イースターフェア2020

FIERA DI PASQUA 2020

コラム『味と技』第59回

たまご色の春

あらゆる復活を祈願し、イースターにちなんだメニューを集めて4月5日(日)〜18日(土)までフェアを開催します。

期間限定メニューが5品登場。フレッシュな味わいに、必ずやって来る春を思います。

料理の下ごしらえをする料理長・井上裕基(左)と副料理長・露詰まみ(右)

監修/料理長・井上裕基 副料理長・露詰まみ 

写真・文/ライター 織田城司
Food Direction by Yuuki Inoue & Mami Tsuyuzume 
Photo・Text  by George Oda

1.ウサギのコンフィのサラダ

ウサギのコンフィのサラダ

メニューについて

多産のウサギは、古代から復活のシンボルとされてきました。

コンフィというオイルで煮込む調理法を使うと、ウサギの柔らかい肉質がより柔らかくなり、サラダのトッピングによく合います。

ウサギのコンフィのサラダ

調理

◆ウサギのコンフィをつくる

精肉したイタリア産ウサギのモモ肉に塩コショウで下味をつける。撮影担当料理人・高部孝太

バットにウサギの肉を入れ、オリーブオイルを注ぐ

香りをつけるセージを加える

オイルに浸したウサギの肉を、オーブンで70度2時間かけてじっくり加熱

◆仕上げる

オーブンで加熱後、冷蔵庫で3日間ほど寝かせ、味をなじませたウサギのコンフィは柔らかく、素手で骨からスルッと外し、食べやすい大きさにちぎっていく

ウサギのコンフィを野菜と盛り付ける

ウサギのコンフィに付け合わせる野菜。左から国産ルッコラ、国産フルーツトマト、イタリア産ラディッキォ・タルディーヴォ、国産クレソン

塩コショウをふりかけて味と香りをつける

自家製ドレッシング(オリーブオイル、赤ワインビネガー、塩)をふりかけて出来上がり

お召し上がり

ウサギのコンフィのサラダ

◆繊細さの中にしっかりした味わい

サラダの真ん中にトッピングされたウサギのコンフィは、程よい弾力を残した柔らかさがあります。

噛みしめると、旨みやコクをしっかりと感じます。

ウサギのコンフィのサラダ

合わせるフルーツトマトの甘さ、ルッコラの香ばしさ、クレソンの青々しさ、ラディッキォ・タルディーヴォの苦味、ドレッシングの酸味が、ウサギのコンフィの旨みを引き立てます。

ウサギのコンフィのサラダ

「ラ・ビスボッチャ」店内

2.アーティチョークのユダヤ風

アーティチョークのユダヤ風

メニューについて

◆春から初夏が旬

アーティチョークの旬は、春先から初夏です。

ビスボッチャではこの時期、本場イタリアから旬のアーティチョークを取り寄せ、さまざまな調理法で展開しています。

ローマのコロッセオ(写真・織田城司)

◆ユダヤ風とは

アーティチョークの調理法のひとつに「アーティチョークのユダヤ風」があります。

このユダヤ風とは、ローマにあるユダヤ人街が発祥とされている調理法で、煮たアーティチョークをさらに揚げる調理法です。

その調理法を、アーティチョークを煮て食べることが多いローマ人から見た表現です。

フィレンツェの市場に見るアーティチョーク(写真・織田城司)

◆映画に観る「アーティチョークのユダヤ風」

「アーティチョークのユダヤ風」が出てくる映画にイタリアとフランスの合作『星降る夜のリストランテ』(1998年作)があります。

ローマの街角にあるイタリアンレストランに集う人々の一夜を描いた物語で、店内はビスボッチャによく似た雰囲気です。

ある席の客は、隣の席に出ているアーティチョークの料理について話しています。

男性客A「あのアーティチョーク、ピンと立ってるね」

男性客B「ユダヤ風で揚げてあるからね」

男性客A「やっぱりね。煮るだけのローマ風だとグニャっとするからね」

さまざまな出身地の人が集まる大都市では、調理法も一通りではないことを、アーティチョークで見事に描いた場面でした。

アーティチョークのユダヤ風

調理

◆アーティチョークの下処理

外側のガクをむき、先端のトゲの部分をカットして除く

茎の表皮をむく

アーティチョークはカットするとすぐに変色するためレモン水に浸けながら作業する

中心にある花のつぼみと繊毛をくり抜いて除く

◆アーティチョークを茹でる

湯を沸かした鍋に岩塩で味をつける

レモン汁を加える

アーティチョークを投入

串で中の火の通り具合を確かめる

茹で上がったアーティチョークをまな板の上で押しつぶして花形にする

◆アーティチョークを揚げる

フライヤーにアーティチョークを投入

アーティチョークの中心部は、ザルで揚げ油を注いで加熱を促進する

表面がカラッと揚ったアーティーチョークに軽く塩をふって出来上がり

お召し上がり

アーティチョークのユダヤ風

◆多彩な味と食感を楽しむ

黄金色に焼き上がったアーティチョークは、部位ごとの多彩な味わいを楽しみます。

底辺に広がった部分は香ばしく、バリッとした食感で、ほろ苦さを感じます。

アーティチョークのユダヤ風

中心部はホクホクとした食感が残り、ほのかな甘みや旨みを感じます。

ピンと立った茎は、表面の硬さで直立を維持しているものの、中は柔らかく、コクがあります。

豊かな味わいと食感に、アーティチョークの奥深さを感じます。

アーティチョークのユダヤ風

「ラ・ビスボッチャ」店内

3.卵黄のラヴィオローネ

卵黄のラヴィオローネ

メニューについて

ラヴィオローネは、大きなラビオリという意味です。中に卵黄を入れていただきます。

卵黄を破損せず、最後まで調理することは至難の技です

卵黄一個食べるために、壮大な手間をかけるところが、いかにもイタリアらしい。

付け合わせは卵黄と親しい仲間を集めました。

乳製品系ではイタリア産バターとソラマメのソース。味と食感系ではサクサクに焼いた豚ホホ肉の塩漬け、香り系ではトリュフを添えます。

付け合わせに添えるバターは、イタリア北部ピエモンテ州にある「ベッピーノ・オッチェリ」社の無塩バター。伝統的な製法でミルクの豊かな風味とクリーミィな口当たりがある。英国王室御用達にも選ばれている

付け合わせに添える豚ホホ肉の塩漬けを熟成させたグアンチャーレの断面。イタリア中部マルケ州にある「トマッソーニ」社製

卵黄のラヴィオローネ

調理

◆ラヴィオローネをつくる

ラヴィオローネに使う生地をパスタマシーンで薄く伸ばす。生地は卵黄、小麦粉、塩を練ってつくる

生地が透ける程度の薄さが目安

薄く伸ばした生地を小分けにカット

生地の上に卵黄を固定する台をリコッタチーズでつくる

リコッタチーズの台は、リコッタチーズに擦りおろしたパルメザンチーズと塩を混ぜてつくる

リコッタチーズはイタリア南部カンパーニャ州にある「チリリアーナ」社製。水牛乳を使い、深い味わいがある

リコッタチーズの台に卵黄を乗せる

卵は神奈川県産の「長寿卵」を使用。イタリアの卵に似て卵黄がオレンジ色で濃厚な風味と深い味わいがある

もう一枚の生地で卵黄を挟む

上下の生地をくっつけながら余分な空気を抜いていく

円形の金型を置く

金型に圧力をかけて生地をくり抜く

余った生地をはがす

円形の縁を押さえてしっかり接合する

串で余分な空気を抜いてラヴィオローネの完成

◆グアンチャーレのローストをつくる

グアンチャーレを小分けにして、表面に付着した茶色いスパイス部分を削ぎ落とす

グアンチャーレをスライサーで薄く切る

薄く切ったグアンチャーレをオーブンで焼く

焼き上がったグアンチャーレ。脂分が流れ落ち、サクサクの仕上がり

◆ソラマメのソースをつくる

ソラマメを茹でる

ソラマメは鹿児島県産

茹で上がったソラマメをザルにあける

ソラマメの皮をむく

皮をむいたソラマメをミキサーに入れる

生クリームを加える

ミキサーを作動させてソラマメと生クリームを攪拌

途中で粘性を確認しながら生クリームを加えて微調整

攪拌したソラマメと生クリームを鍋に移して加熱しながら塩で味をつけてソースの完成

◆仕上げる

ラヴィオローネを茹でる鍋に岩塩を入れ、味をつける。茹で麺機は対流が強く、ラヴィオローネが破損するおそれがあるため、あえて小さな鍋を使って茹でる

ザルを使い、ラヴィオローネをそっと鍋に入れる

卵黄が破損することを防ぐため、巨大なエイがゆったりと泳ぐように茹でる。茹で時間は1分40秒

ラヴィオローネのソースに使う無塩バターをフライパンで加熱

ラヴィオローネの茹で汁を加える

茹で上がったラヴィオローネをソースのフライパンに投入。横に滑らすように回しながらソースと和える

茹で上がったラヴィオローネを付け合わせと盛り付けて出来上がり

お召し上がり

卵黄のラヴィオローネ

◆卵黄の祭典

出来上がったラヴィオローネは、崩すのがもったいなけれども、思い切ってフォークとナイフで切ります。

中からドロリと出てきた卵黄をラヴィオローネの生地と絡めます。

薄くてトロトロに茹で上がった生地は、卵黄が使われているので、流れ出た卵黄の濃厚な風味や甘み、旨み、コクと一体化し、味わいを盛り上げます。

卵黄のラヴィオローネ

卵黄を支えていたリコッタチーズは、皿の上でバターやソラマメソースの乳酸系仲間を見つけると、「おー!懐かしい」といわんばかりに再会を喜び、卵黄を紹介します。

ひとしきり味の調和を楽しんだ後は、卵黄の質感で香りが増すトリュフを絡めて間合いをとります。

そこで、気になっていたグアンチャーレを口に含みます。極薄の焼き上がりで食感はサクサク。舌の上でサッととろける一瞬に、フッと塩味を感じます。そのアクセントが卵黄をより美味しく感じさせます。

残った卵黄やソースを、パンで拭き取りながらワインと合わせていると、何事もなかったような白い皿が残ります。

卵黄のラヴィオローネ

「ラ・ビスボッチャ」店内

4.仔羊のロースト

仔羊のロースト

メニューについて

◆聖なる仔羊をいただく

復活祭のメインディッシュは、仔羊を食べる伝統があります。

ビスボッチャでは、仔羊の中でもまだ草を食べていない乳飲み仔羊を使用します。

甘い香りと柔らかいお肉を、春の風物としてお楽しみください。

仔羊のロースト

調理

◆仔羊の下ごしらえ

肉の間に仕込む香草をちぎって細かくする。香草はフレッシュなセージとタイム。撮影担当料理人・老田裕樹

ちぎった香草をみじん切りにする

仔羊のロース付きバラ肉に塩コショウで下味をつける

仔羊のロース付きバラ肉にみじん切りしたセージとタイムを加える

仔羊のロース付きバラ肉の上にモモ肉とウデ肉を乗せる

モモ肉とウデ肉をロース付きバラ肉で丸め込む

丸めた仔羊の肉は、若さゆえに脂肪分が少ないため、表面に網脂を巻き、しっとり感を補う

紐で縛って固定。その後、半日ほど寝かせて味を落ち着かせる

◆仔羊を焼く

フライパンにオリーブオイルを敷く

フライパンに仔羊の肉を投入

表面の網脂や肉質が柔らかいため、弱火で優しく焼いていく

反対側を焼く

側面を焼く

フライパンのオイルを上からかけ、焼きムラを軽減

表面をカリッと焼いて旨みを封じ込めた仔羊の肉をオーブンでじっくり中まで加熱

オーブンで焼いた仔羊の肉は、肉汁が出過ぎないようにアルミホイルに巻いて休ませる

休ませた仔羊の肉を切り分ける。中の焼け具合が楽しみな一瞬

切り分けた仔羊のロースト。中心が桜色で、仔羊としては理想の焼き上がり

◆ソースをつくる

仔羊の肉から外した骨をソースのダシにする。オーブンで加熱してから鍋に入れる

氷を鍋に入れ、加熱しながら骨のダシを抽出。水より濃くダシが取れる

炒めた香味野菜(ニンジン、セロリ、タマネギ)を加える

約24時間煮込む

煮込んだダシ汁を必要分取り分け、煮詰めてソースにする

お召し上がり

仔羊のロースト

◆若々しい旨み

焼きあがった仔羊から、乳飲み仔羊らしいミルクの甘い風味が漂います。

キツネ色に焼けた外側はカリッとして香ばしく、中の肉質はきめ細かく、とろける柔らかさがあり、ソースとなじむとクリーミーな舌触りを感じます。

仔羊のロースト

味わいはさっぱりとした肉汁とともに、若々しい旨みや甘みが豊かに調和します。

セージやタイムの爽やかな香りとほろ苦さが、程よいアクセントになります。

仔羊のロースト

おすすめのワイン

赤ワイン「バルバレスコ・ヴィニェート・ブリック・ロンキ」

◆力強さと優雅さを兼ね備えた赤ワイン

銘柄/バルバレスコ・ヴィニェート・ブリック・ロンキ
ワイナリー/アルビーノ ロッカ
生産地/イタリア北部ピエモンテ州
ぶどう種/ネッビオーロ100%
生産年/1998年

イタリアを代表するワインの銘柄「バルバレスコ」の中でも「アルビーノ・ロッカ」社が手掛ける赤ワイン。

ブドウの栽培は有機農業にこだわり、1haあたりの収穫量を抑えているため、ワイン味わいに凝縮感と長い余韻があります。

力強さと優雅さを兼ね備えたリッチな印象の辛口は、仔羊のローストの若々しい旨みを引き立てます。

赤ワイン「バルバレスコ・ヴィニェート ・ブリック・ロンキ」と「仔羊のロースト」

5.ヘーゼルナッツの卵型ケーキ

ヘーゼルナッツの卵型ケーキ

メニューについて

◆卵黄に見立てたパーツでより卵らしさ

イースターでは、卵型のお菓子も多く見られます。

今年は茹で卵の断面をイメージ。

卵黄に見立てた黄色いクリームのパーツを加え、より卵らしさを強調します。

ヘーゼルナッツの卵型ケーキ

調理

ケーキの生地をつくる。材料(ヘーゼルナッツのパウダー、薄力粉、卵、バター、グラニュー糖)をミキサーで混ぜる

ヘーゼルナッツのパウダーはシチリア島パレルモ産

イースターケーキ用卵型天板を用意する

卵型天板の内側にバターを塗る

卵型天板に生地を入れ、オーブンで焼く

焼き上がった生地を網の上に並べる

中心をくり抜く

湯煎で溶かしたホワイトチョコレートをつける

ホワイトチョコレートはカカオの主産地コロンビアで1909年に創業した「カサルカ」社製

白さを強調するため粉糖をふりかける

卵の黄身に見立てた黄色いクリーム(カスタードにザバイオーネを混ぜたもの)を中心に入れて出来上がり

お召し上がり

ヘーゼルナッツの卵型ケーキ

◆卵らしさの擬似体験

出来上がった卵型ケーキの食感は、外側のスポンジ部分は柔らかく、内側の黄色いクリームはトロリととろける柔らかさがあります。

見た目とともに食感も半熟卵のイメージを再現していいます。

ヘーゼルナッツの卵型ケーキ

味わいは、甘さの中に感じる、多彩な風味を楽しみます。

卵を食べているようだけれども甘い、という不思議な体験をお楽しみください。

ヘーゼルナッツの卵型ケーキ

春本番のディナーは、

「ラ・ビスボッチャ」の「イースターフェア」でお楽しみください。