映画で装うレストラン「夏の一杯」

COLUMN   CINEMA DINNER FASHON #3

コラム『映画で装うレストラン』第3回

「夏の一杯」

映画に登場する食事のシーンと着こなしを解説する連載コラムです。イラストは綿谷寛さんの描き下ろしです。第3回は、夏の飲み物の描き方に見る、監督のまなざしに思いをめぐらせます。

イラスト/イラストレイター 綿谷寛
写真・コラム/ライター 織田城司
監修/料理長 井上裕基
Illustration by Hiroshi Watatani
Photo・Column by George Oda 
Produce by Yuuki Inoue 

 

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド

(2019年・アメリカ)
監督:クエンティン・タランティーノ
出演:レオナルド・ディカプリオ、ブラッド・ピットほか

「ウイスキーサワーを8杯も飲んだのが失敗だ!」

ハリウッドのスタジオで、西部劇の撮影に参加していた男優(レオナルド・ディカプリオ)は、セリフが出ず、撮影を何度もやり直す。控室に戻ると、前日飲み過ぎたことを悔やんだ。

時代は1969年の夏、流行は派手なヒッピーカルチャーが全盛で、西部劇は時代遅れになっていた。男優はかつての西部劇スターだが、中年になると脇役ばかりで、落ち目になっていた。

そんな男優を長年支えたスタントマン(ブラッド・ピット)との友情を描く物語。

2人のウエスタン調の普段着は、若手女優(マーゴット・ロビー)が着こなすカラフルな流行服と比べると、古くさく見える。

しかし、いまの感覚で見ると、2人の着こなしは、不思議と古さを感じない。むしろ60年代のファッションに隔世の感がある。

2人が着こなすアロハシャツやTシャツ、ジーンズ、ブーツなどのアイテムは、長年多くの人々に愛用されるうちに、タイムレスな定番アイテムになったからであろう。

2人は映画プロデューサーとのランチミーティングで、バーカウンター付きのレストランへ出かける。

このとき、レオナルド・ディカプリオはレザージャケットを着て、ブラッド・ピットはデニムジャケットを着る。

場の雰囲気を意識して、自分たちのスタイルのなかで上着を着て、ふだんよりドレスアップしている。

バーカウンターでプロデューサーを待つ間、レオナルド・ディカプリオが注文する飲み物はウイスキーサワー。ブラッド・ピットはブラッディ・メアリー。ウォッカベースのカクテルで、セロリのスティックを差し込んでいる。

2人がメキシコ料理店で注文する飲み物はマルガリータ。テキーラベースのカクテルだ。

ハリウッドがあるカリフォルニア州は気候が温暖で、爽やかなカクテルが美味しそうに見える。

タランティーノ監督は1969年当時6歳だが、歴史をさかのぼって研究することが好きで、当時のファッションやポピュラー音楽をマニアックに再現している。当時を知る世代には懐かしく、知らない世代には新鮮に映るであろう。

タランティーノ監督は、日本映画も大好きで、アクション映画の巨匠、深作欣二監督を師と仰いでいる。

それゆえ、タランティーノ監督の作品には、どこかに深作監督へのオマージュが盛り込まれている。

本作の落ち目の男優とスタントマンの関係は、深作監督の『蒲田行進曲』(1982年)の設定がモチーフであろう。

落ち目の男優(風間杜夫)とスタントマン(平田満)が演じる、時代遅れのチャンバラ時代劇を、本作では西部劇に置き換えた。

風間杜夫が落ちぶれながらも見栄でキャデラックに乗る設定は、本作のレオナルド・ディカプリオの役づくりに引用された。

しかし、名作映画をそのままコピーするリメイクではない。ストーリーは別の展開だ。

好きな作家の作品を部分的に引用しながら、いまのオリジナルに上手くクリエイトした。

『蒲田行進曲』は深作監督が50歳を過ぎてから手がけた作品である。往年得意とした、ヤクザが銃をバンバン撃ち合うバイオレンス・アクションではなく、中年男の悲哀を描く人情ドラマだ。

人は年齢を重ねるうちに、味の好みに変化が出てくる。料理や酒の味はもちろん、作品の味もある。深作監督にも味の変化があり、タランティーノ監督も50歳を過ぎてから、その味がわかるようになったのであろう。

 

『運び屋

(2018年・アメリカ)
監督・主演:クリント・イーストウッド

アメリカで実在した麻薬の運び屋がモデル。1924年に生まれ、2016年に92歳で亡くなるまでの晩年、80歳代から運び屋をはじめた実話をもとに創作された。 

アメリカ軍の退役軍人(クリント・イーストウッド)は、余生を園芸家として過ごした。

特に、夏に花を咲かせるデイリリーが好きで、その栽培の専門家として評判になった。しかし、園芸に熱中するあまり、家族とは疎遠になっていた。

まわりにパソコンを使う若者はなく、2000年代に入ると、ビジネスにインターネットを導入しなかったため、苗や種の売上は減少。農場は赤字で閉鎖になった。

そんなとき、知人の紹介で荷物の運搬を請け負う。生活費を稼ぐアルバイトのつもりだったが、報酬の多さに驚き、後で積荷に麻薬が隠されていることを知った。

クリント・イーストウッドの着こなしは、ほとんどカジュアルだが、夏のホテルで開催されるデイリリーの品評会に、出品業者として参加するときはドレスアップする。

ライトブルーのシアサッカースーツに、白シャツと赤い蝶ネクタイを合わせる。

格式の高いフォーマルではないけれど、ほどよいカジュアル感と華やぎが、園芸品評会のドレスアップによく合う。

品評会で金賞を受賞すると、友人たちをホテルのバーに誘う。そして、お祝いのお裾分けに、バーの客全員にカナディアン・ウイスキー「クラウン・ローヤル」をご馳走する。

メキシコの麻薬組織のボスのパーティーに招かれたときも、バーカウンターで同じウイスキーを注文する。氷なしのストレートのダブル。

本人にとって、特別な気分のときに楽しむ飲み物なのであろう。

犯罪に関わりながら、家族の絆を再生しようとする男の老境を、クリント・イーストウッドが見事に演じた。

撮影当時は80歳代で、運び屋の年齢に近い。枯れた味が自然で、本物のような存在感があった。

 

ラ・ビスボッチャ店内

 

『地下室のメロディー

(1963年・フランス)
監督:アンリ・ヴェルヌイユ
出演:ジャン・ギャバン、アラン・ドロンほか

戦後から復興して間もないパリ郊外。団地の造成が進む住宅地に、刑務所から出所して帰宅した老ギャング(ジャン・ギャバン)は、妻から小さなリゾートホテルを経営する余生をすすめられた。

しかし、老ギャングは「安月給のサラリーマンから金を取るほど悪趣味ではない」と断り、ヨーロッパの富豪が夏のバカンスで集まる、カンヌのカジノから大金を強奪して、引退することに決めた。

ひとりで大仕事はできないため、刑務所で知り合った若者(アラン・ドロン)とその義兄を仲間に入れた。

ジャン・ギャバンは、カジノの下見のため、アラン・ドロンを一足先にカンヌへ送り込む。

アラン・ドロンが金持ちの若者に見えるように、ドレスアップを仕込み「証明写真はネクタイ付き、車は英国車」などの指示を出す。当時の上流階級では、英国物に精通していることがステイタスだった。

アラン・ドロンもその教えを守り、高級ホテルのプールサイドのバーカウンターでスコッチウイスキーを注文している。

犯罪のスリルだけでなく、ベテランと若者の人間模様もしっかり描き、フランス代表する2大スターの共演で味を深めた。

黒澤明監督は、本作を「犯罪ムービーのお手本と言える映画」として絶賛している。

 

『華麗なる賭け

(1968年・アメリカ)
監督:ノーマン・ジェイソン
出演:スティーブ・マックイーン、フェイ・ダナウェイほか

1960年代後半、高度成長時代が円熟した初夏のアメリカ・ボストン。青年実業家(スティーブ・マックイーン)は36歳ながら、資産は400万ドルあった。

アメリカの上流階級が英国貴族に憧れるように、実業家もロールス・ロイスに乗り、スリーピーススーツを着こなす。

余暇はゴルフやポロ、グライダー、サンドバギーなどのスポーツで気分転換する。

このほかに、熱中している趣味は銀行強盗だ。手下を遠隔操作して完全犯罪に成功する。資産がありながら、強盗をゲームのように楽しんだ。

奪われた金の回収を目指す保険会社の女性調査員(フェイ・ダナウェイ)は、直感で実業家が犯人と見抜き、確証をつかむために接近する。実業家が出かけるイベントにドレスアップして参加し、印象づける。

やがて、オークション会場で実業家から声をかけられ、バーカウンターに誘われ、一緒にスパークリング・ワインを飲み、親しくなっていく。

2人のスリリングな駆け引きを盛り上げるのは、スタイリッシュな着こなしだ。

実業家のドレスアップは英国調。スリーピーススーツにダブルカフスシャツと無地のネクタイを合わせる。

ネクタイは、無地がもっともエレガントに見える。無地のネクタイをたくさん揃えている人は洒落者である。実業家もシーンによって、無地のネクタイの色をネイビーやラベンダー、レッドに変えながら粋に着こなす。

スティーブ・マックイーンは、長身ではなかったため、衣装のシルエットがスマートに見えることにこだわっていた。スーツのカスタムメイドはもちろん、カジュアルウエアにもお直しを施していた。

フェイ・ダナウェイは、60年代のモード服を次々と着こなす。デザインは大胆でも、カラーをモノトーンやネイビー、ベージュなど、シックなカラーでまとめるから上品に見える。

2人の着こなしには、いまでも参考にしたいアイデアがたくさんある。

 

『007サンダーボール作戦

(1965年・イギリス)
監督:テレンス・ヤング
出演:ショーン・コネリーほか

1960年代なかば、物語の大半は、悪の組織の基地があるカリブ海のバハマで展開する。シリーズのなかでも、トロピカルムードたっぷりの作品だ。

バハマで活躍する英国の諜報部員ジェームス・ボンド(ショーン・コネリー)は、ビーチのカジュアルやカーニバルのジャケット、ダンスクラブのスーツ、カジノのフォーマルなど、夏の装いを幅広く披露する。

スーツはどれも英国の重みとエレガントな表情がしっかり出ている。その姿のままでアクションをこなす、非日常的な展開が面白い。

ブルーの色使いも上手い。スーツやジャッケットに合わせるVゾーンは、ブルーの無地シャツとネイビーの無地ネクタイ。昼間街で着る半袖カジュアルシャツもブルーが多い。

ブルーは、夏の装いに涼感をもたらす王道の色で、あえて外すことなく、しっかり見せて好感が持てる。

ボンドのネクタイの結び方は隙がない。シャツの襟元をきっちり閉じ、三角形をシャープに見せる。英国のVゾーンのつくり方のお手本だ。

悪のボスの愛人ドミノ(クローディーヌ・オージェ)は、メインのボンドガールとして水着姿を4スタイル披露する。

水着はどれもモノトーンで、ダークなヘアカラーとよく合う。統一感のある色の選び方が着る人の印象を強調した。

ボンドがランチで注文する料理はコンクチャウダー。カリブ海特産のコンク貝を使った煮込み料理だ。

悪のボスがボンドを豪邸に招き、プールサイドでもてなす飲み物はラム・コリンズ。西インド諸島原産のラム酒をベースにしたカクテルだ。

地元の料理や飲み物を挿入することで、トロピカルムードを高めた。

 

『フォードvsフェラーリ

(2019年・アメリカ)
監督:ジェームズ・マンゴールド 
出演:マット・デイモン、クリスチャン・ベールほか

初夏のフランス郊外。中世の面影が残る古都ル・マンは年に1度、24時間耐久自動車レースが開催されるときは賑わい、世界中から注目される。

自動車メーカーは、伝統の一戦に優勝するイメージアップを目指し、各国から参戦する。本作は1966年のレースの実話にもとづくドラマ。

レースのシーンは、レトロなレースカーのシフトレバーやアクセルペダルをガチャガチャ動かすローテク感の描写がリアルで、観る人も運転しているような迫力がある。スピード感はあるけれど、速すぎないペースがいい。

物語は専門技術のマニアックな描写だけでなく、レースをめぐる企業や家族の人間模様をしっかり描き、深みがある。

当時、常勝チームだったイタリアのフェラーリに挑む、アメリカの大企業フォード。そのフォードのなかでも、上層部とレースの技術者との間に葛藤がある。

その視点は、フォードのレースカーデザイナー(マット・デイモン)と、その車を運転する英国人ドライバー(クリスチャン・ベール)の「現場目線」を中心に展開する。

実在の人物がモデルで、レース当時は2人とも40歳代だった。演じた俳優2人も40歳代で、企業のなかで生きる、技術責任者の思いや悩みを見事に表現した。

特に、英国人ドライバーの個性がユニークだ。技術は優れているが、荒くれ男のように粗野な性格で、服装はいつもラフなカジュアル。こういう人は、組織になじまないと思って観ていると、やはり上層部の評価は良くない。

カーデザイナーがレースのドライバーに推薦しても、上層部から「あいつはビートニクだ。服装もね」と反対される。ビートニクとは、当時の言葉で反体制などの意味だ。

すると、カーデザイナーは「あいつはビートニクではない。第二次大戦のノルマンディー上陸作線では、戦車を操縦してベルリンまで進軍したのだ!」と反論している。

そんな英国人ドライバーが、レースの後の楽しみにしている一杯は、紅茶だった。

フェラーリのイタリアらしさは、カーデザインを通して描かれている。

フォードは直線的でシンプルなデザインだが、フェラーリは曲線を生かしたグラマラスなデザインだ。

いよいよレースがはじまるル・マンのコースで、フォードのカーデザイナーと英国人ドライバーは、フェラーリのレースカーの新車を見ると、「美人コンテストならフェラーリに負けた…」とつぶやいた。

 

ラ・ビスボッチャ店内

 

『ローマの休日

(1953年・アメリカ)
監督:ウイリアム・ワイラー
出演:オードリー・ヘップバーン、グレゴリー・ペックほか

戦後から復興して間もないヨーロッパ。各国を訪問中の架空の国の王女(オードリー・ヘップバーン)は、イタリアのローマで宿舎の宮殿を抜け出し、公務を一日休んで観光を楽しむ。

衣装の注目は、王女がシーンに合わせ、白いブラウスに多彩なアレンジを加える着こなしだ。

王女は宮殿から抜け出すとき、ブラウスの袖は長袖。襟は細長い布で結んで閉じる。王室の普段着らしいエレガントなイメージだ。

王女はローマの街に出ると、サンダルを買って履き替え、髪をショートヘアにカットする。

スペイン広場でジェラートを食べるとき、ブラウスの袖を半袖のようにまくり上げ、襟をオープンカラーのように開く。ローマの街に合うカジュアル感が出てくる。

ベスパを運転するとき、首まわりにストライプ柄のスカーフを足す。華やかさが加わり、気分の高まりを感じる。

夜のダンスパーティーに参加するとき、ブラウスの襟を立て、その上からスカーフを結び、ハイネックのように見せて、ドレスアップする。

宮殿に帰るとき、ブラウスの袖を長袖に戻す。

白いブラウスは、生地に張りがあるからコットンであろう。薄地ながら形のアレンジがつけやすい。アイテムの特性を生かし、王女の気分の表現に上手く使った。

王女の飲み物に注目すると、休憩に立ち寄ったカフェで、スパークリング・ワインを注文している。これは、イタリアの酒造メーカー「チンザノ」社のものかもしれない。

なぜなら、王女はトラックの荷台に隠れて宮殿から抜け出すとき、荷台にスパークリング・ワインも積まれ、ケースに「チンザノ」社のブランドが見えるからだ。

「チンザノ」社はカクテルに使うベルモットが有名だが、イタリアではじめてスパークリング・ワインをつくった歴史もある。ブランドを映すことで、イタリアらしさを出している。

ちなみに、「チンザノ」は先に紹介した『007 サンダーボール作戦』にも登場する。 

ボンドはバハマのホテルの部屋で、ボンドに協力するC I Aの局員が訪ねてくると、「チンザノ」の赤いベルモットでカクテルをつくり、もてなす。

世界のグルメに精通しているボンドらしい、夏のセレクトだ。

 

『東京物語

(1953年・日本)
監督:小津安二郎
出演:笠智衆、原節子ほか

1953(昭和28)年、広島県の尾道に住む老夫婦は、元気なうちに孫の顔を見ようと、東京で働く息子たちの家を訪ねる。しかし、息子たちは仕事が忙しく、知人の家を転々としながら尾道に帰る。 

季節の背景は真夏、撮影は盆休み明けからスタートした。小津監督は、ほとんどこのパターンで映画をつくった。夏が好きなのであろう。 

「芸術のことは自分に従う」。これが小津監督の創作哲学で、自分の好みを演出に生かした。

小津監督は本作の立地を選ぶとき、敬愛する先輩作家のエピソードをアイデアにした。

尾道の設定は、志賀直哉が一時期暮らしたことを参考にした。老夫婦が出かける東京の堀切と熱海の設定は、永井荷風の日記を参考にした。

男優のシャツはすべて白。女優のブラウスも白。これは小津監督の好みである。

小津監督は、シャツは白しか着なかった。コットンのドレスシャツで、スーツやネクタイとの合わせはもちろん、撮影現場でもノーネクタイでカジュアルシャツのように着こなした。

尾道の老人(笠智衆)が飲酒をするシーンは4回あり、飲み物はすべて日本酒。食卓にビール瓶はなく、日本酒好きの設定だ。これも小津監督の好みである。

後に、笠智衆は小津監督の演出について、オーバーな演技が嫌いで、能面のように無表情の演技を要望して、自然というより様式に近かったと回想している。

小津監督は能を好み、様式美のなかで物語を表現する方法を、映画に取り入れようとしたのであろう。

リアリズムではなく、独自の美学で日本人を描き、自らそのスタイルを体現し、作品の作家性を高めた。

 レトロな白黒映像だが、それがかえって、情緒を深める印象もあり、日本の真夏の陽ざしを、強く感じた。

 

『万引き家族

(2018年・日本)
監督:是枝裕和
出演:リリー・フランキー、安藤サクラほか

2010年代、東京の下町。血がつながりはないけれど、家族のように暮らす「疑似家族」と、血のつながりはあるけれど、児童虐待が絶えない家族。

ドキュメンタリー出身の是枝監督らしく、さまざまな家族を描きながら、現代の社会問題を盛り込んだ物語。

是枝監督は、家族の映画を撮り続けた小津安二郎監督と比較されることが多いという。

その作風のちがいを、是枝監督はインタビュー記事で、自分は登場人物を裁かない。しかし、小津監督は「人はこうあってほしい」「こういう姿は美しい」というメッセージを登場人物に込めている。その典型が『東京物語』の原節子のような気がする、と書いている。

本作も万引きなどの犯罪は否定的に描くが、疑似家族や虐待家族の描き方は断定せず、観る人に考える余地を残している。

疑似家族で夏のドレスアップを披露するのは、家主の祖母(樹木希林)。亡くなった元夫と後妻との間に生まれた男(緒方直人)の家に、月命日の線香をあげに行くときである。

本当の目的は、過去のいきさつから、行くたびに3万円の慰謝料がもらえるからだ。しかし、それを態度に出さず、金に困っていないように振る舞うため、よそ行きの服を上品に着こなす。

グレーの凝った編み地の半袖ニットと、グレーのスカートの上に、黒地に白い小花プリントの羽織ものを合わせる。モノトーンでシックにまとめるが、着飾る背景は複雑だ。 

疑似家族の子どもたちの思い出は、夏に一家で千葉の海へ海水浴に行ったこと。そして、ビー玉である。

男の子は母(安藤サクラ)と買い物に行った帰り、商店街でラムネを買ってもらい、一緒に飲みながら歩く。 

ビンのなかのビー玉に興味を持ったのか、家に持ち帰ると、工作機械を使ってビー玉を取り出し、妹と一緒に見ながら「海に見える」「宇宙に見える」と語り合う。

ラムネの清涼感は、炭酸の喉ごしのみでなく、透明のビンのなかで透明のビー玉が転がる視覚や、ビー玉がビンにあたるチリンチリンという音も清涼感を増す。いつの時代でも感動する仕掛だ。

そんな風物を子どもに伝えることも、疑似ながら家族らしく、ビー玉はその象徴のようだ。 

ところで、ラムネは家で飲むと、それほど感動しない。商店街の店先や、峠の茶屋など、露天で飲むと、なぜか美味しく、不思議な一杯だ。

是枝監督は『万引き家族』公開後、スタッフの慰労会でビスボッチャを訪れ、記念にサインを書き残された。

 

今回選んだ映画に観る、夏の装いと飲み物は、どれも監督の個性がにじみ出て、印象深い。

夏の装いは、軽装になりがちだが、意識すべきは肌の露出度である。

たとえば、メンズのトップスは、ランニングシャツ、Tシャツ、ポロシャツ、シャツの順で首まわりの肌を露出する面積は狭くなり、きちんと見える。ネクタイを結べば、さらに肌の露出は狭まる。

ボトムスは、短パンよりもパンツ、サンダルよりもシューズの方がきちんと見える。 

見え方の印象を意識しながら、場の雰囲気に合った着こなしを選びたい。

夏の一杯は、日本は蒸し暑いから「とりあえずビール」という機会が多くなる。

しかし、名監督が描いた一杯は種類が豊富で、「あれも美味しそうだ、これも飲みたい」と感じる。

外食する機会に、ふだん飲まない一杯を楽しみ、気分を変えるのもいい。