第18回 SAGRA DEL TARTUFO NERO 2018
春の予感を味わう
2月は、黒トリュフのベストシーズンです。
イタリアの産地では、黒トリュフの収穫祭が行われ、多くの観光客が集まります。
ラ・ビスボッチャでも、毎年この時期、料理に黒トリュフをトッピングして、季節の香りを楽しむ食べ方をおすすめしています。今年から、その人気メニューをあらかじめお知らせして、フェアを開催します。
2018年の黒トリュフ・フェアは、
2月12日(月)〜2月24日(土)に開催。季節限定黒トリュフ・メニュー3品が登場します。
1. 前菜/ホワイト・アスパラガスのビスマルク風・黒トリュフかけ
2. パスタ/黒トリュフのタヤリン
3. 肉料理/牛フィレ肉のトリュフソース・黒トリュフかけ
外は寒くても、地中はすでに春の予感。そんな味わいをご堪能ください。
解説/料理長 井上裕基・副料理長 露詰まみ
写真・文・エッセイ/ライター織田城司
Commentary by Yuuki Inoue & Mami Tsuyuzume
Photo・Text・Essay by George Oda
イタリア料理と黒トリュフ
トリュフの主な産出国はフランス、スペイン、イタリアの順で、世界の9割を占めます。フランス料理の華やかなトリュフメニューに比べると、イタリア料理のトリュフは地味な印象です。
でも、イタリアでとれるトリュフの香りの高さは世界一です。その最高峰は白トリュフ。次に位置するのは黒トリュフの「ネーロ・プレジャート(Nero Pregiato 黒の最高級という意味)」のタイプです。当店の黒トリュフは、この「ネーロ・プレジャート」を使用しています。
イタリア料理のトリュフが地味な印象なのは、レストランのメニューに表記されることが少ないからだと思います。イタリア人にとって、旬なトリュフを料理にトッピングすることは伝統の習慣で、誰もが注文することから、あえてメニューに表記する必要はないのです。
レストランでは、お客様は「トリュフ入った?こんな風に料理して」と注文したり、接客係は「トリュフはどのようにお召し上がりになりますか?」と尋ねたりします。
このため、日本の観光客には、わかりにくい存在でした。近年は日本でも、本格志向の高まりから、イタリアのトリュフの香りの高さが注目され、輸入量も年々増えています。
1.ホワイト・アスパラガスのビスマルク風・黒トリュフかけ
メニューについて
ホワイト・アスパラガスはヨーロッパの代表的な春野菜です。日本で「お花見行った?」と、語り合うように、「白アスパラ食べた?」が春の挨拶になります。
アスパラ前線は2月にフランスから始まり、3月からイタリアへと移ります。当店もその流れで空輸しています。
しっかりした繊維をじっくり茹でることで、柔らかい食感の中に深い味わいを感じることが魅力です。バターを使ったシンプルなソースに、卵でパワフルな要素を加え、19世紀ドイツの鉄血宰相の名をとったビスマルク風と呼ばれる食べ方で提供します。
トリュフは卵やバターと相性が良いことから、黒トリュフのシーズンは、トッピングをおすすめします。
調理
◆ホワイト・アスパラガスをゆでる
◆仕上げる
お召しあがり
出来上がったホワイト・アスパラガスは、黒トリュフの香りとともに、山の恵みを感じる芳香に満ちています。
ホワイト・アスパラガスのしっかりした繊維は、じっくりゆでることで、みずみずしさが増し、トロトロに柔らかくなり、甘味や旨味が充実しています。
とろ〜っと流れる半熟卵と澄ましバターがまろやかに溶け合ったソースとなじみ、後から感じる黒トリュフのスパイシーな苦味がアクセントになっています。
エッセイ:食のこぼれ話『アスパラガスと女優』
女優、岸恵子は1957(昭和32)年、24歳の時、フランス人映画監督イヴ・シャンピと結婚するため、単身パリに渡りました。
当時、フランスの上流階級の結婚式では、保証人の同席が習慣でした。しかし、フランスと日本の渡航はまだ自由化されず、日本から親戚や知人を呼ぶことはできませんでした。
困った岸恵子は、日本大使館に相談しましたが、国家機関として一個人の私用には対応しかねると断られ、途方に暮れました。
そんな時、パリのホテルで偶然出会ったのは、作家の川端康成でした。国際的な会合でヨーロッパを歴訪している最中でした。おそるおそる立会人の依頼を申し出ると、川端康成は快諾してくれました。
岸恵子が喜んだことは言うまでもありません。それに加え、川端康成が結婚式のディナーで、アスパラガスを優雅に食べたことが、強烈な印象として残ったそうです。当時の印象をエッセイ『私の人生ア・ラ・カルト』で次のように記しています。
「先生は前菜に出たアスパラガスを細い美しい指で摘(つま)んですらりと食べた。フランス流通人の食べ方である。タキシードを着て、アスパラガスをかくも優雅に、かくも小粋に手づかみで食べ得る日本の男性に、私は、その後一度も出会っていない。」
川端康成は渡航が自由化されず、インターネットも無い時代に、どうやってフランス式のアスパラガスの食べ方を習得したのでしょうか。豊かな想像力を育んだ背景には、観察力と情報収集力があったことを感じるエピソードです。
それを見逃さず、エッセイに書いた岸恵子の目線にも、異文化に挑んだ先駆者の気概が感じられます。
岸恵子は今年、86歳になります。昨年の講演会で余生について「人生ははかないもので、私に残された時間はほんのわずか。それをどのように過ごすかと考えた時、一番つらいのは『何もしないでいること』。だから、私は、これまでたどって来たことを、書いていこうと思う。」と語りました。
2.黒トリュフのタヤリン
メニューについて
極細パスタ「タヤリン」は生パスタの中でも、最もしなやかで繊細な味わいがあり、トリュフの香りを楽しむ食材に適しています。本来はタリオリーニと呼ばれることが多いパスタで、タヤリンと呼ぶのは、トリュフの産地、ピエモンテ州の方言になります。
パスタ生地は卵黄のみを使い、ソースはバターをメインにして、トリュフの香りを引き立てます。黒トリュフは肉との相性も良いことから、ソースに生ハムを加えています。
調理
◆タヤリンを作る
◆ソースを作る
◆仕上げる
お召しあがり
黒トリュフの模様は、指紋のようにそれぞれ違い、香りをより神秘的なものにしています。
ツルツルした細打ちパスタは、クリーミーなソースと良くなじみます。
卵を贅沢に使ったパスタの風味と、24ヶ月熟成された生ハムの香りは、黒トリュフの香りと調和しながら深みとコクを増しています。
パスタの味は、あくまでも控えめ。バターの甘味と、生ハムからしみ出した、ほのかな塩味を感じ、黒トリュフの香りを引き立てます。
3.牛フィレ肉のトリュフソース・黒トリュフかけ
メニューについて
牛フィレ肉は赤身が主体で、肉そのものの香りや味が堪能できます。牛一頭からフランスパンほどの大きさしかとれず、貴重な存在です。当店では、赤身の多さにこだわって、オーストラリア産を使用しています。
年間を通して、黒トリュフのみじん切りを入れたトリュフソースとともに提供しています。黒トリュフのシーズンは、さらに削りたての黒トリュフをふりかけて、香りを増します。
調理
◆下ごしらえ
◆牛フィレ肉を焼く
◆ソースを作る
◆仕上げる
お召しあがり
出来上がった牛フィレ肉は、肉が焼けた香ばしさが漂い、次に、黒トリュフが放つ、ビターチョコレートやスコッチウイスキーのような、熟成された香りが続きます。
肉のキメは細かく、柔らかさの中に感じる、かすかなツブツブ感に、繊維質のなごりを感じます。
カリッとした表面はソースがたっぷりしみて柔らかくなり、まろやかな香ばしさと苦味を感じます。中の肉汁は肉全体にじんわりしみて、加熱で芳醇とした肉そのものの風味と甘味、旨味を凝縮。濃厚なソースとからめると、深いコクが加わります。
お飲物
銘柄/バルバレスコ・マンゾーラ
ワイナリー/ナーダ・フィオレンツォ
生産地/イタリア北部ピエモンテ州
ぶどう種/ネッビオーロ100%
生産年/2012年
黒トリュフ・フェア期間中は、黒トリュフ料理に合う赤ワイン「バルバレスコ・マンゾーラ」のグラスワインの注文を受けたまわります。
香りが華やかで、なめらかな口あたりと果実味があり、余韻でタンニンの渋みを感じます。やさしい印象の味わいは、黒トリュフ料理の繊細な香りを引き立てます。
この機会にぜひ、お試しください。
いつもご利用いただき、誠にありがとうございます。
今宵も、ラ・ビスボッチャのディナーで、楽しいひとときをお過ごしください。