん切りを振りかけて出来あがり

パッケリの魚介ソース

◆強いモッチリ感と濃いコクのソース

パッケリは20分ほど茹でただけあり、分厚い乾燥パスタ特有の強いコシとモッチリした歯ごたえが楽しめます。パッケリの中は、魚介類を贅沢に使った濃いコクの白濁ソースがしっかりとしみています。

魚介のソースは多彩な具材がゴロゴロ入り、それぞれの旨味や甘味が際立ちます。

パッケリの魚介ソース

ラ・ビスボッチャ店内。イスキア島のみやげ物

5.ウサギのイスキア風

ウサギのイスキア風

イスキア島出身のホールスタッフ、フィオリ・フランチェスコ。郷土のウサギ料理を語る

◆週末のご馳走

ナポリ湾のイスキア島は夏のリゾートとして世界的に有名です。島内ではウサギが多く生息し、貴重なタンパク源として名物料理になっています。

当店のイスキア島出身のホールスタッフ、フィオリ・フランチェスコに尋ねたところ、島民にとってのウサギ料理は、家族がそろう週末にご馳走として振舞われることが多く、月に2〜3回は食べるそうです。その味が楽しめる貴重な機会を、ぜひご利用ください。

ウサギの肉を解体する。今回はイタリアのヴェネト州産の肉を使用

ウサギの肉に塩コショウで下味をつけ、オリーブオイルとタイムに漬けて2日間マリネする

ウサギのダシ汁をつくるために、鍋底で肉の端材を炒め、氷を加え、じっくりダシを抽出する

フライパンでウサギの肉を焼く

タイムを加える

黒オリーブを加える

白ワインを加える

炒めた香味野菜(ニンジン、タマネギ、セロリ)を加える

ウサギのダシ汁を加える

フタをして煮詰める

ウサギの肉を皿に盛り付け、残った汁にプチトマトのスライスを加え、煮詰めてソースにする

ソースを振りかけて出来あがり

ウサギのイスキア風

◆さっぱりと繊細な旨味

ウサギの肉は鶏肉に似た食感で、表面はカリッとして中はジューシー、さっぱりした後味があります。

繊維質は細かく、ソースをしみこませて繊細な旨味を楽しみます。

ウサギのイスキア風

ラ・ビスボッチャ入口の鉢植え

6.デリツィア・アル・リモーネ

デリツィア・アル・リモーネ

地中海沿岸は温暖な気候で、柑橘類がよく育ちます。特にイタリア南部はレモンの特産地で、食後酒リモンチェッロの特産地になっています。

その爽やかな味を取り入れたお菓子を夏用のデザートとしておすすめします。

ローマ・フィウミチーノ空港の免税店に見るリモンチェッロ

今回製菓用に使うリモンチェッロ「プロフーミ・デラ・コスティエーラ」。イタリア南部カンパーニャ州にあるアマルフィ海岸でとれるレモンを使用。通常のレモンの3倍ほどの大きさがあり、皮が厚く、苦味が少なく、香りが高い

ドーム型に焼いた自家製スポンジケーキを輪切りにする

スポンジの間に挟むクリームをつくる。生クリームと自家製カスタードクリームを混ぜ合わせ、レモンの皮を削り下ろして香りをつける

クリームとレモンの皮を混ぜ合わせる

スポンジの間にクリームを挟む

スポンジにリモンチェッロを塗り、香りとしっとり感を加える

はみ出したクリームを削り、生地の形を整える

水に浸した板ゼラチンを湯煎で溶かす

溶かしたゼラチンにリモンチェッロを加え、香りをつける

クリームとゼラチンを混ぜ合わせる

スポンジの外側にクリームを塗る

頂上にレモンの皮を飾って出来上がり

デリツィア・アル・リモーネ

◆ひやっと感じる甘み

レモンの香りに包まれたケーキは、クリームとリモンチェッロがしみたスポンジがしっとりとなじみ、とろける甘さがあります。

夏にうれしい、爽やかな後味です。

デリツィア・アル・リモーネの断面

お飲物

赤ワイン「テッラ・ディ・リヴォルタ・アリアニコ・デル・タブルノ・リゼルヴァ」

◆果実味あふれる辛口赤ワイン

銘柄/テッラ・ディ・リヴォルタ ・アリアニコ・デル・タブルノ・リゼルヴァ
ワイナリー/ファットリア ・ラ・リヴォルタ 
生産地/イタリア南部カンパーニャ州リヴォルタ 
ぶどう種/アリアニコ 100%

香りはチェリーやプラム、スパイス、樽香などのニュアンス。味わいは濃縮感ある果実の味わいに、タンニンが滑らかに溶け合います。

南イタリアの料理の中でも肉料理によく合います。

赤ワイン「テッラ・ディ・リヴォルタ・アリアニコ・デル・タブルノ・リゼルヴァ」と「豚モツの煮込み」

カンパーニャ州の日あたりのよい丘陵にあるワイナリー「ファットリア・ラ・リヴォルタ」のブドウ畑(写真/井上裕基)

◆土着のブドウにこだわるワイナリー

地中海の恵みを背景にした南イタリアの料理は濃厚な味が主流。ワインも力強い味を合わせたくなります。

南イタリアのカンパーニャ州にあるワイナリー「ファットリア・ラ・リヴォルタ」社は1812年から続く農園に1997年に創業した小さなワイナリーです。地中海の恵みが生きた土着のブドウを使い、骨太な味わいがあり、南イタリアの料理におすすめです。

ワイナリー「ファットリア・ラ・リヴォルタ」の外観(写真/井上裕基)

白ワイン「ソーニョ・ディ・リヴォルタ・ベネヴェンターノ・ビアンコ」

◆爽やかでインパクトのある辛口白ワイン

銘柄/ソーニョ・ディ・リヴォルタ ・ベネヴェンターノ・ビアンコ
ワイナリー/ファットリア ・ラ・リヴォルタ 
生産地/イタリア南部カンパーニャ州リヴォルタ
ぶどう種/ファランギーナ50%フィアーノ25%グレコ25%

香りは白い花やハチミツ、スパイスなどのニュアンスが混ざります。味わいは華やかでインパクトのある辛口です。

魚介ソースのパスタにバランスよく合います。

白ワイン「ソーニョ・ディ・リヴォルタ・ベネヴェンターノ・ビアンコ」と「パッケリの魚介ソース」

夏の気分の先取りは、

ビスボッチャの「夏の地中海フェア」で楽しみください。