ITALIAN MARRON FAIR 2020
コラム『味と技』第73回
栗を思う秋
秋に美味しくなるイタリア栗を使った料理を集めて、9月16日(水)〜30日(水)までフェアを開催。期間限定メニューが6品登場します。
イタリア栗の濃厚な香ばしさに秋の訪れを感じて、お楽しみください。

タルトに使うマロンクリームを仕込む料理長・井上裕基
監修/料理長・井上裕基
写真・文/ライター 織田城司
Food Direction by Yuuki Inoue
Photo・Text by George Oda
料理長 ごあいさつ

ビスボッチャの炭火焼きグリルで焼いたイタリア栗
栗が大好きです。
子どもの頃、親戚のおじさんが営む近所のケーキ屋へよく行きました。
大好物はモンブラン。
頂上に輝く黄色い栗の甘露煮を初めて食べたときの衝撃は、いまでも忘れません。
幼心に「この世には、こんなにうまいものがあるのか…」と思いました。
それからは、おじさんに栗の増量をお願いするようになりました。おじさんは呆れながら、こっそり2、3個増量してくれました。
学生時代、縄文人が集落で栗の木を栽培し、計画的に栗を収穫しながらメインフードにしていたことを知りました。
私の栗好きや、顔の濃さから縄文顔と呼ばれていた因果が結ばれた気がして、古代ロマンに引き込まれました。
やがて、料理人になると、イタリア人も古代から栗を食べ、たくさんの栗料理があることを知り、栗の奥深さに驚きました。
今年はコロナ禍で世界中が混乱しても、イタリアから美味しい栗が届いたことに感動しました。
そこで、人類の暮らしを古代から支えてきた栗の生命力と美味しさに、健康への願いを込めて、「イタリア栗フェア」を開催します。
皆さまのご来店を、スタッフ一同、心よりお待ちしております。
2020年初秋
料理長 井上裕基
1.焼き栗とブラータチーズのサラダ

焼き栗とブラータチーズのサラダ
メニューについて

ローマで撮影した焼き栗売りの屋台。紙の容器の陳列にイタリアらしい立体的な造形美が見られる
◆イタリアの焼き栗を再現
イタリアの街頭では、焼き栗の屋台が秋の風物詩になっています。
豊かな山脈と森林に恵まれたイタリアは、世界有数の栗の産地で、美味しい栗がたくさん採れます。
イタリアの栗は、日本の栗と品種が違い、焼き栗にすると美味しい性質があります。
本場の焼き栗を再現しながらブラータチーズと合わせます。

ブラータチーズはアメリカの「ディ・ステファノ」社製を使用。イタリア南部プーリア州出身のチーズ職人が、カリフォルニア酪農協会が認めた良質なミルクを使ってつくるチーズ
調理
◆イタリア栗を焼く

イタリア栗を炭火で焼く。栗はイタリア最大の栗産地カンパーニア州アヴェッリーノ産を使用

反対側も焼き、皮をむき、ブラータチーズと盛り付ける
お召し上がり

焼き栗とブラータチーズのサラダ
◆心地よい歯ごたえと香ばしさ
イタリア栗は日本の栗ほど黄色くなく、ベージュがかっています。
渋皮がむきやすく、実はしまり、粘性は少ない。

焼き栗とブラータチーズのサラダ
口に含んでかじると、ポリッと割れ、ホクッとくずれる歯ごたえのリズムが心地よい。
噛みしめると香ばしさが濃厚で、まろやかな甘みがあり、ブラータチーズのミルキーな味によく合います。

焼き栗とブラータチーズのサラダ
2.栗とラルドのクロスティーニ

栗とラルドのクロスティーニ
メニューについて
◆トッピングの妙を楽しむ
薄く焼いたトーストに具材をのせるクロスティーニ。季節によって、いろんな具材を自由にのせます。
今回は、イタリア栗のみじん切りに、豚の背脂を熟成させてつくるイタリアの食肉加工品ラルドを合わせ、その妙味を楽しみます。
調理
◆トッピングの栗の下ごしらえ

トッピングに使うイタリア製シロップ漬け栗(左)とイタリア栗を焼いたもの

シロップ漬け栗はイタリア北部ピエモンテ州のフルーツ加工品のリーディングカンパニー「アグリモンタナ 」社のものを使用

シロップ漬け栗と焼き栗をみじん切りにして混ぜ合わせ、トッピングに使う
◆ラルドをスライスする

スライサーでラルドを薄くスライスする

ラルドとその断面。イタリア中部トスカーナ州の「サヴィーニ」社が手掛ける高級ブランド豚「チンタセネーゼ」のラルドを使用。風味がより濃厚に仕上がる

スライスしたラルド。融点が低く、スライスするとすぐにしんなりと柔らかくなり、光沢が出てくる
◆パンを切って焼く

自家製パーネトスカーナを切り出す

さらに半分に切る

炭火で焼く

反対側も焼き、ラルドと栗のみじん切りをトッピングして仕上げる
お召し上がり

栗とラルドのクロスティーニ
◆ラルドがつなぐ栗とパン
イタリアではラルドを薄く切ってパンに乗せ、バターのように使うことがポピュラーです。
特にチンタセネーゼのラルドは融点が低く、焼き立てのアツアツのパンにのせると、すぐにしっとりして、脂が栗とパンによくなじみます。

栗とラルドのクロスティーニ
ラルドの熟成香や旨味、コク、塩味は、栗のみじん切りの甘みを引き立てます。
パンはサクサクとして、焼き目の苦みがアクセントになります。

栗とラルドのクロスティーニ
3.栗と銀杏のパッパルデッレ 猪のラグーソース

栗と銀杏のパッパルデッレ 猪のラグーソース
メニューについて
◆山の幸を豪快に味わう
トスカーナ州のご当地パスタ、パッパルデッレ。
幅広で食べごたえがあることから、猪を使った強い味のソースがよく合います。
具材にイタリア栗と国産の銀杏を合わせ、トスカーナ風に山の幸をたっぷり味わいます。
調理
◆銀杏の下ごしらえ

殻から取り出した銀杏の実をフライパンで炒る。銀杏は国産を使用

炒った銀杏の渋皮をむく
◆ソースをつくる

猪の挽肉を香味野菜や赤ワインと合わせ、加熱する

茹でたイタリア栗と炒った銀杏を具材として加える

自家製トマトソースを混ぜ合わせてソースの完成
◆仕上げる

パッパルデッレを茹でる

パッパルデッレは自家製の生パスタ。生地は卵黄を増量した卵、小麦粉、セモリナ粉、オリーブオイル、塩を練ってつくる

パッパルデッレの茹で時間は3分30秒

茹で上がったパッパルデッレをソースのフライパンに投入

パッパルデッレとソースを和える

イタリアンパセリのみじん切りと、パルメザンチーズ、黒コショウを振りかけて仕上げる
お召し上がり

栗と銀杏のパッパルデッレ 猪のラグーソース
◆栗と銀杏の組み合わせが絶妙
猪のラグーは、噛みしめるほどに濃厚な旨みやコクが出てきます。
パッパルデッレの卵の豊かな風味が丁度よく絡みます。

栗と銀杏のパッパルデッレ 猪のラグーソース
ソースの中から出てくる栗は柔らかくて甘く、銀杏は弾力に富んで苦い。
相反する味が交互に出てくるアクセントが絶妙で、猪のラグーソースとともに、山の幸の奥深さを堪能します。

栗と銀杏のパッパルデッレ 猪のラグーソース
4.栗のリゾット 栗の葉包みチーズ味 白トリュフかけ

栗のリゾット 栗の葉包みチーズ味 白トリュフかけ
メニューについて
◆イタリア版栗ご飯
栗と米が合うことは、イタリア人も知っているらしく、秋は栗のリゾットが人気です。
栗の葉包みチーズや白トリュフを合わせ、イタリアにいるような、濃厚な風味でおとどけします。
調理

イタリア米を自家製鶏のダシ汁で炊く

リゾットに使うイタリア米のブランド「アクエレッロ」。イタリア最大の米どころピエモンテ州ヴェルチェッリ県で1935年からリゾット用の米をつくり続ける「ロンドリーノ」社が手掛ける

自家製鶏のダシ汁は、鶏がらやひね鶏の肉、トマト、タマネギ、ニンジン、セロリ、ローリエなどを約6時間かけて煮込んだもの

塩をひとつまみ入れ、味をつける

茹でたイタリア栗を加える

無塩バターを加える

栗の葉包みチーズをカットする

栗の葉包みチーズはイタリア北部ピエモンテ州のチーズ職人ベッピーノ・オッチェッリ氏が手掛ける高級チーズ。熟成されたチーズの旨味とコクに栗の葉の香りが移り、複雑な味の層が口の中に広がる

カットした栗の葉包みチーズを加える

擦り下ろしたパルメザンチーズを加える

混ぜ合わせて盛り付ける

スライスした白トリュフを振りかけて仕上げる

今回撮影に使用した白トリュフはイタリア北部エミリア・ロマーニャ州産のお初物
お召し上がり

栗のリゾット 栗の葉包みチーズ味 白トリュフかけ
◆濃厚なチーズとトリュフの風味
トリュフは、バターやチーズなどの乳製品と相性がよく、香りが引き立ちます。
特に香りが高い白トリュフは、栗の葉で包んで熟成されたチーズの濃厚な風味がバランスよくなじみます。

栗のリゾット 栗の葉包みチーズ味 白トリュフかけ
リゾットに使われている栗や米、乳製品にはどれも自然の甘みがあります。
甘みの広がりとともに、濃厚な風味のコントラストを楽しみます。

栗のリゾット 栗の葉包みチーズ味 白トリュフかけ
5.豚肉の骨付き肩ロースの炭火焼き 栗のピューレ添え

豚肉の骨付き肩ロースの炭火焼き 栗のピューレ添え
メニューについて
栗やドングリなどの木の実を好んで食べる猪や豚の肉質は、栗の料理とよく合います。
今回は、茨城県の高級ブランド豚肉「常陸の輝き」の骨付き肩ロースを炭火で焼き、栗の甘みが生きたピューレを添えます。
調理
◆栗のピューレをつくる

茹でたイタリア栗を牛乳と生クリームで加熱

ナツメグのパウターを加え、香りをつける

加熱したイタリア栗と牛乳類をポッドに移し、ミキサーで攪拌する

攪拌した栗と牛乳類を煮詰め、味を整えて栗のピューレの出来上がり
◆豚肉を焼く

茨城県産の高級ブランド豚肉「常陸の輝き」の骨付き肩ロースの塊肉

豚肉を塊肉から切り出す

塩コショウで下味をつける

炭火で焼く

反対側も焼く

トングを使って側面も焼く

焼き上がった豚肉の骨を外し、食べやすい大きさに切り分け、栗のピューレを添え、ローズマリーをちぎって盛り付ける
お召し上がり

豚肉の骨付き肩ロースの炭火焼き 栗のピューレ添え
◆味わい豊かな柔らかい豚肉
焼き上がった豚肉はしっとりと柔らかく、香ばしい風味はクセがなく、透明感がある。
ピンク色に焼けた赤身はジューシーで、甘みから旨みへの幅が広い。

豚肉の骨付き肩ロースの炭火焼き 栗のピューレ添え
揚げ物のようにサクサクに焼き上がった外側は香ばしさとコクが際立つ。
白い脂分はトロトロに柔らかくなり、ほのかな甘みを感じる。
栗のピューレのマイルドな甘さが、豚肉の多彩な美味しさを引き立てます。

豚肉の骨付き肩ロースの炭火焼き 栗のピューレ添え
おすすめのワイン

赤ワイン「リエッシィ」
◆骨太でしっかりした辛口
銘柄/リエッシィ
ワイナリー/フォッサコッレ
生産地/イタリア中部トスカーナ州
ぶどう種/カベルネ・ソーヴィニョン40%プティヴェルド30%メルロー30%
生産年/2015年
完熟したフルーツの香りと、骨太のしっかりした辛口は、いかにもトスカーナワインらしい力強さです。
豚肉のジューシーな旨みに対し、対照的な味のワインを合わせることで、メリハリのあるペアリングを楽しみます。

豚肉の骨付き肩ロースの炭火焼きに赤ワイン「リエッシィ」を合わせて
6.トルタ・レッジーナ

トルタ・レッジーナ
メニューについて
◆女王陛下のタルト
イタリア語で「女王陛下のタルト」を意味するトルタ・レッジーナ。
ビスボッチャに代々伝わるお菓子です。
見た目が女王陛下の王冠に似ていることが名称の由来です。
濃厚な栗のクリームと、宝石に見立てたシロップ漬け栗を使い、栗好きにはたまらない甘さです。
調理
◆タルトの生地を焼く

タルト用の生地を練る

めん棒で生地を叩いて広げる

めん棒で生地をさらに広げる

生地を型に入れる

めん棒を使って余分な生地を切り落とす

生地をそのまま焼くと、中に含まれる空気が膨張して底辺が変形してしまう。この現象を回避し、タルトの底辺をフラットに保つために、空気を逃す穴をフォークで開ける

生地の底辺をフラットに保つため、タルトストーンと呼ばれるアルミニウムの重石を乗せる

オーブンに入れ、180℃で10分焼く

焼き上がったタルトからタルトストーンを外す

底辺の上部を焼くため。さらにオーブンで12分ほどかけて焼く

底辺がフラットで、サクサクに焼き上がったタルトの生地
◆クリームをつくる
①チョコレートクリーム

チョコレートクリームを練る

カスタードクリームを加える

混ぜ合わせてチョコレートクリームの出来上がり
②マロンクリーム

缶詰から出したマロンペーストを柔らかくするため、ミキサーの容器に入れる

マロンペーストはフランスのサバトン社のものを使用。皮をむいた栗を裏ごししたものと、マロングラッセをペーストにしたものを合わせて他の材料と煮詰め、香りが高い

ミキサーでマロンペーストを練る

カスタードクリームを混ぜ合わせる

ミキサーから出したマロンペーストとカスタードを混ぜたクリームに生クリームを混ぜてマロンクリームの出来上がり
◆タルトを組み立てる

タルト生地の底にチョコレートクリームを敷き詰める

2層目にマロンクリームを敷き詰める

3層目に薄くスライスしたスポンジを乗せる

4層目に生クリームを絞って乗せる
◆トッピングを飾る

ピスタチオのみじん切りを飾る

シロップ漬け栗を飾る

シロップ漬け栗は、イタリア北部ピエモンテ州で1972年に創業したフルーツ加工品のリーディングカンパニー「アグリモンタナ」社のものを使用。ピエモンテ州特産の大粒で口溶けがまろやかな栗でつくられている

カカオパウダーを振りかけて完成

ココアパウダーは、1828年に世界で初めてココアパウダーの製造法を発明したオランダの「バン・ホーテン」社のものを使用
お召し上がり

トルタ・レッジーナ
◆甘みに感じる木の実の迫力
茶色いチョコレートクリームの苦み、薄茶色のマロンクリームの香ばしい甘さ、白い生クリームのミルキーな甘さ。
3色のクリームが織りなす甘さの共演を舐めるよう楽しみます。サクサクに焼けたタルト生地の質感がコントラストになります。

トルタ・レッジーナ
トッピングの大粒のシロップ漬け栗はネットリして、栗の風味と甘みが濃厚。ピスタチオとともにアクセントになります。
全体に木の実から成り立つ食材が多く、その迫力と底力を堪能します。

トルタ・レッジーナ
朝晩の涼しさに、秋の気配を感じたら、
ラ・ビスボッチャの「イタリア栗フェア」でお楽しみください。
