LAMB FAIR
コラム『味と技』第89回
新鮮なラム肉の美味しさを集めて
新緑の季節になると食べたくなる羊。そこで、国内外の新鮮なラム肉を集め、イタリアンで味わう「羊フェア」を5月18日(火)〜5月31日(月)まで開催します。
期間限定メニューが8品登場。繊細な旨みの美味しさに、爽やかな草原を感じてお楽しみください。
監修/料理長・井上裕基 副料理長・露詰まみ
写真・文/ライター 織田城司
Supervised・Cooking by Yuuki Inoue Mami Tsuyuzume
Photo・Text by George Oda
料理長ごあいさつ
イタリア料理と羊
高校生の頃、ラグビー部の合宿の夕食に出た焼肉に、
誰も手をつけない肉のグループがありました。
ひとくち食べ、美味しくなかった肉の種類を宿のおじさんにたずねると、
「羊だよ」といわれました。
明日の練習も頑張るぞ、と思っていたのに、
活力のもとになる肉が減った失望から、
羊肉と距離を置くようになりました。
いま考えると、その羊肉は、
食用ではない羊の肉だったと思います。
料理人になり、
イタリアで食べた焼肉に、人気の肉のグループがありました。
ひとくち食べ、美味しい肉の種類をイタリア人にたずねると、
「羊だよ」といわれました。
イタリア人が古代から極めた羊肉の食べ方は、
意外やシンプルな塩コショウのみ。
それだけに、こだわっていたのは、
食用に飼育された羊肉の鮮度でした。
そんなイタリアンの技で極める羊の美味しさを、
ぜひ、一度ご賞味ください。
2021年5月吉日
料理長 井上裕基
⚫︎炭火焼き肉料理
1.フランス・シストロン産ラム肉 骨付きロースの炭火焼き
メニューについて
◆フレッシュなラム肉の魅力をシンプルに味わう
味わいは乳飲み仔羊に近く、フレッシュで若々しい旨みのラム肉が、フランスの中でも名高いシストロン産の特徴です。
その魅力を味わうために、厚切りの肉を炭火で焼き、外はパリッと、中はしっとり仕上げます。
フランス・シストロン産のラム肉の特徴
シストロンは、南仏プロヴァンス地方の小さな村です。石灰岩の土壌は農作物が育ちにくく、6000年ほど前から羊の飼育が行われ、特産地になりました。
こちらのラム肉の品種は、メリノ種とプレアルプスドスゥドの掛け合わせです。
月齢は生後3〜4ヶ月(春先は60日)。
餌は、母乳と天然のハーブなどを食べます。
ハーブはシストロンがある標高500mの土地で、きれいな空気と湧き水に恵まれた環境で自生するものです。
このため、シストロン産のラム肉には、以下の特徴があります。
・乳飲み仔羊のようなミルキーな風味と繊細な柔らかさがある
・餌のハーブの影響で草の臭いがほとんどない
・羊の旨みも兼ね備えている
調理
お召し上がり
◆とろとろに柔らかい肉のフレッシュな旨み
パリッと焼けた表面は、「甘香ばしい」味が独特です。
ロゼ色に焼けた赤身は、口にふくむと母乳のミルキーな風味がふんわりと香ります。
舌ざわりは柔らかく、ジューシーな肉汁がとろとろの質感を高め、甘みとフレッシュな旨みを感じます。
骨に付いた肉は、フォークだけでもハラリとはがれる柔らかさ。
肉は骨に近づくにつれてコクを増し、フレッシュな味わいのなかにも、深みがあります。
おすすめのワイン
エレガントで深みのある辛口赤ワイン
銘柄/ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ・ポッジョ・ディ・ソット
ワイナリー/ポッジョ・ディ・ソット
生産地/イタリア中部トスカーナ州
ぶどう種/サンジョヴェーゼ・グロッソ
生産年/2015年
香りは複雑で、レーズンやドライチェリー、プラム、ジンジャー、チョコレートなど、多彩な要素が見事に溶け合い、スモーキーさが深みを増します。
口あたりは柔らかで、甘美な旨みとタンニンの渋みが織りなすバランスに、上品でエレガントな余韻を感じます。
ラム肉の炭火焼きのフレッシュな旨みを、しっかりと引き立てます。
2.北海道産ラム肉 骨付きロースの炭火焼き
メニューについて
◆羊の美味しさをバランスよく味わう
北海道産ラム肉の骨付きロースは、香ばしさや繊細な旨みなど、羊肉の美味しさをバランスよく味わうことができます。
特に、赤身と脂身の多彩な香ばしさが素晴らしく、炭火で飴色に焼き上げて堪能します。
調理
お召し上がり
◆しっかりした身と味
オイリーな表面感がほどよく炭火を受け、照り焼きのように香ばしく焼きあがるのがラムチョップの特徴。
北海道産のラム肉に、その特徴がきれいに表れています。
肉質は弾力があり、きめ細かい繊維はサクサクと心地よく噛み切れます。
赤身は噛みしめると旨みが染み出し、脂身は甘みが染み出し、羊らしい美味しさをしっかり味わいます。
羊肉料理の入門版としてもおすすめの一品です。
3.北海道産ラム肉 5部位の挽肉を詰めた 自家製生ソーセージの炭火焼き
メニューについて
◆羊の旨みの迫力に驚く
ラム肉5部位(肩ロース、バラ、ショルダー、外モモ、ネック)を大粒の粗挽きにして、極太のソーセージに手詰めして、炭火で焼きます。
羊はおとなしい印象ですが、このソーセージの旨みの迫力には驚きます。
調理
◆挽肉をつくる
◆挽肉を腸に詰める
お召し上がり
◆柔らかい弾力と強い旨みの美味しさ
ラム挽肉のソーセージの噛みごたえは、定番の豚肉のしっかりした粒感に比べると、やや柔らかく、ふっくらとした印象です。
5部位を混ぜ合わせた挽肉は、ひとつの強い旨みの塊として、ズーンと響いてくるパンチがあります。
挽肉を通して感じる柔らかい肉質と、しっかりした旨みに、羊肉の底力を感じるソーセージです。
同じラム肉の炭火焼きでも、骨付きロースとちがう味わいです。ぜひ、食べくらべをお楽しみください。
⚫︎肉料理
4.北海道産ラム肉ランプのロースト グリーンペッパーソース山椒かけ
メニューについて
◆スパイスできわだつ旨み
赤身が多いランプは、ラム肉の場合、旨みはまろやかになります。
そこで、スパイスをきかせたソースを合わせ、旨みを引き立てて味わいます。
調理
◆ランプを焼く
◆ソースをつくる
◆仕上げる
お召し上がり
◆スパイスの爽やかな辛みで極まる旨み
ソースに入れたグリーンペッパーの実は、ソースを煮詰めることで辛さがやわらぎ、青々しい香りがきわだちます。
仕上げに振りかけた山椒の実のフルーティな辛みが、グリーンペッパーを追いかけます。
カンボジア産のグリーンペッパーと和歌山県産の山椒。アジアの気候風土が生んだスパイスは、不思議とよく合います。
ラム肉ランプのまろやかな旨みを、爽やかな辛みで引き立てます。
5.フランス・シストロン産ラム肉 モモのロースト
メニューについて
◆巻いて焼くことで味を凝縮
フランス・シストロン産ラム肉のモモを巻き、フライパンとオーブンでじっくり焼きます。
調理には、塩コショウとオリーブオイルしか使わず、モモの持ち味を凝縮します。
調理
◆モモを焼く
◆仕上げる
お召し上がり
◆濃いコクの旨み
肉を巻き、低温で長時間かけて焼くことで、モモ肉の濃い持ち味が凝縮します。
肉質はしっかりして、香ばしさや強い旨み、コク、ほろ苦さがあります。
若々しいラム肉ゆえに、モモの濃い味は強すぎず、まろやかです。
シンプルな味付けに納得する、奥深い味わいです。
6.北海道産ラム肉 スネの赤ワイン煮込み
メニューについて
◆オーブンで焼き増しするフィレンツェ風煮込み
コトコト煮込んだラム肉の骨付きスネを、煮汁とともに器に盛り付け、オーブンで加熱します。
煮汁がバチバチはねるほど焼き増しするのがフィレンツェ風です。
ワイルドなテクスチャーとともに、香ばしさとワインの濃縮感を豪快に味わいます。
調理
◆モモ肉をマリネする
◆煮込む
◆仕上げる
お召し上がり
◆スネ肉のダシが効いた濃い煮汁
ラム肉のスネは、煮込んで柔らかくなり、骨からズルッとはがれます。
風味は濃厚ながら旨みは淡白。濃縮した煮汁を絡めて味わいます。
煮汁は茶色を帯びた濃い赤の色調で、ワインの甘酸っぱさが濃縮して、光沢があります。
野菜の繊維質が、甘酸っぱさをまろやかにまとめます。
⚫︎パスタ
7.4色のマッロレドゥス 北海道産ラム肉ソーセージのソース
メニューについて
マッロレドゥスは、イタリアのサルデーニャ島の伝統パスタです。
サルデーニャ島は牧羊が盛んで、パスタのソースに羊肉のソーセージの挽肉や、羊乳のチーズを合わせるのが特徴です。
この4色版のマッロレドゥスは、サルデーニャ島出身のイタリア人から教わったレシピを再現しています。
調理
◆マッロレドゥスを製麺する
◆ソースをつくる
◆仕上げる
お召し上がり
◆繊細な香りの集積で、さっぱりした後味
振りかけたペコリーノ・チーズの香ばしい香り、ソースに混ぜたサフランの芳しい香り、挽肉の羊の香りの集積が、カラフルなパスタの食欲をそそり、さっぱりした後味に仕上げます。
生パスタでつくるマッロレドゥスは、小粒ながら、もっちりとした弾力があります。溝にソースがしっかり絡み、いくつかまとめて口に含むと、弾力と味わいが増します。
挽肉はほどよく束になり、旨みの凝縮感をミートボールのように味わうことができます。
フィノッキオのシャリシャリした食感と、鼻に抜けるような爽やかな風味が、小気味いいアクセントです。
⚫︎ドルチェ
8.イタリア・サルディーニャ産羊乳チーズ入り バスクチーズケーキ
メニューについて
◆イタリアのチーズで高まる香り
スペインのバスク地方が発祥とされるバスクチーズケーキ。
このケーキのチーズにイタリア・サルデーニャ産の羊乳チーズと、北イタリア産のクリームチーズをたっぷり使い、香りを高めて焼き上げます。
調理
◆生地をつくる
◆チーズケーキを焼く
お召し上がり
◆旨みからコクへのグラデーションが秀逸
イタリア産のチーズ2種でつくるチーズケーキは、香りが高く、旨みからコクへのグラデーションが秀逸。
重層的な味わいは、黒っぽい焼き色に近づくにつれ、香ばしさが増すことで極まります。
舌ざわりは濃厚そうに見えながら、サラッとして、その質感が奥深い味わいにつながります。
旨みの広がりから甘さは控えめで、単品の美味しさはもちろん、甘めのドルチェと合わせる楽しみもあります。
新緑が爽やかに感じる季節は、
ラ・ビスボッチャの
「羊フェア」でお楽しみください。