RECOMMENDED SEASONAL MENU 2021 MARCH
コラム『味と技』第84回
早春を味わう
3月は、あたたかい陽ざしや、桜の開花に、春の訪れを感じます。
そんな季節の旬菜がもつ、フレッシュな美味しさを生かしたメニューを、11品おすすめします。
メニュー編集・調理/料理人・高部孝太
監修・調理/料理長・井上裕基 副料理長・露詰まみ
写真・文/ライター 織田城司
Menu editing・Cooking by Kouta Takabe
Supervised by Yuuki Inoue Mami Tsuyuzume
Photo・Text by George Oda
1.ホワイトアスパラガスの炭火焼き
メニューについて
◆旬菜を香ばしく
イタリア人は春先になると、店頭に並んだ旬のホワイトアスパラガスを束で買い込み、毎日さまざまな料理で味わい、白ワインと合わせ、春の季節感を満喫します。
3月はそんな気分をイメージして、ホワイトアスパラガスの料理をいくつかおすすめします。
そのなかでも、最もシンプルな料理が炭火焼きです。
調理
お召し上がり
◆炭火が凝縮する美味しさ
ホワイトアスパラガスの繊維は、炭火の遠赤外線効果で柔らかくなり、甘みや旨みが凝縮しています。
表面の焼き色の香ばしさや、ほろ苦さがアクセントになります。
ホワイトアスパラガスに振りかける、オリーブオイルやイタリアンパセリも植物由来の食材です。
植物同士が織りなす、爽やかで繊細な味わいを、じっくり堪能します。
2.ホワイトアスパラガスとキャビア
メニューについて
◆定番の組み合わせ
イタリアやフランスでは、ホワイトアスパラガスにキャビアを合わせる食べ方が、味の相性がよいことから定番になっています。
今回はシンプルに、茹でたホワイトアスパラガスにイタリア産のキャビアを合わせます。
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◆サラッとした口どけと深いコク
キャビアの卵の膜は薄くて柔らかく、サラッとした口どけです。
なかから出てくる液は、どろりと濃厚で、まろやかな塩味や旨み、コクを深く感じます。
昆布のような、魚介由来の香ばしい風味を感じますが、クセはなく、後味はさっぱりして、もうひとくち食べたい後引きがあります。
キャビアは、それだけ食べても美味しいし、さまざまな食材とよく合います。
茹でたホワイトアスパラガスのスライスの上にキャビアをのせて食べると、それぞれの味を引き立て、白ワインがすすみます。
2.ホワイトアスパラガスのフリッタータ ブラータチーズのせ 黒トリュフかけ
メニューについて
◆ふわとろの魅力
黒トリュフは、ホワイトアスパラガスと旬の時期が重なるため、合わせて食べることが多い食材です。
今回は、黒トリュフとホワイトアスパラガス、どちらにも相性がいいタマゴを仲介して、フリッタータというイタリア版オムレツで料理し、ブラータチーズを加え、味と香りを高めます。
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お召し上がり
◆春の香りがいっぱい
ふわとろに焼き上がったフリッタータから、黒トリュフの芳香が広がり、次に、タマゴがバターで焼けた香ばしい香りが漂います。
その後、ブラータチーズのミルキーな風味と、ホワイトアスパラガスのまろやかな風味が続き、春らしい香りの共演を楽しみます。
ブラータチーズは、アツアツのタマゴの上でとろとろに柔らかくなり、タマゴと一体となります。
なかから出てくる、ホワイトアスパラガスのほのかな甘みがアクセントになります。
4.ブラータチーズと甘平のサラダ
メニューについて
◆ジューシーな甘さと合わせて
ブラータチーズのミルキーな甘みは、果物や野菜、生ハムなど、幅広い食材とよく合います。
3月は、柑橘類「甘平」の甘さと合わせてサラダをつくります。
◆ブラータチーズとは
ブラータチーズは、モッツァレラチーズと同じフレッシュチーズの仲間です。
袋状にしたモッツァレラチーズの中に、とろ〜りとした「ストラッチャテッラ」というチーズを詰めて封をする、手の込んだものです。
ブラータとはイタリア語で「バターのような」という意味です。バターのようにとろ〜りとして、ミルキーな甘みと風味があることが由来です。
◆「ディ・ステファノ」社のブラータチーズについて
「ディ・ステファノ」社は、イタリア南部プーリア州の親子2代のチーズ職人がアメリカに渡り、カリフォルニア州で生産するチーズメーカーです。
同地の乳牛「ハッピー・カウ」のミルクを使用。干草や穀類、フルーツなど、バランスのとれたエサを与えられ、自由に放牧されて育った牛で、ミルクは濃厚な味わいです。
ひとくちにブラータチーズといっても、質感や味わいは一種類ではなく、豆腐のように、メーカーによって千差万別です。
「ディ・ステファノ」社のブラータチーズは、しっかりした質感と濃厚な味わいが特徴です。
外側の皮は薄くて柔らかく、なかのとろ〜りとした「ストラッチャテッラ」と呼ばれるチーズは、クリーミーでありながら、水っぽくなく、もっちりとして、しっかりした粘りがあります。皮と中身の質感に差はほとんどなく、一体感があります。味わいはミルキーな甘みと風味が濃厚です。
「ディ・ステファノ」のブラータチーズが購入できる通販サイトのリンクはこちら→「THE FOODS」
お召し上がり
◆完熟の濃厚な甘み
甘平の薄皮は柔らかく、種はなく、食べやすい。
なかの果肉は大粒で、シャキッとして、プリプリとした弾力があります。
果汁はジューシーで、爽やかな香りがあり、甘みが強く、酸味は少なめです。
ブラータチーズのミルキーな甘みとよく合い、さっぱりとした後味です。
5.ボタンエビのカルパッチョ
メニューについて
◆甘いエビに春野菜を合わせて
ボタンエビは秋から春にかけてが旬で、身がプリプリして、濃厚な甘みと旨みがあります。
刺身にすると美味しく、イタリア風にカルパッチョで仕立て、春野菜と合わせていただきます。
トッピングのグリーンピースは、ピゼッリというイタリア産を使い、まわりに盛り付けたウルイは、日本の春の山菜です。
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お召し上がり
◆食感、味わい、すべてが強力で驚く
ボタンエビの身はプリプリとした食感があります。どのエビもプリプリとした食感はあるけれど、ボタンエビは特にプリプリ度が強力で、しっかりとした歯ごたえがあります。
身はねっとりと脂がのり、甘みや旨みが濃厚で、2度目の驚きがあります。
トッピングのピゼッリは、茹でても型崩れが少なく、カリン、ポリンとした小気味よい歯ごたえがあります。
青臭さやエグ味はなく、甘みや旨み、香ばしさが豊かで、イタリアの春野菜の美味しさを堪能します。
ウルイの食感はシャリシャリとして、味わいはニュートラルで、さっぱりとしたアクセントになります。
6.イイダコのアフォガート 焼きポレンタ添え
メニューについて
◆ナポリの伝統料理をイイダコで
海に囲まれたイタリア半島では、タコは古代ローマ時代から好んで食べられていました。
ナポリの郷土料理に「タコの溺れ煮(ポルポ・アフォガート)」があります。
煮汁のなかのタコが溺れているように見えることが名称の由来です。
この料理に、春が旬のイイダコを使い、香ばしい焼きポレンタを合わせます。
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お召し上がり
◆濃いコクと香ばしさ
イイダコから出たダシが、煮汁のコクを増しています。
イイダコの足や胴は、しっかりした歯ごたえがあり、香ばしさと旨みが濃厚です。
イイダコの胴から出てくる卵は、硬めに炊いたご飯という感じで、ポロポロとくずれ、味わいもご飯に似て、香ばしさや甘み、旨みを感じます。
不思議な珍味感覚に、もうひとつの春を感じて楽しみます。
香ばしい焼きポレンタの味はイイダコと好対照で、それぞれの味を引き立てます。
7.ハマグリとソラ豆のシャラテッリ
メニューについて
◆ちょっと厚めの平麺がいい
春が旬のハマグリにソラ豆を合わせ、パスタで味わいます。
パスタは、イタリア南部のアマルフィが発祥とされるシャラテッリ。
ちょっと厚めの平麺で、バジルのみじん切りが練り込んであり、爽やかな印象が、具材の新鮮さを引き立てます。
調理
◆シャラテッリを製麺する
◆パスタのソースをつくる
◆仕上げる
お召し上がり
◆ハマグリのやさしい旨みがきいた、あっさり塩味
旬のハマグリにフォーカスして、若々しいダシをベースに、美味しさを広げています。
ハマグリの身は、ほのかなピンク色で、まるで火が通っていないかのように柔らかく、旨みはやさしく、甘めです。
柔らかく、モッチリとしたシャラテッリには、ハマグリのお吸い物を思わせるソースがたっぷり染みています。あっさりとした塩味ゆえに、ちょっと厚めの平麺のボリュームが絶妙のバランスに感じます。
ソラ豆や、シャラテッリに練り込んだバジルの青々しさが、ハマグリを引き立てます。
8.鶏肉ペーストのアニョロッティ 春野菜のソース
メニューについて
◆やわらかい春野菜をたっぷり
春野菜を4種使った、具だくさんパスタです。
合わせるパスタは、小粒の詰め物パスタ、アニョロッティ。
どれも小さなひとくちサイズで食べやすく、味くらべを楽しみます。
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お召し上がり
◆春野菜の甘みを楽しむ
黄色と緑が集まったパスタの色に、春らさを感じます。
ホアワイトアスパラガスは、甘みと旨みがあります。
グリーンアスパラガスは、まろやかな青々しさがあります。
イタリア産グリーンピース「ピゼッリ」は、甘さがきわだちます。
芽キャベツは、ほのかな甘さと苦さを感じます。
アニョロッティは柔らかく、生地のタマゴの風味が豊かに香ります。
なかの鶏肉ペーストの香ばしい旨みがアクセントになります。
9.ホワイトアスパラガスのリゾット
メニューについて
◆春味のリゾット
旬のホワイトアスパラガスをリゾットで味わいます。
イタリアのリゾット米をホワイトアスパラガスのダシ汁で炊きます。
ホワイトアスパラガスが持つ、大地の香りがしみた米の味わいは格別です。
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お召し上がり
◆ホワイトアスパラガスが香る米
ホワイトアスパラガスのスライスと、ダシ汁が加わったリゾットは、春らしい味わいが増しています。
いわば、リゾット風に味つけした、ホワイトアスパラガスの炊き込みご飯です。
大粒のリゾット米には、ホワイトアスパラガスの風味がたっぷりしみています。
具材のホワイトアスパラガスの甘みや旨みが、リゾット米の風味を追いかけます。
10.アリスタ・ディ・マイアーレ “チンタ・セネーゼ”
メニューについて
◆豚肉の最高級を3度重ねて
イタリアの豚肉の特産地、トスカーナ州で最高級といわれる希少な「チンタ・セネーゼ」種の豚肉。
そのなかでも、最高級といわれる部位、骨付きロースを取り寄せ、同地で中世の頃より「アリスタ・ディ・マイアーレ(最高の豚)」といわれる料理法で提供します。
◆アリスタ・ディ・マイアーレとは
「アリスタ・ディ・マイアーレ」を直訳すると「最高の豚」という意味で、イタリア中部トスカーナ州で、中世の頃からある郷土料理です。
豚肉の骨付きロースを、塊肉の状態で、塩コショウやニンニク、ローズマリーで味と香りをつけて焼く、シンプルで素朴な料理です。
同地で中世の頃に開催された宗教会議に出席したギリシャの高僧が、この料理を食べ、ギリシャ語で「アリスタ!(最高だ)」といった伝説が料理名の語源とされています。
◆チンタ・セネーゼとは
直訳すると「シエナの帯」という意味です。
イタリア中部トスカーナ地方のシエナで、14世紀から100%原種のままで生息している古代豚のことです。
腹に白帯を巻いたように見える黒豚の見た目が名称の由来です。
原種を守り続け、味が濃く、珍重されています。
掛け合わせで増産されるスペインのイベリコ豚よりも、およそ1000分の1の流通量の希少な存在で、高級食材とされています。
戦後、トスカーナ地方の農家がその豚の価値を再発見し、熱心に飼育し、絶滅の危機を乗り越え、トスカーナ州のD.O.P(イタリアの原産地名称保護基準)を取得するまでに至りました。
◆食肉加工業「テラ・ディ・シエナ」社について
今回「チンタ・セネーゼ」の骨付きロースを仕入れるのは、イタリアの「テラ・ディ・シエナ」社です。
社名を直訳すると「シエナの大地」という意味です。トスカーナ州の、フィレンツェとシエナの中間地点にある、ポッジボンシ(poggibonsi)という街で19世紀末に創業しました。
「チンタ・セネーゼ」を天然のエサで育て、栄養豊富で濃い味に仕上げます。その肉を専門に、精肉商品や生ハム、サラミ、ソーセージなどの加工食品を手掛けています。
調理
お召し上がり
◆旨みが凝縮した豚肉の美味しさ
チンタ・セネーゼの豊富な脂分は、長時間の炭火焼きで程よく落ち、肉の味を凝縮します。
赤身の歯ごたえはしっかりして、ザクザクと切れる繊維質に、旨みとコクをしっかり感じます。
脂身は、琥珀色に焼き上がり、ローズマリーやニンニクの香りがしみて、香ばしさや甘み、旨み、コクを豊かに感じます。
赤身とは別の味わいで存在感があり、食べごたえがあります。
11.ミモザケーキ
メニューについて
◆春の花に見立てたケーキ
春に咲く黄色い花、ミモザをイメージしてケーキをつくります。
今回は、ホワイトチョコレートのムースでドームをつくり、真ん中にイチゴを丸ごと1個入れ、表面を細かいスポンジ生地で覆い、ミントの葉を飾ります。
お召し上がり
◆春らしさを感じる、ふんわりとした味わい
ホワイトチョコレートのムースは、ふんわりとして、甘みはまろやかでエレガント。
チョコレート由来の、ほんのり香るカカオの風味が、甘みに深みを加えます。
小さなスポンジ生地のサラサラした食感と、底のタルト生地のザクザクとした食感がムースのアクセントになります。
そんなムースの美味しさが、イチゴの甘酸っぱさを引き立て、ミモザのように、軽やかで、はかない余韻を残します。
3月のディナーは、
「ラ・ビスボッチャ」の季節のおすすめメニューに、
早春の味を感じて、お楽しみください。