仮面で装う日曜日
ディナーをより楽しくするために、ビスボッチャが企画するお客さま参加・体験型イベント。
そのひとつ「マスカレード・サンデー」が、ハロウィンを目前にした2022年10月30日(日)に開かれました。
お店には当日のドレスコード「仮面」をつけたお客さまが多数集まりました。その模様を紹介します。
監修/料理長・井上裕基
写真・文/ライター 織田城司
Supervised by Yuuki Inoue
Photo・Text by George Oda
1.イベントの概要
開催日時:2022年10月30日(日) 17:30の開店から閉店まで
テーマ:「マスカレード・サンデー」
コンセプト:「仮面」で装う日曜日
・マスカレードは英語で仮面舞踏会の意味
・お客さまは仮面をつけることが約束ごとで、服装は自由
・仮面はお店でも貸与
・ホールや厨房のスタッフも仮面をつけて業務を行う
・飲食のサービスは通常営業と同じ、着席でのアラカルト
天気:東京都心 晴れ 最高気温19.2℃
2.イベントのコンセプト
◆仮面で装う
毎年10月31日のハロウィンは、仮装した若者が渋谷に集まることがニュースになります。
この時期は、渋谷まで行かない人も、素性を隠し、非日常感を楽しみたい気分が高まります。
そこで、「マスカレード・サンデー」は、そのような潜在層に向けたイベントとして企画されました。
ただし、ドレスコードを「仮装」にすると、着ぐるみを着るものから、コスプレまで幅広く、お客さまが戸惑うため、仮面をつけて正体を隠すことのみがドレスコードとされました。
あくまでも飲食がメインのため、仮面は口を覆わない、半面タイプが中心です。
3.仮面について
仮面には、さまざまな種類があります。その例を見ながら、今回のイベントの装いを考察します。
◆日本の能面とナマハゲ
日本の古典芸能の能は、演者がお面や装束を身につけ、歌舞劇を披露します。
演者が役に合わせた格好をして、役の情報を観客に伝えることは、「扮(ふん)装」です。
秋田県のナマハゲは、年末に村の青年がお面や衣装を身につけ、厄払いをする来訪神になりきり、各家をめぐる伝統風習で、「仮装」のひとつとされています。
◆ハロウィンのコスプレ
ハロウィンは、10月31日に、子どもが魔女やお化けの「仮装」をして、近所の家を訪ねてお菓子をもらうアメリカの民間行事です。キリスト教の祝祭ではありません。
日本では2010年代頃から、その習慣が拡大解釈され、「コスプレ」で集い、繁華街を練り歩くことが流行しました。
「コスプレ」は「コスチューム・プレイ」を略した和製英語で、全身仮装をして、特定のキャラクターや動物、物体になりきることが特徴で、「仮装」のひとつとされています。
顔を覆い、正体を隠す装いと、あえて顔を覆わず、SNSなどに投稿する装いも見られます。
◆東野圭吾の「マスカレード」シリーズ
東野圭吾のミステリー小説「マスカレード」シリーズは、一流ホテルを舞台に、刑事と女性ホテルスタッフが殺人事件を解決していく物語で、映画化もされています。
物語のなかで刑事は、容疑者を探す先入捜査のため、ホテルスタッフの制服を着て勤務します。
刑事は顔も覆わず、本名を使い、職業のみを偽ります。この場合は「偽装」です。
宿泊客が帽子やカツラ、サングラスなどで顔の大半を覆い、普段の着こなしとちがうものを身につけ、偽名を使い、正体を隠すことは「変装」です。
ホテルの経営者は、接客方針として、「ホテルに来るお客さまは、みな仮面をかぶっています。その仮面を守って差し上げるのがホテルの仕事です」と語ります。
この場合の仮面は、実物ではなく、「偽装」や「変装」を表す比喩です。その象徴として作品のタイトルに「マスカレード(仮面舞踏会)」が使われました。
物語には、実物の仮面を使う仮面舞踏会や仮装パーティーのシーンも挿入され、作品のミステリアス、かつロマンチックな雰囲気を盛り上げました。
◆ヴェネチアのカーニバル
今回、ビスボッチャのイベント「マスカレード・サンデー」でイメージした装いは、イタリアのヴェネチアのカーニバルです。
カーニバルというキリスト教の祝祭期間に、仮面と衣装で「仮装」し、素性を隠して広場や飲食店に集い、社交する習慣です。
中世の頃に発祥したとされ、当時は階級や性別で分かれている人々も、このときだけは、仮装の効果で、平等に、気軽に交流できることが楽しみとされ、現在まで続いています。
日本の江戸時代の盆踊りでも、お面や手ぬぐいで顔を隠して踊った人々の記録があります。
祖先の霊を迎える盆踊りの宗教的な背景、階級や性別を越えた交流の楽しみなど、ヴェネチアのカーニバルとの共通点に面白さを感じます。
どちらも、社交相手が素性を明かし、アドレスを交換し、後日会うことはなく、その夜限りの楽しみが、暗黙のルールでした。
4.イベントの店舗装飾
◆赤と炎がアクセント
レストランの入口や店内は、赤い花や赤いキャンドルで装飾されました。
高揚感のあるアクセントでお客さまをお迎えして、仮面で装う気分を高めました。
5.イベントの内容
◆音楽で盛り上がる
店内は、お客さまも、スタッフもみな仮面をつけています。
その景観は、どこかシュールで、怪しさもあり、非日常感にあふれた雰囲気です。
中世ヴェネチア風の仮面は、クラシカルな装飾で、エレガントな印象もありました。
仮面をつけることで、ドレスやフォーマルウエアなど、ふだん着ない着こなしを思い切り楽しむお客さまも見られました。
会食の途中では、シンセサイザーの生演奏や、声楽家トリオによるアカペラの歌唱など、サプライズの音楽演出が雰囲気を盛り上げ、会場がひとつになり、記念にスマホで動画を撮影するお客さまもいました。
日曜日のひと味ちがうイベントを、バースデー・パーティーに利用するグループも数組ありました。
SNSでは、「今日は怪しいパーティー」「日本でこんな素敵なイベントをやってくださるレストランがあるなんて!」「異次元に迷い込んだ気分になりました」「このために、ベネチアのマスクショップで仮面を買って来ました」などのコメントとともに、仮面をつけた写真の投稿が見られました。
6.まとめ
◆仮面の雰囲気を楽しむ
仮面をつけたお客さまは、ご家族やお友だちのグループごとに会食し、撮影などを楽しみました。
着席のイベントなので、仮面舞踏会のように、見知らぬお客さまと交流する発展はありませんでしたが、ハロウインの時期に、正体を隠し、非日常感を体感する、というコンセプトは共感され、楽しまれたようです。
ヴェネチアの仮面をアイコンにしたイタリアらしさと、イタリア料理がマッチングする雰囲気も、深い印象を残しました。
食事のみでなく、季節の気分を楽しむ、参加・体験型イベントの開催は、レストランの新たな試みとして、今後も注目です。