RECOMMENDED SEASONAL MENU 2021 FEBRUARY
コラム『味と技』第82回
春の予感
2月は、冬本番の寒さが続きますが、食材の旬に少しずつ春の気配を感じます。
そんなよろこびをイメージして、ぬくもり感のあるメニューを6品集めておすすめします。
前菜の下ごしらえをする料理人・村澤大
メニュー編集・調理/料理人・村澤大
監修/料理長・井上裕基 副料理長・露詰まみ
写真・文/ライター 織田城司
Menu editing・Cooking by Dai Murasawa
Supervised by Yuuki Inoue Mami Tsuyuzume
Photo・Text by George Oda
1.ブラータチーズと焼きリンゴのサラダ
ブラータチーズと焼きリンゴのサラダ
メニューについて
◆濃厚な甘酸っぱさと合わせて
ブラータチーズのミルキーな甘みは、果物や野菜、生ハムなど、幅広い食材とよく合います。
2月は、焼きリンゴの濃厚な甘酸っぱさと合わせてサラダをつくります。
ブラータチーズはアメリカの「ディ・ステファノ」社製を使用。イタリア南部プーリア州出身の親子2代のチーズ職人が、アメリカのカリフォルニアで生産するフレッシュチーズ。バランスのとれた飼料を与えられ、自由に放牧された「ハッピー・カウ」のミルクを使用。チーズの皮が薄く、とろーりとした中身がたっぷりして、ミルキーな風味と甘みが濃厚
「ディ・ステファノ」のブラータチーズが購入できる通販サイトのリンクはこちら→「THE FOODS」
調理
リンゴの芯をくり抜く
果肉をたくさん残すため、芯は底まで貫通しないようにくり抜く
焼きリンゴに使うリンゴは、日本最大のリンゴの産地、青森県の「紅玉(こうぎょく)」種を使用。果肉が緻密で、加熱しても形崩れしにくいことから製菓に適する。太陽の光をうけて養分をつくる葉を取らずに栽培するため、リンゴの表面に色ムラができ、一般の店頭には出ないが、味はギュッと凝縮している
芯を除いたリンゴをオーブンで15分焼く
焼き上がったリンゴを冷ます
リンゴにミントの葉を飾り、ブラータチーズを盛り付け、黒コショウとエキストラヴァージン・オリーブオイルで味と香りをつける
黒コショウは世界最高峰の産地、カンボジアで日本人が手がける「クラタペッパー」社製を使用。柑橘系や木材系などのリラックス感ある香りが高く、爽やかな辛みがある
オリーブオイルはイタリア南部の特産地、プーリア州にある「ディサンティ」社製を使用。青々しい香りが高い
お召し上がり
ブラータチーズと焼きリンゴのサラダ
◆自然の甘酸っぱさが濃縮
焼きリンゴは、甘味料や香料を加えず、リンゴそのものを加熱しただけです。
自然の甘酸っぱさが濃縮した素朴な味わいが、ブラータチーズのミルキーな甘さとよく合います。
ブラータチーズと焼きリンゴのサラダ
デザートのようですが、ブラータチーズは甘さだけではなく、チーズらしい旨みもあり、オリーブオイルや黒コショウとの相性も抜群。
「やはり、前菜なのだ…」と納得する、新鮮な味わいをお楽しみください。
ブラータチーズと焼きリンゴのサラダ
ラ・ビスボッチャ店内
2.ホワイトアスパラガスのビスマルク風
ホワイトアスパラガスのビスマルク風
メニューについて
◆ヨーロッパの春告げ野菜を味わう
中世の頃から、ヨーロッパの春の風物詩とされてきたホワイトアスパラガスを空輸し、シンプルに茹で、美味しさを引き出し、相性のいいバターや卵と合わせていただきます。
イタリア料理で目玉焼きをのせるとビスマルク風と表現するのは、19世紀のドイツの首相、ビスマルクがドイツを統一するために唱えた、富国強兵を推進するパワフルな「鉄血政策」に由来します。
ホワイトアスパラガスは、春の訪れを実感する味わいから、毎年春先になるとお客さまから入荷の問い合わせを多くいただき、最盛期は一日40本ほど出る旬菜です。
調理
◆ホワイトアスパラガスの下ごしらえ
ホワイトアスパラガスはフレッシュタイプを使用。豊かな川と森が広がるフランス中部の特産地、ロワール地方産。中世の王族が好んで住み、世界遺産の古城が多く残る観光地としても有名
ホワイトアスパラガスの皮をむく。茎が湾曲しているため、皿などで台座をつくり、回しながら皮をむく
皮をむいたホワイトアスパラガスの集積
ホワイトアスパラガスの皮からダシをとり、ダシ汁をつくる。
ダシをとった皮はダシ汁から取り除く
ダシ汁にホワイトアスパラガスを投入
ホワイトアスパラガスをダシ汁で茹で、岩塩を入れながら下味をつける。食べる直前に再度茹でて仕上げるため、この段階では完全に茹でない。ダシ汁にホワイトアスパラガスの味がついているので、茹でる本体の味の流失を防ぐことができる
下茹でしたホワイトアスパラガスを、保存するために冷ます
冷ましたホワイトアスパラガスもダシ汁に浸し、さらに味をなじませる
◆目玉焼きをつくる
フライパンにオリーブオイルを敷き、卵を焼く
卵は神奈川県産の「長寿卵」。卵黄がオレンジ色で味に深みとコクがあり、イタリアの卵の質に似ていることから使用
自家製鶏のダシ汁を入れ、フタをして蒸し焼きにして、味と風味をつける
自家製鶏のダシ汁は、鶏がらやひね鶏の肉、トマト、タマネギ、ニンジン、セロリ、ローリエなどを約6時間煮込んでつくる
◆仕上げる
お客さまから注文をいただくと、下茹でしたホワイトアスパラガスをダシ汁で再度茹でる
温めた澄ましバターを敷き、茹で上げたホワイトアスパラガスを盛り付ける
澄ましバターは香りが高く、味があっさりしてホワイトアスパラガスとよく合う。澄ましバターはボウルの底を加熱してバターを溶かし、タンパク質を分離し、上澄みの乳脂肪だけを取り出してつくる
目玉焼きをトッピングし、パルメザンチーズを振りかけて仕上げる
お召し上がり
ホワイトアスパラガスのビスマルク風
◆柔らかい穂先と茎に感じる春
茹で上がったホワイトアスパラガスは、半透明の繊維が集積した乳白色が美しく、青々しい香りがまろやかに漂います。
小さな穂先はとろける柔らかさがあり、太い茎はしなやかで、サクッとした歯ごたえが心地よい、絶妙の茹で加減です。
ホワイトアスパラガスのビスマルク風
穂先は甘みがきわだち、茎は旨みとほろ苦さがあります。
バターや卵が引き立てるホワイトアスパラガスの味と香りに、春の大地の息吹きを感じます。
ホワイトアスパラガスのビスマルク風
ラ・ビスボッチャ店内
3.ラディッキォ・タルディーヴォとスカモルツァ・チーズのオーブン焼き
ラディッキォ・タルディーヴォとスカモルツァ・チーズのオーブン焼き
メニューについて
◆焼いて美味しい食材を合わせて
ラディッキォ・タルディーヴォは、イタリアの冬野菜で、生でサラダにして食べても美味しいけれど、焼いて香ばしさが増した味わいも人気があります。
スカモルツァ・チーズは、イタリアで保存食用につくられたチーズで、水分を極力少なくして、燻製が施されています。焼くと香りが増し、モッチリとした食感になることから、焼いて食べる方がメジャーになった珍しいチーズです。
この焼いて美味しい食材2種を合わせてオーブンで焼き、アツアツの前菜をつくります。
調理
ラディッキォ・タルディーヴォは、イタリア北部ヴェネト州トレヴィーゾ県特産の冬野菜。鮮やかな紫と白のコントラストが美しく、イタリアでは「冬の花」とよばれている
ラディッキォ・タルディーヴォを食べやすい大きさにカットする
耐熱容器の底にバターを塗る
ラディッキォ・タルディーヴォの曲線を上手く利用して敷き詰める
オーブンで焼く前に、味と香りつけるため、無塩バター、塩、オリーブオイルを振りかける
オーブンで5分加熱
スカモルツァ・チーズをカットする
スカモルツァ・チーズは、イタリア北部トレンティーノ=アルト・アディジェ州で1957年に創業した「アバシャーノ社」製を使用
パッケージから出したスカモルツァ・チーズ。表面のキツネ色に燻製効果を感じる
オーブンで5分加熱したラディッキォ・タルディーヴォの上にスカモルツァ・チーズをのせ、パルメザンチーズを振りかける
再びオーブンで加熱する
イタリアンパセリのみじん切りとエキストラヴァージン・オリーブオイルを振りかけて仕上げる
お召し上がり
ラディッキォ・タルディーヴォとスカモルツァ・チーズのオーブン焼き
◆イタリアならではの芳香を堪能
熱でとろけたスカモルツァ・チーズは、お餅のような柔らかさと弾力があります。
キツネ色の部分は燻製香が増し、クリーム色の部分はミルキーな風味と旨みが濃厚です。
一緒に焼いたパルメザンチーズが相乗効果になり、チーズの熟成香を高めます。
ラディッキォ・タルディーヴォとスカモルツァ・チーズのオーブン焼き
焼き上がったラディッキォ・タルディーヴォは、先端の紫色の部分はサクサクとして、香ばしさとほろ苦さがあります。
白い部分はしっとりと柔らかく、甘みや旨みを感じます。
2種の食材を食べ合わせながら、イタリアならではの芳香を堪能して、温まります。
ラディッキォ・タルディーヴォとスカモルツァ・チーズのオーブン焼き
ラ・ビスボッチャ店内
4.ワタリガニのソースと菜の花のカネロニ
ワタリガニのソースと菜の花のカネロニ
メニューについて
冬に美味しく感じる、オーブン焼きのパスタ。
そのなかから、今回はカネロニという大きな筒型パスタをおすすめします。
冬の味覚、ワタリガニでソースをつくり、菜の花と一緒に自家製生パスタで巻き、ベシャメルソースとパルメザンチーズをのせてオーブンで焼きます。
調理
◆ワタリガニのソースをつくる
ワタリガニは身が締まっていることにこだわり、海水が冷たい青森県産を使用
ワタリガニのソースは、カニの身に、甲羅を加熱して抽出したエキスやカニ味噌、トマトソースを合わせてつくる
◆菜の花の下ごしらえ
菜の花は千葉県産を使用
菜の花に下味をつけるため、茹で汁に岩塩を入れる
菜の花を茹で、下味をつける。後でオーブンでも加熱するため、ここではサッと茹でる
◆カネロニの生地の下ごしらえ
自家製生パスタの生地をカネロニ用に長方形にカットする
カネロニの生地を4分茹でる
茹で上げたカネロニの生地を布の上に広げ、水分を吸収する
◆仕上げる
カネロニの生地の上に茹でた菜の花とワタリガニのソースをのせる
具材を生地で巻く
巻いたカネロニを耐熱容器に並べる
ベシャメルソースと、粗めに挽いたパルメザンチーズをトッピングする
オーブンで15分加熱して出来上がり
お召し上がり
ワタリガニのソースと菜の花のカネロニ
◆とろりとしたワタリガニの濃厚なコク
焼き上がったカネロニは、ベシャメルソースとパルメザンチーズが香ばしく、食欲をそそります。
カネロニの生地は、ベシャメルソースがかかった部分はしっとりと柔らかく、卵の風味をたっぷり感じ、かかっていない部分は直接焼け、カリカリの食感で、香ばしさがきわだち、2種の美味しさを楽しみます。
ワタリガニのソースと菜の花のカネロニ
とろりとしたワタリガニのソースは、カニの身とカニ味噌がたっぷり入り、濃厚なコクがあります。
一緒に詰めた菜の花は、ホクホクと柔らかく、じんわりとした温かさに、ほのかな甘みや苦みを感じ、ワタリガニの濃厚な味わいをまろやかな印象にまとめます。
ワタリガニのソースと菜の花のカネロニ
ラ・ビスボッチャ店内
5.自家製ソーセージの白インゲン豆煮込み
自家製ソーセージの白インゲン豆煮込み
メニューについて
イタリアのトスカーナ地方に「白インゲン豆のウチェレット」という郷土料理があります。
これは、白インゲン豆を、セージやニンニクで風味付けしたトマトソースで煮込んだ料理です。
この煮込みに、自家製生ソーセージを加えてボリュームアップした、贅沢な一品です。
調理
◆自家製生ソーセージの下ごしらえ
豚の挽肉はしっかりした歯ごたえと旨みにこだわり、赤身の多い部位、肩、腕、モモ、バラをブレンド。フィレンツェ風に、食べごたえのある大粒の粗挽きにする
挽肉の調味料と香辛料を混ぜ、味と香りをつける
味と香りをつける材料。左からシチリア産海塩、インド産フェンネルシード、カンボジア産ブラックペッパー、スペイン産ニンニク
味と香りをつけた挽肉は、ふっくらした粒感を生かすため、天然の豚腸に手詰めする。その後、味を落ち着かせるため冷蔵庫で24時間保存
◆白インゲン豆の下ごしらえ
乾燥白インゲン豆を2日間水に浸け、水分を含ませる
乾燥白インゲン豆はイタリア産を使用
白インゲン豆を茹で、さらに柔らかくする。セージやニンニクで香りをつける
セージは千葉県産を使用
ニンニクはスペイン産を使用。実の皮は紫色。香りがマイルドで、エグ味が少なく、爽やかな辛味がある
◆仕上げる
フライパンにオリーブオイルを敷き、自家製生ソーセージの表面に焼き色をつけ、旨みを封じ込める
反対側からも焼く
焼き色をつけた自家製生ソーセージを、自家製トマトソースや鶏のダシ汁、セージ、ニンニクを入れて煮込む
茹でた白インゲン豆を入れ、煮汁に馴染ませて出来上がり
お召し上がり
自家製ソーセージの白インゲン豆煮込み
◆まろやかな旨みを堪能
自家製生ソーセージは、フレッシュな豚肉が生きて、大粒の挽肉がふっくらとして、まろやかな旨みを豊かに感じます。
トマトソースと合わせた味も美味しく、挽肉に混ぜたフェンネルシードの爽やかな香りが、程よいアクセントになります。
自家製ソーセージの白インゲン豆煮込み
じっくり煮込んだ白インゲン豆は、舌の上でとろける柔らかさで、甘みをしっかり感じます。
フォークとナイフでカットしたソーセージの断面から、ボロボロと崩れ落ちた挽肉と一緒に食べると、甘みがより引き立ちます。
自家製ソーセージの白インゲン豆煮込み
ラ・ビスボッチャ店内
6.サクサクシュークリーム 2色(ヘーゼルナッツ、生クリーム)のクリーム入り
サクサクシュークリーム 2色(ヘーゼルナッツ、生クリーム)のクリーム入り
メニューについて
◆ダブルのよろこび
食感のちがう2層の皮で包んだシュークリームの味わいを楽しみます。
なおかつ、なかに入っているクリームも2色。
ダブルのよろこびの連続に、思わず笑顔がこぼれるドルチェです。
調理
◆表面のサクサク生地をつくる
バターと薄力粉、グラニュー糖を混ぜ合わせる
出来上がった生地をラップで包み、薄く伸ばし、冷凍庫で保存
◆シュークリームの生地をつくる
バターと水を加熱する
薄力粉を加える
バターと薄力粉を加熱しながら混ぜる
溶き卵を加え、混ぜ合わせる
◆サクサクシュークリームを焼く
シュークリームの生地を絞り出す
サクサク生地を金型で丸く抜く
シュークリームの生地の上にサクサクの生地を乗せていく
重ねた生地をオーブンで焼く。200℃で10分、180℃で10分、110℃で10分かけて焼く。最初は高温で一気に加熱し、その後は温度を下げながら水分を飛ばすことで、外はサクサク、中はふんわりと焼き上がる
◆2色のクリームをつくる
白い生クリームは、生クリームと粉糖をミキサーで混ぜてつくる
茶色いヘーゼルナッツのクリームは、ヘーゼルナッツのペーストと、カスタードクリームを混ぜてつくる
ヘーゼルナッツのペーストはイタリアの「バッビ」社製を使用。イタリア及び地中海沿岸のヘーゼルナッツを使用し、強い香りと深い色が特徴。「バビ」社は1952年にイタリア北部エミリア・ロマーニャ州で、ジェラート向けのコーン工場として創業。現在はウエハースやスイーツ、業務用製菓材料なども手がける
焼き上がったサクサクシュークリームの生地を冷ます
サクサクシュークリームの底にクリームを注入する穴を開ける
2色のクリームを左右に分けて順に注入して完成
お召し上がり
サクサクシュークリーム 2色(ヘーゼルナッツ、生クリーム)のクリーム入り
◆外はサクサク、中はふんわり
シュークリームの皮の外側の生地の層は、クリスピーな焼き上がり。サクサクの食感に、香ばしさと甘さを感じます。
その下の生地の層は、ふんわりとして、クリームと接することでしっとりして、卵の風味が効いています。
サクサクシュークリーム 2色(ヘーゼルナッツ、生クリーム)のクリーム入り
たっぷり入った2色のクリームのひとつ、茶色いヘーゼルナッツのクリームは、香ばしさとコクが濃厚です。
もうひとつの白い生クリームは、シンプルな味で、両方引き立て合います。
サクサクシュークリーム 2色(ヘーゼルナッツ、生クリーム)のクリーム入り
2月のディナーは、
「ラ・ビスボッチャ」の「季節のおすすめメニュー」に、
春の気配を感じて、お楽しみください。