FORZA SUMMER FAIR
コラム『味と技』第68回
夏本番にそなえて
いよいよ夏本番!夏バテ防止のスタミナ食材や、涼を感じるごちそうを集めて7月20日(月)〜8月1日(土)までフェアを開催します。
期間限定メニューが6品登場。暑気払いに、ぜひご利用ください。
料理の下ごしらえをする料理長・井上裕基(左)と副料理長・露詰まみ(右)
監修/料理長・井上裕基 副料理長・露詰まみ
写真・文/ライター 織田城司
Food Direction by Yuuki Inoue & Mami Tsuyuzume
Photo・Text by George Oda
1.毛ガニのサラダ
毛ガニのサラダ
メニューについて
◆涼感あふれる前菜
新鮮な毛ガニに、イタリアの食材を合わせてサラダをつくります。
見た目も味わいも涼感にあふれ、夏におすすめの前菜です。
調理
◆毛ガニの下ごしらえ
毛ガニを茹で、部位を分解する
毛ガニは北海道産を使用
毛ガニの足にハサミで切り込みを入れる
毛ガニの身をボウルに集める
ボウルに集めた毛ガニ一匹分の身
毛ガニのカニミソは裏ごしして具材の味付けに使う
◆サラダの具材に使うイタリア米「ロンドリーノ」社の「アクエレッロ」
サラダに使うイタリア米のブランド「アクエレッロ」。イタリア最大の米どころピエモンテ州ヴェルチェッリ県で1935年からリゾット用の米をつくり続ける「ロンドリーノ」社が手掛けるもので、7年熟成タイプを使用
「ロンドリーノ」社の米蔵の外観。建物は「アクエレッロ」缶のパッケージ写真に使われている。イタリア映画『にがい米』(1949年)のロケ地にも使われた(写真/料理長・井上裕基)
「ロンドリーノ」社の米蔵内観。生産年別に貯蔵されている米(写真/料理長・井上裕基)
「ロンドリーノ」社のおもてなしで出た自社の米を使ったサラダ(写真/料理長・井上裕基)
◆イタリア米の下ごしらえをする
鍋にイタリア米「アクエレッロ」の7年熟成タイプを入れオリーブオイルを振りかける
鍋を火にかけ、米を炒める
自家製野菜のダシ汁を加え、米を炊く
自家製野菜のダシ汁。ニンジンやセロリ、タマネギ、ズッキーニ、エリンギ、イタリアンパセリの茎などを煮込んだもの
鍋で米を20分炊き、10分蒸らし、バットに広げて冷ます
冷ました米をボウルに移し、塩とエキストラヴァージン・オリーブオイルで味をつける
出来上がったサラダ用の米。大粒でゴロンとした歯ごたえがある
◆野菜と果物の下ごしらえ
毛ガニのサラダに使う野菜
イタリアのキュウリを正六面体にカットする
花キュウリを半分にカットする
ウイキョウの花を茎から切り離す
スモモの皮をむく
スモモを正六面体にカットする
◆仕上げる
下ごしらえが済んだ毛ガニのサラダの食材
毛ガニの身に野菜や果物を混ぜる
混ぜ合わせたサラダの食材に塩とエキストラヴァージン・オリーブオイルで味をつける
ホワイト・バスサミコ酢をスプレーで噴射して味をつける
ホワイト・バルサミコ酢は白ブドウを熟成させてつくり、爽やかな甘みと酸味がある。メーカーの「レオナルディ」社はバルサミコ酢の特産地、イタリア北部エミリア・ロマーニャ州モデナで1871年からバルサミコ酢をつくり続ける老舗
カニミソを加え、味をつける
味をつけたサラダの食材を毛ガニの甲羅に盛り付ける
イタリアのキュウリをスライスして飾り、スダチを絞って仕上げる
お召し上がり
毛ガニのサラダ
◆繊細な香り、旨み、歯ざわりのバリエーションを楽しむ
毛ガニの身のさっぱりした甘みと旨みに、好相性の酢が繊細な味のベースをつくります。
細かい食材が程よい大きさで絡み、味と香りを広げます。
ウイキョウの花は、口の中がスッとするような爽やかな香りがあります。
花キュウリの花は、シャリッとした食感で、実は青々しさが凝縮しています。
毛ガニのサラダ
イタリア米は、ほのかな香ばしさや甘み、旨みがあります。
イタリアのキュウリは、ポリッとした食感で、味は淡白ながら食感が際立ちます。
スモモは、ジューシーで若々しい甘酸っぱさがアクセントになります。
後味はさっぱりしながら、多彩な味と歯触りのバリエーションに、食べ応えと涼を感じます。
毛ガニのサラダ
おすすめの飲み物
スパークリング・ワイン「ベルルッキ ’61 ロゼ」
◆華やかで涼しげなロゼ
銘柄/ベルルッキ ’61 ロゼ
ワイナリー/グイド・ベルルッキ社
生産地/イタリア北部ロンバルディア州フランチャコルタ 地方
ぶどう種/ピノ・ネーロ60% シャルドネ40%
色は赤味が強い鮮やかなロゼ。香りは森のベリーや完熟したフルーツのエレガントな香り。
味わいは、きめ細かくなめらかな泡の中に爽やかな酸味を感じます。毛ガニのサラダの繊細な旨味によく合います。
夏のディナーのスタートを華やかに、そして涼しげに彩ります。
スパークリング・ワイン「ベルルッキ ’61 ロゼ」と毛ガニのサラダ
2.イカ墨のストゥラッシナーティ 魚介のソース
イカ墨のストゥラッシナーティ 魚介のソース
メニューについて
◆海の幸をたっぷりいただくパスタ
海に面したイタリアでは、魚介を豊富に使った料理が盛んです。
そんな料理をイメージしてパスタのソースをつくり、栄養をたっぷりとります。
具だくさんのソースに合わせるパスタはショートパスタが食べやすく、今回は「ストゥラッシナーティ(Strascinati)」を使います。
イタリア語で「引きずった」という意味で、生地を指先で引きずりながらつくる楕円形のショートパスタです。
日本有数の漁場、紀伊半島。その豊かな自然を象徴する特産物「那智黒石」をイメージして、ストゥラッシナーティにイカ墨を混ぜ、魚介の味を高めます。
調理
◆魚介の下ごしらえ
魚介のソースに使う海鮮
天使のエビを背中から真っ二つにカットする
カットした天使のエビの背わたを取り除く
コウイカを流水にさらしながらさばく
コウイカをさばく途中で取り除いた甲
コウイカをさばく途中で取り出したイカ墨の袋。パスタの仕込みに使うため保存する
さばいたコウイカを食べやすい大きさにカットする
トコブシは白ワインを使って蒸し焼きにする
トコブシを食べやすい大きさにカットする
トコブシから取り除いた内臓は、ソースのダシに使うため網で濾し、ペースト状にする
アサリとハマグリは流水にさらして洗う
◆イカ墨のストゥラッシナーティをつくる
イカ墨の袋から取り出した墨をパスタの生地に混ぜやすくするため、水を混ぜて溶く
水で溶いたイカ墨を濾過する
濾過したイカ墨。液状は均一できれいになっている
イカ墨をパスタ生地の材料(強力粉・セモリナ粉・卵白・オリーブオイル・水)と練り、ビニール袋に入れ、30分ほど寝かせて馴染ませる
生地を手延べで棒状に伸ばす
まな板の上で、短くカットした生地を親指の腹で引きずりながらストゥラッシナーティの形をつくる。くぼみにソースがたまり、真ん中のザラついた表面がソースとしっかり絡む
◆ソースをつくる
天使のエビ、コウイカをフライパンの底に並べ、オリーブオイル、ニンニクのみじん切り、赤トウガラシを加え、加熱して炒める
アサリ、ハマグリ、ミニトマト、白ワインを加える
自家製トマトソースを加える
自家製野菜のダシ汁を加える
蓋をして蒸し焼きにする
トコブシ本体とトコブシの内臓ペーストを加える
イタリアンパセリのみじん切りを加える
エキストラヴァージン・オリーブオイルを加える
出来上がった魚介のソース
◆仕上げる
ストゥラッシナーティを茹で麺機に投入して茹でる
ソースのフライパンから具材を取り除く
茹で上がったストゥラッシナーティとソースを和える
ソースと和えたストゥラッシナーティを、あらかじめ取り除いておいた具材とともに盛り付ける
お召し上がり
イカ墨のストゥラッシナーティ 魚介のソース
◆イカ墨の風味が味わいを濃厚に
ストゥラッシナーティは、モッチリとした噛みごたえで、イカ墨の風味をしっかり感じます。
ゴロゴロと具だくさんな魚介の身と交互に食べると、相乗効果で、魚介の味わいをより濃厚に感じます。
イカ墨のストゥラッシナーティ 魚介のソース
その一方で、トロリと柔らかくなったミニトマトのジューシーな甘酸っぱさは爽やかな印象で、濃厚な魚介のソースと絶妙なバランスで絡みます。
多彩な味を楽しむうちに、あっという間に食べ進み、栄養をたっぷりとります。
イカ墨のストゥラッシナーティ 魚介のソース
3.ウナギの炭火焼き
ウナギの炭火焼き 塩味
ウナギの炭火焼き 古代ローマ風甘辛タレ味
メニューについて
◆ウナギを2種の味でご用意
夏になると、栄養をつけるために食べたくなるのがウナギです。
イタリアでもウナギを食べる習慣があり、様々な料理法があります。
今回はその中でも最もポピュラーな炭火焼きでウナギを提供します。
味付けは、塩味と、古代ローマのレシピを参考にした甘辛タレ味の2種をご用意します。
お好みでお選びください。
調理
◆ウナギの下ごしらえ
ウナギをオーブンで蒸す。蒸しは95℃、10分
蒸し上がったウナギ
◆塩味を焼く
蒸したウナギの両面に塩コショウで味をつける
ウナギを炭火で焼く
反対側も焼く
再度皮の面を焼く
再度反対側を焼いて仕上げる
お召し上がり
ウナギの炭火焼き 塩味
◆香ばしく、心地よい塩味
ウナギの表面は、脂分が炭火の効果で程よく沸騰して揚げ物のようにカリッと焼き上がり、しっかり馴染んだ塩味がシャープに効いて、心地よく感じます。
身はふっくらと柔らかく、ヌメリとした舌触りの中にまろやかな旨みを感じます。
日本のウナギの白焼きと比べると、オリーブオイルやコショウを使っている分、洋風の焼き魚のような、香ばしさが際立つ焼き上がりです。
ウナギの炭火焼き 塩味
◆古代ローマ風甘辛タレをつくる
ボウルにハチミツを入れる
ハチミツに魚醤を加える
甘辛タレに使う魚醤(左)はイタリア南部カンパーニャ州アマルフィ海岸にある特産地チェターラ産。ハチミツはイタリア中部マルケ州産で、アカシアの花から採取したもの
ミントの葉を茎からちぎって集める
ミントの葉をみじん切りにしてタレに混ぜる
黒コショウを挽いてタレに加える
混ぜ合わせてタレの出来上がり
◆古代ローマ風甘辛タレ味を焼く
蒸したウナギを炭火で焼く
ウナギを焼いてる途中、焼き網から取り出し、古代ローマ風甘辛タレを刷毛で塗る
タレをつけた後、再び炭火で焼き、味と香りをつける
反対側を焼いて出来上がり。甘辛タレが焼けた濃い焼き色が見られる
お召し上がり
ウナギの炭火焼き 古代ローマ風甘辛タレ味
◆日本の蒲焼に似た味わい
古代ローマで食されていたとされるウナギの甘辛タレ味。魚醤の塩味とハチミツの甘さをベースに、香草のスパイスを加えた味わいは、日本の蒲焼と山椒の関係によく似ています。
日本のウナギの調理法が古代ローマの影響を受けたとは考えにくく、偶然同じような調理法にたどり着いたものだと思います。
時代も文化も異なる民族が、ウナギの調理法をめぐって出会う不思議な歴史ロマンは興味が尽きず、甘辛タレで焼いたウナギが、より美味しく感じます。
ウナギの炭火焼き 古代ローマ風甘辛タレ味
4.夏鹿のロースト グリーンペッパーのソース
夏鹿のロースト グリーンペッパーのソース
メニューについて
◆夏に美味しくなる赤身肉
近年、夏に美味しくなる肉として注目されている「夏鹿」。
夏は脂肪分が少なく、赤身が充実しているからです。
低温で長時間焼いて肉質の味を生かし、スパイシーなグリーンペッパーのソースを合わせます。
調理
◆鹿肉を焼く
夏鹿のロースに塩コショウで下味をつける。鹿肉は良質なジビエ肉の供給に取り組む和歌山県の古座川町のものを使用
塩をつけて出てきたドリップをキッチンペーパーで吸収する
フライパンを加熱し、オリーブオイルを敷く
フライパンに無塩バターを加える
フライパンに鹿肉を投入して焼く
鹿肉を加熱する途中で何度か反転させる
バターをかけながら低温で長時間焼く
バターが焦げないようにフライパンを適時火から外す
焼き上がった鹿肉をアルミホイルで受ける
焼き上がった鹿肉をアルミホイルで包む
アルミホイルで包んだ鹿肉を暖かい場所でしばらく休ませ、肉汁が出過ぎないように落ち着かせる
◆ソースをつくる
鹿肉の加熱に使ったフライパンに自家製鶏のダシ汁を加える
自家製鶏のダシ汁。鶏がらやひね鶏の肉、トマト、タマネギ、ニンジン、セロリ、ローリエなどを約6時間かけて煮込んだもの
無塩バターと自家製仔牛のペースト、グリーンペッパーを加える
フライパンに入れたソースの食材を煮詰める
アルミホイルに包んで休ませた鹿肉を取り出す
アルミホイルに残った鹿肉の肉汁をソースに加える
ソースのフライパンに水を入れ、粘性を調節する
再度煮詰めてソースの出来上がり
◆仕上げる
皿にソースを敷く
焼いた鹿肉をカットする
カットした鹿肉を盛り付ける
塩を振って味をつける
グリーンペッパーの実を半分にカットし、鹿肉のトッピングに盛り付けて出来上がり
お召し上がり
夏鹿のロースト グリーンペッパーのソース
◆力強い旨みとコクでパワーアップ
バターでじっくり焼いた夏鹿はふっくらと柔らかく、口に含むと一瞬「牛肉か?」と思うほど、肉の風味や旨み、コクを力強く感じます。
ソースに転がるグリーンペッパーの実は、噛みしめるとプチッとはじけ、爽やかなスパイス香とピリッとした辛みを感じ、赤身肉にバランス良く合います。
夏鹿のロースト グリーンペッパーのソース
ジビエ特有の臭みやクセはほとんどなく、脂肪分が少ないため、胃のもたれも少なく、後味はさっぱりしています。
それでも、ジビエの野趣は健在で、体の中から力がみなぎり、夏のパワーアップにおすすめです。
夏鹿のロースト グリーンペッパーのソース
5.ズッコット
ズッコット
メニューについて
◆フィレンツェ 発祥の冷菓
ズッコット(zuccotto)はイタリア中部トスカーナ州の都市フォレンツェで、ルネッサンス期に発祥したとされる丸いドーム型のケーキにアイスクリームを内包した冷菓です。
丸いドーム型は、カトリックの聖職者が被る帽子、ズッケットの類似説やフィレンツェの大聖堂のクーポラ(ドーム天井)へのオマージュなどの諸説があります。
冷たいクリームに涼感があり、夏におすすめのドルチェです。
フィレンツェの大聖堂のクーポラ(ドーム天井)
調理
◆クリームをつくる
みじん切りにしてクリームに混ぜる食材
ピスタチオをみじん切りにする
ヘーゼルナッツをみじん切りにする
ドレンチェリーとオレンジピールをみじん切りにする
アーモンドをみじん切りにする
チョコレートをみじん切りにする
リコッタチーズをボウルに入れる
クリームに使うリコッタチーズ。イタリア南部カンパーニャ州にある「チリリアーナ」社製。水牛乳を使い風味が濃厚
粉糖をふるいにかけてリコッタチーズに甘みを加える
リコッタチーズと粉糖を混ぜ合わせる
みじん切りにした食材をクリームに加え、混ぜ合わせる
出来上がった白いクリーム
茶色のクリームをつくるため取り分けた白いクリームにココアパウダーを加える
クリームに混ぜるココアパウダー。1828年に世界で初めてココアパウダーの製造法を発明したオランダの「バン・ホーテン」社のものを使用。
白いクリームにココアパウダーを混ぜてできた茶色のクリーム
◆ズッコットを組み立てる
自家製スポンジ生地を切り出す
ボウルの底に短冊状に切り出したスポンジ生地を敷き詰める
スポンジ生地に甘みと香りをつける液をつくる。ボウルにシロップとマラスキーノ酒を入れ、混ぜ合わせる
マラスキーノ酒はチェリーからつくるリキュール。香りが高いことから製菓やカクテルの香料として使われる。オランダのアムステルダムで1575年に創業したボルス社のものを使用
ボウルに敷き詰めたスポンジ生地に甘みと香りをつける液を塗る
スポンジ生地の上に白いクリームを重ねる。中心部は茶色のクリームを入れるスペースとして空ける
中心部に茶色のクリームを入れる
スポンジ生地の短冊で蓋をする
上部のスポンジ生地にも甘みと香りをつける液を塗る
◆仕上げる
組み立てが完成したズッコットをラップで包む
冷凍庫で一晩置き、クリームを凍らす
冷やしたズッコットを冷凍庫から取り出し、ボウルの型を外す
ボウルの型から取り出したズッコット
ズッコットの頂上を粉糖で飾る
ズッコットの頂上にココアパウダーを加え、装飾を仕上げる
装飾が済んだズッコットを、プレゼンテーション用のきれいな皿に移動する
客席から注文があったズッコットを切り出す
一人前を切り出したズッコットの断面
お召し上がり
ズッコット
◆ひんやりしたクリームに贅沢な甘さ
ひんやりと冷えた白いクリームは、水牛乳を使ったリコッタチーズを使っているため、ミルクの風味が濃厚で、しっかりした舌触りがあります。
なおかつ、茶色のココア味も寄りそい、2色の味くらべが楽しめます。
ザクザクと入ったナッツや果実のみじん切りは、宝石を散りばめたようで、甘酸っぱさや香ばしさが入れ替わり現れ、濃厚なクリームのアクセントになります。
多彩な味と歯ざわりを満喫した後は、暑さを忘れていたことに気がつきます。
ズッコット
夏本番の暑気払いは、
「ラ・ビスボッチャ」の「フォルツァ・サマー・フェア」でお楽しみください。