ワインや食材の生産者さんをお招きして、ディナーに来店されるお客さまと交流していただくイベント「メーカーズ・ディナー」
2023年9月27日(水)は、イタリアのワインメーカー「マシャレッリ」の当主、マリナ・ツヴェティッチさんをお招きしました。イベントの模様とインタビューをお伝えします。
監修/料理長・井上裕基 写真・文/ライター 織田城司
Supervised by Yuuki Inoue
Photo・Text by George Oda
1.マリナ・ツヴェティッチさんへのインタビュー
愛の力
マシャレッリは、イタリア中部アブルッツォ州で1981年、ジャンニ・マシャレッリさん(1956〜2008)が、20代なかばで、自宅の前に広がる2.5haのほどのブドウ畑を活用して創業しました。その美味しさが評判になり、生産量が増えました。
ジャンニさんが2008年に亡くなると、夫人のマリナ・ツヴェティッチさんが当主を継いで現在に至ります。
ツヴェティッチは、イタリア人では聞きなれない名前です。その背景を、マシャレッリのワインを1994年から日本に輸入している代理店オーデックス・ジャパンの森俊彦社長は、マリナさんは、セルビア人の父親と、クロアチア人の母親から生まれたハーフだと説明しました。
マシャレッリのブランドの中核は「マリナ・ツヴェティッチ」です。これは、ジャンニさんが存命中に、夫人のフルネームをブランド化したものです。仲の良い夫婦だったことは、想像できます。しかし、日本の酒蔵で、当主が夫人のフルネームをブランド化することは稀です。ご本人が来店された機会に、その背景を尋ねました。
マリナさんとジャンニさんとの出会いは?
マリナ・ツヴェティッチさん「ビーチよ。クロアチアのビーチ。1988年、私が20歳の時でした。
そのころ、私はクロアチアで、祖父母のワイン造りを手伝っていました。そこからビーチは近かった。そこで、ジャンニとはじめて会いました。ジャンニは30歳くらいだった。イタリアからバケーションで来ていました」
ジャンニさんのどこに惹かれたのですか?
マリナ・ツヴェティッチさん「インテリジェントで、料理が上手だった。いろんな話をしてくれた。かわいい一面もあった。魅力にあふれ、磁石に引き寄せられるようでした。それで、何回も会いました。私は好きなものを、すぐ手に入れたがる性格なので」
クロアチアからイタリアに嫁入りするとき、家族から反対されませんでしたか?
マリナ・ツヴェティッチ「誰も止めませんでした。母も祖父母もジャンニのことが好きでした。威張らず、謙虚で、それでいながら情熱的なところが。
もし、私が日本人を好きになったら、すぐに日本へ行きたいと思うでしょう。自分が気に入ったら、とにかく手に入れたいと思う。何も後悔しない。それが人生。
ビジネスにリスクがあるように、人生にもリスクはあるけれど、挑戦しなければ、新しいことは生まれません。私はいつもポジティブでいたい」
ジャンニさんがあなたの名前をワインのブランドにしたとき、どんな印象でした?
マリナ・ツヴェティッチさん「パワー・オブ・ラブ。愛の力よ」
日常生活でのワインのたしなみは?
マリナ・ツヴェティッチさん「ワインは毎日、グラス1杯飲みます。自社のワインばかりではありません。フランスやポルトガル、ギリシャのワインをイタリアへ輸入する事業も展開しているので、そのワインも飲みます。夏は白かロゼ、冬は赤を飲むことが多いです」
日本の印象は?
マリナ・ツヴェティッチさん「訪日の回数は、まだ少ないです。でも、日本は大好きです。
多くの外国人が感じる、公共施設やトイレがきれいという印象もあるけれど、私は自分が仕事人間だと思っています。ジャンニも仕事人間でした。
だから勤勉な日本人と、共通する雰囲気が好きです」
2.ワインと料理
◆マリナ・ツヴェティッチさんが注文されたメニュー
前菜
・トリッパとギアラとほうれん草のトマト煮込み(年間定番)
・ヤリイカのフライ(年間定番)
・花ズッキーニの水牛モッツァレッラ詰めのフライ(年間定番)
パスタ
・白トリュフのタヤリン(9月のメニュー)
肉料理
・アイルランド産ヘアフォード牛Tボーンの炭火焼き(年間定番)
付け合わせ
・ローストポテト、炭火焼き野菜(年間定番)
ドルチェ
・木こりのティラミス(9月のメニュー)
マリナ・ツヴェティッチさんは、はじめにメニューの説明をひととおり聞くと、年間定番メニューリストを見ながら、「トリッパとヤリイカ、それとお肉が食べたい」とリクエストしました。
夜はパスタを食べないそうですが、同席者から白トリュフのタヤリンのリクエストがあり、追加しました。合わせるワインは、マリナ・ツヴェティッチさんが自ら自社のワインを選びました。
ビスボッチャの料理の印象は?
マリナ・ツヴェティッチさん「モルト・ボーノ!(とても美味しい)。特にお肉が美味しかった。炭火焼きには赤ワイン『マリナ・ツヴェティッチ・イスクラ』がよく合います。
3つの風に育まれたブドウを使っています。グランサッソ山脈の冷たい風、アドリア海の潮風、シチリアの暖かい風。ブドウの味が繊細で深みがあります。
その印象を象徴するブランド名『イスクラ』というスラブ語を、各国の言葉に訳した単語を、ラベルに入れました。日本語の『ひらめき』や『火花』の表記もあります」
マシャレッリのワインの特徴は?
マリナ・ツヴェティッチさん「どんな料理にもよく合います。メキシコ料理やブラジル料理、中華料理、日本料理。
ラーメンにもよく合います。今回の来日で連れて行っていただいた高輪のお店で、実際にラーメンと合わせて、感じました」
店内では、マリナ・ツヴァティッチさんのサイン入りボトルを即売するサービスも行われました。そのために、オーデックス・ジャパンが持ち込んだ2ダースのワインは完売しました。
マリナ・ツヴェティッチさんは、ワインを購入されたお客さまにご挨拶し、記念撮影に応じながら、交流を楽しみました。
3.オーデックスジャパン森俊彦社長の近況
「ブロンプトン」と「高輪の仙人」
オーデックス・ジャパンの森俊彦社長は、1944年生まれ。1972年に高輪でオーデックス・ジャパンを設立。欧州商品の輸入を手がけ、1994年からイタリアワインの輸入をはじめる。
その境地は「ワインは顔で選ぶ」
今回の会食では、自転車とホテルのお話を紹介していただきました。
「BROMPTON(ブロンプトン)」は、英国で開発された折りたたみ式自転車です。1975年に発明され、1987年頃から発売されました。日本への輸入は、1997年から始まりました。最初に輸入したのは、森俊彦社長だったそうです。
ちょうど、メイカーズ・ディナーが開催された頃、日本で『BROMPTON図鑑』(山本耕司著 別冊ステレオサウンド)という本が発売されました。
この本には、ブロンプトンが日本に輸入された当時の記事もあり、初代インポーターの森俊彦社長に今年8月、インタビューした談話も挿入されました。
それによると、1990年代、イギリスでブロンプトンを入手した森俊彦社長は、すぐに折りたたみ、次の目的、フランスのボルドーへ向かうエールフランスの機内に預けました。ボルドーに着くとブロンプトンを組み立て、自転車でレストランやワイナリーめぐりを楽しんだという。
自転車のモバイル。ブロンプトンの新体験を気に入った森俊彦社長は、1997年に10台輸入し、高輪のショールームに置きました。しかし、当時はまったく売れず、苦労したそうです。
今でこそ、自転車通勤や健康、趣味で自転車に乗る人が増え、ブロンプトンの価値も認められてきたけれど、当時は早すぎたのかもしれません。そんな森俊彦社長の達観を、記事では「高輪の仙人」と紹介していました。
フランスの旅行ガイド誌にマシャレッリのホテル
森俊彦社長夫妻は、今年の夏、ビスボッチャの社員がイタリア研修出張の一環で、アブルッツォ州のマシャレッリ社を訪ねた時にアテンドで同行されました。
そのとき一同は、マシャレッリ社が運営する古城をリノベーションしたホテル「セミヴィコリ城」に宿泊しました。
森俊彦社長は、高級レストランやホテルを案内するフランスの旅行ガイド誌「les colectonneurs(レ・コレクショヌール)」がホテルに置いてあることを発見。「セミヴィコリ城」も、イタリアのおすすめホテルとして掲載されていたそうです。
3.まとめ
マリナ・ツベティッチさんは、食事が終わると、イタリア人ホール係のルイジに、ワインリストを見せてもらい、マシャレッリを含む、イタリアワインの仕入れ状況をリサーチしました。
メイカーズ・ディナーで、ワイナリーの当主が来店されても、イベントでは自社のワインしか飲まないので、店のワインリストを見る方は、意外と少ない。
マリナ・ツベティッチさんは、ファンとの交流では、イタリア人らしいフレンドリーな一面を見せる一方、インタビューでは、自称仕事人間で、常にポジティブが信条、と力強く語りました。
森俊彦社長いわく、ワインは顔で選ぶ。
マリナ・ツヴェティッチさんがつくるワインは、どのような料理にも合わせやすい一方で、芯の強さもあるのだと感じました。