BBQ FAIR
コラム『味と技』第93回
炭火で元気に
夏に食べたい!スパイシーでスモーキーな炭火焼き料理を集めた「BBQフェア」を7月19日(月)から7月31日(土)まで開催します。
期間限定メニューが9品登場。夏本番のパワーチャージに、ぜひご利用ください。
監修/料理長・井上裕基 副料理長・露詰まみ
写真・文/ライター 織田城司
Supervised・Cooking by Yuuki Inoue Mami Tsuyuzume
Photo・Text by George Oda
料理長ごあいさつ
炭火を味わう
炭火は、あらゆる食材を格別の美味しさに焼き上げます。
今回の「BBQフェア」では、炭火の魅力を追求して、王道のステーキのみならず、前菜やパスタ、ドルチェなど、さまざまなジャンルで炭火を活用します。
そのアイデアの背景には、『炭火で焼く』という料理本との出会いがありました。
ある日、新しいメニューのアイデアを探しに、本屋へ行きました。しかし、イタリア料理の本はどれも知り尽くしたメニューばかりでした。
すると、その近くにあった『炭火で焼く』が目につきました。自店も炭火焼き料理がメインのため、興味が湧き、手にとってページをめくると、新鮮な炭火焼きのメニューがたくさんあり、驚きました。
『炭火で焼く』は、アメリカ・カリフォルニア州のオーナーシェフ、ジョサイア・シトリンさんが自店のレシピをまとめたものです。
冒頭のコメントに、「極上の塩と挽きたてのコショウを少々。バーベキューの味つけには、それだけで十分という場合もあるでしょう。でも、アウトドア料理をまったく新しいレベルに引き上げてくれるスパイスはほかにもたくさんあります。」と書いてありました。
たしかに、イタリアンの炭火焼きの基本も、塩とコショウです。でも、それだけでは、守りばかりで、新鮮な提案がないことも事実です。
まるで、私に語りかけているようで、ドキッとして、すぐに本を買い、レシピを試作すると、どれも懐かしい味がしました。
ジョサイアさんのレシピは、世界各国の伝統的な炭火焼きを研究し、現代のグルメにリメイクしています。新鮮な味わいながら、しっかりしたルーツをベースにしている点に共感を持ちました。
そんなアイデアが生きたフェアメニューの美味しさに、炭火の奥深さを感じてお楽しみください。
2021年7月吉日
料理長 井上裕基
⚫︎前菜
1.ブラータチーズと炭火焼きイチジクのサラダ ザクロエキス風味
メニューについて
◆真夏の夜のブラータチーズ・サラダ
やさしい甘みと、みずみずしい果汁が魅力のイチジクは、幅広くアレンジできる果物です。
乳製品との相性がよく、炭火で焼いて甘みが増したイチジクをブラータチーズと合わせるサラダは、春から夏にかけて人気の前菜メニューです。
盛夏はイチジクをザクロエキスと和えてから炭火で焼き、華やかな芳香や甘酸っぱさを加え、食欲をそそる刺激を増しておすすめします。
調理
お召し上がり
◆濃厚な甘酸っぱさの爽快感
炭火で焼いたイチジクの果肉はジャムのように柔らかくなり、甘みが増し、小さな種のプチプチした食感がアクセントになります。
ザクロエキスがイチジクに不足する酸味を補い、ひとつの濃厚な甘酸っぱい味として一体化します。やや強いと思う甘酸っぱさが、暑さが極まる季節にちょうどいい爽快感です。
ザクロエキスの芳醇な香りは、ポプリや薬草、赤ワイン、スパイスなどの華やかなニュアンスが広がり、強い味で押すだけではない、リラックスした余韻を加えています。
ブラータチーズのミルキーな風味と旨みがアクセントになります。
2.夏野菜の炭火焼き 焦がしトマトソース添え ペコリーノチーズかけ
メニューについて
◆しっとりしたソースでよみがえる焼き野菜の美味しさ
野菜を炭火で焼くと、香ばしさや甘みは増すものの、水分が蒸発して、旨みや風味は淡白になりがちです。
そこで、しっとりしたソースを合わせ、焼き野菜の潤いを補いながら味を引き立てます。
ソースはどんな野菜にもなじむ、汎用性の高いトマトをベースにします。
調理
◆トマトの下ごしらえ
◆焦がしトマトソースをつくる
◆夏野菜を焼く
お召し上がり
◆ソースで増す焼き野菜のおつまみ感
焦がしトマトソースは、ソースの味しかしない強い味ではなく、あくまでも焼き野菜の持ち味を引き立てる、やさしい味つけです。
焦がしトマトソースが染み込んだ焼き野菜は、水分が戻ることで柔らかくなり、それぞれの野菜の食感のちがいがきわだちます。
トマトの酸味や旨みが加わった焼き野菜は、焼き色の香ばしさやほろ苦さが生きて、より美味しく感じます。
焦がしトマトソースに混ぜたアンチョビやオリーブ、振りかけたペコリーノチーズの塩味は、焼き野菜にまろやかに効いて、おつまみ感を増します。
3.スティッギオーラ
メニューについて
◆ビールによく合う!屋台の味
スティッギオーラは、イタリア南部シチリア島最大の都市、パレルモのストリートフードです。
牛や豚、仔羊などの小腸を炭火で焼いたもので、いわばシチリア版モツ焼きです。
小腸だけを串に刺して焼くものや、野菜と一緒に焼くものなど、スタイルはさまざまです。
今回は国産牛の小腸をイタリア産の葉タマネギと一緒に串に刺し、炭火で香ばしく焼きます。
シチリアの屋台の味を、ビールが美味しい夏の前菜におすすめします。
調理
◆スティッギオーラの下ごしらえ
◆スティッギオーラを炭火で焼く
お召し上がり
◆脂のとろける甘みがうまい
牛の小腸は腸壁以外はほぼ脂身です。炭火で焼くと、溶けた脂が大量に炭火に落ち、モクモクと立ちのぼる煙が、小腸をすすけたような黒っぽく仕上げます。
そのスモーキーな風味が、レストランに居ながらストリートの活気を感じるキモです。
焼き上がった脂身は、コラーゲンたっぷりでぷるぷるした食感のなかに、とろける甘みを感じます。キツネ色に焼き上がった腸壁はカリカリして、香ばしさがきわだちます。
間にはさんだ葉キャベツはとろとろに焼け、甘みがたっぷりして、まろやかになったタマネギの風味がアクセントになります。
味わいは、焼き鳥の「かわ」や「ねぎま」に似て、日本人に親しみやすい印象です。
⚫︎パスタ
4.炭火焼きトウモロコシとキャビアの冷製カペッリーニ
メニューについて
◆トウモロコシを冷やしパスタで味わう
夏に食べたい冷やし麺を、イタリアンでつくるパスタです。
パスタはツルッとした喉ごしが心地よい、極細麺のカペッリーニを使い、冷製スープでおなじみのトウモロコシをソースに合わせます。
トウモロコシは皮付きのまま丸ごと炭火で焼き、香ばしさと甘みを増します。
キャビアをのせ、塩味や旨み、コクのバランスを加えて仕上げます。
調理
◆トウモロコシを直炭火で焼く
◆トウモロコシのソースをつくる
◆仕上げる
お召し上がり
◆シンプルに輝く夏の主役
ソースのベースは、オリーブオイルや鶏のダシ汁、魚醤など、最も基本的な材料のみです。
ソースをニュートラルな味にすることで、夏の主役トウモロコシと、それを引き立てるキャビア、カペッリーニのバランスに集中します。
トウモロコシは、皮付きのまま丸ごと炭火で焼くことで、実はみずみずしさを保ち、くぼみがなく、ふっくらして、ところどころに焦げ目がつく仕上がりで、香ばしさと甘みが増しています。
カペッリーニは、細いながら、束になると強いコシの集積を感じ、プツプツ切れる歯ごたえが心地よく、ふんわり香る小麦の風味がトウモロコシの香ばしさを追いかけ、オリーブオイルが喉ごしのツルツル感を増しています。
キャビアは、皮が極薄で、粒を感じない口どけに驚きます。中身の塩味や旨みはトウモロコシにない味で、引き立てあいます。昆布のような風味がソースの魚醤とリンク。磯の後味が涼感を増します。
味わいは深いが具は小さく、軽めの食べ口から、ディナーの途中の口直しや、料理を食べ足りないときの「締めパスタ」にもおすすめの一品です。
⚫︎メイン
5.スズキの直炭火焼き レモンとウイキョウの風味
メニューについて
◆意表を突く黒コゲの魚
魚の姿焼きは見栄えがします。
形の美しさもありますが、美味しそうに見えます。
頭や背骨、ウロコがついたままの魚を丸ごと焼くと、旨みが凝縮することを知っているからでしょう。
今回は身がしまった旬のスズキを丸ごと、直接、炭火のなかに放り込んで焼きます。
炭火で黒コゲになったウロコのバリアが味の凝縮感をさらに高めます。
斬新なようで、古代からある素朴な調理法です。
レモンとウイキョウで夏らしい爽やかな香りをつけて仕上げます。
調理
◆スズキの下ごしらえ
◆スズキを直炭火で焼く
◆仕上げる
お召し上がり
◆素朴さが極める奥深い味わい
魚を炭火に放り込み、調味料は塩のみ。焼き上がりは黒コゲなのに、身の奥深い味わいに驚き、まさに目からウロコが落ちる思いがします。
これが炭火のパワーで、遠赤外線が魚をなかから効率よく加熱し、沸騰した水分や脂分は密封された体内を対流し、頭や骨のダシをピックアップしながら身にしっかり味をつけています。
焼き上がった身はふっくらと柔らかく、しっとりして、香ばしさや甘み、旨み、コクを豊かに感じます。
究極の引き算の調理法で単純ながら、焼く環境を考えると家庭では難しく、骨付きの魚を取り分けるサービスとともに、特別感のある食体験を、この機会に、ぜひお楽しみください。
6.鴨の炭火焼き ハチミツとミントのソース
メニューについて
◆鴨の滋味を食べくらべる
肉の炭火焼きの味付けには、塩がある一方で、糖を加えて甘く仕上げる方法もあります。
鴨モモ肉に、爽やかなハチミツとミントのソースをつけて炭火で焼き、濃い旨みを引き立てます。
鴨のハツ(心臓)を塩味で焼いた串を添えます。鴨の滋味の食べくらべをお楽しみください。
調理
◆ハチミツとミントのソースをつくる
◆鴨肉の下ごしらえ
◆鴨肉を炭火で焼く
お召し上がり
◆鴨肉の濃い旨みを、多彩に味わう
ハチミツとミントのソースを塗った鴨のモモは、ハチミツに含まれる糖が炭火で加熱されたコーティングの効果で、外はパリッと、なかはジューシーな仕上がりです。
甘香ばしさが濃い旨みを引き立て、ミントの爽やかな風味でさらに極まります。
串焼きにした鴨ハツは旨みが濃厚で、ほろ苦さやコクも広がります。小粒ながらしっかりした味わいを、塩でシンプルに引き立てます。
部位による味のちがいや、味つけのちがいを食べくらべながら、鴨の奥深い滋味を堪能。身体のなかから力が湧いてくる後味です。
7.豚スペアリブの炭火焼き ポルチーニのドライラブ
メニューについて
◆ポルチーニ香るスパイシーなスペアリブ
肉を炭火で焼く味つけのひとつにドライラブがあります。
ドライラブは、基本的に塩と砂糖とスパイスをミックスしてつくるパウダーです。
肉にドライラブをつけて焼くと、風味が高まり、表面がカリカリに焼きがります。
豚スペアリブには、乾燥ポルチーニ茸をメインにしたドライラブをつけ、夏らしくスパイシーに焼き上げます。
調理
◆豚スペアリブの下ごしらえ
◆豚スペアリブを炭火で焼く
お召し上がり
◆下味がしっかり染みた肉を噛みしめるよろこび
ドライラブがしっかり染みたスペアリブを噛みしめると、ポルチーニがふんわり香ります。
香ばしさと泥臭さが官能的なポルチーニの芳香が、食欲をすすめます。
締まった肉は、歯ごたえがしっかりして、噛みしめるほどに甘辛い味が染み出し、肉の旨みやコクを引き立てます。
表面でパリパリに焼けたブラウンシュガーの甘香ばしさがアクセントになります。
おすすめのワイン
エレガントな辛口赤ワイン
銘柄/ブルネロ・ディ・モンタルチーノ
ワイナリー/ピオンバイア
生産地/イタリア中部トスカーナ州
ぶどう種/サンジョベーゼ・グロッソ100%
生産年/2015年
力強い辛口で定評のある赤ワイン「ブルネロ・ディ・モンタルチーノ」。
ワイナリーのピオンバイアが、できる限り自然のままの製法でつくると、力強さにまろやかさが加わり、飲みやすくなり、奥深さが広がります。
エレガントな辛口が、ポリチーニ風味の豚スペアリブのスパイシーな味わいを引き立てます。
8.トマホークの炭火焼き
メニューについて
◆トマホークとは
トマホークの語源はアメリカの先住民が使っていた斧のことです。
牛肉の骨付きリブロースの形が斧に似ていることから、ステーキの名に転用されるようになりました。
斧のイメージが豪快なステーキとよく合い、骨についた肉までワイルドに食べる気分を盛り上げます。
◆キングアイランドビーフを使用
今回のトマホーク(骨付きリブロース)は、キングアイランドビーフを使います。
オーストラリアの南に位置するキングアイランド島は、年間を通じて温暖で雨量が多く、栄養価が高い土壌が良質な牧草を育てます。
この地でストレスなく放牧された牛の赤身肉は柔らかく、旨みに深い味わいがあります。
その魅力を、ぜひ厚切りでお楽しみください。
調理
お召し上がり
◆豪快な見た目、繊細な味わい
肉質は、弾力がしっかりしているが、無理なく噛み切れる柔らかさ。
厚切りのなかで、細かい繊維がジャキジャキと噛み切れる歯ごたえが小気味よい。
肉汁は粘性があり、しっとりして、牛肉の風味が濃厚。
噛みしめると、甘みから旨み、苦みまでの幅が広く、飽きがこない繊細な味わいがあります。
外側の焼き目はパリッとして、ほのかに感じる塩味と苦みがアクセントになります。
脂身はプルンとした柔らかさで、口のなかでトロけ、甘みと旨みが際立つ。
骨についた肉はコクがあり、ナイフで延々と削ぎ落としながらチビチビ食べる。満腹で会話が盛り上がり、飲み足りないと感じる赤ワインに丁度いい肴です。
⚫︎ドルチェ
9.マリトッツォ・レモン風味 炭火焼きメレンゲのせ
メニューについて
◆伝統菓子の夏味
今回のBBQフェア用につくるマリトッツォは、食後のデザートをイメージして、コンパクトなサイズにアレンジしています。
ホームメイドのブリオッシュと、カスタードクリームには、夏らしくレモンの風味をつけ、重ねるハーモニーで、爽やかさを増しています。
トッピングのメレンゲは、燃える炭をトングで近づけて表面を焼きます。焼き色の甘香ばしい味がアクセントになります。
調理
◆製パンする
◆レモン・カスタード・クリームをつくる
◆マリトッツォを組み立てる
お召し上がり
◆レモンの香りの重なりにハッとする
炭火でキャラメリゼしたメレンゲの焦げ茶の焼き色は食欲をそそります。
マリトッツォにかじりつくと、レモンの香りがふわっと香ります。パン生地に混ぜたレモンピールの香り、パン生地に染み込ませたリモンチェッロの香り、カスタードクリームに混ぜたレモンピールの香りが、次々と現れます。
クリームのボリュームはひかえ目で、レモンの香りのオーケストラのようなハーモニーが味わい深く、夏に美味しく感じます。
炭火で焼いたメレンゲの甘香ばしさがアクセントになります。
夏本番の太陽がまぶしく感じたら、
ラ・ビスボッチャの
「BBQフェア」でお楽しみください。