私とビスボッチャ:冨田雅乃さん

イタリア人の前向きな考えに救われて

ME AND MY BISBOCCIA

Episode 7 : Masano Tomita

 ◆冨田雅乃さんプロフィール

軽井沢の「まさのメディカルクリニック」(婦人科・泌尿器科・皮膚科・美容皮膚科・アンチエイジング科)の院長。埼玉県医科大学医学部卒。プライベートではポルシェAG公認のポルシェクラブジャパン軽井沢支部会長を務める。お酒はテキーラ・マエストロ、ラム・コンシェルジュ、ウイスキー検定2級などの資格をもつ

ラ・ビスボッチャの店内で語る冨田雅乃さん

1.イタリアへの思い

マセラッティに浮気して

はじめてイタリアに興味をもったのは、自動車でした。1990年代のはじめ頃、マセラッティの「スパイダー・ザガード」というオープンカーを買いました。他の車にはないカッコよさがありました。その頃、私にはポルシェという本妻がいました。良妻賢母でしたが、マセラッティとの火遊びにスリルを感じ、浮気をしました。

そのマセラッティで関越自動車道を飛ばしていたら雨が降りだし、カーブでハンドルを切ると、幌から雨水が滝のように流れてきました。当時、私はまだ人間ができていなかったので、我慢しきれずに手放し、本妻のもとに戻りました。

しばらくして、マセラッティから「ギブリカップ」という限定車が発売され、車雑誌の表紙を飾っている姿に一目惚れ。また、つい浮気を。友人たちから「首都高速に刺さらないように」という悪い予感は大当たり。いきなり平行移動した予想外の挙動で単独で刺さって全損。幸いにも軽いかすり傷ですんだのはラッキーでした。その後本妻のポルシェのもとへ。

いまはシャマルへの恋心をおさえつつ、コンパクトな「アバルト」と、雪に強い走行距離18万キロ超えの「カイエン」と、空冷のマジェンダピンクの「964カレラ4」のお世話になっております。

人生の転機と運気

 1990年代のなかば頃、当時4歳だったひとり息子の自閉症が発覚しました。喋らないし、人と目を合わせないから「どこかちがう」と思い、専門の先生に調べてもらうと、自閉症と診断されました。

私は落ち込んで、すごく悩みました。そのとき、デザイナーの友だちから「イタリア人は何でも前向きに考えるのよ!」といわれ「そうだ、前向きに考えなければ」と思い、息子と向き合うことができるようになりました。

日本人は悩むと、ふさぎ込んで暗くなる傾向があるけれど、イタリア人は前向きな考えで気持ちを切り替えます。日本人にないメンタリティーで、すごく参考になりました。私はイタリアへ行ったことはないけれど、イタリアへ行ったことのある人や、ご主人がイタリア人という人からお話をうかがっています。

人生はいろんなことがあり、それを乗り越えなければなりません。そんなときは、冬が来れば必ず春が来ると考えれば、それなりに楽しい人生を送ることができます。ネガティブに考えれば、ネガティブなことしか起こらない。それが人間の運気だと思います。

私のクリニックでは、更年期障害の診療も行います。更年期になると鬱のようになる人もいます。そういう人には「前向きに考えなければダメよ」といって、笑って帰っていただける診療を心がけています。

ラ・ビスボッチャの店内で語る冨田雅乃さん

2.イタリア料理の魅力

多彩なお酒の楽しみ

 私はお酒が好きです。イタリア人がゆっくり食事をしながら、食前酒やワイン、食後酒などを楽しむ文化は素晴らしいと思います。特にイタリアのお酒は、ボトルのデザインがオシャレで、おいしさが増します。

でも、イタリアのお酒の魅力は、まだ日本で十分に紹介されていないと思います。ワインはもちろん、ジンやグラッパ、カクテルなどのおいしさを知ると、食事がもっと楽しくなります。

私が社会人になり、病院で見習いをはじめた1980年代は、仕事中の食事は「5分で食べろ」といわれた時代でした。日本人もそろそろイタリア人のように、ゆっくり食事を楽しむ余裕があっても良いと思います。

ラ・ビスボッチャのバーカウンターに並べた食後酒の一例

3.私とビスボッチャ

ひとりで楽しめるお店

ビスボッチャは、1993年に創業当時によく通いました。まだバブル経済崩壊の影響が出る前で、街には個性的な人がたくさんいて、楽しかった。間もなく息子が自閉症になり、広尾とはご無沙汰していました。

近年、西麻布の飲食店でビスボッチャのホールスタッフの赤峰壮介さんと知り合い「僕、いまビスボッチャで働いています。今度来てください」といわれ「まぁ、懐かしい!」といって再び通うようになりました。

軽井沢は、夜遅くまで営業している飲食店が少なく、月に1〜2回は東京に出て飲んでいます。土曜日、軽井沢の病院の仕事が終わると新幹線で東京に出て、9時ぐらいからビスボッチャで夕食を食べ、それから西麻布で朝まで飲み歩き、日曜日の始発で軽井沢に帰っています。

ビスボッチャは、ひとりで気軽に楽しめるところが気に入っています。イタリアン・レストランだとコースで注文しなければならない店が多いけれど、ひとりでコースを食べるのは何となく違和感があります。その点、ビスボッチャはアラカルトで自由に注文できます。量や味つけなど、細かい注文も受けてくれます。

ホールスタッフに「料理は今日、何がおいしい?それに合うワインは?」と相談しながら、料理とお酒を好きなように組み立てて食べるのが楽しい。途中でホールスタッフが話しかけてくれるから、ひとりでも居心地がいい。料理はチーズ系が好きです。どんなお酒にも合うからです。特にブラータチーズは、フレッシュなミルクの風味が濃厚で気に入っています。

パルマ産生ハムにのせたブラータチーズ。エキストラヴァージン・オリーブオイルとブラックペッパーをふりかけて

懐かしい東京

 私の患者さんの8割は、首都圏から軽井沢に移住してきた人たちです。ときどき、東京のことを懐かしく思うそうです。

私が「広尾や西麻布によく行く」というと「あの辺の店、いまどうなっているの?」ときかれ「閉店した店もあるけれど、ビスボッチャは昔のままよ。オールドファンだけでなく、若いお客さんも入っている」と答えると「懐かしい、行きたい」といわれます。

そんな人たちを連れてビスボッチャに行くこともあり、ビスボッチャの人たちから「軽井沢に行きたいけれど、おすすめの宿は?」ときかれることもあり、観光の橋渡しをしています。

ラ・ビスボッチャの店内でホールスタッフの赤峰壮介と語る冨田雅乃さん

◆料理長・井上裕基談

いつも軽井沢からお越しいただき、ありがとうございます。

私はイタリア人と仕事をする機会が多いにも関わらず、前向きに考えることを忘れていました。今回ご指南いただき、再認識いたしました。気持ちの切り替えの参考にしたいと思います。

店にないお酒でも、ご要望があれば取り寄せます。スタッフにお申しつけいただき、広尾の夜をお楽しみください。

 

取材日:2019年6月11日

監修/料理長・井上裕基 写真・文/ライター織田城司