イベント・レポート:メーカーズ・ディナー「ピエロパン」

ワインや食材の生産者さんをお招きして、ディナーに来店されるお客さまと交流していただくイベント「メーカーズ・ディナー」

2023年9月5日(火)は、イタリアのワインメーカー「ピエロパン」の当主、アンドレア・ピエロパンさんをお招きしました。イベントの模様とインタビューを紹介します。

監修:料理長 井上裕基  写真・文:ライター 織田城司

1.ピエロパン社の概要

高級白ワインで名高いワイナリー

ピエロパン社 公式写真より

イタリア北西部ヴェネト州ヴェローナ市の東に位置するソアーヴェは、同名の白ワインに生産で世界的に有名な町です。

町の北東部分にソアーヴェ・クラシコ地区が広がっており、その中心部にピエロパン家が土地を所有したのは、イタリア国家統一の前年、1860年のことでした。

2018年に急逝した前当主レオニルド・ピエロパン氏の祖々父にあたるレオニルド・シニアがこの地にワイナリーを設立し、デザートワインとして名高い「レチョート・ディ・ソアーヴェ」を造り出しました。

レオニルドの天才的といえる醸造技術と、数々の優れたアイデアをもって、ピエロパン社は世界中で高い評価受けるワイナリーに成長しました。

レオニルド亡き後は、息子のアンドレアとダリオが、ピエロパン社のクオリティーを受け継いでいます。

2.ワインと料理のマリアージュ

ビスボッチャの客席で談笑するアンドレア・ピエロパンさん

5種のワインを飲みくらべ

イベント当日の店内では、全席でピエロパン社のワイン5種が、おすすめのワインとして提供されました。

アンドレアさんは、関係者との会食の合間に、通訳とともに客席をまわり、お客さまにご挨拶をしながら、記念撮影などの交流を楽しみました。

関係者席でも、5種類のワインの飲みくらべが行われ、ビスボッチャは、ワインに合うメニューをコースにアレンジして提供しました。

ワインと料理のマリアージュを順番にお伝えします。

①白ワイン「ソアーヴェ・クラシッコ・カルバリーノ」

白ワイン「ソアーヴェ・クラシコ・カルヴァリーノ」

◆基本情報

ブドウ種:ガルガネガ70%、トレッビアーノ・ディ・ソアーヴェ30%

生産背景:カルヴァリーノの畑は、1900年代初期に購入。ピエロパン社の中核をなす畑であり、ソアーヴェ・クラシッコ生産地区の中心に位置している。

味わい:土壌は、粘土や玄武岩質擬灰石に富み、旨み、ミネラルをワインに与えている。

◆アンドレア・ピエロパンさんの解説

「カルヴァリーノ」は、ファースト・ヴィンテージからセメントタンクを使って醸造しています。樽やステンレスのタンクではなく、それによってフレッシュさと、ワインの純粋さが保たれています。

香りは、白桃やアーモンドの花、アプリコットなどのニュアンスがあります。

「カルヴァリーノ」の飲み口は、口の中で広がらないで、奥に伸びていく感じです。味わいは、酸がしっかりしているので、いろんな料理に合わせられる。アルコール度数も12.5%と低めなので、非常に飲みやすいです。

今回飲んだ2020年物は、非常に良いヴィンテージです。古典的で、華麗な味わいです。グレート・ヴィンテージではなく、畑の質がよく表れているヴィンテージです。2020年物を飲んでいただければ、「カルヴァリーノ」とは、どういう畑かよくわかります。

前菜盛り合わせのプレート。左からカンパチの炙りカルパッチョ トラパニソース、生ハムとイタリア産メロン、ブラータチーズと黒イチジク、焼き野菜のマリネ(マリネ以外は9月限定メニュー)

トリッパ、マイタケ、シシトウのフリット(9月限定メニュー)

②白ワイン「ソアーヴェ・クラシコ・ラ・ロッカ」

白ワイン「ソアーヴェ・クラシコ・ラ・ロッカ」

◆基本情報

ブドウ種:ガルガネガ100%

生産背景:畑の名は、中世ソアーヴェ地区の一部を治めていた城砦の名に由来している。樽で12ヶ月熟成。

味わい:色は、輝く深い黄色。香りは凝縮感があり、南国の果実やナッツのニュアンスが印象的。味わいは豊かで滑らか。

◆アンドレア・ピエロパンさんの解説

この「ラ・ロッカ」は、当社の同じ白ワイン「カルヴァリーノ」とは、まったくちがいます。ガルガネガのブドウを100%使い、収穫は10月末。ブドウの実をかなり熟成させてから収穫します。その間にブドウの皮に、糖度や芳香を高めるカビが生えることもあります。完熟したブドウは黄金色になり、その色が白ワインの濃い黄色に反映されています。

香りは、「カルヴァリーノ」と比べると、こちらのほうが、マンゴーやパイナッルのような、熟した果実の香りがあります。より多くの料理に合います。わかりやすくいうと、シャルドネが好きな方には、おすすめです。

日本の天ぷらにもよく合います。ちょうど出てきたビスボッチャのミックス・フライにもよく合います。具材のひとつ、シシトウは「モルト・ボーノ!(とても美味しい)」

先ほどの冷前菜と、このフライは、全く質のちがう料理だけれど、ラ・ロッカは、どちらにも合います。幅広い料理と合うワインです。

③赤ワイン「ルベルパン・ヴァルポリチェッラ」

赤ワイン「ルベルパン・ヴァルポリチェッラ」

◆基本情報

ブドウ種:コルヴィーナ・ヴェロネーゼ60%、コルヴィノーネ30%、ロンディネッラ/クロアティーナ10%

生産背景:大樽で18〜24ヶ月熟成

味わい:クラシックな味わいで、食事とともに楽しみたいワイン。

◆アンドレア・ピエロパンさんの解説

「ルベルパン」の名称の由来は、ルビー色のピエロパンを合わせた略字による造語です。エレガントで、ややスパイシーなニュアンスがあり、飲みやすく、食事に合うワインです。

アワビとポルチーニのフェットチーネ(9月限定メニュー)

定番のパルミジャーノ・レッジャーノのリゾットを仕上げるソムリエ・酒見喜亮

定番のパルミジャーノ・レッジャーノのリゾット

定番の炭火焼きの盛り合わせ。アイルランド産ヘアフォード牛のTボーンや自家製生ソーセージなど

④赤ワイン「アマローネ・デッラ・ヴァルポリチェッラ」

赤ワイン「アマローネ・デッラ・ヴァルポリチェッラ」

◆基本情報

ブドウ種:ブドウ種:コルヴィーナ・ヴェロネーゼ60%、コルヴィノーネ30%、ロンディネッラ/クロアティーナ10%

生産背景:畑は海抜300〜350mに位置し南向き。粘土質で石灰分も多く含む土壌。濃ビーレッド色。ブラックチェリ

味わい:濃いルビーレッド色。ブラックチェリーやブラックベリー、プラムを思わせる豊かな芳香。

◆アンドレア・ピエロパンさんの解説

「アマローネ」は、当社の同じ赤ワイン「ルベルバン」に比べると、ボディと酸がしっかりしたタイプで、肉料理などに合います。

ビスボッチャのアイルランド・ビーフの炭火焼きは、「モルト・ボーノ!(とても美味しい)」。「アマローネ」とよく合います。

木こりのティラミス(9月限定メニュー)

⑤デザートワイン「レチョート・ディ・ソアーヴェ・レ・コロンバーレ」

デザートワイン「レチョート・デイ・ソアーヴェ・レ・コロンバーレ」を注ぐホールスタッフの川口真理子

◆基本情報

ブドウ種:ガルガネガ100%

生産背景:オーク樽で約24ヶ月熟成

味わい:複雑味のある味わいと心地よい甘みが余韻となっていつまでも続く。

◆アンドレア・ピエロパンさんの解説

当社が一番はじめにつくったワインが、この「レチョート」です。当時(19世紀末)は、甘めのワインが好まれた時代だったからです。ガルガネガのブドウを100%使い、厳選した完熟ブドウを乾燥室に運び、9月中旬から3月初旬にかけて、約5ヶ月間乾燥させてから、オーク樽で約24ヶ月熟成させています。

客席のお客さまに挨拶をするアンドレア・ピエロパンさんと、通訳を担当されたワイン・ジャーナリストの宮嶋勲さん

3.アンドレアさんへのインタビュー

現在の生産しているワインの市場背景は?

アンドレア・ピエロパンさん「生産量の30%がイタリアの内需向けで、70%が輸出です。

順位は、1位がアメリカ、2位がイギリス、3位がノルウェー、4位がカナダ、5位が日本です。

特筆すべきは、ノルウェーです。人口約600万人の小国ながら、大国と並んで上位にランクしています。

この要因は、ノルウェーは魚料理を好んで食べる国民性があり、魚料理に合う白ワインとして、当社の白ワインに支持があるからです」

ご自身の生活習慣とワインは?

アンドレア・ピエロパンさん「自宅の夕食では、毎晩自社のワインしか飲みません。でも、外食するときは、あえて自社のワインを飲まず、他社のワインを飲みます。それは知識を広げたいからです」

ビスボッチャの料理はいかがでしたか?

アンドレア・ピエロパンさん「モルト・ボーノ!(とても美味しかった)。味を複雑にするのではなく、日本の寿司のように、素材の持ち味を、シンプルな調理で生かしている。だから、自然の産物、ワインとよく合うと思いました」

ビスボッチャのお客さまの印象は?

アンドレア・ピエロパンさん「今日は、若いお客さまが多かった印象です。ご挨拶に終始したので、顧客像を総括することは、できませんでした」

会食後、アンドレア・ピエロパンさんに挨拶するソムリエ・酒見喜亮と料理長・井上裕基

店内に額装してあるサッカーイタリア代表チームのユニフォームを、イタリア人ホールスタッフ・フランチェスコ・フィオレと見ながら語るアンドレア・ピエロパンさん

4.まとめ

アンドレア・ピエロパンさんに、ビスボッチャの顧客像を尋ねると、わからない、と答えたことが印象的でした。

社交辞令を添えることなく、わからないことは、正直にわからないという態度に好感が持て、学者肌で、実直な性格を感じました。

クラシックでエレガントなワインを醸す、ピエロパン家の家風を垣間見た気がしました。