イベント・レポート:アイルランド・ビーフ&ラム 試食会 2023

草原の美味

アイルランド食糧庁が主催する、アイルランド産の牛肉と羊肉を販売促進するための試食会が2023年2月13日(月)、ビスボッチャで行われました。

レストランの料理人など、プロの食材仕入れ関係者に限定したイベントで、その内容をお伝えします。

監修/料理長・井上裕基

写真・文/ライター 織田城司
Supervised by Yuuki Inoue    
Photo・Text  by George Oda

1.イベントの概要

アイルランド・ビーフ&ラムを炭火で焼く場面を撮影するイベント参加者と報道陣

◆基本情報

イベント:アイルランド・ビーフ&ラム試食会

開催日時:2023年2月13日(月) 11:50〜14:40

主催:アイルランド食糧庁 

会場:東京・広尾 リストランテ「ラ・ビスボッチャ」

東京都心の天候:曇り 気温:4.9〜10.3℃ 湿度:87%

◆内容

アイルランド産の牛肉と羊肉を販売促進するために企画されたイベントです。

構成は、食材や調理法を紹介する講義、調理デモンストレーション、試食、試飲などが展開されました。

参加者は限定で、飲食店の仕入れに関わる料理人やマスコミなど、約40名が招待されました。

ビスボッチャは、会場の設営と撤収のサポート、調理法の解説、試食品の調理、試食品とドリンクのテーブルサービスなどを行いました。

2.食材の紹介

食材を紹介する講師陣。左からアイルランド食糧庁EUのエミリー・マホーン女史(司会)、料理長・井上裕基、牛肉コンサルタントのジョン・マクドネル氏、アイルランド食糧庁日本駐在のジョー・ムーア氏

アイルランド食糧庁の活動とは

アイルランド食糧庁の活動を紹介するジョー・ムーア氏

◆アイルランドの国勢

アイルランド食糧庁で日本に駐在するジョー・ムーア氏から、アイルランドの国勢やアイリッシュ・ビーフ&ラムの生産背景、品質管理についての解説がありました。

ジョー・ムーア氏「私がはじめてビスボッチャでアイルランド・ビーフの炭火焼きを食べたのは、ラグビーW杯があった2019年です。美味しくて、それから4年間通い、このようなイベントを開くのは、ここしかないと思い、お願いしました。

さて、アイルランドの位置は、イギリスの隣にある島です。その南部にある、イギリスから独立したアイルランド共和国です。北部は北アイルランドというイギリス連邦のひとつで、別の国です。

面積は、84,421㎡。北海道とほぼ同じサイズです。人口は500万人。でも、2,500万人をまかなえる食糧をつくっています。

その食糧の貿易を振興することが、アイルランド食糧庁の役割です」

◆アイルランド食糧庁の活動

ジョー・ムーア氏「現在、アイルランド食糧庁は、アイルランドの食品を187カ国に輸出しています。(現在、日本が把握している世界の国の総数は日本を含めて196カ国。ほとんどの国に輸出していることになる)

2022年の生産総額は円換算で2.3兆円。輸出比率は90%、前年比は22%増。対日輸出も増えています。

なぜ、これだけたくさんの食糧がつくれるかというと、豊かな自然が長所です。

西岸海洋性の穏やかで安定した気候のもとで、冬は雪が降らず、夏は暑くならず、年中温暖。雨が多く、降水量は年間1,000㎜と豊富で、草がよく育ちます」

アイルランド食糧庁の活動を紹介するジョー・ムーア氏。グリーンのテーブルクロスはアイルランド食糧庁が持参したもの

◆持続可能性食品生産プロジェクト

ジョー・ムーア氏「アイルランド食糧庁では、豊かな自然を現在だけのものではなく、未来に持続することが必要と考え、2014年に世界初となる、国家的な持続可能性食品生産プログラム『オリジン・グリーン』を制定しました。

その活動は、加盟農家の生産背景を18ヶ月に一度監査し、レポートを集め、まとめた結果やアドバイスを盛り込んだ報告書を農家にフィードバックする方法です。

『オリジン・グリーン』の具体的な成果としては、農家では、CO2を5%削減、加工業者では、エネルギー使用量を11%削減、水の使用量を17%削減、などを達成しました」

アイルランド・ビーフ&ラムの特徴

アイルランド・ビーフ&ラムの特徴を解説するジョン・マクドネル氏

◆アイルランドの優位性

アイルランドで長年牛肉の加工や輸出を手がけてきたコンサルタントのジョン・マクドネル氏から、アイルランド・ビーフ&ラムの特徴について解説がありました。

現在、ジョン・マクドネル氏は、アイルランド食糧庁やスーパーマケットのコンサルティングを兼務しながら、昨年は『ステーキの世界大会』で審査員も務めたそうです。

ジョン・マクドネル氏「美味しい食肉をつくるために、アイルランドの地理が適していることを、私からも補足します。

アイルランドの国土は、85%が農地です。その農地で、温暖な気候と豊富な雨を生かして育てる作物は、他のEU諸国のような、小麦や果物、ワインではなく、牛や豚、羊を育てるのための牧草を中心にしています。

アイルランドの農家は、98%が家族経営の世襲制です。世代交代では通常、長男に農地が無償で相続されます。他のEU諸国のほとんどは、農地の相続に大金がかかります。

このため、アイルランドの農家は、引退した父親も息子や孫と同じ家に住み、農場を手伝いながら技術を継承しています。

こうした農家は、95%がアイルランド食糧庁の『オリジン・グリーン』に加盟し、生産管理を受けています。他のEU諸国では、そのような国はありません。

アイルランド・ビーフ&ラムの特徴を解説するジョン・マクドネル氏

◆アイルランド・ビーフの特徴

国家的な生産背景で生まれる、高品質な牧草で育つ、アイルランド・ビーフ&ラムの味わいは、奥深く、なおかつ、栄養価が高く、ヘルシーです。

その要素を、ジョン・マクドネル氏は、実物の塊肉を手で持ち、該当箇所を指差しながら、①ベータカロテンが豊富、②低脂肪、の点から解説しました。

①ベータカロテンが豊富

ジョン・マクドネル氏「アイルランド・ビーフ&ラムは、ベータカロテンが豊富です。ベータカロテンは、体内に吸収されるとビタミンAに変換されます。

その証拠に、ベータカロテンは、天然色素を多く含むため、アイルランド・ビーフ&ラムの赤身は、鮮やかなチェリーレッドで、脂身はクリーム色になります。

日本では、白い脂身が好まれるようですが、穀物で育った牛の肉は、赤身がピンク色で、脂身が白くなる傾向にあります」

②低脂肪

ジョン・マクドネル氏「アイルランド・ビーフのサシ(赤身部分に交雑する脂身)は、マーブル状ではなく、きめ細かく分布しています。赤身の部分はほとんど赤身で、低脂肪で、ヘルシーです。

その結果、旨みの濃さはもちろん、肉の風味に、牛肉本来の香りと牧草の香りが加わることで、肉の味わいに複雑で、多面的な奥深さをもたらしています」

◆地理表示が認められる

ジョン・マクドネル氏「アイリッシュ・ビーフ&ラムは、まもなくEUのPGI(地理的表示保護)が認定されることになっています。

これは、持続可能な生産環境の牧草で育った家畜の肉という独自性、視覚と味覚に優れた特徴、EU諸国の市場で高い評価を得ていることの3点が認められたからです。

ちなみに、既存のPGI認定商品には、パルマハムやシャンパンなどがあり、そのような世界的に知られている商品と並び、アイリッシュ・ビーフ&ラムが認定されたことになります」

ゲストスピーチ

ゲストスピーチで挨拶するアイルランド下院議長のショーン・オファイール氏

◆日本とアイルランドとの共通点

ゲストスピーチとして、アイルランド下院議員長のショーン・オファイール氏が挨拶しました。

同氏は、アイルランドと友好関係強化を望む、日本の衆議院の招待で来日されました。

同氏を含む12人の一行は、各地を視察するプログラムのひとつとして、このイベントを訪問されました。

ショーン・オファイール氏「私は、農家の出身です。自国の農産物の対日輸出が増えていることを、たいへん喜ばしく思います。

日本を視察すると、素晴らしい国で、品質の高い食品や、栄養価が高い食品が好まれることを実感し、アイルランドと共通点があると思いました。

未来に目を向けたときに、環境問題から目をそらすことはできず、持続可能な生産体制を増やすことを目指しています」

同氏は最後に「医者から生活習慣を改善するように忠告されているが、ビーフだけはやめられない」とまとめ、会場を笑わせました。

一行はこの後、2月17日に、広島平和記念公園を訪ね、献花を行い、被爆者と面会しました。

3.調理法の解説

アイルランド・ビーフ&ラムの調理法を解説する料理長・井上裕基

◆焼きやすい肉

ビスボッチャの料理長・井上裕基から、アイルランド・ビーフ&ラムの調理法について解説がありました。

料理長・井上裕基「当店はイタリアンで、1993年の創業当時から大きな炭火焼きグリルがあり、Tボーンステーキなど、イタリア風の豪快な骨付き肉の炭火焼きを提供してきました。

さまざまの産地の牛肉を焼いてきましたけれど、いまは、アイルランド産のヘアフォード種が一番しっくりくると感じています。

美味しさはもちろん、赤身のなかのサシが少ないから、焼くのが難しくない。

台所事情になりますが、ベテランの料理人しか上手に焼けない肉だと、従業員の勤務シフトをまわすこと考えると現実的ではない。当店では、焼きやすい肉は重要な要素です」

アイルランド・ビーフ&ラムの調理法を解説する料理長・井上裕基

◆少し乾かしてから焼く

料理長・井上裕基「アイルランド・ビーフの焼く前の準備は、本日試食していただく肉の場合、一昨日真空パックから出して、乾かしています。

表面が少し乾いているほうが、グラスフェッドの風味が出て、より美味しくなると感じています。熟成ではなく、乾かす程度です。

その後、今日は11時頃カットし、塩をふりかけています。

塩やコショウをふりかけるタイミングは、それぞれの料理人によってこだわりがあると思うので、絶対にこのようでなければならない、ということはありません。

炭火で焼く手順は、Tボーンの場合は、まず骨の下から火を入れ、脂身を焼き、その後両面を焼いていきます。何度かひっくり返し、均等に焼いていきます。

中心温度を70℃くらいまで上げ、その後少し休ませ、肉汁を落ち着かせ、最後に直火で表面をカリッと焼いて仕上げます。

フィレンツェのビステッカの焼き方で焼きたいので、直火で仕上げています」

参加者からの質問「アイルランド・ビーフにはアバディーン・アンガス種などの品種もあるが、なぜヘアフォード種にこだわるのか?」

料理長・井上裕基「アバディーン・アンガス種も使ったことはありますが、ヘアフォード種よりもサシが多く、後味が重くなるため、今はヘアフォード種を中心にしています」

4.試食

炭火で焼きはじめたアイルランド・ビーフのTボーン(左)とLボーン

◆4メニューを試食

試食用に、アイルランド産の牛肉と羊肉を使ったメニュー4種が、テーブルに着席した参加者に提供されました。

このうち3種は、炭火焼きとオーブン焼きの盛り合わせでした。炭火焼きの設備がない料理店もあるため、オーブンで焼いた味も試食していただくための配慮です。

①アイルランド・ビーフ ヘアフォード種 Tボーン 炭火焼き&オーブン焼き

アイルランド・ビーフTボーン試食品の仕上げ。ペッパーグラインダーで黒コショウを振りかける。Tボーンに含まれる2種の肉、サーロインとフィレをそれぞれ炭火とオーブンで焼いた合計4種が一皿に盛り付けられた

②アイルランド・ビーフ ヘアフォード種 Lボーン 炭火焼き&オーブン焼き

アイルランド・ビーフLボーンを盛り付けて運ぶ場面

③アイルランド・ラム 骨付きロース 炭火焼き&オーブン焼き

アイルランド・ラムをオーブン焼き用にフライパンでソテーしている場面

アイルランド・ラムの炭火焼きとオーブン焼きを盛り付けている場面

アイルランドラムの炭火焼きとオーブン焼きの試食品。左のイタリアンパセリの目印がついている方が炭火焼き。右がオーブン焼き

④アイルランド・ビーフ フィレ肉 ロッシーニ風 サラダ添え

フィレ肉にのせるフォアグラをソテーしている場面

牛フィレ肉のロッシーニ風を仕上げている場面

牛フィレ肉のロッシーニ風の試食品。フィレ肉の上にフォアグラとトリュフをのせたロッシーニの好みがメニューのルーツ

牛フィレ肉に添えたサラダに使用されたラディッキオ・タルディーヴォやルッコラなど

試食後、アイルランド食糧庁は、あらかじめ参加者に配布したアンケート用紙を回収しました。

参加者のなかには、感想をSNSに投稿される方もいました。

以下はそのコメントからです。

「炭火焼き最高!」「低脂肪!とってもヘルシー」「仕上げに直火で少し焦がすことで風味がよく出る」「オーブン焼きは、全体がしっとりジューシーで安定感。炭火焼きはパリッとして香ばしさがあり、ガッツリお肉食べてる!!!って感じで、お肉からくるパワーがちがう」「アイルランド産のラムは、臭みが少なく、脂もすっきりで食べやすい」

5.アイリッシュ・ウイスキーの試飲

バーカウンターに置かれた試飲用のアイリッシュ・ウイスキーのイーガンズ。シリーズのなかのフォーティチュード

◆復活したウイスキーづくり

試食後に、アイルランド産のウイスキー「イーガンズ」の試飲が行われました。

イーガンズは昨年4月から、日本での輸入販売がはじまりました。しかし、創業は今からおよそ170年前までさかのぼる1852年になります。その歴史はそのままアイルランドのウイスキーの歴史と重なります。

1800年代のアイルランドには、多くのウイスキーの生産社があり、世界のウイスキーの6割がアイルランド産といわれるほど栄えていました。

イーガンズもそのような時代に、イーガン家がアイルランド中部のタラモアという街で創業したことで生まれたブランドです。

ところが、アイルランドのウイスキー産業は、1900年代に入ると、アイルランドの独立戦争や、アメリカの禁酒法、世界大戦などの影響で急速に衰退していきます。やがて、イーガン家も1969年に廃業しました。

2000年代に入ると、アイルランドのウイスキー産業は復興し、イーガン家も5代目ジョナサン、6代目ルパートなどの手で、2013年にブランドをリスタートさせ、国際的に高い評価を得て、広がっています。

当日の試飲は、イーガンズのシリーズから「フォーティチュード」が選ばれました。甘口のシェリー酒の樽を使う大胆な試みに挑んだタイプです。

食後酒のような味わいもあり、イベント閉会の乾杯酒として振る舞われました。

6.まとめ

イーガンズ試飲のために乾杯の音頭をとるエミリー・マホーン女史

◆草原の美味を知る

イベントを通じて、アイルランドは、自然に恵まれた長所を生かし、農業に力を入れ、牧草にこだわり、それを食べて育つ牛や羊の肉は、他国にない美味しさがあることがわかりました。

その一方で、売り込みを聞いていると、和牛の牙城に討ち入りに来た、と言わんばかりの意気込みを感じます。日本人は和牛しか食べないと思われているかもしれませんが、ヨーロッパの伝統的な厚切りステーキの美味しさが、まだあまり知られていないのです。

その美味しさを知る機会があれば、また食べたいと思う日本人は少なくありません。このようなイベントが、美味しさを知る機会になり、牛肉の食べ方の選択肢が広がれば良いと思いました。

◆アイルランド・ビーフ&ラム キャンペーン 2023のお知らせ

ビスボッチャでは、3月31日まで、「アイルランド・ビーフ&ラム キャンペーン 2023」を実施中です。牧草で育った牛肉と羊肉の美味しさを、この機会にぜひご賞味ください。