イベントレポート:メーカーズディナー「ドンナフガータ」2025

ワインや食材の生産者さんをお招きして、ディナーに来店されるお客さまと交流していただくイベント、メーカーズ・ディナー。

2025年5月30日(金)は、イタリアのワインメーカー「ドンナフガータ」の6代目当主候補、ガブリエッラ・ラッロさんをお招きしました。イベントの模様とインタビューをお伝えします。

監修/料理長・井上裕基 写真・文/ライター 織田城司
Supervised by Yuuki Inoue    
Photo・Text  by George Oda

1.イベントの概要

通常営業のなかで、グラス、ボトルのワインの提供をドンナフガータ社の5種のワインに限定してクローズアップし、ワイナリーや味を知っていただく機会をつくりました。

ガブリエッラさんが通訳とともに、各テーブルをまわり、ご挨拶やワインの解説、記念撮影などを通してお客さまと交流し、ブランドの印象を高めました。

2.ドンナフガータ社の歴史

ホールスタッフから6月のおすすめメニューの説明を聞くガブリエッラ・ラッロさん

大航海時代、まだ冷蔵庫がない船内で、ワインの保存性を高めるために、アルコールを加え、アルコール度数を高めた酒精強化ワインが生まれました。

酒精強化ワインのひとつに、イタリアのシチリア島西部のマルサラでつくられるマルサラ酒があります。

ドンナフガータ社の母体は1851年、マルサラでマルサラ酒をつくるメーカーとして創業しました。

このメーカーを代々受け継いできたラッロ家の4代目当主が1983年、同じシチリア島のコンテッサ・エンテリーナの地で、ワインをつくるために、新たに創業したワイナリーが、ドンナフガータ社です。

3.ドンナフガータ社と「山猫」

白ワインを持ってメニューを考えるガブリエッラ・ラッロさん

長靴の形をしたイタリア半島は、18世紀まで、小さな国が集まる半島でした。

19世紀になると、国家統一運動が起こり、1861年にイタリア王国が建国されると、統一が成し遂げられられました。

新たな立憲君主国家の制度のもとで、かつて小さな国を統治していた貴族は、ほとんど権力を失い、亡命や引退を余儀なくされました。

シチリアの貴族出身の作家、ランペドゥーザは、イタリア統一をめぐる激動の時代の貴族の姿を、大河小説「山猫」で描き、1958年に刊行されました。

主人公は、シチリアを長年統治してきた、山猫の紋章を掲げる架空の貴族。贅を尽くし、絢爛豪華な暮らしをしていた一族が、近代化の政変で没落していく悲哀を描いた小説は、時代の変化や、世代交代など、普遍的な要素も描き、イタリアのみならず、多くの国で共感を得て、ベストセラーになりました。

「山猫」は1963年、イタリアの貴族の家系出身の名匠ルキノ・ビスコンティ監督により映画化されました。最後の貴族に入れ込む、ビスコンティ自身の矜持と、シチリアの風土を美しく描いた渾身作は、カンヌ映画祭でグランプリを獲得。壮大な歴史絵巻は、圧倒的な迫力で、後の映画監督に大きな影響を与えました。

そんな「山猫」の主人公の貴族一家が、夏の避暑に出かける別荘がある村の名前は、ドンナフガータ村でした。これは、原作の小説を描いたランペドゥーザが創作した架空の村です。

かつて、ランペデューザは毎年夏になると、家族でシチリアのコンテッサ・エンテリーナ近郊の屋敷で過ごしていました。

この屋敷は18世紀末、ナポレオンの侵攻を恐れた、統一前の小さな国、ナポリ・シチリア国の王妃が避難して滞在したことがありました。

そのころ、王妃は近隣の住民から、イタリア語で「ドンナフガータ(逃げてきた女)」と呼ばれていたそうです。

ランペデューザは、この史実を小説の着想に生かし、その屋敷を主人公貴族の別荘のモデルにして、ドンナフガータという言葉を、別荘がある架空の村の名に使いました。

小説や映画、大河ドラマ、アニメなどは、人気になると、その舞台になった地域が注目され、その地を訪ねたいと思う観光客が増え、特産物の需要も増えることがあります。

ドンナフガータ社は創業時、名作「山猫」ゆかりの地が、創業地のコンテッサ・エンテリーナに近いことから、小説に出てくる架空の村の名、ドンナフガータを社名に引用しました。

そして、「山猫」の登場人物の名、タンクレディやセダーラをワインのシリーズ名に引用。最高峰ワイン「ミッレ・エ・ウナ・ノッテ」のラベルに、王妃が滞在した屋敷のイラストを使い、ご当地の名作を販売促進に生かしました。

さらに、2025年3月、アメリカの動画配信サービス、ネットフリックスで、イタリアで新たに製作されたネットフリックス版「山猫」のドラマが配信されると、ドンナフガータ社はタイアップして、自社のアイコンのアピールと地域振興に貢献しました。

今回のメーカーズディナーでは、「ミッレ・エ・ウナ・ノッテ」とネットフリックス版「山猫」とのスペシャルコラボボトルが、一番のおすすめワインとして紹介されました。

ビスボッチャの店内に展示されたドンナフガータ社の「ミッレ・エ・ウナ・ノッテ」とネットフリックス版「山猫」とのスペシャルコラボボトルと箱

4.ドンナフガータ社のマーケティング

ラベルのデザインにステファノ・ヴィターレのイラストを採用したスパークリングワイン「ブリュット」

老舗ワイナリーが多いイタリアで、1983年創業のドンナフガータ社は、新興のメーカーでした。その一方で、マーケティングは、歴史や慣習にとらわれない、自由な発想で展開する勢いがありました。

その成果は、アートとのコラボで発揮されました。

1994年から、画家ステファノ・ヴィターレのイラストをワインのラベルに採用しました。鮮やかな色彩と、素朴でユーモラスなタッチは、一躍人気になり、ドンナフガータ社の認知度を高めました。

2002年から、「ドンナフガータ ミュージック&ワイン」プロジェクトをスタート。5代目のジョゼ・ラッロさん(ガブリエッレ・ラッロさんの母親)がプロディーサー兼リードヴォーカルを担当し、ワインに合わせておすすめしたいジャズやブラジル系の音楽をライブやCD、ストリーミングで発信しています。

2020年から、シチリア出身のラグジュアリー・ファッションブランド「ドルチェ&ガッバーナ」とのコラボレーション・プロジェクトをスタート。クリエイティビティと職人技を融合させた世界観をコンセプトに、ワインの開発と販促ツールのアートワークをトータルで創作し、個性的でハイクオリティなワインの体験を提供しています。

2025年、ネットフリックス版ドラマ「山猫」とのコラボレーションでは、ご当地の名作や、ゴージャスな貴族文化との相乗効果でイメージアップを計りました。

このような、アートとのコラボに通底することは、ワインを楽しむ場の創出と、シチリアの魅力の発信で、ドンナフガータのワインを、より魅力的に彩りました。

5.ガブリエッラさんのプロフィール

白ワインを飲むガブリエッラ・ラッロさん

ガブリエラ・ラッロさんは、ドンナフガータ社5代目の共同当主である、ジョゼ・ラッロさんと、夫のヴィンチェンツォ・ファヴァーロさんとの間に生まれた長女で、直系の6代目当主候補になります。

幼い頃から、将来ワイナリーを継ぐことを意識した教育を受け、国際的なビジネスに必須の英語を習得。学校を卒業後、数年間企業で社会勉強をした後、3年ほど前から、家業のビジネスに加わり、セールス・プロモーションで世界各国を訪問するようになりました。

来日は3回目。最初は10年前で、家族旅行で来日したそうです。昨年から営業活動で来日。

3回目の今回は、イタリアのワインメーカー18社による協力組織、グランディ・マルキ協会が6月2日(月)に有楽町のホテル、ザ・ペニシュラ東京で開催する試飲会に出店することをメインに、ジャパンツアーを組み、大阪と東京のワインショップやレストランでセールスプロモーションを行いました。

6.ガブリエッラさんのマリアージュ

赤ワインを飲むガブリエッラ・ラッロさん

お料理

冷前菜 ・ブラータチーズと甘夏

    ・生ハムとイタリアメロン

    ・初ガツオの炙りカルパッチョ

温前菜 ・ミックス・フライ(ヤリイカ、アナゴ、ズッキーニ)

パスタ ・サマートリュフのタヤリン

メイン ・マダイの炭火焼き

付け合わせ・ホワイトアスパラガスの炭火焼き

     ・ホウレンソウのバターソテー

ドルチェ・ティラミス

    ・抹茶のチーズケーキ

サマートリュフのタヤリン

ワイン

白ワイン 「キアランダ 2021」

白ワイン「キアランダ 2021」 フルーティな味わいがしっかりした辛口

赤ワイン 「スル・ヴルカーノ・ロッソ 2021」

赤ワイン「スル・ヴルカーノ・ロッソ」 エレガントな味わいの辛口

赤ワイン 「ミッレ・エ・ウナ・ノッテ 2021」

赤ワイン「ミッレ・エ・ウナ・ノッテ」 深みのある辛口

デザートワイン 「ベン・リエ 2022」

デザートワイン「ベン・リエ 2022」 濃厚な飲み口の甘口

7.ガブリエッラさんへのインタビュー

ドルチェを注文するガブリエッラ・ラッロさん

ビスボッチャ「ドンナフガータ社のビジネスの概況は?」

ガブリエッレさん「70%がイタリア国内の販売で、30%が輸出です。輸出は70ヵ国で、額が大きい国はアメリカやイギリス、ドイツ、スイス、日本など。

いま、シチリアのワイナリーは、かつてはライバルだった会社も協力して、シチリアのワインを盛り上げる活動をしています。

私は、私のような若い次世代にワインを広めることを考えています。今の若者は、従来のセミナー形式のワインイベントには、誰も興味をを持ちません。

ワインを楽しむ場から生まれる、人々の交流に注目し、音楽やアートを絡めた、カジュアルなイベントを企画しています」

ビスボッチャ「毎日の暮らしのなかで、ワインの飲み方は?」

ガブリエッレさん「水のように飲んでいます」

ランチやディナーにワインを合わせることはもちろん、ワイナリーの製品のチェックや、研究開発の試飲などで、一日のなかで、ワインを飲む頻度は多いそうです。

ビスボッチャ「日本の印象は?」

ガブリエッレさん「エレガント」

ビスボッチャ「ビスボッチャの印象は?」

ガブリエッレさん「イタリアの家にいるようです。料理は、美味しいことはもちろん、アラカルトで量も調節できる点が、体調に合わせられてありがたい。若いお客さまのグループがワインを囲んで食事をする光景も見られ、心強く感じました」

ビスボッチャ「各テーブルをまわり、ワインの解説をしたお客さまの印象は?」

ガブリエッレさん「困りました」

本編でも解説したドンナフガータ社と「山猫」の因果はロングストーリーで、手短に話しても、その関係性がなかなか理解されず、多くのお客さまから「あなたが『山猫』に出てる女優さんですか?」と問われて、困ったそうです。

8.まとめ 

関係者と記念撮影するガブリエッラ・ラッロさん

「山猫」のなかで、貴族の公爵が、「生き残るためには、自ら変わらなければならない」と語る場面があります。

ガブリエッレさんも、自ら変わることで、時代の変化の対応に取り組んでいることを感じました。