第38回 LINGUINE AL PESTO CAVOLO NERO CON OSTRICHE
黒キャベツと牡蠣のリングイーネ
寒さが続く季節は、栄養豊富な料理で体調を整え、風邪を予防したいものです。
そんな季節におすすめのパスタ『黒キャベツと牡蠣のリングイーネ』を紹介します。
リングイーネを計量する副料理長・露詰まみ
解説/副料理長 露詰まみ
写真・文・エッセイ/ライター織田城司
Commentary by Mami Tsuyuzume
Photo・Text・Essay by George Oda
メニューについて
フィレンツェの街並み
トスカーナ産黒キャベツ
◆トスカーナ生まれ、ビスボッチャ育ち
黒キャベツは日本ではまだ馴染みが少ない野菜です。見た目も爽やかさとは程遠いけれど、栄養と食物繊維をたっぷり含み、美味しさも抜群なのです。
黒キャベツ(イタリア語でカーボロネロ Cavolo nero)はイタリアのトスカーナ地方が原産とされる冬野菜です。
サラダはもちろん、ほうれん草よりも繊維質がしっかりしているので煮崩れしにくく、煮込み料理や付け合わせのソテーに使われたりします。
味は甘味と旨味豊かで、コクがあり、苦味は控えめ。いろんな食材と合わせやすく、厨房にそろえておくと重宝します。
黒キャベツが食品売場で山積みになるのがトスカーナ地方の冬の風物詩です。
フィレンツェの市場にみる黒キャベツ
2008年、トスカーナ地方の料理人を招いてフェアを開催したとき、郷土料理をいくつか教えてもらいました。その中に黒キャベツをペースト状にしてソースにするパスタがありました。
そのアイデアに惹かれた料理長井上は味に迫力をプラスして、単品メニューにしようと考えました。いろんな食材を合わせるうちに、牡蠣と相性が良いことを発見しました。こうして、ビスボッチャ・オリジナルのパスタが生まれました。
牡蠣は冬はぷっくり膨らんで大きくなり、栄養をたくさん蓄え、味も良くなる旬です。冬野菜と合わせた季節の味わいをお楽しみください。
フィレンツェのスーパーマーケットに見る黒キャベツ
黒キャベツと牡蠣のリングイーネ
調理
黒キャベツペーストを作る
黒キャベツから太くて硬い葉脈を取り除く
流水で黒キャベツ表面の汚れを洗い落とす
鍋の底にピュアオリーブオイルを入れて火にかけ、軽くつぶしたニンニクを入れて香りをつける
鍋に黒キャベツを入れる
岩塩を少量加え、下味をつける
鍋に蓋をして、黒キャベツを蒸し煮する。蒸し煮は食材の水分を使って加熱する方法。茹でて加熱するよりも味が凝縮される
蒸し煮で加熱した黒キャベツ
加熱した黒キャベツをミキサーでペースト状にする
完成した黒キャベツペーストをミキサーからバットに移す
バットに移した黒キャベツペーストは冷蔵庫で保存しながら使用
パスタソースを作る
牡蠣を流水にさらし、タワシで殻の汚れを落とす
牡蠣は播磨灘のものを使用
洗った牡蠣をフライパンに入れる
フライパンに蓋をする
水を入れ、強火で牡蠣を加熱する
途中で蓋を開け、牡蠣の火の通り具合を確認
フライパンから取り出した牡蠣の殻をむく。フライパンに残った牡蠣エキスはパスタソースに使用
殻から取り出した牡蠣
ソースを作るフライパンにピュアオリーブオイルを敷き、ニンニクのみじん切りと赤トウガラシを入れ、さっと火を通し、味と香りをつける
パスタの茹で汁を加える
自家製魚のダシ汁を加える
牡蠣エキスを加える
牡蠣を投入
強火で余分な水分を飛ばし、味を凝縮
木ベラで牡蠣を2個つぶしてソースのつなぎにする
黒キャベツペーストを加える
黒キャベツペーストを混ぜ合わせてソースの出来上がり
パスタとソースを和える
リングイーネ1人前80gを計量する
リングイーネはパスタの特産地、イタリア南部カンパニア州で1812年に創業したパスティフィーチョ・ヴィチドーミニ社のものを使用
リングイーネはレンズの断面のように中心に厚みがある平麺で黒キャベツのペーストと相性がよい。原料は無農薬有機栽培したイタリア産のデュラム・セモリナ粉を100%使い、昔ながらの竿を使った低温長時間乾燥で風味を凝縮している。U字型は竿に吊るしたなごり。表面はソースがよく絡むようにザラザラした仕上げになっている
パッケージから出したリングイーネは長すぎるため、茹でる直前にU字の折り返し点で半分に割る
さらに半分に割り、30㎝ほどの長さにする
茹で麺機に岩塩を入れる
リングイーネを茹で麺機に入れる。茹で時間約13分
リングイーネが茹で上がるのを待つ
リングイーネの茹で具合を確認する
茹で上がったリングイーネを湯切りする
リングイーネをソースの入ったフライパンに投入
リングイーネをソースと和える
すりおろしたパルメザンチーズを加える。パルメザンチーズは希少な赤牛のミルクを長期熟成させたもの。香りが高く、濃厚な味わいの最高級パルメザンチーズ
エキストラヴァージン・オリーブオイルをふりかける。オリーブオイルの特産地、イタリア南部・プーリア州にある「ディサンティ」社のものを使用。青々しい香りが高い
すりおろしたペコリーノ・ロマーノチーズをふりかける。ペコリーノ・ロマーノチーズは羊のミルクから作るチーズで、約2000年前のローマ帝国の時代から食べられていたイタリア最古のチーズ。パルメザンチーズよりも風味と塩気が強い。ペコリーノ・ボニー社のものを使用
ペコリーノ・ロマーノチーズをふりかけて出来上がり
お召し上がり
黒キャベツと牡蠣のリングイーネ
◆冬の旨味をたっぷりと
リングイーネをフォークですくい上げると重い手応えに驚きます。ソースとしっかり絡んでいるからです。口に含むと、黒キャベツと牡蠣の旨味と甘味、塩味を感じます。
火が良く通り、濃厚でありながらクセがなく、まろやかな味わいです。後味にコクとほろ苦さを感じる深みがあります。
リングイーネのコシとモッチリした歯ごたえの中から現れる小麦の香ばしい風味が程よいアクセントになります。
大きな牡蠣の身はアツアツのため、生牡蠣のようにツルッと飲み込まず、フォークとナイフで食べやすい大きさに切り、味わいながらリングイーネのおかずにします。
ボリューム感とともに、体の中からエネルギーが湧いてくるような余韻があります。
黒キャベツと牡蠣のリングイーネ
黒キャベツと牡蠣のリングイーネ
お飲物
白ワイン「エトナ・ビアンコ “ルチルチ”」
銘柄/エトナ・ビアンコ “ルチルチ”
ワイナリー/アル・カンターラ
生産地/イタリア南部シチリア州
ぶどう種/カッリカンテ種主体
生産年/2014年
◆フレッシュな酸味の辛口
素朴なパッケージが印象的なワインは、シチリア出身の劇作家の作品をワイン名に、シチリア出身の画家の作品をラベルに使ったことが背景だそうです。
ワインはブドウを育んだ土地が独特の味を醸し出す。そんな土着感を表すために、地元出身の作家の作品を使ったユニークなアプローチです。
その味は、シチリア島にあるヨーロッパ最大の活火山であるエトナ山に近いワイナリーらしく、火山灰が多い土壌から生まれる豊富なミネラルがフレッシュな酸味の辛口を醸し出し、黒キャベツと牡蠣の濃厚な旨味を引き立てます。
白ワイン「エトナ・ビアンコ “ルチルチ”」を合わせた黒キャベツと牡蠣のリングイーネ
エッセイ:食のこぼれ話
ロンドンの街並み
『牡蠣の殻をむく人』
レストランで牡蠣の料理を食べていたら、映画『二つ星の料理人』(2015年)を思い出しました。主人公の料理人は才能に恵まれていたけれど、過信から素行が悪くなり、パリの料理界から追放されてしまいます。
料理人は反省するため、素性を隠してアメリカの場末の食堂で下働きします。そのとき、牡蠣の殻を100万個むくことを目標にしました。料理人は目標を達成すると、再起を賭けてロンドンに渡り、三つ星レストランのシェフを目指します。
時には、自分を見つめ直すことも大切だと感じる場面です。さて、目の前の牡蠣の殻をむいた人は、何を考えていたのか?と想像すると、料理もまた味わい深くなります。
黒キャベツと牡蠣のリングイーネ
いつもご利用いただき、誠にありがとうございます。
今宵も、ラ・ビスボッチャのディナーで、素敵なひとときをお過ごしください。