RECOMMENDED SEASONAL MENU 2021 JULY
コラム『味と技』第92回
夏を先どり
7月は、例年末頃に梅雨が明け、夏本番を迎えます。
食材は早くも夏の旬菜がそろいぶみです。
そんな旬菜をたっぷりつかい、夏を先どりするメニューを14品集めておすすめします。
メニュー編集・調理/料理人・高部孝太
監修・調理/料理長・井上裕基 副料理長・露詰まみ
写真・文/ライター 織田城司
Menu editing・Cooking by Kouta Takabe
Supervised by Yuuki Inoue Mami Tsuyuzume
Photo・Text by George Oda
⚫︎前菜
1.ブラータチーズとシャインマスカットのサラダ
メニューについて
ブラータチーズのサラダでめぐる旬菜の歳時記シリーズ。
7月は、シャインマスカットと合わせます。
◆ブラータチーズとは
ブラータチーズは、モッツアレッラチーズと同じフレッシュチーズの仲間です。
袋状にしたモッツアレッラチーズの中に、とろ〜りとした「ストラッチャテッラ」というチーズを詰めて封をする、手の込んだものです。
ブラータとはイタリア語で「バターのような」という意味です。バターのような風味と、ミルキーな甘みがあることが由来です。
◆「ディ・ステファノ」のブラータチーズ
「ディ・ステファノ」社は、イタリア南部プーリア州の親子2代のチーズ職人がアメリカに渡り、カリフォルニア州で生産するチーズメーカーです。
同地の乳牛「ハッピー・カウ」のミルクを使用。干草や穀類、フルーツなど、バランスのとれたエサを与えられ、自由に放牧されて育った牛で、ミルクは濃厚な味わいです。
ひとくちにブラータチーズといっても、質感や味は一種類ではなく、豆腐のように、メーカーによって千差万別です。
「ディ・ステファノ」社のブラータチーズは、しっかりした質感と濃厚な味わいが特徴です。
外側の皮は薄くて柔らかく、なかのとろ〜りとした「ストラッチャテッラ」と呼ばれるチーズは、クリーミーでありながら、水っぽくなく、もっちりとして、しっかりした粘りがあります。
皮と中身の質感に差はほとんどなく、一体感があります。味わいはバターのような風味とミルキーな甘みが濃厚です。
「ディ・ステファノ」のブラータチーズが購入できる通販サイトのリンクはこちら→「THE FOODS」
お召し上がり
◆きわだつ爽やかな甘み
シャインマスカットは薄い皮のパリパリした食感と、みずみずしい果肉のシャキシャキした食感が心地よい。
フルーティな香りが高く、味わいは爽やかな甘みが凝縮しています。
ブラータチーズのクリーミーな味わいと相性がよく、振りかけたエキストラヴァージン・オリーブオイルと黒コショウが、味にアクセントをつけて引き締めます。
2.ブラータチーズと焼きパイナップルのサラダ
メニューについて
ブラータチーズのサラダでめぐる旬菜の歳時記シリーズ。
7月のもうひとつの旬菜はパイナップル。炭火で焼いて甘みを凝縮します。
調理
お召し上がり
◆甘香ばしさをまろやかに
炭火で焼いたパイナップルは、虎目がワイルドで、甘香ばしさが濃厚です。
ブラータチーズと一緒に食べると、ブラータチーズのミルキーな風味とクリーミーな旨みが、パイナップルの濃厚な味をまろやかに包み、思いがけないバランスにワインがすすみます。
3.稚鮎とヤリイカのフリット
メニューについて
◆人気定番の夏味
1993年の創業以来続ける人気定番「ヤリイカのフライ」。
7月は旬の稚鮎を加え、美味しさを広げておすすめします。
調理
お召し上がり
◆魚介味のグラデーションが広がる
ヤリイカは独特の揚げ方で、外はカリッと、なかはしっとり柔らかい。
イカの香ばしさや旨みが繊細に広がります。
稚鮎は皮がサクッと香ばしく、若々しい旨みがあり、内臓のほろ苦さがアクセントになります。
ヤリイカの美味しさを、同じ魚介系の味のなかで広げて楽しみます。
4.ズッキーニのフリット
メニューについて
◆食前酒に合うおつまみ
ビールやスパークリングワインなど、夏は泡もの系の食前酒が、特に美味しく感じます。
そんな食前酒に合うおつまみとして、ナポリの郷土料理、ズッキーニのフリットをおすすめします。
調理
お召し上がり
◆軽くて繊細な味わい
ズッキーニのフリットは軽くて繊細な味わい。
白っぽいスティックは、ほのかな甘みと旨みがあり、グリーンのスティックは、皮のほろ苦さがあり、繊細さのなかに飽きない奥ゆきがあります。
食前酒に合わせるほか、メインの料理を待つ間の、軽めのおつまみとしてもおすすめです。
5.万願寺とうがらしの炭火焼き
メニューについて
◆和の旬菜をシンプルなイタリアンで
5月から9月が旬になる万願寺とうがらし。
その美味しさを、塩とオリーブオイルをつけて炭火で焼く、シンプルなイタリアンできわ立たせた前菜です。
調理
お召し上がり
◆炭火で格別の美味しさに
炭火でしっかり焼いた万願寺とうがらしは、焼き目が香ばしく、厚い果肉は柔らかくなり、甘みや旨みが凝縮。辛みはほとんどなく、ほろ苦さはマイルドです。
食前酒に合うのはもちろん、味の広さから、メインの魚料理や肉料理の付け合わせにもおすすめです。
6.クラテッロ
メニューについて
◆霧が育む、濃厚な味わいの生ハム
イタリアの生ハムのなかでもクラテッロは、奥ゆかしい香りと、複雑で変化に富む味わいから、「幻の生ハム」や「生ハムの王様」とよばれ、古くから美食家を魅了してきました。
希少なクラテッロをイタリアから取り寄せ、注文をいただいてからスライス。本場の極上の味を再現します。
◆クラテッロとは
クラテッロは、豚のお尻の肉を熟成させてつくる、イタリアの伝統的な生ハムのひとつです。
◆クラテッロの産地
クラテッロは、イタリア北部エミリア・ロマーニャ州パルマ県郊外のポー川流域のジベッロ周辺8村のみでつくられます。
◆クラテッロの生産
豚のモモ肉のなかでも一番柔らかくて美味しい希少な尻部だけを取り出します。皮がない部位ゆえに、豚の膀胱の皮に包み、紐で縛って吊るし、熟成させます。
霧深いポー川流域の湿気が育むカビが、皮の表面に付着して、なかの肉の味を深めます。
熟成期間は平均14ヶ月ほどで、冬の霧と夏の蒸し暑さを受けて熟成が極まります。
◆アンティカ・コルテ・パラヴィナ社のクラテッロ
アンティカ・コルテ・パラヴィナ社は、パルマから車で1時間ほどの郊外にあります。1320年に建築された領主の館をリノベーションしたオーベルジュ(郊外や地方にある宿泊施設を備えたレストラン)です。
敷地内にクラテッロを生産するための養豚場や貯蔵庫を併設。レストランには、世界中からクラテッロ目当ての美食家が集います。
調理
お召し上がり
◆奥深いコクが広がる
スライスしたてのクラテッロは、色の淡い中心部はしっとりと柔らかかく、塩気はマイルドで、甘みや旨みが広がります。
色の濃い部分はややドライで、しっかりした旨みとコクが広がります。
総合的には、パルマ産のモモ肉を使った生ハムよりも、コクが深い印象です。
複雑に絡み合う、豊かな味わいの余韻を堪能します。
⚫︎パスタ
7.海の幸ソースのロリギッタス
メニューについて
◆サルデーニャ島の郷土パスタ
夏に美味しく感じる南イタリアのパスタ。
7月は、サルデーニャ島の郷土パスタ、ロリギッタスをおすすめします。
汁気が多いソースと相性がいいことから、海の幸を集めて合わせます。
調理
◆ロリギッタスを製麺する
◆ソースをつくる
◆仕上げる
お召し上がり
◆海の幸の旨みをたっぷり味わう
ロリギッタスはモッチリとした歯ごたえで、縄目の溝にはソースがたっぷり絡んでいます。
ソースは海鮮から出る濃厚なエキスを意識し、トマトソースと野菜のダシ汁をベースにさっぱりと仕上がり、夏らしい味わいです。
手長エビは香ばしい旨み、ムール貝はクリーミーな旨み、ホタテはコク深い旨み、ハマグリはまろやかな旨み、アサリは濃い旨みがあります。
海の幸の豊かな味わいに、サルデーニャ島のバカンス気分を楽しみます。
8.花ズッキーニとラルドのスパゲットーニ
メニューについて
◆太麺好きの心をつかむシンプルパスタ
主に南イタリアで一般的な極太麺、スパゲットーニ。
ラルドとローズマリーをソースに合わせるシンプルパスタが定番メニューです。
夏向けに、花が大きくなるズッキーニを加え、爽やかさを増しておすすめします。
調理
◆下ごしらえ
◆ソースをつくる
◆仕上げる
お召し上がり
◆太麺の美味しさをシンプルに味わう
太麺に、強い味のソースやゴロゴロした具材を合わせる場合もあるが、今回は、太麺そのものの美味しさをシンプルにじっくり味わいます。
長時間ゆでたスパゲットーニは乾麺ながら、モチモチの食感がしっかりして、小麦の風味が濃厚で、パスタ本来の味わいをたっぷり堪能します。
ラルドやペコリーノチーズに含まれる、最低限の旨みや塩味、とろみが、太麺の味わいをシンプルにすすめます。
花ズッキーニのシャキシャキした食感や、ローズマリーの爽やかな風味が、太麺一本勝負の邪魔をしない、夏らしいアクセントです。
9.サマートリュフのタヤリン
メニューについて
◆芳醇な香りを堪能
イタリア北部ピエモンテ州が発祥とされる極細麺、タヤリン。
濃厚な卵の風味と、とろ〜りとバターソースになじむ食感は、トリュフと相性抜群です。
ソースに加えた生ハムの細切りの塩味と旨みがダシになります。
サマートリュフは8月末頃まで出回り、芳醇な香りを堪能します。
調理
お召し上がり
サマートリュフのタヤリン
◆マイルドなトリュフに感じる夏
サマートリュフの香りは、秋冬ものに比べるとおだやかです。
その分、極細麺、タヤリンの卵の風味や、バターソースの旨みとバランスがよく、とろける調和をじっくり味わうことができます。
「これもひとつの夏味」と思う余韻に浸ります。
⚫︎メイン
10.ウナギの炭火焼き
メニューについて
◆イタリア味で仕上げる白焼き
夏になると食べたくなるウナギ。
豊かな山河に恵まれたイタリアでもウナギがたくさんとれ、さまざまな料理があります。
なかでも、もっともシンプルな、塩とオリーブオイルのみで焼く炭火焼きです。
日本人の舌に合うように、関東風の蒸しを入れ、ふっくらと仕上げます。
調理
◆炭火で焼く
お召し上がり
ウナギの炭火焼き
◆香ばしく、心地よい塩味
ウナギの表面は、脂分が炭火の効果で程よく沸騰し、揚げ物のようにカリッと焼き上がり、しっかり馴染んだ塩味がシャープに効いて、心地よく感じます。
身はふっくらと柔らかく、オリーブオイルがヌメリとした舌触りを増し、まろやかな旨みを感じます。
日本のウナギの白焼きと比べると、オリーブオイルを使っている分、洋風の焼き魚のような風味の仕上がりです。
イタリアンパセリの青々しさが爽やかなアクセントです。
11.ウナギの炭火焼き バルサミコソース
メニューについて
◆甘辛タレをつけて焼くウナギ
古代ローマでは、ウナギに甘辛ソースを合わせるレシピがあったそうです。
イタリアと日本で、ウナギの食べ方に時空を超えた共通点があることに興味がわきます。
そんな古代ローマ風の甘辛タレをイメージしてバルサミコソースをつくり、ウナギにつけて焼く炭火焼きです。
調理
◆バルサミコソースをつくる
◆「テール・エグゾチック」社について
「テール・エグゾチック」社はフランスのスパイス専門店で、世界中を旅しながら、その地でしか味わえなかった珍しい調味料を発掘して紹介。
希少なスパイスを使った料理の味と香りの新体験に感じる、地球の豊さや世界を旅する気分を提案している。
◆ティムールペッパーとは
ティムールペッパーは、ネパールのヒマラヤ山脈の標高2500m付近で収穫される希少なサンショウの実を乾燥させたスパイスです。
サンショウは「ミカン科サンショウ属」の木の実で、世界中に250種ほどあるとされています。
ティムールペッパーは、柑橘系のフルーティーな香りが高く、木材系の香りもあり、深みが広がり、辛さは控えめです。
日本で自生するサンショウとはひと味ちがい、異国情緒を感じます。
◆ソースをつけて炭火で焼く
お召し上がり
◆さっぱりとした甘辛味
見た目は日本の蒲焼に似た濃い茶色ですが、味わいはさっぱりとした甘辛です。
煮詰めたソースは、程よく酸味が飛んだバルサミコ酢の効果でサラッと仕上がり、甘さも控えめです。
日本の蒲焼のタレのように、甘さが重たくなる濃厚さはなく、軽めで繊細な印象です。
イタリアやネパールの調味料に感じる、異国情緒に旅情を感じて楽しみます。
⚫︎ドルチェ
12.ヨーグルトとマスカルポーネチーズのジェラート
メニューについて
◆夏味のジェラート
ジェラート王国イタリア。
エレガントなスーツ姿のビジネスマンも、ランチの後はジェラートをペロペロ舐めながら歩くのが習慣です。
大人を魅了する、イタリアらしい濃厚なジェラートの夏味です。
お召し上がり
◆爽やかで濃厚なハーモニー
ジェラートを口に入れると、ヨーグルトの風味がふんわりと香り、爽やかな涼感があります。
その後に、マスカルポーネチーズの濃厚なミルクの風味と重い舌ざわりがガツンときます。
乳製品のハーモニーに、冷たいだけではない、奥深い余韻を感じます。
13.バナナのタルト
メニューについて
タルトでめぐる旬菜の歳時記シリーズ。
7月はバナナをトッピングします。
調理
お召し上がり
◆バナナの多彩な美味しさを満喫
生のバナナ、焼いたバナナ、クリームと合わせたバナナ、チョコレートと合わせたバナナ。
バナナの多彩な美味しさを一度に味わう贅沢なタルトです。
たっぷりと盛り上がったクリーム、バナナの重層、タルト生地のボリューム感のバランスも絶妙で、バナナの甘みと香りを満喫します。
14.ブルーベリーのタルト
メニューについて
タルトでめぐる旬菜の歳時記シリーズ。
7月の、もうひとつのフルーツはブルーベリーです。
お召し上がり
◆奥深い甘酸っぱさ
ブルーベリーを噛みしめると、薄い皮がパチンと弾け、なかから柔らかい果肉がトロッと出てきます。
味わいは酸味が濃い甘酸っぱさで、ほのかな渋みも感じます。
奥深い甘酸っぱさを甘いクリームが引き立て、夏に美味しいスッキリした後味です。
7月のディナーは、
「ラ・ビスボッチャ」の季節のおすすめメニューで、
夏の先どりをお楽しみください。