トマトと水牛モッツァレラチーズのサラダ

第47回 CAPRESE DI BUFALA

トマトと水牛モッツァレラチーズのサラダ(二人前)

フレッシュに味わう

イタリアの三色旗を思わせる鮮やかな配色。

素材を生かしたシンプルな調理。

そんなたたずまいから、イタリア料理の象徴とされる

「トマトと水牛モッツァレラチーズのサラダ」の魅力を解説します。

トマトをカットする料理長・井上裕基

解説/料理長 井上裕基

写真・文/ライター織田城司
Commentary by Yuuki Inoue
Photo・Text by George Oda

1.メニューについて

ナポリの街並み。中央はベスビオ火山、右はナポリ湾(写真/井上裕基2007年撮影)

あこがれのナポリ湾

モッツァレラチーズは、ナポリ郊外のカゼルタ県が発祥とされています。

トマトと合わせる食べ方は、ナポリ湾のカプリ島で好んで食べられたことから「カプレーゼ(カプリ風)」の名で親しまれてきました。

ナポリ湾からカプリ島の海岸を見る(写真/井上裕基2007年撮影)

私がはじめてイタリアへ行ったのは、ナポリでした。カプリ島へも渡りました。2007年秋のことでした。

当時、東京のイタリア料理店で駆け出しの料理人として働いていました。

「イタリア料理店で働くからには、本場の味を味わっておきたい」という思いがつのり、親にお金を借りてイタリアへ行きました。

イタリアには名所がたくさんありましたが、カプレーゼをはじめ、イタリアらしい料理がたくさんあるナポリに行こうと決めました。

カプリ島の街並み(写真/井上裕基2007年撮影)

しかし、ナポリで食べた料理に、感激はありませんでした。というのも、当時はグルメ情報が発達していなくて、どこが名店かわからず、観光客相手の店で食事をしたからです。

「そんなはずはない」と思い、何度かナポリを訪ねるたびに、事前に調べた名店を食べ歩き、本場のおいしいカプレーゼを学ぶことができました。

カプリ島の街並み(写真/井上裕基2007年撮影)

2.調理

ビスボッチャの入口で撮影したカプレーゼに使う国産フルーツトマト。普通のトマトより糖度やビタミンが高い

できるだけシンプルに

カプレーゼはシンプルな料理なので、トマトとモッツァレラチーズの品質と鮮度にこだわります。

その味を生かすために、皿に盛り付けてから香草やオリーブオイルをふりかけます。

提供温度にも配慮します。トマトやモッツァレラチーズは冷蔵庫から出したてだと、ひやっとした冷たさはあるものの、風味や旨みは感じられません。

このため、少し常温に戻し、風味や旨みが出てきた食べごろを狙って客席に提供します。

トマトを洗う

トマトのヘタをくり抜く

トマトを食べやすい大きさにカットする

トマトに塩をふる

塩は旨みがたっぷりしてマイルドな辛さのシチリア産自然海塩「エガディ」の細粒を使用

モッツァレラチーズを食べやすい大きさにカットする

モッツァレラチーズは特産地の南イタリア・カンパーニャ州で昔ながらの製法を続ける「ポンティコルボ」社の水牛乳を100%使った濃厚なタイプを使用

トマトとチーズを皿に盛り付けてから、オレガノ、バジル、エキストラヴァージン・オリーブオイルをふりかけ、香りをつけて仕上げる

国産のバジルを使用

エキストラヴァージン・オリーブオイルはイタリア南部の特産地プーリア州にある「ディサンティ」社のものを使用。オリーブの青々しい香りに優れ、爽やかな辛みがある。缶から瓶に詰め替え、厨房やテーブルで使用

つくり手をたずねて「モッツァレラのふる里へ」

ナポリの街並み。右の高層ビル群はナポリ中央駅周辺。左奥の山間部のカゼルタ県はモッツァレラチーズの産地(写真/井上裕基2007年撮影)

カゼルタ県にある「PONTICORVOポンティコルボ」社の入口。その上に表記されているCASEIFICIOとはチーズ工場の意味(写真/井上裕基2019年撮影)

「ポンティコルボ」社のミルクタンク(写真/井上裕基2019年撮影)

◆無言のメッセージ

2019年春、モッツァレラチーズの工場へ行ってきました。

ビスボッチャがモッツァレラチーズを仕入れる「ポンティコルボ」社はナポリから北に30㎞ほどのトレブラーニ山の麓に位置するモッツァレラチーズ発祥の地、カゼルタ県にあります。

1968年に創業した、昔ながらの手作業と現代の設備を融合した工場です。

「こんにちは、東京から見学に来ました」というと、当主は挨拶がわりに自ら工場に入り、黙々とチーズづくりの実演をはじめました。

着飾って社交辞令を述べることはありません。そして「あなたも一緒にチーズをつくってください」と身振りで示しました。

モッツァレラチーズの材料を練る当主

最初は面食らいました。しかし、よく考えると当主自らチーズをつくり、客先に体験させることは、最高のプレゼンテーションだと気がつきました。

会社のチーズづくりに対する熱意と自信を感じます。ユーザーも実際にチーズに触れることで、本物の質感や風味を体で覚えることができます。

いかにもイタリアらしい、サッカーの仲間に入れるような、言葉なき素朴なコミュニケーションでした。

モッツァレラチーズの成形を実演する料理長・井上裕基(左)

◆新鮮さへのこだわり

ポンティコルボ社では、出来上がったモッツァレラチーズを常に新鮮な状態で世界中に納品するため、週3回に分けて航空便で発送しています。

その回数は業界でも驚異的な頻度です。ここにも、当主のおいしさに対する不言実行のこだわりを感じます。

おかげでビスボッチャでも、本場ナポリで食べるモッツァレラチーズと同じおいしさを味わうことができます。どこかに自分がつくったチーズが入っていると思うと、厨房で身が引き締まります。

水の中で袋詰めを待つモッツァレラチーズ

ビスボッチャに届いた「ポンティコルボ」社のモッツァレラチーズ

常に新鮮なモッツァレラチーズを客席に届ける

4.お召し上がり

トマトと水牛モッツァレラチーズのサラダ(二人前)

◆おいしさが凝縮

できあがったサラダのトマトとモッツァレラチーズは、みずみずしさがありながら、中味がぎっしり詰まっています。

真っ赤に熟れたトマトは、フルーティーで爽やかな風味があります。ドロっとした果肉は、種のまわりのゼリー質となじみ、ジューシーな口あたりです。甘酸っぱさが口のなかにひろがり、余韻に旨みとコクを感じます。

トマトと水牛モッツァレラチーズのサラダ(二人前)

モッツァレラチーズは濃いミルクの風味があります。モッチリした弾力と、ネットリした切れ味があり、クリーミーな口どけのなかに、繊細な甘みとまろやかな旨みを感じます。

バジルやオレガノ、エキストラヴァージン・オリーブオイルの香りが、トマトとチーズに凝縮したおいしさを引き立てます。

トマトと水牛モッツァレラチーズのサラダ(二人前)

5.お飲物

つくり手をたずねて「土着のブドウにこだわるワイナリーへ」

日あたりのよい丘陵にあるワイナリー「ファットリア・ラ・リヴォルタ」ブドウ畑(写真/井上裕基2018年撮影)

◆強い日ざしのなかで

2018年秋、ナポリから近いワイナリーに行ってきました。

カンパーニャ州の山間部にあるワイナリー「ファットリア・ラ・リヴォルタ」は1812年から続く農園の中で1997年に創業しました。

地中海の太陽の恵みが生きた土着のブドウにこだわり、骨太な味のワインを生産しています。濃厚な味わいの南イタリア料理によく合います。

ワイナリーを訪ねると、ブドウ畑の日ざしは強く、濃い味のブドウができる背景を体感しました。

ワイナリー「ファットリア・ラ・リヴォルタ」の外観(写真/井上裕基2018年撮影)

ワイナリー「ファットリア・ラ・リヴォルタ」の内観(写真/井上裕基2018年撮影)

ブドウ畑と白ワイン「ソーニョ・ディ・リヴォルタ・ベネヴェンターノ ・ビアンコ」(写真/井上裕基2018年撮影)

◆爽やかでインパクトのある辛口白ワイン

銘柄/ソーニョ・ディ・リヴォルタ ・ベネヴェンターノ・ビアンコ
ワイナリー/ファットリア ・ラ・リヴォルタ 
生産地/イタリア南部カンパーニャ州リヴォルタ
ぶどう種/ファランギーナ50%フィアーノ25%グレコ25%

香りは白い花やハチミツ、スパイスなどのニュアンスが混ざります。味わいは華やかでインパクトのある辛口です。

カプレーゼのフレッシュなおいしさをキリッと引き締め、ナポリ土着の組み合わせを満喫します。

白ワイン「ソーニョ・ディ・リヴォルタ・ベネヴェンターノ ・ビアンコ」と「トマトと水牛モッツァレラチーズのサラダ」

今度のディナーは、

新鮮なカプレーゼを前菜に、素敵なひとときをお過ごしください。