イースターフェア2018

第21回 Fiera di Pasqua 2018

本格イタリアンで楽しむ春のお祭り

イタリア人は、お祭り好き。

何かにつけて、パーティーを開きます。

そのなかでも、キリストの復活を祝う春のイースター(イタリア語でパスクアPasqua)は、クリスマスに次ぐ大きな祝祭で、家族や友人と集まって食事を楽しみます。

その食卓では、生命の誕生を意味する卵を使った料理やお菓子、おもてなし料理の定番ラザニア、キリスト復活の象徴とされる仔羊の料理を食べることが習慣です。

ラ・ビスボッチャでは、そんなイタリアの復活祭の伝統食を集めてフェアを開きます。

2018年のイースターフェアは、

3月26日(月)〜4月7日(土)に開催。季節限定メニュー5品が登場します。

1.   前菜/ホワイトアスパラガスのビスマルク風

2.   パスタ/牛肉と菜の花のラザニア

3.   肉料理/仔羊のロースト

4.デザート/焼きメレンゲのフルーツ添え

5.デザート/ヘーゼルナッツの卵型ケーキ

日本人も、お祭り好き。

お花見や新入社員歓迎会とともに、イースターパーティーも春の宴に加えてお楽しみください。

大切な方々との集いを、より思い出深いものにします。

ラザニアを仕込む料理長・井上裕基(左)と副料理長・露詰まみ

解説/料理長 井上裕基・副料理長 露詰まみ

写真・文・エッセイ/ライター織田城司
Commentary by Yuuki Inoue & Mami Tsuyuzume
Photo・Text・Essay by George Oda

1.ホワイトアスパラガスのビスマルク風

ホワイトアスパラガスのビスマルク風

メニューについて

ホワイトアスパラガス

◆ヨーロッパの春を味わう

ホワイトアスパラガスはヨーロッパの代表的な春野菜です。日本で「お花見行った?」と、語り合うように、「白アスパラ食べた?」が春の挨拶になります。

アスパラ前線は2月にフランスから始まり、3月からイタリアへと移ります。当店もその流れで空輸しています。

ホワイトアスパラガスはじっくり茹で、バターを使ったシンプルなソースに、卵で復活祭のイメージとパワフルな要素を加え、19世紀ドイツの鉄血宰相の名をとったビスマルク風と呼ばれる食べ方で提供します。

調理

◆ホワイトアスパラガスを茹でる

ホワイトアスパラガスの皮をむき、むき残しがないか、光にあてて確認する

根元のかたい部分を切り落とす

ホワイトアスパラガスの旨味が茹で汁に流出することを軽減するため、皮と根元でダシを取る

ザルで皮と根元を取り除く

ホワイトアスパラガスに下味をつけるため、茹で汁に岩塩を加える

茹で汁にホワイトアスパラガスを入れ、約8分茹でる。トロトロになるまでじっくり茹で、甘味や旨味を引き出すのがイタリア流

しなり具合の感触で、茹で加減を確かめる

茹で上がったホワイトアスパラガスをバットに移し、茹で汁を加える

バットを氷で冷やし、味を落ち着かせる

ホワイトアスパラガスの注文が入ると、ホワイトアスパラガスを茹でた汁を使って温める

◆仕上げる

フライパンにオリーブオイルを薄く敷く

卵をフライパンに入れる

卵はイタリアの卵のように深い味わいとコクがある神奈川県産「長寿卵」を使用

塩を軽くふって味を付ける。塩は旨味が豊かなシチリア産自然海塩「エガディ」の細粒を使用

蒸し焼きにするため、自家製野菜のダシ汁を加える。ニンジン、セロリ、タマネギ、イタリアンパセリの茎を煮込んだもの

フライパンにフタをして弱火で蒸し焼きにする

余分な白身をフライ返しでカットする

温めた澄ましバターを盛り付け皿に注ぐ。澄ましバターは香りが高く、味があっさりして、ホワイトアスパラガスと合うことから使用

澄ましバターは、バターを入れたボウルの底をお湯で加熱しながら成分を分離して、上澄みの乳脂肪だけ抽出したもの

ホワイトアスパラガスの最盛期は1日40食ほど注文が入るため、毎日澄ましバターを大きなボウル2個分作る

ホワイトアスパラガスに目玉焼きをのせ、おろしたパルメザンチーズをふりかけて出来あがり

お召しあがり

ホワイトアスパラガスのビスマルク風

◆じっくり茹でて、きわだつ甘味と旨味

ホワイト・アスパラガスのしっかりした繊維は、じっくり茹でることで、みずみずしさが増し、トロトロに柔らかくなり、甘味や旨味が極まり、余韻でほのかな苦味を感じます。

バターソースと目玉焼きを混ぜると、まろやかさとコクが加わり、春らしいフレッシュな味を引き立てます。

ホワイトアスパラガスのビスマルク風

2.牛肉と菜の花のラザニア

牛肉と菜の花のラザニア

メニューについて

フィレンツェの街並み

◆おもてなし料理の定番

ラザニアは焼く直前の段階まで下ごしらえして、冷蔵庫で保存しておけば、来客時にすぐ出すことができます。このため、おもてなし料理の定番になり、イースターパーティーでも活躍します。

ラザニアの具材の重ね方は、家庭によって独自の調理法があります。ラ・ビスボッチャでは、大き目にカットした牛肉や菜の花を入れ、豪快な味わいで提供します。

調理

◆菜の花を蒸し焼きにする

鍋にエキストラバージン・オリーブオイルを注ぐ

オイルにニンニクの香りをつける

菜の花を鍋に入れる

菜の花は、温暖な気候から菜の花の特産地になっている千葉県産のもの

岩塩を加え、下味をつける

鍋にフタをして、菜の花そのものが持つ水分と油脂を抽出しながら、蒸し焼きにする

◆牛肉を煮込む

牛肉を食べやすい大きさにカットする。牛肉の部位は柔らかくて、香りが高く、旨味がたっぷりした牛ヒレひも肉を使用

牛肉を鍋に入れ、鍋底で加熱する

鍋底に牛肉の焦げ目をつけ、コクの素にする

香味野菜(ニンジン、セロリ、タマネギ)のコマ切れを入れる

岩塩を加え、下味をつける

野菜から出る水分で、鍋底の焦げ目をはがし、混ぜる

自家製鶏のダシ汁を加える

自家製鶏のダシ汁は、鶏がら、ひね鶏、トマト、ニンジン、セロリ、タマネギ、ローリエなどを約6時間かけて煮込んだもの

出来上がった菜の花の蒸し焼きと、牛肉の煮込みをバットに移す

◆ベシャメルソースをつくる

バターを鍋に入れる

鍋底を加熱してバターを溶かす

フルイでダマを解消した小麦粉を加える

牛乳を加える

岩塩を加え、下味をつける

ナツメグのパウダーを加え、香りをつける

沸騰したら出来上がり

◆ラザニアのパスタを茹でる

パスタマシーンでパスタの生地を伸ばす。ラザニア用の生地は0.5ミリ〜1ミリ間の薄さになるまで伸ばす

ラザニア用のパスタの生地は、卵に塩とオリーブオイル、小麦粉、セモリナ粉を加えてつくる。卵は黄身を増量した、黄身濃厚仕立て

ラザニアを焼く器の大きさに合わせて生地をカットする

ラザニアの生地を鍋に入れて茹でる

岩塩を加え、下味をつける

約3分茹でる

茹で上がったラザニアの生地は食感が残るように、氷水でしめる

表面の水分を布で吸収する

表面の水分を吸収するのは、ラザニアの味が薄まることを軽減するため

水分を吸収した生地をバットに移す

◆ラザニアを組み立てる

キャセロールの内側に焦げつきを防ぐバターを塗る

生地を底に敷く。余分な生地はハサミでカット

ベシャメルソースを敷き詰める

菜の花の蒸し焼きを敷き詰める

牛肉の煮込みを敷き詰める

再びベシャメルソースを敷き詰める

おろしたパルメザンチーズをふりかける

生地を乗せ、2層目の土台にする。同じ手順で具材を重ね、4層に組み立てる

最上階にバターのかけらを散りばめ、香りをつける

◆ラザニアを焼く

組み立てたラザニアをオーブンに入れる。180度で約50分加熱

焼きあがったラザニア

一人前相当を切り分け、小皿に盛り付けて出来上がり

お召しあがり

牛肉と菜の花のラザニア

◆豪快なカオスから飛び出す牛肉の存在感

ラザニアに使われているバターやチーズの油脂と牛肉の肉汁は、オーブンで加熱すると沸騰して、器の中を駆けめぐります。パスタや野菜に熱と旨味を加え、時々器から噴きこぼれながら、渾然一体となります。

香りは、乳製品が強いと思いきや、菜の花が効いています。さすがにサラダオイルの原料だけあり、底力を感じるとともに、春らしさも感じられ、脇役の名演を堪能します。

ラザニアをナイフで切ると、4層が底までスーッと切れる柔らかさ。濃厚でクリーミーな口どけの中に、芳醇な甘味と、豊かなコクがあります。

そんなラザニアの乳白色の塊の中から突然飛び出す牛肉。圧倒的な存在感に驚き、高揚します。かろうじて歯ごたえを残した柔らかさの中に、牛肉らしい風味と旨味があり、大き目のカットに、至福を感じます。

牛肉と菜の花のラザニア

3.仔羊のロースト

仔羊のロースト(ほうれん草とジャガイモを付け合わせた例)

メニューについて

ラ・ビスボッチャ店内

◆聖なる仔羊をいただく

キリスト復活の象徴とされる仔羊。イタリアでは古くから高級食材として、復活祭など、特別な日に振る舞われてきました。

なかでも、まだ草を食べない乳飲み仔羊の肉は柔らかく、香りが高いことから珍重されてきました。

ラ・ビスボッチャでは、そんな乳飲み仔羊の肉を自店でさばき、骨付ロース、モモ肉、ウデ肉の部位をシンプルなローストで提供します。

調理

◆仔羊の肉をさばく

仔羊の肉は半身で仕入れ、自店でさばく。手間はかかるが、肉の質を確かめたり、骨をダシに使う利点がある

仔羊の肉を部位ごとに切り分け、骨や筋、脂を取り除く

すぐ調理できる状態に精肉して、冷蔵庫で保存する

◆仔羊の肉に下味をつける

仔羊の肉に塩をふりかけ、下味をつける

仔羊の肉にブラックペッパーをふりかけ、下味をつける

◆モモ肉を巻く

仔羊のモモ肉を巻いて、ローストしやすくする

仔羊のモモ肉を巻いて、ローストしやすくする

巻いた状態を維持するため、ヒモでしばる

巻いた肉の外側にも塩コショウをふりかけ、下味をつける

◆骨付ロースとウデ肉をマリネする

バットにエキストラバージン・オリーブオイルを注ぐ

ニンニクを砕く

バットに砕いたニンニクとタイムを入れ、香りをつける

骨付ロースとウデ肉を入れる

約3日間マリネすることで、肉を柔らかくして、余分な風味を取り除く

◆仔羊のソースをつくる

精肉で取り分けた仔羊の骨をソースのダシにする。骨はオーブンで加熱してから鍋に入れる

氷を鍋に入れ、加熱しながら、骨のダシを抽出する。氷を使うと水より濃くダシが取れる

炒めた香味野菜(ニンジン、セロリ、タマネギ)を加える

約24時間煮込む

煮込んだ汁を必要分取り分け、煮詰めてソースにする

◆仔羊を焼く

加熱したフライパンにオリーブオイルを敷き、モモ肉の表面に焼き色をつける

フライパン底のオイルをすくい、上部も加熱する

頃合いを見て反転。反対側に焼き色をつける

側面に焼き色をつける

オーブンで15分加熱。反転させ、さらに15分加熱。適時芯温を計り、焼き具合を確認する

焼き上がったモモ肉は、すぐカットすると肉汁が出すぎてしまうため、約30分寝かせて、肉汁をなじませる

加熱したフライパンにオリーブオイルを敷き、骨付ロースとウデ肉に焼き色をつける

反対側と側面に焼き色をつける

オーブンで2分加熱。反転させ、さらに2分加熱する

焼き上がった肉は、すぐカットすると肉汁が出すぎるため、約5分寝かせて、肉汁をなじませる

◆仕上げ

モモ肉を一人前カットする

骨付ロースを2等分する。一人前は骨付2本分。まとめて焼き、食べる直前に2等分することで、仔羊特有の柔らかい肉の分量を多く確保する

ウデ肉を2等分する

柔らかい肉の面を見せて盛り付け、ソースとエキストラバージン・オリーブオイルをふりかけて出来上がり

お召しあがり

仔羊のロースト(ほうれん草とジャガイモを付け合わせた例)

◆上品で繊細な甘味と旨味

焼きあがった仔羊の中身は、ほんのり桜色。とろける柔らかさです。

輝く肉汁は透き通り、あっさりした味の中に、上品で繊細な甘味と旨味が広がります。

キツネ色に焼きあがった焦げ目は薄く、サクサクとした軽快な響きとともに、ほのかな香ばしさと塩味、苦味を感じて、中身の甘味と旨味を引き立てます。

仔羊のロースト(ほうれん草とジャガイモを付け合わせた例)

お飲み物

赤ワイン「フリーニ・ブルネロ・ディ・モンタルチーノ」

◆仔羊のローストに合う、香り豊かな赤ワイン

銘柄/フリーニ・ブルネロ・ディ・モンタルチーノ
ワイナリー/フリーニ
生産地/イタリア中部トスカーナ州
ぶどう種/サンジョベーゼ・グロッソ100%
生産年/2012年

トスカーナ地方の肉料理のしっかりした味には、辛口で重めのトスカーナワインによる、土着の組み合わせがおすすめです。

特に、このワインが持つの豊かな香り。赤い果実やベリー系、余韻に感じるナッツやチョコレート、シナモンなどのスパイシーなニュアンスは、仔羊のローストの繊細な味によく合います。

赤ワイン「フリーニ・ブルネロ・ディ・モンタルチーノ」と仔羊のロースト

4.焼きメレンゲのフルーツ添え

焼きメレンゲのフルーツ添え

メニューについて

◆春の花を想うケーキ

復活祭のディナーのデザートは、卵を使ったケーキが気分を盛り上げます。その中から、卵白で作るメレンゲを使ったケーキを選びました。

焼いたメレンゲが、もろく崩れるデリケートな味わいは、はかない春の花を想わせます。

調理

◆メレンゲをつくる

メレンゲ用の卵白を確保するため、素手を使い、卵を卵白と卵黄に分離する

卵白をミキサーのボウルに入れる

グラニュー糖を加える

ボウルを湯せんにかけ、卵白とグラニュー糖を混ぜる

湯せんで混ぜ合わせた卵白とグラニュー糖をミキサーで混ぜる

出来上がったメレンゲ

◆メレンゲを焼く

メレンゲを絞り袋に入れ、天板の上で、ケーキ上部のリングをつくる

ケーキ上部のリング

ケーキ台座の円盤をつくる

ケーキ台座の円盤

メレンゲをオーブンに入れる

100度で約90分焼く

◆ケーキを組み立てる

自家製スポンジケーキ表面の焼き目を取り除く

自家製スポンジケーキは卵、砂糖、薄力粉、バター、牛乳を混ぜ、170度で約30分焼いたもの

スポンジケーキを薄くカットする

スポンジケーキを円形の金型でくり抜く

円形にくり抜いたスポンジケーキ

間にはさむクリームをつくるため、カスタードクリームと泡だてた生クリームを混ぜる

クリームにキルシュ酒を少量加え、香りをつける

キルシュ酒はチェリーからつくるリキュール。香りが高く、酸味があることから製菓やカクテルの香料として使われる。オランダのアムステルダムで1575年に創業したボルス社のものを使用

焼きあがったメレンゲの台座にクリームの層をのせる

円形にくり抜いたスポンジケーキをのせる

再度クリームの層をのせる

焼きあがったメレンゲの上部をのせる

ブルーベリーをリングの中央にのせる

半分にカットしたイチゴをのせる。イチゴは栃木県産

ミントの葉をのせて出来上がり

お召しあがり

焼きメレンゲのフルーツ添え

◆焼きメレンゲをパリッと割る心地よさ

焼きメレンゲは、一見すると生のメレンゲのように見えます。そんなつもりでフォークをあてると、パリッと割れ、破片がお皿に散らばります。一瞬何が起こったのかわからず、ガラス細工を割ってしまった気分になります。

焼きメレンゲとわかると、安堵とともに、フォークで割る感触が、快感へと変わります。

焼きメレンゲのパリパリした食感は、柔らかいクリームやスポンジケーキと混ぜ合わせて食べると、それぞれが引き立ちます。口の中が甘さで一杯になると、イチゴやブルーベリーの酸味でバランスをとります。

焼きメレンゲのフルーツ添え

5.ヘーゼルナッツの卵型ケーキ

ヘーゼルナッツの卵型ケーキ

メニューについて

◆イースターのもぐもぐタイムに

イースターのお菓子は、卵を使ったお菓子のほかに、卵型のお菓子も多く見られます。

こちらの卵型ケーキは、ディナーのデザートのみならず、ティータイムのおやつとしても食べられる小菓子です。

調理

◆ケーキの生地を焼く

バターをミキサーのボウルに入れ、常温にもどす

バターをミキサーでまぜる

グラニュー糖を加え、混ぜる

時々ミキサーを止め、ミキサーの刃に着いた材料をゴムベラではがす

全卵を加える

ヘーゼルナッツのパウダーをボウルに入れ、フルイでダマを解消した薄力粉を加える

ヘーゼルナッツのパウダーはシチリア島パレルモ産

ヘーゼルナッツのパウダーと薄力粉をミキサーに入れ、混ぜる

生地の混ぜ合わせが完了した状態

イースターケーキ用卵型天板

卵型天板の内側にバターを塗る

絞り袋に生地を入れる

卵型に生地を入れる

オーブンに生地を入れる

170度で約18分焼く

焼きあがった生地

焼きあがった生地を反転させ、冷ます

◆仕上げる

ホワイトチョコレートを湯せんで溶かす

ホワイトチョコレートはカカオの主要産地コロンビアで1909年に創業したカサルカ社のものを使用。甘すぎず、心地よいカカオフレーバーがある

溶かしたホワイトチョコレートを生地の表面に塗る

イチゴやミントの葉とともに盛り付けて出来あがり

お召しあがり

ヘーゼルナッツの卵型ケーキ

◆しっとり感で味わう甘味

手づかみで食べやすい大きさ。柔らかくて甘さ控えたホワイトチョコレートは、ケーキの生地にしっかり付いて、ボロボロ落ちることなく、食べ方をシンプルにしています。

ケーキの生地は、ヘーゼルナッツの香ばしくて、エキゾチックな風味が濃厚で、食欲をそそります。しっとりした生地感は、ほおばっても、口の中でパサつくことが少なく、もぐもぐしながら、まろやかな口どけと、甘味を楽しみます。

気軽な取りまわしと、スムーズな口あたりは、くつろぐ時間に、何個も食べてしまう背景です。

ヘーゼルナッツの卵型ケーキ

エッセイ:食のこぼれ話『卵の恵み』

フィレンツェの街並み

◆平和への願いをこめて

第二次大戦直後、イタリアの小さな村に、羊飼いの男が復員しました。家に帰ると、飼っていた羊は、悪党に盗まれていました。

イタリア映画『オリーブの下に平和はない』(1950年作)の一場面です。日本の焼け跡でも、戦後のどさくさにまぎれた略奪は、少なからずありました。

羊飼いは悪党から羊を奪い返すと警察に捕まり、悪党が買収した裁判の結果、4年の刑で投獄されました。

怒った羊飼いは、悪党に復讐するため、刑務所から脱獄。復活祭の行列にまぎれ、村まで帰って来ました。

悪党はアジトの中で、復活祭で食べる仔羊の肉をさばきながら、羊飼いが復讐に来る噂を聞きました。

その時、アジトの外で物音がして、犬が吠えました。いよいよ羊飼いが襲いに来たのか? 悪党は身構えると、「ギィ」と音がして、木戸が開きました。

すると、「ヤア、遅くなってごめんね」と言って、司祭が入って来ました。復活祭の祈祷を捧げるために、村の家を巡回していたのです。

悪党は拍子抜けすると同時にひざまずき、司祭の祈祷を受けると、お礼に卵を10個ほど手渡しました。司祭は「貧しい教区なもので、お恵みは助かります。それでは、ボナ・パスクワ(よい復活祭を)」と挨拶して立ち去りました。

物語はこの後、羊飼いが来て、悪党と繰り広げる決闘がクライマックスになります。それにしても、司祭に卵を恵んだ悪党の姿は、どこかユーモラスで、憎めないものがありました。人間を変えてしまう戦争の狂気が恐ろしいのです。

卵を通して描かれた平和への願いは今も変わらず、今年も復活祭を迎えます。

ラ・ビスボッチャ店内

いつもご利用いただき、誠にありがとうございます。

今宵も、ラ・ビスボッチャのディナーで、楽しいひとときをお過ごしください。