SHELL FAIR
コラム『味と技』第87回
旬の貝を美味しく
ホタテやハマグリ、アサリなど、4月の貝は旬をむかえ、美味しさがいっぱいです。そんな貝を集めて、イタリアンの技でつくる「貝フェア」を4月19日(月)〜5月2日(日)まで開催します。
期間限定メニューが7品登場。貝の美味しさに、初夏の潮風を感じてお楽しみください。
監修/料理長・井上裕基 副料理長・露詰まみ
写真・文/ライター 織田城司
Supervised・Cooking by Yuuki Inoue Mami Tsuyuzume
Photo・Text by George Oda
料理長ごあいさつ
貝好きの季節
日本人は、貝が大好きです。
国土が海にかこまれ、貝を常食としてきました。
その歴史は、縄文時代までさかのぼります。
やがて、貝好きの国民性が『サザエさん』を育みました。
イタリア人も、貝が大好きです。
国土の大半が海にかこまれ、古代から貝を使った料理が発達しました。
今回の「貝フェア」で注目すべき点は、
和食との共通点が多いことです。
たとえば、炊き込みご飯や、煮込みのようなメニューがあります。
貝の美味しさを引き出すために、
イタリア人と日本人が知恵を重ね、
同じような調理法にたどり着いた歴史を思うと、
フェアメニューがより美味しく感じます。
貝好きの人は、一度といわず、
何度も通いたくなる季節の到来です。
2021年4月吉日
料理長 井上裕基
⚫︎前菜
1.ホタテ貝とサワラのタルタル ハマグリのしぐれ煮添え
メニューについて
◆生で味わう旬
旬のホタテ貝の美味しさを、生でじっくり味わいます。
トマトやレモン、オイルを使い、ホタテ貝のフレッシュ感を引き立てます。
合わせる旬のハマグリは煮て、サワラは軽く炙り、味のバリエーションを広げて楽しみます。
調理
◆ホタテ貝の下ごしらえ
◆サワラの下ごしらえ
◆ハマグリのしぐれ煮をつくる
◆レモンドレッシングをつくる
◆仕上げる
お召し上がり
◆脂がのったホタテの深い旨みと豊な風味
ホタテ貝のタルタルを口にふくむと、イタリアのドレッシングらしい、レモンやオリーブオイルの爽やかな香りが漂います。
ホタテ貝は脂がのって、噛みしめるとモッチリとした弾力があり、とろりとした舌ざわりのなかに、深い旨みと豊な風味を感じます。
サワラは淡白な味わいながら、炙った効果による燻製のような香ばしさに存在感があります。
ホタテとサワラは、食べすすむうちに、見た目以上に、しっかりとした食べごたえを感じます。そんなときに、フルーツトマトやケッパーの酸味が、ほどよいアクセントになります。
ハマグリのしぐれ煮の見た目は、佃煮に似ていますが、味はそれほど強くなく、バルサミコ酢の酸味は煮込みでほどよく飛び、ハマグリを繊細なコクで包みます。
2.カッポン・マーグロ
メニューについて
◆海鮮8種のおつまみサラダ
カッポン・マーグロは、イタリア北部リグーリア州にある、イタリア最大の港街、ジェノヴァで生まれた海鮮サラダです。
もとは、クリスマスにチキンを食べようとしたけれど、港街ゆえに鶏肉の入手が困難だったために、海鮮を豪勢に盛り付けてクリスマスのご馳走にしたことがルーツです。
今回の「貝フェア」では、旬の貝の種類を豊富に使った、貝リッチなカッポン・マーグロをつくります。
◆海鮮8種の食材
貝類:5種
ムール貝、ヒオウギ貝、スダレ貝、ハマグリ、アサリ
魚介類:3種
マダイ、足赤エビ、ヤリイカ
備考)食材は都合により変更になる場合があります。
調理
◆貝の下ごしらえ
◆魚介の下ごしらえ
◆野菜と卵の下ごしらえ
◆バジルソースをつくる
お召し上がり
◆落ち着いた旨みと香ばしさ
出来あがったカッポン・マーグロは、海鮮が盛りだくさん。鮮やかさと迫力があります。
海鮮は、どれも火を通してから冷やしているため、一度増した旨みと香ばしさが、しっとりと落ち着いています。
握り寿司のエビに似た味わい方で、それを8種の海鮮で楽しみます。
合わせる卵やジャガイモ、インゲンなど、陸の食材が持つ味がアクセントになります。
柔らかいジャガイモや、シャキシャキとしたインゲンの茹で加減が絶妙で、海鮮にない食感もアクセントです。
バジルソースの爽やかな風味は、海鮮と相性抜群です。海鮮料理が多い港街で生まれた背景に納得します。
⚫︎プリミ・ピアッティ
3.ヴェスヴィオ サザエとジェノヴェーゼソース
メニューについて
◆サザエを味わい尽くすシンプルパスタ
サザエの美味しさをパスタで味わいます。
合わせるパスタはヴェスヴィオという、ナポリのショートパスタです。
フリル付きのマカロニで、サザエの味が生きたソースがしっかりと絡みます。
調理
◆サザエの下ごしらえ
◆サザエのソースをつくる
◆仕上げる
お召し上がり
◆まろやかなコクが肝
ヴェスヴィオは、ぷるるんとした食感。つい食べすすんでしまうのは、たっぷり絡んだソースの味に深みがあるからです。
その肝は文字通り、サザエの肝です。
サザエの壺焼きで味わうサザエの肝は、塩味や苦みが強い印象があるけれど、白ワインでじっくり煮込んだ肝は、臭みや苦みがほとんどなく、旨みやコクがきわだちます。
そんなサザエの肝でつくるペーストは、ジェノベーゼソースとよく馴染み、まろやかなコクが広がります。
サザエの身のコリコリとした食感と、ヴェスヴィオの小麦の風味がアクセントになります。
4.ムール貝のティエッラ
メニューについて
◆オーブン焼きで味わう貝
ブーツの形をしたイタリア半島のかかとの部分にあたるプーリア州発祥のオーブン焼き料理です。
「ティエッラ」とは、浅鍋を意味するテリアの方言だそうです。
加熱したムール貝の美味しさとともに、ムール貝の味が染み込んだ米とジャガイモの味も楽しみます。
魚介類が豊富で、海鮮料理が発達した南イタリアらしい貝の味わい方です。
調理
◆下ごしらえ
◆ティエッラを組み立てる
◆ティエッラを焼く
お召し上がり
◆お焦げの楽しみ
ムール貝はしっかり火が通り、香ばしさが増し、ほどよい歯ごたえのなかに旨みとコクを感じます。
一緒に焼いた米やジャガイモには、ムール貝の旨みとコクがしっかりと染み込んでいます。
炊き込みご飯のように味が染みた米は、リゾットに使うイタリア米で、大きくて、型崩れしにくいタイプ。ポロポロとして存在感があり、おつまみとしても美味しくいただけます。
表面のパン粉のサクサクとした食感と香ばしさがアクセントになります。
お焦げの凝縮した味わいも、オーブン料理ならではのアクセントで、楽しみです。
⚫︎メイン
5.ホタテ貝と旬菜のバター焼き
メニューについて
◆ホタテバターを新鮮に
ホタテ貝と好相性のバター焼き。
今回は、オカヒジキと青のりを加えます。
どちらも春から初夏に旬を迎える和の食材で、ホタテバターを新鮮な味に仕上げます。
調理
◆青のりバターをつくる
エスカルゴバターをイメージしながら、パセリを青のりに置き換えます。
◆ホタテ貝の下ごしらえ
◆ホタテ貝を焼く
お召し上がり
◆さりげない和風で軽めに
ホタテバターを口にふくむと、青のりの風味がほんのりと香ります。
それは、イタリアの片隅にある小さな漁港で、久しぶりに聞いた日本語のように、懐かしさがあります。
バターが馴染んだ貝柱を噛みしめると、繊維がほろほろとほどけ、香ばしい風味と旨みを感じます。
ホタテの生殖巣は柔らかく、肉質のきめは細かく、まったりとした舌ざわりのなかに、旨みを濃厚に感じます。
粗挽きのパン粉のカリカリとした食感がアクセントになります。
オカヒジキの味は淡泊で、シャキシャキとした食感が、ホタテバターのこってりした味わいを、軽めに引き立てます。
おすすめのワイン
まろやかな酸味の白ワイン
銘柄/ヴェスパ・ビアンコ
ワイナリー/バスティアニッヒ
生産地/イタリア北部フリウリ・ヴェネツィア・ジュリア州
ぶどう種/シャルドネ、ソーヴィニオン・ブラン、ピコリット
生産年/2016年
香りは、桃のようなフルーティな甘さを感じます。
味わいは、甘さが強すぎることなく、まろやかで心地よい酸味もあり、飲み口は滑らかな口あたりとボリューム感があります。
ホタテ貝のバター焼きを、爽やかに引き立てます。
6.ズッパ・ディ・ペッシェ
メニューについて
◆海鮮9種のスープ
魚介類の煮込み料理、ズッパ・ディ・ペッシェは、イタリアの海沿いの街ではどこにでもある定番メニューです。
その土地でとれる海の幸を利用し、さまざまなバリエーションがあります。
パンを添え、スープもしっかり味わいます。
今回の「貝フェア」では、旬の貝の種類を豊富に使い、貝リッチなズッパ・ディ・ペッシェをつくります。
◆海鮮9種
貝類6種:ホタテ貝、ムール貝、ヒオウギ貝、スダレ貝、ハマグリ、アサリ
魚介類3種:マダイ、足赤エビ、ヤリイカ
備考)食材は都合により変更になる場合があります
調理
◆貝を開く
◆煮込む
◆パンを焼く
◆仕上げる
お召し上がり
◆重ねて深まる海鮮の美味しさ
出来上がったズッパ・ディ・ペッシェのヒオウギ貝の貝殻は、トロピカルカクテルに飾る、ビーチパラソルのミニチュアのようで、華やぎがあります。
煮汁がしっかり染みた海鮮は、香ばしさと旨みが濃厚です。
付け合わせのパンのニンニクの香りが、陸を感じるアクセントになります。
スープはさまざまな海鮮の味が重なり、奥深い美味しさがあります。
そんなスープを飲むとき、ビスボッチャの大きくてズッシリとしたスプーンが美味しさを引き立てます。
⚫︎ドルチェ
7.スフォリアテッラ
メニューについて
◆貝の形をした焼き菓子
貝の形をしたスフォリアテッラは、「ひだを重ねた」という意味のイタリア語が名称の由来で、イタリア南部カンパーニャ州が発祥の焼き菓子です。
なかには、しっかりとしたクリームが入り、ナポリから近いソレントが特産のレモンをイメージした、レモンピールの砂糖漬けがアクセントになります。
パイ生地の材料には、バターが普及する以前から使っていたラードを使うのが伝統で、見た目より強めの食感があります。
貝殻の造形美は神秘的な魅力があり、古今東西を通じて、建築などのデザインに引用されてきました。このお菓子にも、そんな造形美が生かされ、イタリアらしいアート感が美味しさを増しています。
調理
◆生地を伸ばし、丸める
◆クリームをつくる
◆スフォリアテッラの形をつくる
◆焼く
お召し上がり
◆小麦が香ばしい、素朴な味わい
スフォリアテッラの生地は、軽そうに見えながら、食材にラードを使っているため、食感はサクサクよりも強く、ザクザクという印象です。
小麦の香ばしさを強く感じ、粉糖の甘さが効いています。
なかのクリームはしっかりして、レモンがふんわりと香り、ボリューム感のある後味です。
そんな素朴な味わいに、気取らないイタリアらしさを感じます。
初夏の気配を感じたら、
ラ・ビスボッチャの
「貝フェア」で、お楽しみください。