「霧島高原純粋黒豚」のポルケッタ

PORCHETTA DI KIRISHIMA KOUGEN JYUNSUI KUROBUTA

コラム『味と技』第58回

「霧島高原純粋黒豚」のポルケッタ

丸めておいしい豚肉

ビスボッチャが年に数回提案している、日本の美味しい食材をイタリアンでいただく企画。

今回は、鹿児島県のブランド豚肉「霧島高原純粋黒豚」を、「ポルケッタ」というイタリアの伝統的な丸焼きで調理します。

おすすめメニューとして3月18日(水)〜4月4日(土)の期間登場。

この機会に、ぜひご賞味ください。

ポルケッタの下ごしらえをする料理長・井上裕基

調理・解説/料理長・井上裕基 

写真・文/ライター 織田城司
Food Direction by Yuuki Inoue 
Photo・Text  by George Oda

メニューについて

「霧島高原純粋黒豚」(公式写真より)

◆「霧島高原純粋黒豚」とは

鹿児島県の黒豚は、17世紀に中国から沖縄経由で鹿児島県に移入されました。明治時代に英国から導入したバークシャー種と交配しながら改良を重ねた品種です。

 「(有)霧島高原ロイヤルポーク」では、霧島高原の雄大な自然を背景に、クラシック音楽が流れる木造豚舎を使って黒豚のストレスを軽減。山岳地帯の清らかな水と、鹿児島県特産のさつま芋を含む飼料を与えて肉質を向上させています。

なかでも「霧島高原純粋黒豚」は、肉の熟度を増すために、35週齢(約245日)の歳月をかけて飼育した黒豚です。

◆肉質の特徴

 ・肉の筋繊維が細く、食べたときの歯切れがよく、柔らかです。

 ・脂肪組織の水分含有量が少ないため水っぽさがありません。

 ・旨みを引き出すアミノ酸の含有量が多い。

 ・脂肪の融点が高く、ベトつかず、さっぱりしています。口の中でまろやかにとろけ、ほのかな甘みがあり、豚肉特有の臭みはほとんど感じません。脂肪にも十分な旨みがあります。

ビスボッチャでは、「霧島高原純粋黒豚」を塊肉で仕入れ、店内で精肉しながらポルケッタに調理します。

今回の撮影で調理した「霧島高原純粋黒豚」の半身の塊肉。左側が背中でロースにあたる部位。右側が腹でバラにあたる部位。手前が肩で後ろが腰

◆ポルケッタとは 

「ポルケッタ Porchetta」はイタリアの伝統的な豚肉料理です。内臓や骨を除いた豚肉を丸め、中に詰め物や香草を入れて焼きます。

パリッと焼けた外の肉と、しっとりと味がしみた中の肉の妙味が魅力です。

仕込みと焼きに時間がかかるため、特別感のある料理とされています。とはいえ、そのグレードとレシピは幅広く、宴席や惣菜屋、屋台などで見られ、暮らしに根付いています。

フィレンツェの肉屋。カウンターの上にポルケッタが見える

今回提供するポルケッタは、「霧島高原純粋黒豚」を使い、骨付きロースを、バラ肉で丸め込んで焼き上げます。

豚肉そのものが持つ繊細な旨味を生かすため、調味料は塩とコショウ、オリーブオイルのみで、シンプルに味をつけます。

調理

◆ポルケッタの下ごしらえ

豚肉の皮をはぐ

ロースとバラにまたがるアバラ骨をバラから外す

背骨を外す

切り分けた骨付きロース(左)とバラ(右)に塩コショウで下味をつける

切り分けたバラの上に、骨付きロースを重ねる

バラで骨付きロースを丸め込む

バラの余分な脂分を削る

丸めた肉を紐で縛って固定する

外側からも塩とコショウで下味をつける

冷蔵庫で一晩寝かせて下味をなじませる

◆ポルケッタを焼く

冷蔵庫から取り出したポルケッタを炭火焼きグリルに運び、焼き網をセットする

炭火焼きの炭は火持ちがよく灰が少ないオガ炭の「五香備長炭」を使用

ポルケッタにオリーブオイルをふりかける

表面の脂分は、炭火の遠赤外線効果で、中から沸騰するようにじっくり加熱。炭火にしたたり落ちる脂分は燃え、その煙が燻製効果になって肉に香りをつける

脂分を落とす量を調節するため、表面に切り込みを入れる

炭火で表面がカリッと焼き上がった状態。この後、さらにオーブンで加熱する

オーブンから取り出した肉を切り分ける

切り分けたポルケッタの中は、ピンク色が少し残る程度に火が入る

お召し上がり

「霧島高原純粋黒豚」のポルケッタ

◆ジューシーで繊細な旨み

こんがりとキツネ色に焼けたモモの表面は、脂分が程よく落ち、サクサクとした食感の中に、揚げ物のような香ばしさを感じます。

バラの脂身はプルンとして、とろけるような食感があり、豚肉の甘みを感じます。

「霧島高原純粋黒豚」のポルケッタ

丸めて焼かれた骨付きロースは、肉汁をたっぷりとたくわえています。

肉汁は透明感があり、サラッとして、豚肉の風味はフレッシュで、軽やかに香ります。

肉質はキメ細かく、封じ込まれた繊細な旨みを豊かに感じます。

塩とコショウ、オリーブオイルのみのシンプルな味付けが、繊細な旨みを引き立てます。

バラと合わせて、多彩な味と香りを堪能しながら、後味はさっぱりとした印象です。

「霧島高原純粋黒豚」のポルケッタ

おすすめのワイン

赤ワイン「ダルチェオ」

◆エレガントな辛口

銘柄/ダルチェオ
ワイナリー/カステッロ・ディ・ランポッラ
生産地/イタリア中部トスカーナ州
ぶどう種/カベルネ・ソーヴィニヨン85% プティ・ヴェルド15%
生産年/2013年

香りはブラックベリーやダークチェリー、カシスなどの果実系に、バラの花やハーブ、レザー、タバコなどのニュアンスが加わり、芳醇な印象です。

味わいは、辛口でスパイシー。凝縮感があり、余韻が長く、ほのかな苦味を感じます。それでも重くなりすぎず、洗練されたエレガントな印象です。

「霧島高原純粋黒豚」の繊細な旨みとよく合い、お互いの味を高めます。

ワイナリーに聞く

ビスボッチャに来店した「カステッロ・ディ・ランポッラ」当主のルカ氏。赤ワイン「ダルチェオ」を手掛けた

◆気取らないカリスマ

「ダルチェロ」は1996年にはじめてリリースされると、世界のワイン市場で影響力を持つイタリアのワインガイド誌『ガンベロ・ロッソ』で「イタリア最高の赤ワイン」に選ばれる快挙を成し遂げました。

そのワインを手掛けた当主のルカ・ディ・ナポリ・ランポッラ氏は、一躍カリスマ醸造家として注目されるようになりました。

2020年2月6日、ビスボッチャで開催されたファンとの交流イベント「スペシャル・ワイン・デー」のために来店した機会に、ワインづくりやライフスタイルについてインタビュー。気取らない素顔を見せました。

ビスボッチャに来店されたファンのテーブルをまわって談話するルカ氏

◆父とちがう道を歩む

ルカ氏のワインづくりは、最初から順調ではありませんでした。

ルカ氏は1955年にアルゼンチンのブエノスアイレスで生まれました。その後はブラジルなどを転々としたそうです。

イタリアは世界大戦の激戦区になり、街は荒廃。終戦直後に仕事はなく、ルカ氏の父は一家を引き連れて出稼ぎの旅に出ていました。

こうした社会背景をルカ氏は「日本も同じだったと思います」と語りました。

ルカ氏の父はイタリアに戻ってワインづくりをはじめると、貧困の経験から、ものが豊かにあふれる社会に憧れ、大量生産を理想としました。

しかし、ルカ氏は自然派のワインづくりを主張して対立。家業から離れ、8年ほど放浪生活をしていたそうです。

やがて、ルカ氏は父の死後、家業のワインづくりに復帰。自分がつくりたいワインを醸造しました。

ビスボッチャに来店されたファンが持ち込んだボトルにサインをするルカ氏

◆オーガニックは地球を救う

新しいワインの発想について尋ねると、ルカ氏は「もともと自分が好きな味のイメージを持っていたので、それを追求しているだけ」と答えました。

ルカ氏が追及するのは、大自然の恵みを感じる味。そのために、オーガニックで栽培したブドウを昔ながらの方法で醸造します。

醸造の研究は、ブドウのみならず、世界各地の発酵文化に興味を持ち、産地を訪ねています。

来日すると、全国の酒蔵を訪ねることが楽しみです。沖縄に行って、オーガニックの米から泡盛をつくる醸造家を訪ねたこともありました。今回の来日では、京都の酒蔵を訪ねました。イタリアの家では、納豆を自家で生産しています。

ワインとちがうアイテムですが、自分と同じように自然派のものづくりをする人たちから、刺激を受けているようです。「ナチュラル・ローソンの納豆はよくできている」と語りました。

ビスボッチャのソムリエ・酒見が差し入れた山梨産赤ワインのボトルを見るルカ氏

オーガニックにこだわる背景を尋ねると、ルカ氏は「私がオーガニックにこだわっているのは、私のため、ということもありますが、人類に対しても、地球に対しても優しいことだと思っています。

私が憧れるのは、1800年代の古典的なワインづくりです。自然そのままで、自然とともに生きるワインづくりです。国によって歴史がちがうから、わかりやすく表現すると、戦争がなかった時代のワインづくりです。

戦争はたくさんの死者が出て、誰もがやりたくないと思いながらやる。だから心が正常ではなくなる。

このため、オーガニックな食材を食べ、オーガニックなブドウのワインを飲み、心を穏やかに保つことが、人間にとって理想的な姿だと思います。

そのようなワインの味と心は、国境や言語を越え、様々な人種に響き、世界がひとつになり、平和が築けると信じています。それが私の目指すワインづくりです」と答えました。

山梨産赤ワインの香りをチェックするルカ氏

◆自然を読む

ルカ氏は、ビスボッチャのソムリエ酒見が差し入れた山梨産の自然派赤ワインを賞味。「これは標高600m以上の高地でできたブドウを使っているね。冷たい風の影響を受けたブドウだ」と読みました。

そのワインをつくったワイナリーを検索すると標高は800mで、ルカ氏の読みは当たっていました。ワインを飲みながらブドウの標高を読むところが専門家らしい。

ルカ氏は山梨のワインが気に入った様子で「次回来日したら山梨に行ってみたい」と語りました。

ビスボッチャのソムリエ・酒見(左)と語るルカ氏

◆日本が大好き

ルカ氏の今回の来日は、2ヶ月以上におよぶ長期滞在です。

滞在先は千葉県佐倉市。ワインのイベントがある時だけ上京して恵比寿のホテルに泊まります。

自然派らしく、都会には興味がなく、カントリーライフを楽しむ。佐倉市では印旛沼の周辺をサイクリングしながら、国立歴史博物館や旧武家屋敷などの観光地を巡る。隣町にある成田山新勝寺へも行きました。

天気が良い日は、自転車で東京まで行くこともあります。ルートは湾岸道路沿いの一般道、国道357号線がお気に入り。旧道ではなく、埋立地の開発でできた道路で信号が少なく、ゆるやかなカーブと直線が多く、自転車で走りやすいことが特徴です。

日本酒も大好きで、好みは「白子やイクラを肴に日本酒を飲むのは最高だ!この他気に入っている日本の食材は、トロロイモやユズの香り。どれもイタリアにはない、日本の優れた食材だ」と語りました。

その一方で、日本の日用品もお気に入り。愛用の財布は日本のガマグチ。当日履いて来た靴は、日本のホームセンターで買った地下足袋。「こんな優れた靴が500円くらいで売っているなんて、なんていい国なんだ!」と語りました。

愛用の日本のガマグチを見せるルカ氏

当日履いていた日本の地下足袋を見せるルカ氏

◆ビスボッチャの印象

ルカ氏は、ビスボッチャで食事をするのは初めてだそうです。その印象を「天井が高く、店員やお客様の雰囲気が相乗効果になって、料理やワインをおいしく感じる。

料理をおいしく食べて、プロモーションの仕事になるなんて、ありがたいことだ。天罰がありそうだから、料理を食べたと思わず、ワインのテイスティングのための必要業務と考えよう」と語りました。

自社のワインを注文されたお客様のテーブルをまわった印象は、「日本人は繊細な味覚を持っているから、私がつくるワインの繊細な味や、ワインに込めたメッセージをよく理解している」と語りました。

旬の食材を並べてルカ氏にメニューを説明するホール係のヴェリア

◆ルカ氏がビスボッチャで注文した料理

◇前菜

・生ハムとモッツアレッラ&ブッラータチーズ

・鮮魚のカルパッチョ

・ホワイトアスパラガスのビスマルク風

◇パスタ

・白トリュフのタヤリン

・本日のアニョロッティ

ここまで合わせたワインは白の「トレビアンコ 2018」

◇肉料理

・和牛の炭火焼き

・自家製ソーセージの炭火焼き

ここまで合わせたワインは赤の「サンマルコ2006」

◇デザート

・レモンシャーベット

・和歌山県産ジャバラのタルト ジャバラの果肉添え

ルカ氏は料理について「パスタやパンにこだわって、自分たちで毎日つくる姿勢は良い」と評価。

アニョロッティを口に含むと「驚いたな。良い仕事をしている…」といって厨房をジロリと見ました。

ビスボッチャのスタッフとおどけるルカ氏

◆芸術家肌の目線

ルカ氏は、醸造の技術論を越えた、創造の哲学をしっかりと持っていました。

情報に左右されず、独自の感性を優先する姿勢は、孤高の芸術家のようで、達観した境地を感じました。

その人柄がワインの味にも生きている。長い放浪生活も、決して無駄ではなかったと思いました。

それでも気取らず、「最近、もの忘れがひどくなったけれども、嫌なこともすぐ忘れるから良しとしよう」とユーモラスに語る瞳の奥は、少年のように輝いていました。

帰りに店の前で見送ると、ルカ氏は日本語で「またね」と挨拶しました。

赤ワイン「ダルチェオ」と「霧島高原純粋黒豚」のポルケッタ

今度のディナーは、

「霧島高原純粋黒豚」のポルケッタを、ぜひご賞味ください。