第40回 SAGRA DEL CERVO
滋味に富んだ鹿肉で冬を乗り切る
立春を過ぎましたが、まだまだ寒い日が続きます。
そんな季節に、滋味に富んだ鹿肉料理のフェアを開催します。2月15日(金)〜26日(火) 期間限定メニューを2品ご用意します。
繊細な旨味と精力がつく後味が冬のラストスパートに効きます。この機会に、ぜひお楽しみください。
解説/副料理長 露詰まみ
写真・文・エッセイ/ライター織田城司
Commentary by Mami Tsuyuzume
Photo・Text・Essay by George Oda
メニューについて
イタリアと和歌山の味を東京で結ぶ
イタリアでは古くから鹿肉を食べる文化がありました。日本も縄文時代は鹿肉を食べる習慣がありました。
今回の鹿フェアでは、そんな鹿肉料理の魅力を味わっていただくために、和歌山県の鹿肉を使用します。
和歌山県南部の古座川町は豊かな森林と清流に恵まれ、野生の動物がのびのびと育つ地域です。
この地で2015年に開業した食肉加工施設「山の光工房」は、捕獲されてから2時間以内のジビエを丁寧に処理して熟成することで、臭みやクセが少ないジビエを実現しています。
こちらのやわらかい鹿肉の繊細な旨味がイタリアンのレシピとよく合うので、チルドの枝肉を仕入れて精肉します。
1.鹿のラグーのタリオリーニ
◆人気のパスタで鹿を料理
やわらかい生パスタとラグーの組み合わせは、イタリア料理の中でも人気メニューです。
数多い生パスタの中から、鹿のラグーのやわらかい食感をイメージして、タリオリーニを合わせました。
◆鹿のラグーを作る
◆タリオリーニを作る
◆鹿のラグーとタリオリーニを和える
◆タリオリーニがラグーと絶妙に絡む
タリオリーニはやわらかく、モッチリした歯ごたえがあります。コシはやわらか目で、フォークですくい上げるとゆっくり垂れてきます。
このタリオリーニが鹿のやわらかいラグーと絶妙に絡み、幅や厚さの妙を感じます。タリオリーニ数本でラグーを丸め込むと、程よい量のラグーが口に運べます。
口の中で食べ合わせると、タリオリーニの卵と小麦の風味、じっくり煮込んだラグーのマイルドな甘みと旨味が一体となり、あっという間にモグモグ食べ進んでしまいます。
2.鹿のロースとモモのロースト
◆じっくり焼いて繊細な旨味を引き出す
鹿肉は牛やイノシシの肉と比べると、やさしく繊細な味わいです。
このため、炭火で焼くと炭の香りが前面に出てしまうため、フライパンとオーブンを使ってじっくり加熱します。
◆ロースを焼く
◆モモを焼く
◆さっぱりした赤身肉の旨味
香りはジビエ料理の中でも控えめです。ロースの繊維質は驚くほどやわらかく、シャキッとすぐに嚙み切れます。噛みしめるとマイルドで繊細な旨味を感じ、骨に近くなるにつれて旨味とコクが増します。
サラッとした肉汁は程よいウエット感で、さっぱりした印象です。モタレが少なく、体の中から活力が湧き出る後味を感じます。
モモは繊維質をほとんど感じないキメ細かい肉質で、赤身肉のやわらかさが際立ちます。
味わいはふっくらした食感の中に旨味とコクが充実。後味にほろ苦さを感じます。ロースと味のちがいを比べながらお楽しみください。
お飲物
◆鹿肉に合うワインを探しにイタリアへ
ヨーロッパを横断するアルプス山脈。その中でも、イタリア最北端のドロミテ山脈は独特の荒々しい岩山が特徴で、ユネスコ世界遺産の自然遺産に登録されています。
絶景を見ながら夏はトレッキング、冬はスキーが楽しめるリゾートとして、世界中の観光客の憧れになっています。
このドロミテ山脈があるトレンティーノ・アルト・アディジェ州は、ブドウの栽培に適した石灰岩の土壌で、良質のワインとジビエ料理が特産物になっています。
この地で1919年に創業した老舗ワイナリー、ケットマイヤー社を2018年8月に訪ね、鹿フェアの料理に合うワインを選び、輸入しました。
◆強いフルーツ味の白ワイン「シャルドネ・マゾ・ライナー」
色は澄んだ麦わらイエロー。香りはバナナやパイナップルなどの強いフルーツ味にハチミツやバニラのニュアンスが加わります。
味わいは豊かでフレッシュ。後味に軽いスパイスの余韻を感じ、鹿のラグーの旨味を引き立てます。
◆まろやかな辛口赤ワイン「ピノ・ネロ・マゾ・ライナー」
色はルビーレッド。香りは野生のベリー、チェリー、バニラ、タバコなどのニュアンスがあります。
味わいは辛口だけど、まろやかな口当たりです。スパイシーな余韻が長く、鹿肉の肉汁とよく合います。
鹿フェアの機会に、アルプスのマッチングの再現をご賞味ください。
エッセイ:食のこぼれ話
鹿の狩人
鹿を狩るシーンが見られる映画に『ディア・ハンター』(1978年)があります。
舞台は1960年代のアメリカの田舎町。製鉄所で働く青年たちの唯一の楽しみは山に登り、鹿を狩ることでした。やがて、青年たちはベトナム戦争に徴兵されます。
数年後、ベトナムから帰還した青年たちは、以前のように鹿狩りが楽しめなくなりました。人と人とが殺しあう戦場で、心が傷ついてしまったからです。戦争は平和な田舎町にも暗い影を落としました。
高倉健さんがこの映画に感動して絶賛。ちょうど健さんがヤクザ映画から男のドラマに路線変更する頃で、後の作風に影響を与えました。その感動に、鹿が見事な効果になった作品です。
いつもご利用いただき、誠にありがとうございます。
今宵も、ラ・ビスボッチャのディナーで、素敵なひとときをお過ごしください。