CHRISTMAS MENU 2021
コラム「味と技」第102回
イタリアンで楽しむクリスマス
美食の国、イタリアのクリスマスメニューは意外と素朴。家族が集まり、家庭料理が中心になるからです。
伝統的で素朴、そして、ちょっと贅沢。そんなイタリア流の「クリスマスメニュー」を、期間限定メニューと定番メニューから10品セレクトして、12月20日(月)〜12月26日(日)の期間おすすめします。
親しい人たちと、ワインを飲みながら和気あいあいと語るディナーに、ぴったりのメニューです。
ご注文はコースでなく、アラカルトで承ります。定番メニューとともに、お好みでお選びください。
監修/料理長・井上裕基 副料理長・ 露詰まみ
写真・文/ライター 織田城司
Food Direction by Yuuki Inoue & Mami Tsuyuzume
Photo・Text by George Oda
⚫︎前菜
1.クリスマスカラーの前菜4種のプレート
メニューについて
冬の味覚を集めて、クリスマスカラーで彩りました。
クリスマス気分が盛り上がる、前菜の盛り合わせです。
①ブラータチーズのカプレーゼ
赤、緑、白、イタリア国旗の色で、クリスマスカラーでもある3色のサラダ、カプレーゼです。
白いチーズに、ミルキーな風味と甘みが濃厚なブラータチーズを合わせました。
フレッシュでひと味ちがうカプレーゼをお楽しみください。
②焼き野菜のマリネ
野菜を加熱してからマリネして、自然の甘みや酸味を凝縮したサラダです。
下ごしらえの火入れは、野菜の素材感に合わせ、パプリカは炭火焼き、ズッキーニは網焼き、ブロッコリーは茹で、とろける食感や美味しさを引き出しました。
③鮮魚のカルパッチョ
オリーブオイルでマリネした鮮魚の前菜です。
ツルッ、トロッとした食感とともに、旨みがきわだちます。
クリスマスカラーで彩る薬味が、スパイシーなアクセントです。
④クラテッロと柿
イタリアで最高級の生ハムと評されるクラテッロに、旬のフルーツ、柿を合わせました。
生ハムの塩気や旨み、柿の甘みがお互いに引き立て合います。
クラテッロは単品でのご用意もあります。詳しくは、すぐ次のメニューで紹介します。
2.クラテッロ
メニューについて
◆クラテッロとは
クラテッロは、生ハムの材料になる豚モモ肉のなかでも、もっとも柔らかく美味しいとされる尻部の肉のみを熟成させた加工食品です。それゆえ、「最高級の生ハム」などと評されています。
クラテッロの産地は、イタリアでもっとも長い川、ポー川のイタリア北部エミリア・ロマーニャ州パルマ県の流域にある、ジベッロ地域周辺の8村のみです。希少な材料を限られた産地で加工するため、イタリア国内でもクラテッロの流通量は少なく「幻の生ハム」ともいわれています。
ポー川流域の湿気が熟成の味の深め、肉質をしっとり仕上げ、コクが濃い、独自の味をつくります。
同じパルマ県でも、標高が高い地域で、乾燥した空気にさらして熟成する一般的な生ハムとは味がちがいます。
このため、「ジベッロのクラテッロ」と呼びながら特徴を主張し、イタリアの原産地名称保護制度の対象になっています。
バターを添えるのがジベッロ流の食べ方です。
お召し上がり
◆熟成された深いコク
クラテッロの熟成香は芳醇で、シャープな香りや重めの香りが豊かに広がります。
味わいも幅広く、赤身の濃淡やテクスチャーのちがいにより、旨みやコクが複雑に現われ、奥ゆきがあります。
白い脂身の甘みが、バランスよく絡みます。
凝縮された味の広がりに飽きない魅力があり、合わせるワインやパンが美味しくすすみます。
3.ホタテ貝とあおさ海苔のグラタン
メニューについて
夏と冬に2回旬を迎えるホタテ貝。その美味しさを、アツアツのグラタンでいただきます。
ソースにあおさ海苔を入れ、磯の香りを高めました。
調理
お召し上がり
◆磯の香りのノスタルジー
ホタテの貝柱は、ソースに包まれ、ほどよく加熱され、ふっくらとした仕上がりです。
貝柱の歯ごたえは柔らかく、噛みしめると繊維がサクサクほどけ、魚介の香ばしさやクリーミーな甘み、まろやかな旨みをたっぷり味わいます。
ソースに混ぜたあおさ海苔は、イタリアンでありながら、和風の磯の香りが濃厚。日本の海辺を思い出す香りに、郷愁を感じます。
グラタンの焼き目の香ばしさ、オカヒジキのシャキシャキした食感がアクセントです。
⚫︎パスタ&リゾット
4.黒トリュフと生ハムのタヤリン
メニューについて
黒トリュフは、12月から翌年の2月頃までが旬で、クリスマスの時期に香りが高くなります。
そんな黒トリュフの香りを、相性がよい極細麺、タヤリンとバターソースで高めたパスタです。
ソースに生ハムを入れ、熟成香と塩味を加え、味わいを深めました。
調理
◆ソースをつくる
お召し上がり
◆森を感じる香りが濃厚
黒トリュフの香りは、ヒノキやスギ、木の実、枯葉など、森を感じる芳香が広がります。
黒トリュフそのものに味はほとんどありませんが、わずかに感じる、ほろ苦いような、複雑なコクが料理の味を深めます。
生ハムのとろける舌ざわりは、バターソースと一体になります。
生ハムの熟成香や塩味、旨みでコクが増したバターソースは、黒トリュフの香りとよく合います。
5.ワタリガニのパッケリ
メニューについて
日本の冬の味覚、ワタリガニを贅沢に丸ごと一匹使ったパスタです。
ソースはカニ味噌の風味とコクが濃厚で、大きな筒型パスタ、パッケリで豪快に味わいます。
調理
お召し上がり
◆冬の贅沢を丸ごと一匹
出来上がったパッケリから、カニの香ばしさが濃厚に漂います。
パッケリはモッチリした歯ごたえで、ワタリガニのソースの香ばしさや甘み、旨み、コクがたっぷり染みこんでいます。
一緒に盛り付けたワタリガニのハサミや足のなかの身も食べられ、繊細な甘みや旨みが凝縮しています。
ズッキーニの青々しさが、爽やかなアクセントです。
6.和牛と和栗のパッパルデッレ
メニューについて
和牛のまろやかな旨みをたっぷり味わう、具だくさんのパスタです。
合わせるパスタは、濃いソースと相性がよい幅広のパッパルデッレ。
和栗の甘みがアクセントです。
調理
◆ソースをつくる
⚫︎「薩摩牛」とは
「薩摩牛」は、鹿児島県産の黒毛和牛のなかから、国内の和牛等級5段階の4級以上の肉質で構成する高級ブランド牛です。
そのなかでも、今回使用する牛ヒモ肉は、牛ネックに付随するヒモ状の細長い部位です。
赤身が中心で、肉質は柔らかく、ほどよい噛みごたえがあり、肉そのものの味を濃く感じます。
◆仕上げる
お召し上がり
◆まろやかな旨みをたっぷり
具材の和牛は、柔らかさのなかに弾力があり、ほどよい歯ごたえです。
噛みしめると、牛肉の風味と、まろやかな旨みをたっぷり感じます。
和栗のホクホクした食感と甘みが、ほっこりするアクセントです。
和牛のダシが出た濃厚なソースは、幅広のパッパルデッレにしっかりしみて、頬張ると小麦とトマトの風味が、和牛の美味しさを引き立てます。
7.パルメザンチーズのリゾット
メニューについて
クリスマスメニューの食べ合わせとして、年間定番からおすすめするのは、パルメザンチーズのリゾットです。
イタリアらしさを象徴する素朴な味わいは、さまざまな料理によく合い、ディナーの流れに欠かせない一品です。
調理
お召し上がり
◆イタリア流に味わう米の美味しさ
リゾットに使うイタリア米は、日本の米に比べると大粒です。
煮込んでも型崩れしにくいイタリア米の特性が生き、歯ごたえに弾力があり、粒感がきわだちます。
イタリア米の味わいは、香ばしさや旨みが広がり、甘みは上品です。
パルメザンチーズの熟成香や塩味、ミルキーなとろみは、イタリア米と相性抜群で、飽きない味わいがあり、ワインやパンとよく合います。
⚫︎メイン
8.牛ホホ肉の赤ワインとバルサミコ酢煮込み
メニューについて
牛ホホ肉を、赤ワインとバルサミコ酢で贅沢に煮込んだ一品です。
牛ホホ肉は、赤ワインとバルサミコ酢、香味野菜で約1日かけてマリネした後、ソテーして旨みをギュッと封じ込め、マリネに使った液で煮込み、味を深めました。
調理
◆牛ホホ肉をマリネする
◆煮込む
◆仕上げる
お召し上がり
◆まろやかさとコクが深まるリッチな味わい
煮込んだ牛ホホ肉は、ホロホロほどける柔らかさです。
煮汁のコクがしっかりしみて、噛みしめると繊維の奥に牛肉らしい風味と旨みを感じます。
煮汁は牛ホホ肉からしみ出た脂と野菜のまろやかさに、赤ワインとバルサミコ酢の熟成した味がダブルで重なり、リッチなコクが深まります。
琥珀色の脂身はぷるんと柔らかく、甘みがアクセントです。
おすすめのワイン
エレガントな辛口赤ワイン
銘柄/ルーチェ
ワイナリー/テヌータ・ルーチェ
生産地/イタリア中部トスカーナ州
ぶどう種/サンジョヴェーゼ、メルロー
生産年/2017年
こちらの赤ワインは、2種のぶどう、サンジョヴェーゼのしっかり感とメルローの柔らかさが見事に融合しています。
炭火焼きの肉に合わせるような、強い辛口赤ワインが多いトスカーナ州のワインのなかでも、エレガントでインターナショナルな感覚の赤ワインです。
それゆえ、牛ホホ肉の煮込みの、まろやかさとコクによく合います。
9.キングアイランド牛リブロースの炭火焼き
メニューについて
◆キングアイランド牛を味わう
クリスマス用の炭火焼きの肉は、柔らかくて美味しく、赤身好きから注目されている、オーストラリアの高級ブランド牛「キングアイランド牛」のリブロースをおすすめします。
◆キングアイランド牛とは
キングアイランド牛は、オーストラリアの南にある小さな島、キングアイランドで育った牛の牛肉です。
◆キングアイランド牛の特徴
キングアイランドは、年間を通じて温暖な気候で、雨量が多く、牧草の生育に適した環境です。
キングアイランド牛はこの島で放牧され、パスチャーフェッドという、栄養価の高い牧草のみを食べさせる飼育管理により、肉質の高い牛肉に仕上げられています。
広い草原を自由に歩き回り、適度な運動をすることで、脂肪が少なく、赤身が多い肉ができます。
ストレスの少ない環境で育つことで、肉質がとても柔らかくなります。
栄養価の高い牧草を食べることで、牛肉の風味や旨みが濃くなります。
そんなキングアイランド牛の極上の美味しさを、炭火焼きで高めます。
調理
お召し上がり
◆牛肉の多彩な美味しさの醍醐味を堪能
焼き上がったキングアイランド牛は、炭火香と牛肉の香りが豊かに香ります。
肉質は柔らかく、噛みしめると、繊維がサクサク切れる歯ごたえが小気味よく、肉汁はしっとりしています。
味わいは、赤身の強い旨みとコクが中心です。脂身のとろける甘みと、焼き目の香ばしさや塩味などがアクセントです。
多彩な味をバランスよく楽しむ美味しさに、牛肉の醍醐味を堪能した充実感があります。
⚫︎ドルチェ
10.パネトーネ
メニューについて
パネトーネは、イタリアで歳末に食べる菓子パンです。
歳末に食べる由来のひとつに、開運があります。
パネトーネが生まれた伝説の背景にある恋愛成就や、パン生地のゴールドが金運につながる説もあり、翌年の開運につながる縁起物とされています。
もうひとつの由来に日持ちがあります。
イタリア北部のみでとれる特殊な天然酵母の働きで、日持ちする利便性があります。商店が閉まる年末年始にロングランで食べられる食品として重宝されています。
日本での再現が困難なため、本場ミラノから取り寄せたパネトーネを提供します。
調理
お召し上がり
◆年越し菓子に思う開運
パネトーネのパン生地は、ふんわり見えながら、歯ごたえはモッチリした弾力があり、ほかのパンにない食感に美味しさがあります。
パン生地に混ぜたドライフルーツのフルーティな香りと、レーズンの甘酸っぱさがアクセントです。
一緒に添えたクリームやピスタチオと合わせると、よりいっそう美味しくお召し上がりいただけます。
癖になる味わいは、歳末になると食べたくなり、翌年の開運を祈願します。
クリスマスシーズンのディナーは、
ラ・ビスボッチャの「クリスマスメニュー」で、
思い出に残るひとときをお過ごしください。