COLUMN

イノシシフェア2019

第39回 SAGRA DEL CINGHIALE

イノシシのラグーのパッパルデッレ

イノシシのソーセージの炭火焼き

イノシシのロースの炭火焼き

干支のイノシシに感謝して無病息災を祈願

イノシシの肉は冬になると脂がのって美味しくなるため、ビスボッチャでは毎年イノシシの肉を使った料理のフェアを開催しています。今年は1月28日(月)〜2月7日(木)  期間限定メニューを3品ご用意します。

今年の干支はイノシシ。イノシシの肉は万病を防ぎ、無病息災の象徴になったことが干支の由来だそうです。この機会に、滋味あふれるイノシシ料理を、ぜひお試しください。

イノシシの剥製を飾る店内でイノシシの肉をさばく料理長・井上裕基(右)と副料理長・露詰まみ(左)

解説/料理長 井上裕基・副料理長 露詰まみ

写真・文/ライター 織田城司
Commentary by Yuuki Inoue & Mami Tsuyuzume
Photo・Text  by George Oda

フィレンツェの街並み

フィレンツェの広場にあるイノシシのブロンズ像。鼻を撫でると幸福になるという言い伝えがあり、多くの観光客が集まる

1.イノシシのラグーのパッパルデッレ

イノシシのラグーのパッパルデッレ

◆トスカーナの秘伝、チョコレートが隠し味

トスカーナ地方は山の幸に恵まれ、肉料理が盛んです。野生の鳥獣を使ったジビエ料理も名物で、イノシシはその象徴とされています。

幅広パスタ、パッパルデッレはトスカーナ地方の郷土パスタです。大きめの粗挽き肉を使ったラグーと合わせるのが定番レシピです。イノシシの肉が出回ると、季節の風物詩として楽しみます。

2008年、トスカーナ地方の料理人を招いてフェアを開催したとき、本場のイノシシラグーのレシピを教わりました。その秘伝は隠し味にチョコレートを使うことでした。中世の時代、トスカーナ地方を統治していたメディチ家が大航海でもたらされた貴重なカカオをラグーに使った言い伝えに由来するそうです。

フィレンツェのピッティ宮殿中庭。16世紀にトスカーナ地方を統治したメディチ家が建てた住居

国産イノシシの肉を電動ミンサーで粗挽きする

ラグーソースに入れる香味野菜の赤タマネギ、ニンニク、セロリ、ニンジンを電動ミンサーでみじん切りにする

挽肉とみじん切りにした野菜を炒める

炒めた挽肉を鍋に入れる

赤ワインを加える

自家製鶏のダシ汁を加える

自家製鶏のダシ汁は鶏がら、ひね鶏、トマト、タマネギ、ニンジン、セロリ、ローリエを約6時間かけて煮込んだもの

自家製トマトソースを加える

自家製トマトソースはイタリア製「ラ・ドリア」ブランドのホールトマトと炒めたタマネギのみじん切りを煮込んだもの

炒めた野菜を加える

ローズマリーとニンニクのみじん切りを加える

チョコレートを加える

チョコレートはフランスで1842年に創業した老舗製菓用食材メーカー、カカオバリー社の「ミアメーレ」ブランドを使用。アフリカ産カカオを58%含み、控えめな甘さとすっきりした苦味、やわらかい酸味が特徴

火を止め、フタをして蒸らすことで、ローズマリーとニンニク、チョコレートの香りを引き出し、ソースに風味をつける

フライパンにイノシシのラグーソースを入れ、無塩バターを一片加える

パスタの茹で汁を加える

ゆであがったパッパルデッレをフライパンに投入

パッパルデッレの生地は自家製。生地の厚さが1㎜になるまでのばす

生地は小麦粉に卵とオリーブオイル、塩を加えて業務用ミキサーで混ぜて作る

卵は神奈川県産「長寿卵」。卵黄がオレンジ色で味に深みとコクがあり、イタリアの卵の質に似ていることから使用

5枚重ねた生地を三つ折りにして、パッパルデッレの幅にカットしていく

パッパルデッレの幅に生地をカットする。当店のパッパルデッレは幅約3㎝、長さ20㎝、40gが半人前の単位。一人前はこれを2個使う

茹で上がったパッパルデッレとソースを強火で和える

すりおろしたパルメザンチーズを加える。

パルメザンチーズは希少な赤牛のミルクを長期熟成させたもの。香りが高く、濃厚な味わいの最高級パルメザンチーズ

パルメザンチーズを軽く混ぜる

盛り付けてからイタリアンパセリのみじん切りをふりかけ、再度パルメザンチーズをふりかけて仕上げる

イノシシのラグーのパッパルデッレ

◆迫力ある噛みごたえと旨味

パッパルデッレは大口でほおばるのがトスカーナ流です。美味しさが際立ちます。幾重にも丸まったパッパルデッレを噛むと、平麺の断層が歯にガンガンあたり、生地の卵と小麦粉の風味が豊かに香ります。幅広の生パスタならではの迫力を堪能します。

大粒のラグーは重量があり、パッパルデッレと一緒に口まで運ぶ途中で滑り落ち、お皿に転がるものが続出します。そんな時は、パッパルデッレを短く切り、ラグーをのり巻きのように丸め込んで食べると美味しくいただけます。

ラグーはイノシシ独特の野生的な香りは控えめな印象です。香味野菜の効果で甘みや旨みが豊かに広がります。どこかにメディチ家の秘宝を感じてお楽しみください。

イノシシのラグーのパッパルデッレ

イノシシのラグーのパッパルデッレ

フィレンツェの肉屋の店頭に飾られたイノシシの剥製

2.イノシシのソーセージの炭火焼き

イノシシのソーセージの炭火焼き

◆大粒の粗挽きがトスカーナ風

イタリアのソーセージはメインのおかずになる大きなタイプが主流です。当店もその流れを踏襲して、直径35㎜の極太の生ソーセージを自家製で手がけています。

大きめの粗挽き肉にニンニクを混ぜるのがトスカーナ風です。イノシシ版は、イノシシのモモ肉、ウデ肉、バラ肉を中心に、普通の豚のバラ肉を加え、バランスをとります。

切り分けたイノシシの肉を電動ミンサーで粗挽きにする

大きめに粗挽きされた挽肉

挽肉に塩、コショウ、ニンニクを加え、素手で混ぜる

味付けに使う塩は、旨味がたっぷりしてマイルドな辛さのシチリア産自然海塩「エガディ」の細粒を使用

味付けに使うコショウは、フルーティーな香りとまろやかな辛さのカンボジア産完熟胡椒(ライプペッパー)を使用。日本のクラタペッパーが現地で手がけるもので、コショウの実一房からほんの数粒しか採れない赤く完熟したコショウのみを集めた最高級品

ニンニクは香りと味がマイルドなスペイン産のニンニクをみじん切りにして、オリーブオイルで漬けたものを使用

混ぜ合わせた挽肉を天然の豚腸に手詰めする

丁寧に手詰めすることで、大きめの粗挽き肉の粒感と柔らかさが際立つ

焼きムラを防ぐため、アイスピックでソーセージの中の余分な空気を抜く

出来上がったソーセージは味を落ち着かせるため、冷蔵庫で24時間保存してから焼き上げる

コンロで炭を着火。炭は火持ちがよく、灰が少ないオガ炭「五香備長炭」を使用

着火した炭をグリルに移す

薪を加え香ばしさを増す。薪はイタリア製でヴァージンウッドの廃材をリサイクルしたもの

炭火の遠火で10分ほどかけて両面をじっくり焼く

炭火の遠赤外線効果がソーセージの肉汁を循環させ、中心まで加熱する

ソーセージからしみ出した脂が表面をカラッと焼き上げる。脂がしたたり落ちて発生する煙は燻製効果となって香ばしさを加える

ソーセージの焼き加減は脂が落ちすぎると痩せて味が半減するため、中心にうっすらピンク色が残るくらいを目安にする

仕上げにエキストラヴァージン・オリーブオイルをふりかける

エキストラヴァージン・オリーブオイルはイタリア南部の特産地・プーリア州にある「ディサンティ」社製。青々しい香りが高い

イノシシのソーセージの炭火焼き

◆大粒でボロッとした挽肉のコク

揚げ物のような香ばしさを放つソーセージにナイフを入れると、力強い弾力に驚きます。食べやすい大きさに切って口に含むと挽肉がボロボロ崩れ、肉の細切れを粗っぽく束ねた印象です。

挽肉を噛みしめると、強い歯ごたえの中に豚よりも濃い旨味とコクを感じます。手詰めの生ソーセージの醍醐味とともにイノシシらしさを堪能します。

イノシシのソーセージの炭火焼き

イノシシのソーセージの炭火焼き

フィレンツェ肉屋の店頭に飾られたイノシシのオブジェ

3.イノシシのロースの炭火焼き

イノシシのロースの炭火焼き

◆炭火で増す野生の香り

イノシシのロースを豪快に炭火焼きで提供するメニューです。

イノシシの肉は焼き上がったときに程よい風味と柔らかさになるように、あらかじめマリネします。

国産のイノシシ肉ロース。日本で肉食が禁止されていた時代に「牡丹」と呼んで隠れて食べていたことを感じる鮮やかな赤色。筋肉質で赤身の中に脂分は少ない

上野東照宮ぼたん苑の寒牡丹。花の少ない冬に正月の縁起花とされ、イノシシ肉のシーズンと重なる

カットした骨付ロースは約3日間かけてマリネする。オリーブオイルとローズマリー、ニンニク、ブラックペッパーなどで肉に香りをつけながら柔らかくする

炭火で脂身の面を焼く

側面を焼く。脂が程よく落ち、煙は燻製効果になり、香ばしさを加える

底を焼く。焼きあがる直前に塩を軽くふる

焼き上がったイノシシ肉を切り分け、エキストラヴァージン・オリーブオイルをふりかけて仕上げる

イノシシのロースの炭火焼き

◆野生を呼びさます味と香り

焼きあがったイノシシの肉から強い香ばしさが漂います。森林や木材、焚き火、燻製など、飽きのこないウッド系の香ばしさを感じます。

肉質は筋肉質でキメは粗く、赤身肉のしっかりした噛みごたえがあります。ゆっくり噛みしめるほどに旨味やコクがしみ出し、後味にマリネに使った香草やニンニクの風味を感じます。

脂身はカリッとして、甘みやコクが広がり、別の味わいを楽しみます。お皿にしたたり落ちた香ばしい肉汁をパンのスポンジですくって食べるのも楽しみです。

昔の日本人が無病息災を託した、野生的かつ滋味あふれる味わいに、シーズンに一度は食べたくなる余韻を感じます。

イノシシのロースの炭火焼き

イノシシのロースに骨付を選んだ例。骨付特有の濃厚なコクが楽しめる

お飲物

赤ワイン「サッシカイア」

銘柄/サッシカイア
ワイナリー/テヌータ・サン・グイド
生産地/イタリア中部トスカーナ州
ぶどう種/カベルネ・ソーヴィニョン、カベルネ・フラン
生産年/2015年

◆イタリアワインの最高峰

イタリアの最高峰赤ワインとして名高い「サッシカイア」の産地、トスカーナ地方のボルゲリはイノシシの生息地としても有名です。イノシシ料理が人々の暮らしに欠かせない郷土料理で、ワインの好みにも影響を与えてきました。

「サッシカイア」の香りはブラックベリーやスパイス、シガー、レザーなどのニュアンスが複雑に混ざります。味わいはしっかりした辛口ながら、滑らかな口当たりと程よい酸味を感じるエレガントな余韻で、すべてのイノシシ料理に合います。

赤ワイン「サッシカイア」とイノシシのロースの炭火焼き

いつもご利用いただき、誠にありがとうございます。

今宵も、ラ・ビスボッチャのディナーで、素敵なひと時をお過ごしください。