ビスボッチャ散歩:高輪消防署 二本榎出張所

WALK AROUND LA BISBOCCIA  Vol.7 “ Takanawa Fire Station Nihonenoki Station Branch ”

第7回 写真・コラム/ライター織田城司  Photo & Column by George Oda

丸みになごむ

ビスボッチャの街をめぐる歴史散歩のコラム。今回は、3月14日に開業するJR山手線の新駅「高輪ゲートウェイ」周辺の見どころから、「高輪消防署 二本榎出張所」の魅力を紹介します。

高輪消防署 二本榎出張所の地図

モダニズム建築の名作

高輪消防署・二本榎出張所。坂の上の交差点に建ち、遠くから目立つ

散歩の途中で思わず立ち止まり、見入ってしまう建物があります。

高輪にある「高輪消防署 二本榎出張所」もそのひとつです。

温か味のあるデザインに、心がなごみます。

1933(昭和8)年に消防署として落成しました。

いまも現役の消防署として活躍していることに驚きます。

高輪消防署・二本榎出張所を桂坂から望む。右の3階建ての建物は後年増築した部分

庁舎の基本構造は、鉄筋コンクリート地上3階建です。

鉄筋コンクリートはモダニズム建築の特徴で、1923(大正12)年の関東大震災後の復興事業で、多く導入されるようになりました。 

デザインは、ドイツ表現主義を基本にしています。 

ドイツ表現主義はモダニズム建築のひとつで、1920年代に最盛となり、日本でも1930年代に流行しました。

それ以前の歴史的な建築様式を否定し、自由な発想で、今まで見たこともないデザインに挑み、曲線を多用することが特徴で、庁舎ができた当時、最先端のトレンドでした。

時空を超えたデザインが魅力

高輪消防署・二本榎出張所の玄関は角地の曲面にある。右隣は高輪警察署

庁舎の外観は、交差点の角地を生かした流線型と、左右に広がる直線が翼を広げたようで、躍動感があります。

3階の円形講堂と、その上の望楼は、曲線が多用され、優しい印象を増しています。

並行する手すりは、人の動きを感じ、心がはずみます。

3階の円形講堂と望楼。曲線が多用され、手すりが丸みを強調する

外壁はベージュ色の磁器タイルが使われています。ツルッとした表面が、太陽光線で輝きます。

それまで多かった赤煉瓦使いの重厚な外壁よりも、明るくて軽快な印象があります。

設計を手掛けたのは越知操。建築史上の著名なデザイナーではなかったようですが、建物が残されたのは、デザインの評価が高かったからだと思います。

二本榎通りから望む。側面から見ると船のように見える

庁舎をよく見ると、灯台や船のように見え、品川湾から近い地域性に合っています。

無機質になりがちなモダニズム建築の中でも個性的で、なおかつ、わかりやすいデザインです。

単に「昭和レトロ」だけでは表現できない、時空を超えたデザインが魅力です。

内装も曲線で統一

玄関の建材は御影石。扉は木製。赤ランプとともに曲線が多用されている。戦前の建物らしく高輪消防署の横書きは右から書かれている

「高輪消防署 二本榎出張所」では、内部の見学も受け付けています。

内装のデザインも曲線で統一され、見どころが多く、撮影もできます。

玄関内のロビー。腰壁と床の建材は大理石とセメントを練って固め、研磨したもの。腰壁は赤茶、床はグレーで使い分け、シックな印象の中に色の幅を感じる

ロビーから2階に至る階段の手すり。円形装飾が外観と調和する

ロビーから2階に至る階段の踊り場。窓枠の腰壁が左下だけ丸くカットされ、細部もスタイリッシュ

2階からロビーに至る踊り場を見下ろす。吹き抜けで開放感ある空間

2階の事務所前広場。柱は円柱で、3段のコーニス装飾が施されている

2階から3階に至る階段の踊り場

2階から3階に至る階段は、踊り場から上はらせん階段になり、曲線の印象を深める

右側の円窓は望楼に登るハシゴの部分にあたる

望楼に登るハシゴの手すりと円窓

望楼上のブルーのシンボルタワーは1984(昭和59)年に建て替え、現代的なデザインが加えられた

2階の屋上から品川方面を望む。消防署ができた当時は周辺に高層ビルはなく、品川湾を見渡すことができた

2階の屋上にある船の煙突をイメージした装飾。建築当時隣のビルはなく、ここから見渡す品川湾のブルーと白い煙突のコントラストに船上気分を楽しんだ名残り

3階の円形講堂の室内灯

3階の円形講堂のガス灯。停電時の非常灯として使用した。これだけデザインがアールヌーヴォー風

3階の円形講堂に展示されている歴代の消防用具

大正時代の消防服。現在の庁舎に改築する以前のもの。刺子(さしこ)とよばれる綿の厚地織物でできている。火事場では水をかぶって防水性を高めて使用した。しかし、重さから迅速な活動はできなかったという

戦後間もない頃の消防服。戦前と同じような刺子生地が使われ、物資が乏しかった時代を感じる。ボタンに見られる消防団のマークは1947年(昭和22)年に制定され、現在まで使用されている。以前から使用していたY字形のマークを桜に重ねたデザイン

3階の円形講堂の円柱と丸みのある梁

見学を案内してくれた消防員の解説によると、望楼から火事の発生を監視する業務は、電話の普及とともに衰退したそうです。

役目を終えた望楼は、町のシンボルになり、東京大空襲でも奇跡的に焼け残りました。

「高輪消防署 二本榎出張所」は、火消しにふさわしい強運を備え、戦前の優れたデザインをいまに伝え、2010(平成22)年に「東京都選定歴史的建造物」に認定されました。

その魅力を、ぜひ実物の近くでご堪能ください。

消防車の出動

外壁に付く消防章。雪の結晶と放水をイメージしたデザイン

3階の円形講堂の窓から明治学院前交差点を望む

明治学院前交差点から高輪消防署・二本榎出張所を望む

散歩の後のお食事は、

「ラ・ビスボッチャ」でお楽しみください。